「専門性が一致していないと不利になるのでは」「インターンに行けなかったら出遅れるのでは」——そう感じている人は少なくありません。
2026年7月29日に開催されたセミナー「研究者として成功するための就活戦略&キャリア戦略」で、企業研究職・採用担当出身でLabBaseにて博士のキャリア支援を行う板倉朋宏が語った内容を、事前質問とライブQ&Aあわせて75件の中から厳選してお届けします。
この記事でわかること
- •企業が研究職の学生に求めていることとは?
- •インターンに行けなかった・落ちたことは選考において不利になる?
- •研究テーマが変わった状況では研究をどう伝えるべき?
登壇者プロフィール
板倉 朋宏(いたくら ともひろ)
企業研究職として11年、博士学生の採用担当として6年、大学でのキャリア支援に2年携わった経験を持ちます。研究者・採用担当・キャリア支援者という3つの立場を経験してきたからこそ語れる視点を、今回のセミナーで共有してくれました。
企業研究職の採用担当は、学生の"何"を評価しているのか?
板倉は、企業研究職・採用担当時代を通じて「大学院生や博士に企業が望む力は何か」を突き詰めて考えた結果、行き着いたのは次の3つだったと語ります。
- •専門性を身につけた経験:専門分野がぴったり合っているかどうかより、専門性を身につけるまでの研究の進め方(失敗からのリカバリー、うまくいった時にどう広げたか)
- •戦略的な思考:ゴールから逆算して、今世の中で何がわかっていて何がわかっていないかを理解し、限られたリソースで戦略を練って研究を進める力
- •自律的な行動:指導教員の言いなりではなく、自分で考えて動き、失敗したら次の一手を自分で選べる力
企業が研究者に求める3つの力
板倉いわく、学生自身が思っている以上に、企業は専攻分野そのものより、この3つの力を重視しているとのことです。「専門性をそのまま生かせる会社だけじゃなくて、派生的に、あるいは土台として身につけた力を生かせる環境で就活するっていうことも十分できる」と、専攻と直結しない企業への応募を狭めすぎないようアドバイスしていました。
Q&Aでも、この評価軸に関する質問が数多く寄せられました。
Q. 研究テーマとの専門一致・研究実績・ポテンシャル・研究の進め方は、それぞれどの程度重視されますか?
A. もちろん、研究テーマとのマッチ度を見ることもあります。ただ、ポテンシャルや研究の進め方、戦略を高く評価する企業様も絶対にあります。専門性の一致だけがすべてではなく、企業によって重視するバランスは異なると思っています。
Q. 人気の研究職は、学歴が重要になってしまうのでしょうか?
A. 会社によるというのが本当のところです。学歴を見ている企業様もありますが、私が見てきた限り、研究職で学歴だけを重視している企業はあまり多くないと感じています。だからこそ企業は、面接などいろいろな場面で学生の皆さんに直接会いに行っているのだと思います。
Q. 国立の研究所と民間の研究所では、注目する視点が異なりますか?
A. 確かに若干あると思います。民間の研究職はアウトプットまでのスピードが求められる一方、国立研究所はアカデミアに近く、腰を据えて深く研究する姿勢がより重視される可能性があります。
Q. 研究業績(論文数・学会発表件数)はどの程度重要ですか?
A. 見ていることは見ていると思います。ただ、これが必須ということはありません。分野によって論文の出しやすさは違いますし、そういう事情を理解している採用担当も多いです。数そのものより、面接で研究への向き合い方をお聞きすることを大事にしています。
Q. 修士卒と博士卒では、企業側が求めるスキルに違いはありますか?
A. 博士の方には、より自律性の高い仕事を求める企業が多いかなとは思います。ただ、明確に線引きしているかというと、企業によります。博士の方の場合は、大学院に3年長くいたことで何を得て、それをどう会社で生かせるかを伝えられるかどうかが見られていると思います。
「インターンに行かないと就活で不利」は本当か?
