「技術の力で文化を作りたい」――20代のCTO今井武晃がスタートアップ転身で挑む未来

インタビュー

2019.06.25

LabBase Media 編集部

理系キャリアを描くフィールドはさまざまだ。そして、キャリアには思いもよらない転機もチャンスも壁もつきものだ。そんな物語としての理系キャリアを伝えていく「理系キャリアストーリーズ」。自分の少し先を歩く理系キャリアの先人たちのリアルストーリーから、自らのキャリアをワクワクしながら描いていってほしい。 NTT研究所でのソフトウェア開発を経て、製造業にIoT革命をもたらすスタートアップ企業 i Smart Technologies に転職した今井武晃氏。20代にして現職のCTOに就いた異例のキャリアの持ち主だ。彼の独自のキャリア観と壮大な野望について伺った。

  • 今井 武晃

    i Smart Technologies株式会社

    執行役員 CTO

キャリア選択の幅を広げたくて研究者を志した



――東京大学、大学院で航空宇宙工学を専攻されたそうですが、現職とはまったく異なる分野ですね。


僕、興味のままに面白いことを転々とするタイプで、学部の頃は材料系に興味があって航空機向けのCFRP(カーボン樹脂)の研究をしていました。ただ、材料系は実験が多く拘束時間が長く、自分には合わないなと思いました。そこで実験でなくシミュレーション重視の研究にしようと、大学院から渋滞学に転向しました。交通量や人の流れを物理・数理科学で解決する分野です。


――もともと研究職を志していたのでしょうか。


やりたいことが決まっていなかったので、将来の選択肢の幅を狭めない選択として研究者を選びました。もしコンサルなどのビジネス系の職業に就職したら、研究者に戻るキャリアは考えにくい。一方、研究からコンサルというキャリアはあり得たので、まずは研究者になろうと考えたんです。


戦略的なキャリア観を持ったのは、悩んだ時期があったからです。修士の時にポルトガルでの海外インターンシップに参加したのですが、帰国した1年の冬には周りはもう就活中で、外資系などはすでに内定済み。当時は就活で人生が決まると思っていたので、すごく焦りましたね。でも次第に「1回目の就職で失敗しても転職すればいい」と吹っ切れて。辞めた後にキャリア的な広がりがあればいいんだと、考えを変えました。


――最初はNTT研究所に就職していますが、ここに至るまでにはどんな経緯があったのでしょうか。


もう少し研究を続けたいと思っていたので、東京で良い研究ができる就職先を探していました。でも、研究室推薦で内定をもらうのは嫌でした。大学院には自力で新分野に進む人が多く、僕もなんとなく変なプライドがあったんです(笑)。


渋滞学を生かせる企業は、オリンピック開催時の交通渋滞解消に向けて研究を進めていた三菱重工やトヨタ、人や交通の流れを研究していたNTTや日立などが候補。場所や自由度の高さなどを考えてNTT研究所にしました。 航空宇宙工学から就職する人があまりおらず、研究室推薦が無いことも決め手でしたね(笑)


研究を応用したプロデュース業を目指して



――最初はどんな部署に配属されましたか?


それまで無縁だったソフトウェア研究の部署です。最初の1〜2年はOJTで、実務と研究を行いました。実務的な通常業務としてオープンソース(OSS)活動というのがあり、NTTが注力しているミドルウェアのコード改修やメンテナンスをする仕事です。研究は人の流れを良くするため応用研究で、例えば「ニコニコ超会議」というイベントで混雑をどう緩和するかをテーマにしたり。NTT研究所は部署によって基礎研究と応用研究に分かれていて、僕のいた部署はソフトウェアを主力とする応用寄りの研究でした。


――現場でご自身の専門性は生かせたのでしょうか。


全然生かせなかったです。それどころか、僕は情報系でなく工学系。僕以外の全員が情報系のプロフェッショナルで、内定式後の懇親会ではなじみのない専門用語が飛び交っていました。僕は一言も分からずニコニコしながら携帯にメモを取り続けて(笑)、「このままでは置いていかれる!」と焦りを感じて必死に勉強しました。


じゃあなんでそんな私が研究所に受かったのか? というと、他の人と進みたい道が違ったからだと思います。研究所には自分の手で研究したい人が多く集まり、マネジメントやプロデューサー側に興味がある人は少ないです。一方で、私はもともとさまざまな技術を組み合わせて価値を引き出すところに興味を持っていました。なので、就活時は差別化も込めて「さまざまな研究を組み合わせたサービスのプロデュースをしたい」と話していました。


――NTT研究所ではマネジメントの道に進まずに研究を続ける人のほうが多いのでしょうか。


NTT研究所では社会人ドクターの道もあるので、楽ではないですが働きながら博士号を取る人もいます。同期の約20%は博士として入社しましたが、それ以外で研究を続けたい人は入社後にドクターを取り研究を続けます。


直感に従って、失敗したことは一度もない



――現職への転職には、何かきっかけがありましたか?


