私たちも異分野からエンジニアに! Fixstars AmplifyのCEO・CTOが語る「ボーダーを飛び越える」キャリア論
インタビュー
2025.04.01
LabBase Media 編集部
大規模問題の入力と高速実行を可能にする量子コンピューティングクラウドサービスを提供しているFixstars Amplify(以下、Amplify)。同社のCEO・平岡氏とCTO・松田氏は、実はもともと物理学専攻だという。就職後にエンジニアリングの世界に飛び込んだ二人に、異分野である現在のソフトウェア開発に至った経緯や、Amplifyで求める人材について聞いた。 株式会社Fixstars Amplify: 2021年に株式会社フィックスターズの子会社として設立されたFixstars Amplifyは、自社で開発した量子コンピューティングクラウドサービスを提供しています。組合せ最適化問題を解く高性能な計算環境と、専門的な知識がなくてもアプリ開発ができる開発キット(SDK)は、大学や企業の研究活動のみならず、製造業をはじめとした様々な産業において自動化・最適化・DXのツールとして活用され、高い評価を得ています。
平岡 卓爾
株式会社Fixstars Amplify
代表取締役社長 CEO
松田 佳希
株式会社Fixstars Amplify
取締役 CTO
物理学の研究からソフトウェアの世界へ
――お二人は大学時代、どのような研究をされていましたか。
平岡:東京大学の工学部物理工学科を卒業し、大学院修士課程に進学して量子光学的手法を用いた量子テレポーテーションの研究に取り組みました。ちょうど量子テレポーテーション研究で世界的に有名な先生が赴任されたタイミングだったので、第1期生として研究室の立ち上げに関わることができたのは、貴重な経験でしたね。
その後のキャリアでも新しいことに前向きにチャレンジできたのは、学生時代に創設間もない研究室で研究に取り組んだ経験があったからだと思います。
松田:東京工業大学で統計物理学の理論的な研究に取り組んでいました。指導教官が量子アニーリングという計算手法を開発した先生だったので、スーパーコンピュータを使った量子アニーリングのシミュレーションを行うこともありました。大学院博士課程まで進み、博士号を取得しました。
――大学を卒業してから、現在のAmplifyに至るまでの経緯を教えてください。
平岡:新卒入社した会社でエンジニアとしてキャリアをスタートし、その後開発責任者や商品企画なども担当しました。商品企画時代には、クライアントへの提案がきっかけで新しいプロダクトの企画を発案し製品化したこともあります。新しい製品を世の中に出し、価値を生み出せたことは良い経験でした。
そうした新製品を世に出す仕事を、もう一回り大きく、技術的に難しいところでチャレンジしたいと考えていたとき、Amplifyの親会社であるフィックスターズと出会いました。量子コンピュータを活用したサービスを開発していると聞き、自分の大学時代の研究と隣接する領域で面白そうだと思ったんです。そして転職のタイミングと新会社設立のタイミングが重なり、新会社のCEOのポジションに就くことになりました。
趣味で極めたコンピュータが仕事の選択肢に
――続いて、松田さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
松田:博士課程修了後、東京大学物性研究所の助教になりました。そのまま研究者として生きる道もありましたが、中高生の頃からコンピュータが好きで、大学時代は趣味でwebサーバの構築や運用・webサービスの開発もしていたため、 もう一つの興味関心であるコンピュータの専門家としてのキャリアにも可能性があると思い、転職活動を始めました。研究で培った計算技術が求められる仕事を探す中で、フィックスターズに興味を持ちました。
フィックスターズは、特定用途向けの計算技術を提供する一風変わった会社として一部の人によく知られており、もちろん私も知っていました。この会社でなら自分のこれまでの経験も活かせて、エンジニアとして多様な経験が積めそうだと思い、入社を決めました。
――物理学の研究者からエンジニアへ転職されたんですね。フィックスターズに入社後はどのような業務に取り組みましたか。
松田:フィックスターズに入社後は、5年ほどクライアント企業のプロダクトの新規機能開発に携わりました。大学時代の研究テーマとは離れた業務をしていましたが、製品を出荷するまでの一連のプロセスや、ものづくりとしてのエンジニアリングの大変さを学ぶことができた大きな経験でした。
そして2017年頃、量子技術が世間で取り上げられるようになったタイミングで、大学時代の恩師から「量子アニーリング技術が実用化されてきた」という情報をいただきました。最初は「次世代の計算技術に今のうちから触れておきたい」という思いから個人的にキャッチアップを開始したのですが、フィックスターズでもその活動を後押ししてくれるようになり、量子技術に関する新規事業開発が私のミッションになりました。
実はFixstars AmplifyⓇ という製品は、社内のエンジニアのために作ったソフトウェアが元になっています。私は、新しい技術の普及には専門家でなくても使えるような環境の整備が必要だと考えています。物理学の背景知識、大学の先生方との共同研究、新規の論文の知見など、量子技術の専門知識を随時ソフトウェアライブラリや開発環境としてまとめたところ、社内のエンジニアに量子技術の普及が進み、新規事業として急成長しました。
2021年にこのソフトウェアを製品化し、組合せ最適化ソフトウェアの開発環境(SDK)とクラウド実行環境を提供するFixstars AmplifyⓇ のサービスを開始しました。同年にFixstars Amplifyという子会社を立ち上げ、CTOに就任しました。
