先駆者的半導体メーカー(ファブレスASICベンダー)は、いかにして世界で生き残ったのか――アルチップ・テクノロジーズの生存戦略

インタビュー

2019.08.15

LabBase Media 編集部

アルチップ・テクノロジーズ 世界的システム企業および半導体企業に、最先端のファブレスASIC/SoCソリューションを提供するリーディングカンパニーとして、グローバルに顧客を有している。 半導体需要の旺盛な中国・台湾にメインの拠点を持つアルチップ・テクノロジーズは、グローバルな先見性を武器に、さらなるビジネス展開を計画中だ。同社の戦略の鍵となる日本オフィスで、半導体業界の生き字引ともいえる古園博幸氏と堀池成一郎氏に、業界の展望や新卒採用について語ってもらった。

  • 古園 博幸

    アルチップ・テクノロジーズ

  • 堀池 成一郎

    アルチップ・テクノロジーズ

ソフトウェアサポートから設計、そしてプロジェクトマネージャーへ


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――まずは古園さん、アルチップ・テクノロジーズに入る前から日本や世界の半導体業界の変遷をどのように体験してこられたのでしょうか?


古園氏(以下、敬称略):バブル期の終焉の頃、工業経営学科を卒業し、半導体関連商社のイノテックに入りました。入社後に初めて半導体に触れ、EDAという半導体設計の支援ソフトウェアの営業技術サポートを担当。日本の半導体業界がまだ元気な時代のことです。しかし1992〜93年あたりから勢いが陰り始め、台湾や韓国が本格的に業界に参入してきました。


私は90年代後半にイノテックからアメリカ駐在の機会をいただき、世界とアメリカの半導体業界の動きを見てきました。ソフトウェアの技術サポートだけでなく自分でも設計に直接携わって物を作りたいと思ったんです。


同時期にアルチップの現会長Kinying Kwanと知り合い、彼が当時やっていたAltius Solutionsというアメリカの会社に移りました。ちょうど30歳、結婚して子どもが生まれた頃のことです。


――営業サポートから技術系への転職に、戸惑いはありましたか?


古園:アメリカだとあまり違和感もなく、さらに会社と良い関係もできていたので、自然に溶け込めました。担当したのはいわゆるレイアウト設計で、顧客の作る回路を物理的に絵に起こすという、職人的な技術が問われる仕事です。


アルチップでの15年間のうち、前半は技術分野、後半は顧客とエンジニアの間に立つプロジェクトマネジメントを担っています。直接手を動かすこともありますが、エンジニアを管理しつつ、お客さまとやり取りするのが主な仕事です。


生産工程の上流から下流まで――4カ月で100万個の半導体を世に出す


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――堀池さんはアルチップに出会う前から技術系の仕事をされていたのでしょうか?


堀池氏(以下、敬称略):僕は大学で機械工学を専攻していて、地元の長崎にあるソニー長崎に就職しました。社名の通り、ソニーの関連会社です。


そこの設計デザインセンター立ち上げメンバーにアサインされ、厚木のソニーの本社に出向、「教わるのではなく自由に学べ」というカルチャーの中で半導体のキャリアがスタートしたのは、自分のペースとスタイルで技術を極めたい自分にとってはラッキーでした。まわりがほとんど電気系出身の中、機械系は私一人だったので、追いつけるよう、一生懸命に勉強しましたね(笑)。


――半導体作りにエンジニアとして携わる中で、印象的だった出来事はありましたか?


堀池:4カ月で100万個の良質な半導体を作ったことです。生産工程でのクセを見抜き、ボトルネックを見つけ、生産現場にフィードバックするという製品技術業務をメインで担当していました。


半導体は「歩留まり」が低くなりやすい。丁寧に作っても、必ず不良品が生まれてしまうんです。100個作っても50個しか市場に出せないような世界で、その歩留まりをどう上げていくかが勝負。12月3日に100万個必要なのに、8月の時点でまだ0個でした(笑)。分野の異なる各方面のエンジニアと協力しながら、最終的に目標を達成したのが一番の成功体験です。


そのときに、「生産工程の上流から正さないと良いものは作れない」ということを実感し、31歳頃に設計の部署へと異動。PSPのメインチップの開発に携わり、工場設備の追加投資を行わず、出荷数量を最大化するためにチップを小型化するプロジェクトのリードを任されました。


アルチップの名前を知ったのはちょうどこの頃のこと。同じデザインのチップのレイアウト設計を頼んだらおよそ10%面積が小さくなって、独自の低消費電力設計により消費電力も約20%ダウン。おかげでPSPのバッテリーの持ちがよくなりました。この技術はアルチップのコアコンピタンスでもあります。


――危機も乗り越え、順調にソニーでキャリアを積まれていたように感じましたが、なぜアルチップに転職されたのでしょうか?