セミナー本編で板倉は、学生の間でよく聞く3つの"就活のウソ・ホント"の一つとして、この話題を取り上げていました。「研究職のインターンって、守秘義務の関係で民間企業だと実施しにくいことがある」ため、実施している企業とそうでない企業の差が大きく、「絶対インターンに行かないといけないかというと、私はそうではないと思っている」と述べています。
Q&Aでも、インターンに関する不安が数多く寄せられました。
Q. サマーインターンに行けなかった人は、夏休みを研究に没頭する時間にすべきですか?
A. ぜひ、してください。就活にとって何が良くて何が悪いかというのは、実はあまり読めないんです。インターンに出ても選考に落ちる人もいれば、インターンに行けなかったけれど本選考に受かる人も当然います。行けなかった分の時間を研究に没頭して自分を磨く時間にするのは、めちゃめちゃいいことだと思います。
Q. 夏インターン全落ちでも本選考に進めますか?
A. これ、通ります。事実、インターンに落ちても本選考を通った人を私は何人も見てきました。インターンに落ちたなら、その分の時間を夏休みの研究に充てることが大事です。
Q. 志望度の高い4社すべてのインターンに参加したいが、研究できない期間が長くなる場合はどうすべきですか?
A. 自分の価値観で判断していただくしかないと思います。もし4社のインターンに集中すると決めたなら、しっかり集中してやりきって、戻ってきてから無駄な時間を省いて一生懸命研究する、というのが一つの解決策になると思います。
実際に、インターン全落ちの絶望から実験と両立して内定を掴んだ先輩の体験談もあわせてご覧ください。
研究成果がまだ少ない・テーマを変えた学生は選考でどう見られる?
M1のうちは目立った成果が出ていない、あるいは進学のタイミングで研究テーマを大きく変えた——そうした学生からの不安の声も、この日のQ&Aでは目立ちました。
Q. M1で明確な研究成果がないことは、研究職採用でどの程度不利になりますか?成果がある学生との差は、研究の進め方やキャッチアップの過程で補えますか?
A. お伝えした通り、研究活動ができない中でも取り組んできた経験や、そこで得た強みで十分補えると私は思っています。
Q. 外部進学とともに研究テーマを大きく変えたので、現時点での進捗が文献調査しかなく不安です。
A. 私が大学で学生支援をしていたときにも、研究室が変わった、指導教員が変わったという学生を見てきましたが、実はそういう方の中に、結果的にとても優秀でいい就活になった人を多く見ています。研究室の立ち上げやゼロからの学び直しは、企業に入ってからも起こり得る経験です。そのときにどう考えて動いたかというところを、企業はむしろ注目していると思います。
研究職としてのキャリア・進路はどう選べばいい?
研究職を選んだ後も、進む道は一つではありません。生産技術職などの近接職種への異動可否や、アカデミア・国立研究所・企業研究所という選択肢の違い、そして自分に合った企業をどう見極めるか。ここでは、研究職というキャリアを長い目でどう組み立てるかについての質問に答えます。
Q. 生産技術職として入社した後、研究開発職へ異動することはできますか?
A. 実は、研究職で入社した後に生産技術職へ異動することは多いんです。ただ、生産技術職で入社してから研究職へ異動するというのは、かなり少ないんですよね。どちらか決めきれない場合は、最初は研究職という道を考えるのもありだと思います。
Q. アカデミア・国立研究所・企業研究所など、様々な選択肢の中で進路を考えるポイントはありますか?
A. アカデミアは、今まで世の中になかった価値を、論文という学術的な理解の形で生み出すのが特徴です。国立研究所は、企業の研究所よりも長期視点で研究ができます。企業研究職は、ある意味で戦略やスピードが重視されます。それぞれ特徴が違うので、ぜひ会社説明を聞いたり、両方に勤めた先輩がいればお話を聞いてみると面白いと思います。
