大手企業研究職として働く僕が就活生だとしたらこれから取る戦略
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2019.05.31
LabBase Media 編集部
就活ルール廃止、通年採用化、インターンシップの増加――変わりゆく理系就活環境をどうサバイブしていくべきか。そのヒントを探るべく、大手メーカー研究職として働くくりぷとバイオさんに話を伺った。
1.初めに
化学生物学(Chemical Biology)をテーマとした研究で修士課程修了後、大手メーカーにて細胞生物学(Cell Biology)に関する研究 をしているくりぷとバイオ(@cryptobiotechと申します。
大手メーカーでの研究職キャリアと投資、ブロガーとパラレルなキャリアを歩んでるところ、 株式会社POL LabBase編集部から光栄にも寄稿依頼をいただき、今回記事を執筆する運びとなりました。最初は「自分のキャリアなんかが皆様の役に立つだろうか」と考えましたが、少しでも理系キャリアに悩む学生さんのお役に立てればと思い、筆を取った次第です。
当記事では、現在目まぐるしく変わりゆく理系就活に関して、僕がもし来年以降に就活するとしたらこう動くという戦略をお伝えいたします。また、就活同様に(もしくはそれ以上に)激しく変化している我が国の状況を俯瞰して、今後どのように理系人材は生きていくべきか?という考え方についても解説します。「こんな戦略・価値観もあるのか」と参考程度にご覧いただければ幸いです。
2.来年以降に就活をするとしたら僕が取る戦略
さて早速ですが、僕がもし来年以降に就活をするとしたら取る戦略は以下の通りです。
- 無駄な就活はしない(受ける企業数を少なくする)
- 副業可能な企業のみ受ける
- 内定が獲れないリスクに備えた対策を今から打つ
以上3つに対して、それぞれ説明していきます。
2-1. 無駄な就活はしない(受ける企業数を少なくする)
僕が来年以降に就活するとしたら、受ける企業数を絞ります。エントリーするのは多くても10社。その理由は、通年採用化によって大量エントリーができなくなると考えているからです。
これまでの就活は就活解禁という一斉スタートの元、企業は似たような経歴・実力を持った学生の中から“優秀な学生”を獲得するという流れでした。だからこそ就活生はたくさん企業を受けることで内定率を少しでも上げるアプローチが可能だったわけです。
しかしこれからは通年採用になり、企業ごとに募集期間も募集人数もかなり変動するようになります。これまでの就活のように「自分の軸をしっかり定めなくてもどこかの企業から内定が出ちゃった」みたいなラッキーパンチは減っていくはず。闇雲に就活しても軒並み落とされ、かつ自身の研究も企業に振り回されて途切れ途切れになって結果も出なくなるという負のスパイラルに陥る可能性が高くなるのかなと。それゆえ今後就活をするなら無駄な就活は一切せず、本当に受けたいと思う企業のみに絞ります。
2-2. 副業可能な企業のみを受ける
受ける企業数を絞る際に、僕は副業可能かどうかを最重要視します。企業説明会でも聞きますし、OB/OG訪問でも絶対に副業可能か聞きます。なぜなら国内すべての企業が5~10年後に存在している保証がないからです。これはメガバンクや白物家電メーカー、最近では製薬企業など名だたる業界・大企業が次々と希望退職募集を発表していることに起因します。
製薬企業が次々と希望退職を募集したことに対して「希望退職ドミノ」という造語が生まれたのは僕にとってかなりの衝撃であり、同時に「大手=安定」という神話は平成時代で崩壊したと確信するきっかけにもなりました。
僕は大手企業と称される企業におりますが、いつ会社が潰れるかわからない恐怖と日々戦っています。それゆえ副業で「人生の保険」を作っておくのは重要。仮に副業で月10~20万円の収入があれば、会社が潰れてもすぐ無一文にはならないですので。こういった社会背景から、これから就活するなら絶対に副業可能な企業を選びます。さらに副業でサブスキルを磨いたり人脈を築けたら、自分自身の市場競争力も高まるはずです。正直なところ「副業禁止企業」は選択肢に入らないですね。
2-3. 内定が獲れないリスクに備えた対策を打つ
通年採用化することが決定した今、最悪のリスク(内定ゼロ)を考えた行動を早いうちからとるべきと考えます。具体的には「多様な生き方を知る」「分散収益化の種を蒔く」「SNS発信力強化」の3つです。
まず1つ目の「多様な働き方を知る」は、OB/OG訪問などを活用して色々な業界・職種の人に話を聞くということです。僕が就活をしていたころは「研究職一択」で就活をしておりましたが、今振り返ってみるともったいなかったなと感じています。なぜなら企業に入って数年経った今「他の経験もしてみたくなってきたから」です笑。
しかし研究職しか知らなかった僕は、異職種の人が具体的にどんな仕事をしているのか知らず、今になって社内外の人たちと交流して「異職種」を知ろうとしています。企業に入って数年後にそうなるなら、学生時代にそれぞれの職種を深堀しておいても損はないはず。しかも多様な生き方を知って志望職種が増えれば、それだけ内定ゼロのリスクも軽減できますので。
そして2つ目の「分散収益化の種を蒔く」は、副業意識を学生時代から持とうということです。僕の例で恐縮ですが、僕はブログを副業と捉え、「3年後に月10万円の副業収入を達成する」という目標を達成するため日々取り組んでいます。しかし1年近くやってきてわかりましたが、最初の1年目は無収入の覚悟が必要。だからこそ時間がある学生時代に副業の初期準備をコツコツやっておいた方が良い。もちろん研究がおろそかになっては本末転倒ですので、空いている時間を活用して少しずつ副業意識を高めていくのが良いと考えます。副業の基盤を作っておけば、もし内定ゼロになってしまっても保険になりますので。