堀池:40歳になる手前であらためて自分のキャリアを考え直し、「今の自分はどれくらいの市場価値があるのだろう?」と思うようになりました。


その後、転職活動を通してアルチップからも声をかけてもらい、入社して早10年。設計から量産までの経験を生かし、今はプロジェクトマネジメントを担当しています。


日本であまり知名度のないアルチップを選ぶのは、若い人にとって勇気がいると思うんです。しかし、やる気のある若い人がチャンスを得られる会社だと感じています。


半導体業界におけるファブレスの先駆者として


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――日本の半導体業界の最盛期に就職されたお二人は、業界や働き方の変化をどのように感じていますか?


堀池:昔は例えば新しいプロセスに最初に着手するのが日本で、次に中国などに展開していった。でも今は逆で、中国やアメリカが最先端です。


やる仕事自体はあまり変わらないですけど、昔は僕らが教える立場だったのが、今は上海の技術チームから送られてくる資料のほうが進んでいて、勉強させられます。


古園:日本の半導体メーカーが統廃合した当時、日本の主要な会社は垂直統合型のIDM。各社が独自工場を持ち全て自社内で作るスタイルでした。しかし半導体は毎年、巨額の投資が必要で、下火になっても継続的な投資が求められます。そのため、 垂直統合型の企業が成り立たなくなってきたのが近年です。


――既存のビジネスモデルが時代にマッチしなくなってきた頃、アルチップを含む海外ベースの半導体企業はどのような戦略で生き残っていったのでしょうか?


古園:海外企業のように、アルチップも工場を切り離したビジネスモデルで協業各社と一緒に成長してきました。お客さまの作った設計データを受けてレイアウト設計を中心に、テストからパッケージ、半導体のモノを作るまで全部、各企業と協業するというファブレスのベーシックモデルです。


当時の日本の半導体メーカーでファブレスのビジネスモデルを採用している企業はほとんどなく、その点、アルチップはかなり先駆的だったと自負しています。この時代にファブレスを確立したからこそ、今や世界中に拠点を持つ半導体メーカーになることができました。


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――次第に水平型のビジネスモデルが広まりつつある中、今後の半導体需要とアルチップの競争力をどのようにお考えですか?


堀池:アルチップは消費電力を少なくする技術を持っているので、PSPのときのように「どれだけ小さく、低電力で動くものを入れられるか」という点で勝ち抜けます。


古園:これからはますますAI向けのチップ、特にIoTに分類されるデバイス側のAIチップの需要が伸びると思います。

AIやサーバー系のチップで問われるのは、単位電力あたりどれだけのスピードが出せるかというパフォーマンス。アルチップはその技術に強く、AIやスーパーコンピューター関連のお客さまからも高評価をいただいています。


技術とプロジェクトマネジメントのプロ育成を目指す


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――先端分野での技術的な強みというアルチップの競争力を踏まえ、今後のビジネス戦略と将来のビジョンを伺えますか?


古園:まず、半導体への投資意欲が旺盛な中国という大市場を、われわれが握りたい。現在は、デザインセンターと呼ばれる技術拠点を上海(Shanghai)、無錫(Wuxi)、広州(Guangzhou)、合肥(Hefei)、済南(Jinan)と展開しています。


それから、まだまだ需要の衰えないヨーロッパやアメリカへの拡大も継続中です。しかし問題は、現地のコスト構造が非常にタフなことと、最近の米中の貿易戦争。中国だけを中心にすると、当然カントリーリスクもある。


その受け皿として、実はアルチップの中で日本オフィスは非常に期待されています。今回の日本での採用プランは、実はそうした社会情勢を踏まえた上で立てられたものなんです。


