理系就活生は専門性の罠に陥るな——就活ルール廃止、早期化がもたらす「転換期」のコンパス
インタビュー
2019.09.25
LabBase Media 編集部
就活ルール廃止や就活の早期化という変化の中、研究の多忙さや人材市場の売り手トレンドに翻弄され、十分なキャリア戦略を持ちきれていない理系学生は多い。キャリア論の第一人者として研究と企業活動をシームレスに捉える田中研之輔教授に、理系人材の指針となるキャリア観や大学で経験すべきことを伺った。
田中 研之輔(たなか・けんのすけ)
法政大学
キャリアデザイン学部
教授
理系学生にはアウトプットする側の目線が足りない
――キャリアデザインや人材という田中教授ご自身の研究テーマを踏まえ、現代の理系学生の就活には何が必要だと感じていますか?
自分のキャリアを安売りしないことです。就活という短い期間で、自分の市場価値を安く見積もらないでほしいと感じます。
学生の時期に、5年後、10年後にどんな理系人材になっていたいかをじっくり考えてほしいんです。今の自分がどんな会社に入りたいかではなく、長期的な視点に立ったうえでのファーストキャリアとして、どんな組織でどんな職種に就き、何をアウトプットしていきたいか。つまり自分が アウトプットする側に立って何を生み出していけるのかという視点を重視してほしい。この視点が、理系学生には特に欠けているのではないかと思います。
研究に打ち込み専門性を獲得することも大切ですが、その研究を社会と接合させていく目線も必要です。どんなキャリアに進むとしても、 自分にどのような社会貢献ができるかは忘れず考えてほしいです。
――理系学生にとって専門性は強みである半面、キャリアの幅を決めてしまう可能性もありますよね。
自分の研究を仕事につなげなくてはと思い込む人は、専門性の罠(わな)にはまっているんです。僕自身、研究者としてキャリアを培う中で分かったことは、専門を突き詰めることはすごく普遍的な行為だということ。一つのテーマを突き詰める過程で 獲得した思考法や実験のデータ分析経験は、他の場面にも転用し得るものなんですよ。
理系就活生のための3つのキャリア戦略
――専門性の罠にはまらずキャリアを形成していくためには、戦略としてどのような経験を選択すべきでしょうか。
理系学生が本当に忙しくなるのは研究室配属後の3年後半から。だから相対的に時間に余裕がある1〜2年生の間に、社会のトレンド、国内の状況、マクロレベルでの世界の動きを、経験的に培う時間を持つべきです。1、2年生の夏休みを有効的・戦略的に使うことが、キャリア戦略の1つ目のポイントです。
アルバイトも社会との接点になります。ただ時給を稼ぐ機械的な作業のルーティンワークではなく、経験が得られるベンチャー企業に入るのも良いでしょう。専門性の追究と社会を知る作業は、共存し得ること。専門性を育てながら、アンテナを立てて社会のトレンドも捕まえる作業が必要ですね。
――専門性とトレンドへの知見を獲得したあとは、それを社会の中でどう使うと考えれば良いのでしょうか。
今、キャリア論でアダプタビリティー(適合性)という考え方が注目されています。これは 社会トレンドに対して、自分の経験や実力をどうフィットさせていくかという能力。 理系学生はアイデンティティー、つまり専門性が確立されている一方で、アダプタビリティーは弱い人が多い。ここを訓練することが、キャリア戦略の2つ目のポイントになります。
アダプトとは、自分のアイデンティティーを社会に還元していくこと。いくら専門性を究めても、社会課題へのアウトプットを即座に出せないとバリューは付きません。
そのためには一度自身の専門性を離れ、アルバイトやインターンシップを通じて、アニメーションでも医療でも全然知らない領域に足を踏み入れてみてください。自分の専門分野ではない社会問題を知っていることは、強みになりますよ。
――他にはどんなキャリア戦略が考えられますか? 専門性をキャリアに生かすためには大学生のうちにたくさん失敗しておけ、という考え方もありますが。
あえて失敗する必要はないけど、個人のパフォーマンスの限界を知っておくことは大事ですね。例えば「自分はプロジェクトを5つ抱えると回せなくなるけど、3つまでなら大丈夫だな」とか。マルチタスクは社会で必ず求められるスキルです。 ただ研究を突き詰めるだけではなく、物事をパラレルに動かす経験を積むことが、キャリア戦略の3つ目のポイントになります。
僕自身、学生の頃はアルバイトを複数掛け持ちしていました。そうしていくと1日の時間の効率化を考えられて、自分のポテンシャリティーを客観的に分析できます。1日の予定を考えた時に「今日はサークル活動があるから他はできない」ではなく、前後の時間の使い方を考えられると良いですね。
大学の価値を利用してポテンシャリティーを伸ばせ
