物理専攻から一転、「技術を使う側」に立つという選択
──学生時代の研究テーマや、その専攻を選んだきっかけを教えてください。

亀田:大学院まで物理を専攻し、TBSに入社しました。今の仕事とは全く関係ありませんが、南極の上空20キロメートルぐらいの空気の流れをシミュレーションする研究室にいたんです。気象そのものというよりは、シミュレーションの分野に興味があって、その研究室を選びました。もともとコンピューターやIT技術にはずっと興味があったので、シミュレーションができることにも面白さを感じ、そちらの分野を学びました。
──大学院時代に、就職先として最初にイメージしていた業界や企業はどのようなところだったのでしょう。
亀田:学部時代は、就職するかどうか悩んでいた時期もありました。修士からドクター(博士課程)に進んで研究職に就くことも考えていたんです。ただ、研究室の先輩方は一つの分野をストイックに突き詰めていく方が多く、その姿に憧れを抱く一方で、自分自身にはそこまで専門性を高めようというモチベーションが湧かなかった、というところもありました。
Inter BEEで見た「テレビ局のR&D」がTBS入社の決め手に
──就職活動において、IT企業やメーカーなどさまざまな選択肢がある中で、どのように検討されましたか。
亀田:IT企業にも興味はあり、大手メーカーや通信会社の情報もよく見ていました。そんななか、サークルや趣味で演劇の音響・照明といった舞台技術に携わっていた関係でメディア系にも関心を持つようになりました。テレビ局そのものというより、「TBSに興味があった」と言うほうが正しいかもしれません。「Inter BEE(インタービー)」というメディア系の大規模な展示会で、TBSがテクノロジーの最先端のR&D(研究開発)活動を行っていることを知り、就職先として意識するようになりました。
──IT企業やメーカーではなく、TBSを選んだ決め手は何だったのでしょうか。
亀田:メーカーよりも、TBSのように技術を実際に「使っている」企業に入るほうが、R&Dのスピードが速いだろうというイメージがあったんです。メーカーの場合、作ったものの売り先やテスト先を探すという流れになりがちですが、テレビ局のように自社で使う立場から開発すれば、そのスピードはメーカーよりも早いはずだと考えました。使う側に立つことでスピード感を持って新しいものを作れる。それが、TBSを選んだ大きな理由です。
──TBSの取り組みの中で、特に印象に残ったものは何ですか。
亀田:やはり、R&D活動で新しい試みを行っている点です。AWSというクラウドの活用事例としてTBSの記事が出ていたり、Inter BEEでの展示を見たりして、他のテレビ局よりも新しいことに積極的に取り組んでいることが伝わりました。就職活動の時には「テレビ局の中では頭一つ抜けている」という印象を受け、その印象は入社してからも変わっていません。
提案からわずか10時間、高速プロトタイピングの現場
──実際に入社してみて、驚いたことはありますか。