1年目の時から会社の方針と合わず、転職は考えていたんです。でも、マイナスな理由ではなくプラスの理由で転職したいと思っていました。3年目になると他社からスカウトが来るようになって、スタートアップの会社に誘われて食事に行ったんです。そこで、チームが一丸となってプロダクトを作り上げる世界を見て、直感的にスタートアップやベンチャーにチャレンジしたいと思いました。


その頃には、プログラミングの力も付いてきて、技術的にも次のステージに飛躍できるタイミングでした。同時期にNTTの研修で、人生の転換期にどう決断してきたか振り返る自分史を書かされたのですが、そこで「大きなことは直感で決めている・迷ったら難しいほうを選ぶ」という自分の傾向が見えてきました。ただ面白そうという直感と、成長につながるという理由で、志望大学を変えてみたり、学生時代に大きなプロジェクトのリーダーになってみたり(笑)。でも、 直感で選んで失敗したことが一つもないことにも気づいたんです。それで再び直感を信じて、社会人3年目の終わりで転職に挑戦しました。


――転職先も直感で選んだのでしょうか。


そこはある程度戦略的に選びました。僕が今いる i Smart Technologies の事業は、実際のものづくりを行う工場からデータを収集するIoTビジネス。センサー等のハードウェアも取り扱うのでコストが高く、製造業との深いつながりが重要視されるため、参入障壁が高い業界です。FinTechやHRTech系の会社も検討しましたが、集めるデータの特異性と独自性、そこから引き出せる価値の大きさという観点から、スタートアップとして先行者利益の大きい当社を選びました。


NTT研究所ではもともと、データ分析や機械学習に関する研究でした。現在のこれらの領域は、精度を98%から99%に上げるような分野で、なかなかに消耗戦です。僕はアルゴリズムやモデルとは、料理における調理器具だと思っています。いくら調理器具が良くても、食材、つまりデータが悪ければ良い料理はできない。それを踏まえ、データそのものが価値を生む時代が絶対に来ると直感しています。


愛知県という立地には悩みましたが、数年以内に東京にラボを持つという社長の思いもあり、CTOとして入りました。


――現在はどんな仕事をされているのでしょうか。


CTOの業務は開発計画の策定と新規サービスのプロトタイプ製作、エンジニアの管理、などです。IoTはやることが幅広く、センサーから始まってクラウドのインフラ管理、フロントの画面作りなどの多様な要素があります。これらを踏まえ、機能追加や不具合の対処を、各エンジニアに割り振ったり、時には自ら行ったりします。NTTでやっていた業務とはかなり違うので、学びながら業務に取り組んでいます。


自分の言葉にすれば忘れない。アウトプットの場としてのブログ



――本当に多彩な分野を転々とされているんですね。大学時代から培ってきた幅広い知見が、今に生きていると感じることはありますか?


最近、工場技術のスピンオフとして、アイスクライミング用のアックス(斧)を作るプロジェクトが始まったんです。そんなときに、航空宇宙工学を学んでいたおかげで、設計の構造的なアイデアを出せるんですよ。知見のすべてを記憶していなくても「こういう知識が使えそう」という検索の引っ掛かりがあるのは役立っていますね。そんなふうに、知識にインデックスを貼るのは大事です。プロジェクトマネージャーの仕事だと、いろんな話を理解し、何か役立つ情報を調べて返す翻訳者としての役割が重要になってきますから。インデックスが多ければ調べられるという意味では、今までやったことは全部が役立っています。


――現職で仕事の幅を広げる傍ら、SNSやブログでの発信もされています。


Twitterなどから入ってきた情報は未整理なので忘れやすいですが、自分の言葉で一度整理すると覚えるんですよ。それで、アウトプットの場として前職の時にブログを始めました。おかげで面白い情報を発信するブロガーや技術者の方々とつながりができたり、数学の書籍を執筆したりといった展開もありました。


さらに、大企業からスタートアップに行ってもしダメでも、ブログが収益化してきたから死ぬことはないなと、キャリアのリスクヘッジができて一歩踏み出しやすくなった。会社でもさまざまな挑戦をしたいので、挑戦にレバレッジを掛けるためにブログをやっているところもあります。


――今井さんが考える会社と個人の展望を伺えますか?


今の会社のサービスを、製造業全体に浸透するくらい広めたいですね。自分の将来的な展望でもありますが、技術の力で人々の文化になるものを作りたい。現場の矜持も尊重しながら、今まで勘やコツに依存していた製造業の現場の改善活動を、データを見ながらやる データドリブンの経営に変え、それが当たり前の世界を作りたいです。


――最後に、今もし自分が就活生だったらどんな戦略を取るか、お聞かせください。


最近のIT界隈だと、自分の技術力をオープンな場で定量化したり、披露できる場ができつつあります。技術職を目指していて、データ分析コンペやプログラミングコンテストなど技術を定量化できる場で良い成績を挙げているなら、スタートアップやベンチャーに挑戦する。その指標がないなら、今の僕と同じように、初めに大企業で学んでからスタートアップに行きますね。


今井さんの発信をチェック!
著書『身近な数学―数学で世界への見方が変わる!』
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編集後記


戦略的な思考と柔軟な直感力という2つの強い武器を持つ今井さんが、それに甘んじず学び続ける姿勢に、すべての理系就活生にとって重要なアティチュードを見た気がした。自身の資質を磨き続けるその謙虚さは、彼の目指すデータドリブンな世界を今日も一歩ずつ現実へと近づけているはずだ。




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ライター
水田 真梨
カメラマン
児玉 聡

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