激動の自動車業界、最大手デンソーが目指す新たなモビリティ社会とは?
インタビュー
2021.01.07
LabBase Media 編集部
近年、自動車業界が大きく変化する中で、最大手デンソーは何を武器に生き残ろうとしているのか?本社から離れた東京の地で着々と自動車×IT化を進めている「Global R&D Tokyo」の中原氏に、同社ならではの変革への対応や新入社員への教育体制等について話を伺った。 株式会社デンソー:愛知県刈谷市に本社を置く総合自動車部品サプライヤー。2030年に⽬指す「すべての⼈が安⼼と幸せを感じられるモビリティ社会の実現」に向け、電動化・⾃動運転・コネクテッド・⾮⾃動⾞分野(FA/農業)を注⼒分野と定めて、1949年の創業以来培った技術・品質・信頼をもとに、「社会に共感いただける新たな価値創造」に挑戦し続けている。
中原 直人
株式会社デンソー
AD&ADASシステム技術部
エンジニア
IT化が進む自動車産業ー荒波を生き抜くデンソーの生存戦略とは?
――最近の自動車産業はIT化によって大きな変化を遂げました。その結果、研究が活発化している分野について教えていただけますか?
今までの自動車産業は、車体やエンジン、タイヤなどの部品を製造し組み立てて製品化するイメージがありましたが、最近は、自動車本体にIoTやデータベースなどのITサービスを連携させる分野の重要性が飛躍的に高まっています。
自動車が処理できるデータ量もだいぶ多くなってきたので、データをいかに活用して「自動運転」などの最新技術に生かしていく研究が活発化していますね。
――IT化によって自動車業界以外からの参入も増えていると聞きます。どのように対応されていますか?
他業界から参入してきたライバル企業を挙げるならGoogleです。「Google Map」などの地図情報を自動車の自動運転に活用するサービスを開発して、自動車業界に影響力を強めています。こうした新たな海外企業の競合が増えてきて、企業の生存競争が激化している状態ですね。
自動車業界は、自動車という「ハードウェア専門」のイメージだと思いますが、最近は社内的にも自動運転などに力を入れようとしているので、パターン認識やAIなど「ソフトウェア面」の事業を伸ばして、生存競争に勝ち抜いていこうとしています。
歴史ある大企業の強みは、ハードウェアで培った実績と品質、充実の社員研修
――自動車業界が劇的に変化する中で、御社の強みは何だと考えていますか?
弊社の強みは、長年多くのメーカーと取り引きしてきた実績に加え、「品質のデンソー」といわれるように品質に対する考え方が確立されている点だと思います。弊社の品質こそ、海外メーカーと大きく差別化できる特長です。
この「品質へのこだわり」は、ハードウェアだけでなくソフトウェアにも適用されるので、自動運転やIT連携サービスを作り込む技術も自信を持って提供できます。この強みは今後積極的に売り込んでいきたいところです。
――「品質の良さ」は自動車部品でもITサービスでも活きる強みですね。扱う商品がハードウェアからソフトウェアへ変化する中で、品質管理に求められるスキルも変わったのでしょうか?
求められる内容は変わりましたね。そのため、ハードウェアと同等の品質を確保するべく「ソフトウェアの品質管理ルール」を定めて実行しています。このルールをベースにバグや納入不良などを減らし、いかに「不良品ゼロ」に収束させていくか、ルールをブラッシュアップしていくかが、今後の課題です。
――業界変化に対応するために、社内の業務分担を工夫していると伺いました。どのように対応されているのでしょうか?
新しい分野の専門性を追求するためには、今までのデンソーにない知見を入れないといけないので、専門性の高い方を中途入社で採用しています。そして、その専門性を商品に落とし込んで量産する業務には既存社員に入ってもらいながら、コラボレーションしています。
自動車とITの融合は比較的新しい分野ではありますが、取り組み始めてからすでに10年ほど経ちますので、新入社員が活躍するフィールドも広がってきています。
――御社が求める学生の人物像や、御社に入社してから伸びる学生の特徴は何でしょうか?
弊社が求める人物像は「自ら学び考え・挑戦し続ける人材」です。業務はチームで進めることが多いので、チーム内で自分は何を率先してやるべきか、自分で考えて行動する人が理想です。
共通点は、自分の持つ知識や意見を、他者に端的に伝える努力をしている方ですね。お客様も含めたさまざまなステークホルダーに対して、自分の考えに「共感」いただき協力してもらう必要がありますから。
――入社後の研修体制について教えていただきたいです。プログラミングなどの知識は入社前につけておくべきでしょうか?それとも入社後の研修で学べるのでしょうか?