数理最適化クラウドの提供で、社会課題を解決したい
――物理からソフトウェアエンジニアのキャリアを選んだという共通点があるお二人ですが、お互いの印象について教えてください。
平岡:CTOはテクノロジーの人と思われがちですが、お客さまの視点に立ち、どうやって使われるかを重視している稀有なエンジニアです。先ほどの製品開発のエピソードからもわかるように、「技術」という道具を使って、使う人の便利さを考えるのが好きな人という印象です。
私はどちらかというと技術そのものへの興味が先行しているタイプなので、松田さんの考え方は興味深いですし相補的だと思います。
松田:平岡さんは、サービスの価値をきちんとお客さまに届け、またお客さまが本当に必要としているものを開発サイドにフィードバックしてくれます。平岡さんが来てくれたことで製品の方向性が明確になり、安心して開発に専念できるようになりました。
技術に強い興味を持ってくれる一方で、自社製品を「どう作るか」という部分は任せてくれているので私としてはやりやすいです。
――Amplifyのビジョンについて、それぞれの立場から教えてください。
平岡:Amplifyは量子コンピュータを活用するためのクラウド基盤を提供しています。量子コンピュータの有望な適用先として「数理最適化」という分野があります。数理最適化とは、現実の問題を数理モデル化することで、意思決定を自動化する手法の一つ。ビジネスの場にこの考えを用いることで、製造業や物流業、金融、マーケティングなど幅広い分野で大きなインパクトがあると考えています。
私たちは「量子コンピューティングクラウド」で最新技術へのアクセスを非常に簡単にすることに加え、いわば「数理最適化クラウド」という概念によって、量子コンピュータを含む最新技術をより具体的な形で社会に提供していきたいと考えています。
松田:当社は、最先端の計算技術を使って最適な社会を実現することをミッションにしています。例えば製造計画の最適化、災害復旧のスケジュールなど、社会にはたくさんの選択肢がある難しい問題がありますよね。そういった問題に対して計算技術を用いて、自動的に最適な選択肢が導けることを目指しています。
しかし、数理最適化の計算や量子コンピュータの操作など、これらの技術が広く社会で使われるにはまだまだハードルがあります。高度な技術と、社会課題の解決との間にあるギャップを埋めるサービスを作ることが、私たちのビジョンです。
専門分野のボーダーを飛び越えた先に価値が生まれる!
――Amplifyに採用したい人物像について教えてください。
平岡:コーディングスキル、数学や物理学などのバックグラウンド、そして提案力。欲張りかもしれませんが、三位一体の能力を求めています。課題解決を深いところで支える数理的能力と、それを表現するためのコーディングスキルに加えて、一流のエンジニアは課題自体を定義してそれを創造的に解決していく能力に長けていると思うんです。
自社製品の開発の方向性や、お客さまのお困りごとに対して、具体的な「問い」を提案する力は、大学の研究で必要とされる能力とも共通していると考えています。その意味で面接では必ず研究発表をしてもらうことにしています。
松田:Amplifyのビジョンに共感してくれる人に来てもらいたいですね。大学で学んだ知識や経験を社会に還元することに興味がある人と一緒に働きたいです。Amplifyでは一人一人が「専門領域」を持っているようなエンジニア集団になることを目指しています。コンピュータの事が好きであれば入社時点での技術力は問いません。学生時代に熱中して取り組んだ経験や、自身の専門分野がある方であれば、技術のキャッチアップはすぐにできると信じています。
また、小さい組織なので、アルゴリズム開発からサービス開発、webサイト制作なども全て自分たちで行います。未経験の技術領域に対しても積極的な人が良いですね。
――最後にお二人から学生へ向けてメッセージをお願いします。
平岡:自分自身の個人的な目標に「異分野や違う集団との間の架け橋になりたい」というものがあります。私たちはつい自分の専門にこだわりがちですが、価値が生まれるのはボーダーを越えたところにあったりするんです。
学生のときに研究していた専門分野の経験は3~5年間程度で、それに比べると今後の人生ははるかに長い。いつまでもボーダーの内側にいるわけにはいかないはずです。就職活動では自分の可能性を狭めずに、ボーダーを飛び越えた先にいろいろな道があることを意識してほしいなと思います。
松田:私自身、自分の研究力や技術力を活用して社会に新しい価値を届けることに情熱を持っています。その点に共感してくれる学生さんには、ぜひ当社を検討してほしいですね。
日常的にチャレンジを行う会社なので、新しい技術を身につけることはもちろん、技術を自分から積極的に取り込んでいくことも大切です。ITは技術変化がとても速いので、新しい知識や技術を身に付けたい人には合っていると思いますし、毎日刺激的で、楽しく仕事ができますよ。
編集後記
物理学からソフトウェアの世界へ飛び込んだ二人に共通しているのは、目の前の仕事や技術、お客さまに全力で向き合っていること。専門分野に縛られることなく、それぞれが実現したいことに対して素直に行動したからこそ、現在のAmplifyがあるのだと思う。自身のスキルを発揮して社会の役に立ちたいと思う学生は、異分野でも積極的に検討してみてほしい。
※所属・内容等は取材当時のものです。(2023年9月公開)
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