半導体研究者が、なぜトラックメーカーへーー世界最先端の自動運転開発を担うエンジニアが語る、いすゞ自動車という選択

LabBase Media 編集部

半導体研究者が、なぜトラックメーカーへーー世界最先端の自動運転開発を担うエンジニアが語る、いすゞ自動車という選択

トラックやバスといえば、理系学生にとってはなじみの薄い存在かもしれない。しかし今、商用車は自動運転技術の最前線に立っている。ドライバー不足、物流危機、地方のバス路線廃止ーー日本が抱える社会課題の解決に、いすゞ自動車のエンジニアたちは真正面から向き合っている。今回お話を伺ったのは、東京大学大学院で半導体計測技術を研究し、いすゞ自動車に入社した岩城祐輝さん。自動運転ソフトウェア開発を約10年にわたり担い、現在は開発部門のDX推進を牽引する。専門とはまったく異なる領域に飛び込んだ理由、世界最先端のスタートアップとの協業で得た気づき、そしてこれからのキャリアへの思いを聞いた。 いすゞ自動車: 1916年創業。本社は神奈川県横浜市。トラック・バス等の商用車に特化した商用車メーカーで、製品は150カ国以上で展開される。「2030年に商用モビリティソリューションカンパニーへの変革を目指す」中期経営計画のもと、物流・人流領域における社会課題の解決に向けた取り組みを加速している。

半導体の研究者が、なぜトラックメーカーへ


──まずは岩城さんの学生時代と、いすゞ自動車に入社するまでの経緯を教えてください。



東京大学の大学院では、計測工学の研究室で半導体素子の計測技術を研究していました。電子顕微鏡を使ってnm(ナノメートル)という微細な世界を観察する研究で、鏡のように滑らかなシリコンの表面を顕微鏡で見ると、驚くような構造が広がっていて、それがすごくエキサイティングでした。


自動車に興味を持ったきっかけは、大学院時代の講義です。ITS(高度道路交通システム)を開発する組織の方が授業にゲスト講師として来てくださって、東日本大震災のときにトラックの走行データを活用して、被災地へ効率的に物資を届けた事例を紹介してくれたんです。それを聞いて「社会を支えるインフラとしてのトラック」の重要性に気づき、強い関心を持つようになりました。


就職活動では自動車メーカーを中心にエントリーしましたが、いすゞに決めたのは二つの理由があります。一つは、その授業の中で紹介された事例がまさにいすゞのトラックを使ったものだったこと。もう一つは、就活の説明会で東大OBのいすゞ社員の方に声をかけていただいて、縁を感じたことです。


──半導体の研究者が商用車メーカーに、という選択に迷いはなかったですか。


振り返ってみると、研究の専門とは関係なく「社会に直接役に立てる場所」を直感的に望んでいたんだと思います。半導体メーカーや装置メーカーという道もあったと思うんですが、トラックやバスが社会インフラの一部として機能している現場の近くで働きたいという思いがありました。


「全然動かない」から始まった、自動運転開発の10年


──入社後のキャリアを教えてください。



最初の半年は、自身を採用に導いてくれたOBの方がいる部署に配属されて、車両の排気配管の設計を担当しました。半導体の研究とは全く関係のない仕事で、最初は少し戸惑いました。


でも今になると、そのときの経験はすごく役に立っていると感じます。排気管一本を設計するにも、駆動軸や燃料タンクなど、たくさんの重要部品の間を縫って、最適な経路を考えなければいけません。また排気ガスの温度管理も大切で、処理装置で浄化するまでは高温を保っておきながら、最終的に車外に排出する時点では十分に冷却しなければいけません。そうした「量産車として世に出すための要求品質」を実現することの重要性を、身をもって学んだ半年間でした。


その後、上司に希望を伝えて自動運転の部署に異動し、以降は約10年間、自動運転の実証実験車両開発に携わりました。当時は担当者がごく少人数で、企画設計から車両改造、ソフトウェア開発、走行評価まで、開発プロセスのほぼ全工程を自分たちで行なっていました。


──特に印象に残っているプロジェクトはありますか。


2022年の春に手がけた、福岡空港での自動運転バス実証実験です。いすゞとして初めての自動運転実証実験で、私は車両に搭載するコントローラーの設計・実装・評価を一貫して担当しました。


量産バスを1台改造するところから始めたのですが、予想外のことが次々に起き、最初は本当に全然動きませんでした。配線の繋ぎ方が違ったり、ソフトウェアのバグが起こったり、エラーだらけだったのです。3〜4人のチームで一つひとつの原因を潰していき、ようやく車が走り出したときの嬉しさは、今でも覚えています。プレスリリースを出すと多数のメディアに取り上げてもらい、「自分が設計したコントローラーが載った車が世の中に出たんだ」という実感がこみ上げました。