入社時に必須なスキルは特にありません。弊社に入社されるのは理系院生が多いので、すでにプログラミングなどの技術を持っている方も多いですが、入社してから勉強する方ももちろんいます。
社内研修はかなり充実していて、ハードウェア・ソフトウェアの技術研修、プレゼンスキル研修、英語研修などが用意されています。1日研修から通年研修までさまざまです。わたしは制御理論とプログラム・システム開発系の研修を、隔週で1年間受講しました。
この研修を社内で受講できるのは、弊社ならではのメリットだと思います。働きながら研修を受けて成長できる会社って、なかなかないですよね。
本社とともに最先端の研究開発を行う「Global R&D Tokyo」
――Global R&D Tokyoは、愛知県にある本社に次ぐ研究開発機関だと伺っています。現在中原さんが携わっている業務内容について教えていただけますか?
私が携わっているのは、自動運転の前後制御アプリです。「車間制御」ともいいます。自動車のCMで、前の車との距離を一定に保ちながら走るシーンを見たことはありませんか?あの動作を実現するために、東京を拠点にして、さまざまなお客様の声を聞きながら、アクセルとブレーキの制御を自動的に行うソフトウェアの開発に取り組んでいます。
コードを書く→車に実装する→実際に走車する→データを取る→解析する、というのが業務の流れです。プログラミングだけでなく、自分で車に乗って改善した部分を体感できるので、ものづくりが好きな人には魅力的だと思います。
初歩的な自動運転に近い技術は数年前から製品化されているのですが、今までは高級車にしか搭載していませんでした。今後は技術を汎用化させて広げていく予定です。
――技術を汎用化させていく上で、どのような課題がありますか?
ハードウェアの制約が大きいことが一番の問題ですね。高価格帯と一般価格帯のクルマではかけられるコストが異なりますので、当然、搭載できる製品機能に差があります。この制約の中でいかに最大限の性能を出すかが課題です。
――自分のやっている研究を、他の人が携わっている研究とコラボレーションさせることもありますか?
前後制御アプリの開発はうちのチーム単独で進めていますが、横方向制御ソフトウェアとも連動して動かすものなので、連携して業務を行うこともあります。
チームは他に8つほどあり、周辺監視、後側方警告、車線変更警告などのソフトウェアをチームごとに開発しています。最終的にはすべてのソフトウェアを統合して動かしていくので、チームを超えた開発や実験は今後増えてくるでしょう。
――中原さんは8年間同じチームに在籍しているそうですが、入社後のキャリアパスは比較的希望通りになるのでしょうか?
全員が必ずしも希望通りにはならないと思いますが、私はソフトウェアの専門性を活かしたいと一貫して上司とも話をしてきました。もちろん、その中で扱うソフトウェアは変わっていますけどね。自分の強みややりたいことを明確にして、アピールし行動すればキャリアは広がっていくのかなと感じています。
逆風の中で生まれた情熱―成し遂げたいビジョンは「自動車事故ゼロ」
――独自の強みを持った企業がどんどん参入してくる逆風の中で、何を重要視して仕事をされていますか?
技術力はもちろんですが、チーム内外のコミュニケーションやソフトウェアの品質管理など、仕事の基礎的な部分です。基本的なビジネススキルを磨くことで、全体的なパフォーマンスも向上すると思います。
会社規模が大きい分、社内調整が大変なこともありますが、企業内に蓄積された膨大な知識やスキルを存分に活かすことができれば、他企業に対抗しうる大きな強みになるはずです。弊社内の技術や知識をすべて集約化して大きな力に変えることを意識しています。
――最後に、部署や個人として成し遂げたい目標について教えてください。
Global R&D Tokyoとして実現したいのは、会社全体の目標でもある「自動車事故ゼロ」です。自動運転の自動車を普及させてこの社会から自動車事故を撲滅することがモチベーションです。
Googleなどの海外IT企業に自動車業界を席巻されることは懸念材料ですが、自社内でソフトウェアだけでなくハードウェアも設計・製造できる点が弊社の強みだと思うので、今後も活かしていきます。
個人的に期待しているのは、自動運転技術が進むことで車内での行動や時間が自由になることです。これから、クルマに乗る全ての人々にどんなコンテンツやサービスを提供できるかが、私自身チャレンジしたい分野です。
将来的には、チームが一丸となって自動運転を実現させて、そのシステムが搭載された車に乗りたいですね。好きな音楽やDVDを楽しみながら日本全国を周遊できる日を楽しみにしています。
編集後記
車好きが就職するイメージの自動車業界の風向きは変わり、今や最先端のIT技術が集結する。自動車のIT化を進め、自動車事故ゼロという大きな目標を掲げるデンソー。常に変革し続ける業界の荒波に揉まれながら自動運転技術の開発にいそしむ中原氏が展望する未来は、着々と近づいてきているようだ。
初回公開日:2018年9月12日