Q. 自分に合った企業は、どうやったら見つかりますか?
A. 自分はなぜこういう行動をしてきたのか、なぜこういう道を歩んできたのかを振り返ることをお勧めします。志望動機を考えるときも、そこで終わらせず、もう一歩深掘りしてバックキャストし、なぜその学部や大学を選んだのかまで振り返ると、見えてくるものがあると思います。
Q. 社会人としてありたい姿を考える際、自分の専門分野を一旦切り離して考えた方がいいのでしょうか?
A. 私は、この考え方はありだと思います。今いる研究室の仕事を100パーセント就活に生かさなければいけないかというと、そうではありません。社会人としてありたい姿、成し遂げたいことをファーストに考えるべきだと思います。専門分野で培った知識やスキルは、後からミックスすることもできるので、無駄になるものではないとも思っています。
専門分野に縛られないキャリアの選び方は、研究者を支える側のキャリアを選んだ先輩の体験談でも詳しく紹介しています。
面接で研究内容を聞かれたら、何をどう伝えればいい?
研究の中身をどう説明すれば評価されるのか、という質問も多く集まりました。
Q. 壁にぶつかった時にどう改善したかを聞かれますが、大したエピソードがないと感じます。もっと複雑な方法で改善した話を作った方がいいでしょうか?
A. エピソードがすごいものである必要はないと思います。自分に自信がなくても、その中にはその人の考え方や価値観がしっかり反映されているものです。無理に作り込まず、自分が壁に当たって乗り越えたことを、そのまま話していただければ全然いいと思います。
Q. 自分の専門分野が企業の研究内容と近い場合、専門性を全面的に出しましたが、専門性だけが見られているわけではないのでしょうか?
A. 専門性が合う企業様とは、その専門性について深く議論できることも非常に大事です。ただ、専門性が合うというだけでなく、その研究の中で身につけてきたことや考えてきたことも伝えていただくと、非常に良いと思います。
Q. 戦略的な思考や自律的な行動は、面接のエピソードのどんなところで判断されるのでしょうか?
A. 誰かに言われてこうやりました、というよりも、自分で調べたり、人に話を聞いて動きました、というエピソードの方が、自律性が強い、戦略的だな、と感じます。既存のやり方を自分で考えて変えた、というエピソードがあると、より評価しやすいですね。
Q. 「研究の進め方がいい」「ポテンシャルが高い」と判断される学生の研究説明は、具体的に何が違うのでしょうか?
A. 何が重要なポイントかを理解した上で、研究を進めているかどうかが大事だと思っています。効率化できるところは効率化しつつ、重要なところは逃していない。やることを絞って最大限の効果を出す、その戦略性を研究のエピソードから感じ取れるかどうかがポイントです。
研究内容を面接でどう伝えるかは、研究内容を武器に内定を掴んだ先輩の体験談も参考になります。
まとめ
板倉は、事前質問とライブQ&Aを合わせた75件の質問すべてに向き合ったうえで、セミナーの最後をこう締めくくりました。
「(事前質問以外にも、今日この場で)56件質問いただきまして、本当に皆さんご質問たくさんありがとうございました。めちゃくちゃ重要な質問ばっかりで、もう全て無駄にしたくなかったので答えさせていただきました」
研究テーマとの一致度よりも、専門性・戦略的思考・自律的な行動という3つの力。インターンに行けなかった・落ちたことは、決定的な不利にはならないこと。研究成果が少ない、テーマを変えたという状況も、そこにどう向き合ったかを伝えられれば評価されること。今回のセミナーとQ&Aから見えてきたのは、「研究に真剣に向き合ってきたこと自体が、研究職の就活における強みになる」というメッセージでした。
研究に向き合うことの価値については、LabBaseが「研究者を増やす」理由でも詳しく紹介しています。
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※本記事の内容は、2026年7月29日開催セミナー「研究者として成功するための就活戦略&キャリア戦略」(登壇:株式会社LabBase 板倉朋宏)での発言をもとに構成しています。回答は登壇者個人の見解であり、すべての企業に当てはまるものではありません。