世界最先端のスタートアップとの協業が変えた視点


──その後、いすゞ様は米Applied Intuition社との提携を発表しました。岩城さんも関わっていたのでしょうか。



はい、自動運転開発の本格化に伴い、海外パートナーとの協業が始まることになり、一時期は私もアプライド社とのプロジェクトにソフトウェアエンジニアとして関わっていました。


最初はかなり、やりとりに苦労しました。英語でのコミュニケーションはもちろんですが、それ以上に難しかったのは「相手を説得する」「意見の違いをすり合わせる」局面でした。技術の話を英語で伝えるだけなら何とかなるのですが、表現の引き出しが足りないことから、相手の考えと自分の考えをすり合わせるのが大変でした。


──文化面での違いも感じましたか。


大きく感じましたね。日本の自動車メーカーは安全性を最優先にするので、試作車を公道で走らせるまでには、非常に時間をかけます。一方でアメリカのスタートアップはスピード感が全然違い、まず試作して形にし、それを走らせてから、問題を見つけて改善する、そのサイクルがとにかく速いと感じました。


そうしたモノづくりの文化の違いに最初は戸惑いましたが、仕事をともにする中で、「彼らの良いところを積極的に取り入れていこう」と考えるようになりました。世界を眺めれば、すでに米国や中国では自動運転タクシーが市内を走っており、自動車が自動化していく流れは今後ますます加速していくことは間違いありません。そのスピードに日本がついていくためには、安全性に配慮しながら、開発スタイルを見直していく必要があると感じています。


──いすゞ様は「商用車」の自動運転化に世界でもいち早く取り組んでいます。商用車の自動運転化は、一般の人々が乗る「乗用車」の自動運転化と比べて、どんな意味を持つと思いますか?



自動運転技術について、多くの人は、「乗用車の方が技術が進んでいて、商用車はその少し後を追っている」というイメージを持っているのではないかと思います。実は私も以前は、そう思っていました。しかし今は逆に、「自動運転に関しては、乗用車より商用車の方が社会実装のスピードが速いのではないか」と思っています。


その理由は「社会的な要請の強さ」です。ニュースで社会問題として報じられているように、現在、日本ではドライバー不足によって物流の維持が難しくなってきています。また、高齢化が進む地方では、バス路線が廃止されることによって住民の足が消滅の危機にあります。これらは今まさに、日本社会が直面している課題です。その解決策として自動運転への期待は非常に高く、社会的なプレッシャーがある分、実装のスピードもこれから上がっていくはずです。少子高齢化は日本以外の世界の先進国でも進んでおり、その意味で、いすゞが取り組む商用車の自動運転化は、世界で最先端を目指せる技術領域だと思っています。


開発の「縁の下」へーー仕組みを知りたいエンジニアの本能


──昨年10月に部署を異動されたそうですね。


はい、自分で希望を出して、自動運転の車両開発を担当するグループから、開発部門のDX推進ITインフラ整備を担当するグループに移りました。その理由は、より大きな視点で、自動運転の技術を支えていきたいと思ったからです。


自動運転の開発をずっと続けるなかで、その開発を支えているインフラの重要性に気づきました。自動運転の実用化には、AIモデルを賢くする必要があり、そのためには大量のデータが必須です。データをどう集めて、どう保管して、どう活用するかーーデータを扱う基盤があってこそ開発が回ります。その「縁の下の力持ち」の部分を整備したいという気持ちが強くなりました。


思えば入社の動機も「社会インフラを支えたい」でした。今は「車両開発を支えるインフラを整えたい」という方向に、発展してきた感じがしています。


──社内での異動の希望は、どれぐらい通るものなのでしょうか?


ここ2〜3年で社内公募制度が正式に始まって、社員一人ひとりが希望するポジションに手を挙げて異動できる仕組みが整いました。以前は会社主導の異動が基本でしたから、かなり変わりましたね。将来のキャリアを自分で描きやすくなったと感じています。


──社内のカルチャーについても教えてください。


年功序列に縛られず、若手でもベテランの方と分け隔てなくディスカッションできる環境です。とくに自動運転やAIは新しい領域なので、ベテランのエンジニアだからといって必ずしも全部の技術動向を知っているわけではありません。私も自動運転やAIについて社内で勉強会を開いて発信したことがありますが、先輩方がちゃんと耳を傾けてくれる文化があります。技術に真摯に向き合う人が多いという印象です。


「何をAIに任せ、何を自分でやるか」ーーこれからの理系エンジニアへ


──いすゞ自動車に向いているのはどんな人だと思いますか。



自動車の新しい技術に関心を持つことは大切ですが、自動車が走る「その先の社会」を考えられる人が活躍できると思っています。「この技術は物流の現場でどう使われるのか」「どうすればお客様の役に立てるのか」まで踏み込んで考えられるかどうかです。


いすゞは今、これまでのトラック・バスのメーカーから「モビリティソリューションカンパニー」に変わろうとしています。車両を作るだけでなく、その車両を使ってお客様がどんな価値を生み出せるか、そこまで未来を見通して設計するという発想が、開発エンジニアにも求められていると感じます。