亀田:スピードの速さには、本当に驚きました。「現場がこれに困っている」と課題が明確になっている時は、本当に速いです。私が開発したものの中で一番速かったのは、提案を受けてからプロトタイプができるまで、実質10時間ぐらいだったこと。番組で使うツールで、「現場でどう困っているのか視察に行こう」という話の時点で、すでにプロトタイプが出来上がっていました。
──そのツールは、具体的にどういうものだったのでしょうか。
亀田:「櫻井・有吉 THE夜会」というバラエティ番組の中のゲームに関するものです。このゲームを実施するにはカメラを切り替える「スイッチング」という作業が必要なのですが、同じタイミングで同じスイッチングを複数回しなければゲームが成立しないため、「スイッチングを自動化して、手放しで進行できるようにならないか」というリクエストでした。一度でニーズを満たしたわけではなく、そこから1ヶ月半ほど改良を重ね、2ヶ月目ぐらいで本番投入という流れでした。
放送の枠を超える、Live Multi Studioの多角的なビジネス展開
──現在の「未来技術革新事業部」では、具体的にどのような業務を担当されているのでしょうか。
亀田:社内のR&D活動を促進していく役割を担っています。自分たちで研究するだけでなく、そこで作ったプロダクトを外部の会社にビジネスとして横展開していくという側面もあります。私はどちらかといえば開発側の立場ですが、ビジネス化できそうなプロダクトについては売り先の検討や市場調査なども行っています。
──売り先というのは、テレビ局に限らないのでしょうか。
亀田:はい、テレビ局に限らず展開しています。「Live Multi Studio (LMS)」というプロダクトは、拠点間の映像伝送を低遅延かつ放送クオリティの画質で行えるものです。当初のターゲットは放送局でしたが、実際には配信業界や建設業界、メディアアートの分野からも引き合いをいただいています。建設現場では国交省主導で働き方改革が進んでおり、建設機械のリモートコントロールが重要視されています。低遅延でハイクオリティな映像のやり取りができるLMSは、そこへ非常にマッチするんです。技術面では、AWSを利用して、ReactやNode.jsといったモダンな技術スタックで開発しており、ClaudeやCodexなど最新のAIツールも積極的に取り入れています。

「失敗が許されない」緊張感を越えて見えてきたもの
──仕事をしていて、「TBSならではだ」と思うのは、どのようなところですか。
亀田:圧倒的な現場との距離の近さです。現場を担当するマネジメント層と仲が良く、常に相談し合い、解決策を作り出しています。私たち開発メンバーが作った解決策を、マネージャーが直接現場へ持っていくため、現場の課題がそのまま理解できる良いフィードバックサイクルが機能しています。テレビ局の仕事には、すべてがミッションクリティカルであるという難しさもあります。プロトタイプだと思って作っていても、現場では「次の生放送で使うから」という温度感であることも多いです。数百万人規模が見る生放送では、基本的に失敗は許されません。
──大変な緊張感を伴うと思いますが、どのようにして気持ちを切り替えて乗り切っているのでしょうか。

亀田:規模が大きい番組に対応する時には、しっかりチームを組んで、担当を分担しながら取り組んでいます。また、情報共有も重要です。「まだテストさせてください」と、現場に正直に伝えるようにしています。自信があっても過信せず、「これはまだ検証段階のものだ」と自分に言い聞かせるようにしてきました。
テレビ局から総合コンテンツカンパニーへ
──最後に、就職活動中の学生さんへメッセージをお願いします。
亀田:テレビ離れと言われることもありますが、そこをどう打開していくかを常に考え、取り組んでいます。技術で解決しようとする部署もあれば、コンテンツの面白さで勝負する部署もあり、多種多様な考え方があります。新しい技術を取り込んで、新しいコンテンツやビジネス、社会課題を解決する方向に還元していく。メディアが持つ訴求力の強さや社会からの信頼という大きなプラットフォームを使って社会に貢献できるのは、この仕事の非常に面白いところです。
──テレビ番組を放送するだけが、テレビ局の仕事ではないということですね。
亀田:まさにその通りです。放送は大きな軸ですが、それだけでは生き残っていけないのが現状です。私たちは「テックビジネス」と呼んでいますが、R&Dの成果を事業化して新しい収入の軸を得る方向へ模索中です。TBSは非常にボトムアップの潮流が強い会社で、若手の意見をすごく尊重してくれる環境です。能動的に動ける人には、とても楽しい職場だと思います。

編集後記
「テレビ局=番組をつくる会社」という固定観念は、この取材で大きく覆された。現場と密接に連携しながら新しい技術を生み出し、それを事業として社会へ広げていく――そこにはメーカーやIT企業にも引けを取らないR&Dの現場があった。技術で社会に価値を生み出したい理系人材にとって、テレビ局という選択肢は想像以上に魅力的なのかもしれない。今回の取材は、その可能性を実感できる貴重な機会となった。
※所属・内容等は取材当時のものです。