最後に3つ目の「SNS発信力強化」はこれからの世界を生き抜くために「個の力」を磨こうということです。SNSを始めて1年足らずの若造が何を言っていると思われるかもしれませんが、SNSは使い方次第で非常に有用なツールになります。例えば副業でブログをしているのであれば自身のSNSを介してブログ記事の宣伝が可能です。またSNSを活用すれば普段絶対に関わり合えないような方々と繋がれます。例えば海外勤務の医師やアカデミアの先生など、僕が企業研究者“だけ”やっていたら話すことすらできないレベルの方々と繋がれるのは本当に素晴らしいことです。
こういったメリットがあるのがSNSであり、しかも最近では「インフルエンサー採用」といった言葉も登場してきています。SNSの発信力が武器になる時代です。それゆえ学生のうちから「発信力」を磨くのは就活にも活きると思いますので、内定ゼロのリスクに備えて今から取り組んでおくのがおすすめです。副業同様に「発信力」は一朝一夕で身に付くものではないので、僕がもし来年就活をするなら、この記事を読んだ今からすぐにやります笑
3.これからの「不確実な社会」を生き抜くために意識していること
前項で「来年以降に僕が就活するならこうやって動く」ということを解説しました。そして本項では就活よりもさらに視点を先に移して、「不確実な社会を生き抜くためには?」に関して僕がいま意識していることをご説明しますね。僕が考えていることは以下の2つです。
- 研究は「人生」ではなくて「ツール」という思考を持つ
- メインスキル+α+β+・・・で戦おう
3-1. 研究は「人生」ではなくて「ツール」という思考を持つ
これはこれからの時代を生き抜くために理系学生が意識すべきことだと考えます。なぜならこれからの激動&不確実な時代で、何か1つだけを生涯極めるという思考は美しくもあり、危険でもあるからです。僕は修士卒なので、修士の学生さんには特に強くお伝えしたいのですが、たった2~3年研究やっただけで“自分は研究で生きる”と決断するのは早すぎます。もっと色々な生き方を知り、色々なことを経験してから決断すべきです。
僕は大学時代に大変お世話になった教授の一人から「研究者の道を今から選ぶのはよっぽどの天才・秀才か、後先考えていないただのバカ」という言葉を聞き、「僕はバカだから研究を人生にするのは無理だな」と悟りました。それゆえ今は研究を「人生」ではなく「ツール」だと考えています。
研究をツールにして生きるというのは、「究極の剣豪を目指す武士的な生き方」ではなく「時代のトレンドを把握して他者が必要とするものを先に集め、それを提供していく商人的な生き方」ですね。僕にとって「研究」とは数ある「ツール」の1つにすぎず、それゆえ「研究職」に生涯こだわり続けるつもりはありません。時代の変化で求められるものが変わるなら、柔軟に思考を変えて、それを貪欲に獲得していきたいと思っています。理系学生の皆さんには是非「研究でどう生きていくか」よりも「研究という武器を使ってどう生きていくか」を考えてほしいと思います。
3-2. メインスキル+α+β+・・・で戦おう
僕は自分のメインスキルを常にアップデートしながら、新しいスキルを身に付けることを意識しています。なぜならこれからの時代は「科学技術のブレークスルー」によって、これまで必須だった存在やスキルが一瞬で風化させられるリスクがあるから。
例えばスマートフォンがガラケーのシェアを根こそぎ奪い取ったように、僕が持つスキルもいつか丸ごと不要になってしまう未来を危惧しています。ゆえに「研究」というスキルが風化しないよう本業として取り組んでアップデートする一方で、業務後や休日に新しいスキルの習得に励んでいます。
余談ですが僕はこの数年で「バイオ系研究者」という肩書に「ブロガー」と「投資家」という肩書を正式に追加したい。それはきっと「バイオ系研究者」の世界から一歩抜け出て、差別化できるようになると思うからです。このように、自分のメインスキルを軸に、どんどん新しいスキルを追加していく生き方が今後必要になると僕は確信しています。当記事をご覧になってくださったあなたも、ぜひ自分のメインスキルを定義して、そこにどんな新しい+α、+βを追加していけるか考えて頂ければ幸いです。非常に強欲な価値観ではありますが、これからは「二兎を追って、二兎とも得る」という生き方を全力で模索すべきだと考えます。
4.「不確実」はピンチではなくチャンスである。
就活ルール廃止・通年採用化など、これから就活がどうなっていくのかは予測困難ですが、不確実はチャンスです。なぜならこれまでのように「就活の成功率を上げる定石(新卒や高学歴であること)」が通用しなくなる可能性が高いからです。
これから必要なのは新卒であることでも良い学歴を持つことでもなく、どんな環境にも対応できる柔軟な人材になることだと考えます。ぜひ理系学生の皆さんには、世間の流れを先読みし、周りとはどんどん違うことをしてオリジナルのスキルを磨き、自ら不確実な世界に足を踏み入れていくことを期待します。くれぐれも「型にはまった」つまらない人間にならないようお気を付けて。
令和時代に若者が「安定志向」を持ってしまうと、待ち受ける未来はおそらく“死”です。不確実な世界を適度に恐怖し、そしてそのスリルを楽しみながら駆け抜けていってください。皆さんが輝かしいキャリアを歩まれることを心から応援しています。
最後になりましたが、今回このような素晴らしい機会をくださったLabBase編集部の皆様に再度御礼申し上げたいと思います。「理想的な理系キャリアを歩む者」として称される生き方ができるよう、今後とも一層「本業(研究)」と「副業」に励む所存です。これからもよろしくお願いいたします。
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