──自動車専攻でない学生でも活躍できますか。


十分活躍できると思います。工学部・理学部で一通りの基礎知識を身につけていれば問題ありません。むしろ最近は、自動車開発においてソフトウェアの比重がどんどん高まっていることもあり、情報系出身のエンジニアが増えています。機械工学専攻以外にも、求められる技術がたくさんあります。


また入社後は、学生時代の研究の専門が直接活きるというよりも、「実験して、データを取って、仮説を立てて、検証して、改善する」という研究のプロセスそのものが開発の現場で必要とされます。大学院で身につけた論理的な思考の枠組みや、実験を組み立てるプロセスは、この会社に入ってからも絶対に役立ちます。


──最後に、就活中の学生へメッセージをお願いします。


今の学生の皆さんに一番伝えたいのは、AIを道具として使いこなす力を身につけてほしいということです。社内でもChatGPTなどを活用した業務効率化が進んでいて、入社後すぐにその力を問われる場面が出てくるはずです。


ただし「何でもAIに任せる」というのは違います。私が自動運転ソフトウェアの公道走行可否を判断するとき、テスト結果の最終確認は必ず自分の目で完遂します。それは、何か想定外の事態が起きたとき、責任を持てるのは人間だけだからです。「何をAIに任せ、何を自分でやるか」を見極める力ーーそれが今後のエンジニアに最も求められるものだと思っています。


いすゞで扱う技術は、毎日の物流を支え、地域の人々の移動を守るインフラに直結しています。社会の課題を自分事として考え、技術でその解決に挑みたいという人に、ぜひ来てほしいですね。



編集後記


半導体の微細構造を追っていた研究者が、商用車の自動運転に人生をかける。一見すると遠回りに見えるキャリアは、しかし岩城さんの話を聞けば、一本の軸で貫かれていることがわかる。「社会インフラを支えたい」ーーその思いが、研究室から排気管設計へ、自動運転開発へ、そして開発インフラの整備へと形を変えながら続いている。


商用車の自動運転が「世界最先端の技術領域になる」という岩城さんの言葉は、強がりではない。ドライバー不足と物流危機という社会の切実な要請がある限り、その技術の実装スピードは上がり続ける。その最前線に立てる場所が、いすゞにはある。


※所属・内容等は取材当時のものです。

ライター
五十嵐 裕樹
カメラマン
篠田 英美
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企業情報

いすゞ自動車株式会社


世界の仲間と、持続可能な未来の「運ぶ」を支えていきたい方、募集中! ■CV(トラック・バス)、ディーゼルエンジンのプロフェッショナル いすゞ自動車は、『「運ぶ」を支え、信頼されるパートナーとして豊かな暮らし創りに貢献します。』という企業理念の下、商用車(トラック・バス)とディーゼルエンジン事業において世界に挑戦している企業です。商用車・ディーゼルエンジンなどのハードのビジネスに留まらず、近年ではサービスやサポート等のソフトビジネスにも積極的に推進。IoT技術による運行診断システムや車両予防整備のシステムも手掛けます。また、先進安全技術や自動運転の開発にも取り組む等、新次代の商用車メーカーの道を切り開いています。これからも歴史や伝統に縛られることなく、常に革新的な技術を積極的に取り入れ、挑戦し続けます。 ■世界への事業展開 いすゞ自動車は商用車・ディーゼルエンジンのプロフェッショナルとして、世界130カ国以上で事業を展開し、常に時代や先進技術を先取りし、世界に挑戦しています。例えばいすゞ製のディーゼルエンジンは耐久性に優れ、低燃費・低排出ガスの性能は世界トップレベルとして多くの国々で認められています。環境問題に敏感な欧米ではクリーンな環境性能、ASEAN各国を中心とした新興国では耐久信頼性で高い評価を得て、世界30カ国以上でカテゴリートップのシェアを獲得しています。また、IoT技術や先進安全技術、自動運転の開発にも取り組んでいます。今後も更なる事業拡大を目指し、世界各局のあらゆる場面に対応できるクルマづくりを行っています。 ■長年にわたって愛される小型トラック「エルフ」 1959年に誕生した小型トラック「エルフ」。いすゞが誇る技術、デュアルモードMT、エルフKR、スムーサーEなど継続的に投入することで、経済性、安全性、耐久信頼性のあらゆる点において国内外で高い評価を得ています。国内では1970年から30年連続、2001年からも19年連続で小型トラック部門トップシェアを獲得。また、従来の軽油燃料に留まらず、圧縮天然ガス(CNG)などの代替燃料を使ったエンジンや、ハイブリッドシステムを使ったディーゼルハイブリッド車も10年以上前から販売するなど、「運ぶ」を支える技術開発に余念がありません。最新型のエルフには、IoT技術を取り入れた車両予防整備のシステム、先端安全技術も搭載されています。