――就活と研究の両立に悩み、就活のために大学の勉強がおろそかになってしまう理系学生もいますが、解決策はあるでしょうか。
大学って学生が思う以上にすごいところで、普通の授業にも偉大な先生がいます。その大学の資産を生かしているか? 研究室や先生の見識を全部盗んだか? そう自分自身に問うてみてほしいです。それもせずに就活に逃げるのはもったいない。そうではなくて、 キャリアを徹底的に育てて、自分のポテンシャリティーを伸ばしてください。
大学と社会では「求められる能力」が大きく異なっており、 高校から大学に行くくらいの変化だと思って臨むと対応しきれません。大学と社会の間にある隔たりを超えるには、学生の間に未知のことにたくさんチャレンジをして、自分自身をトランスフォームさせていく経験が必要です。
インターンはトランスフォームのために多大な効果があり、経験すると大学での学び方も劇的に変わるでしょう。社会に出て会議に参加すると、自分で企画を練って形にしないといけないし、知識がないと発言できないので、そこで大学の演習や実験が大事だと気づく。つまり、社会を知っている人は大学の学びの価値を知っている。そのことに気づかず、就活に逃げる人は二流ですよ。
――なるほど。では、就活の価値はどのように捉えれば良いでしょうか?
僕自身は、就活をキャリア形成の一つの段階として捉えています。就活という機会を利用して、専門性を深めて時代による 技術的変化に対応できる力、企業が求める イノベーションを起こす力、何事にも疑問や課題意識を持つ力を、日頃から磨いておきましょう。それらをTwitterやnoteなどのツールを活用してポートフォリオを作りスキルをまとめ、 積極的に発信していれば、今はどこにいても評価される時代です。
自分のキャリア資本を定期的にチェック
――理系人材が長期的なキャリアを築く上では、どんなマインドセットが有効でしょうか。
自著 『プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』にもあるのですが、経験を通じてキャリア資本(キャリアキャピタル)をためることが、令和の時代のキャリアの鍵だと思っています。いろいろな経験をすれば人生が豊かになるし、キャリア資本もたまり、転職もしやすくなる。
誰もがビジネス資本という「スキル」、 社会関係資本という「つながり」、 経済資本という「お金」の3つのキャリア資本を持っており、このバランスをタイミングに応じて転換させていくことをキャリア形成の中で考えないといけないんです。長いキャリアの中で、一つ一つの選択を通してキャピタルがたまります。それがある段階に達すると、キャリアの転換が起きてくるんです。
自分のキャリアを健康診断のように定期的にチェックして、その成長を確認するといいですね。キャリア形成の気づきをキャリア資本表やバランスシート(BS)に当てはめていくと、自分の価値の高まりを可視化できると思います。また、副業もキャピタルをためる手段の一つなので、できる人はぜひやってほしいですね。
――最後に、一括採用から通年採用への移行が今後、理系就活にもたらす影響をどう予想されますか?
通年採用に向けて就活時期が早くなると言われますが、これは本質的な問題ではありません。採用を通じて、学生に問われるものが変わってくることが重要なんです。
一括採用の最大の問題点は、短期決戦による人材の奪い合いでミスマッチが多く起こることでした。一方、通年採用は学生にも企業にも考えるゆとりが生まれます。5年後や10年後にどう社会還元をしていくかをじっくり考えながら、キャリア資本をためている人間にいつでもチャンスがやってくるようになるんです。
会社が学生を選ぶのでなく、学生が会社を選ぶ就活がもうすぐ始まると思います。だから就活生には「焦るな」と言いたい。ただし、行動しなければチャンスは来ません。通年採用では「あなたは何ができますか」とよりリアルに問われることになり、 大学名よりどんな行動をしてきたかが学生の優秀さの判断基準になるでしょう。
理系学生は、その行動を積極的に起こしていける最たる人材です。行動を起こし続けて、スピードエンジニアリングができるとか、機械学習系に強いとか、誰にもまねできないオタク的な知識を身につけるようにしましょう。そしてそれを積極的に発信していくことで、チャンスをつかめるはずです。
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編集後記
理系学生のキャリア観への現実的なコメントの中に、専門性を追究し研究に邁進(まいしん)する人たちへの熱い思いを感じさせてくれた田中教授。多くの人のライフキャリアを見続けてきた研究者だからこそいえる実践的なキャリア戦略や理論は、転換期の就職活動を未来に導くコンパスになるだろう。
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