――地政学的なリスクに備え、日本のビジネスユニットの重要性が増しているということですね。


古園:日本の半導体需要の低下は事実ですが、国レベルで危機感もあって、実はAIやIoT関連ベンチャーの技術開発への助成金などサポートがあります。


今後は日本に技術センターを立ち上げ、プロジェクトの遂行だけでなく、日本の新しい技術をベンチャーから大学レベルまでくまなく拾い上げることにも注力していきたいです。日本の技術を、半導体という観点から長期的にサポートするビジョンを持っています。


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――最後に、就活生にとってアルチップ・テクノロジーズで働く魅力を教えてください。


堀池:多くの場合、新卒社員はプロジェクトチームの一番下のポジションからキャリアが始まります。しかし弊社では、新卒入社半年の社員がプロジェクトリーダーを務めたケースも。卒業時のスキルレベルによって、若手にもどんどん大きな仕事を任せます。30歳までのあいだに、技術とプロジェクトマネジメントの両方を学べる機会は多いと思いますよ。


アジアやアメリカのメンバーとも仕事をする機会が多いので、若いうちから誰とでも議論ができるような技術者を育てたいですね。


古園:もし弊社に入社したとしても、一生アルチップにいる必要はないと思っています。もちろん、一生いたくなるほど居心地が良い会社であればうれしい限りですが、その人にとって必要なスキルやキャリアは時間とともに移り変わります。私自身も会社を移ってきましたから。


堀池も言ったように、新卒の方にも海外でチャレンジする機会を積極的に与えていきたいと考えています。挑戦したい気持ちに必ず報いて、トライを応援することを約束します。それが私からのメッセージです。


編集後記


アルチップ・テクノロジーズのベテラン2人の言葉は、日本の半導体業界を見てきたグローバルな企業人の視点から語る率直さに加え、温かな雰囲気も印象的だった。日本オフィスの新卒採用により、日本の技術的発展に貢献しながら同社も共に成長していく未来を予感させてくれた。




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ライター
水田 真梨
カメラマン
森屋 元気

企業情報

アルチップ・テクノロジーズ株式会社

◆半導体の設計・製造で、世界をリードするグローバル企業!家電はもちろんスーパーコンピューターにも活用される最先端システムを手がけながら、プロフェショナル軍団であるエンジニアチームとともに成長できる職場です。 ◆【世界有数の半導体技術をもつ、リーディング・カンパニー】 アルチップ・テクノロジーズは、半導体の設計・製造ソリューションを提供する世界的なリーディング・プロバイダです。そして、世界で7社しかないTSMC Value Chain Aggregator企業でもあります。 顧客は、ASIC・SoCチップの大規模生産を求める大手企業や、先端技術を必要とするベンチャー企業。私たちは自社の工場は持たず、純粋な技術力で強みを発揮するファブレスASICプロバイダーとして、優れたレイアウト設計や量産ソリューションによりグローバルな信頼を集めてきました。当社の技術により顧客企業は、コスト効率に優れたチップを短期間で市場投入することが可能となっています。 ◆【2017年に史上最高益を達成。さらに成長は続きます】 設立は2003年。シリコンバレーと日本出身の半導体エキスパートたちが結集し、誕生しました。半導体の複雑化が進み、その設計リスクやコストが上昇している現在。そのなかにあっても当社は、国内外を問わず多くの大手システム会社から高い評価を獲得し、依頼は増加中です。最先端プロセスを使用した製品開発で数多くの実績を残しており、2010年12月には台湾の新興市場に、そして2014年9月には台湾証券取引所メインボードに上場し、さらに2017年には史上最高益を達成しています。 ◎世界に広がる拠点 ・台湾(本社) ・アメリカ ・日本 ・中国 ・韓国 ◆【家電からスーパーコンピューターまで、幅広い分野で活躍】 私たちの技術力は、4K/HDTVやカメラ、携帯電話、タブレット、ゲーム機といったエレクトロニクス製品はもちろん、HPCやAI、仮想通貨のマイニングマシン、スーパーコンピューターや医療機器など、多岐にわたる分野で活用されています。また、これからの普及が見込まれる7nmプロセスを使用した製品についても、私たちはすでに開発し、量産に成功しています。先進的なASICソリューションをいち早く提供するパートナーとして、ますます技術革新を推進していきます。