会計こそが理系にとって最強の「お助けスキル」になる理由
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2018.11.16
LabBase Media 編集部
大学や大学院の理系学科では、会計を学ぶ機会はめったにありません。しかし筆者は、「理系人材が価値を高めるために最もコストパフォーマンスが高いのは、会計知識を身につけることである」と断言できます。 本記事では、工学部や理学部などの理系学部に所属している学生向けに、理系人材が会計を学ぶことの意義について説明します。筆者は、大学院を卒業後に企業研究者としてキャリアをスタートしましたが、働いている中で経営の世界に興味を持ち、現在は経営部門で管理会計や財務分析などの会計業務に携わっています。その経験から、理系出身者が会計を学ぶことで、ユニークな価値をもった人材になれることを知っていただければと思います。 そもそも、会計とは一体どのようなものなのか?まずは、企業における会計の必要性について触れ、その役割と有用性を紹介します。その内容を基に「理系×会計」のスキルセットを備えた人材の強みについて、理解を深めていきましょう。
事業は心臓、お金は血液、会計は血管
会計について説明する前に、会社における事業と会計の関係について簡単に説明します。
会社は、サービス提供や商品販売などの対価として収益を得て、それを基に事業を成長させるための組織です。人体で例えると、事業は身体(会社)を動かしていくためになくてはならない心臓で、収益(お金)は全身に栄養を届ける血液と言えるでしょう。
しかし、身体には心臓と血液だけでは不十分で、心臓から出てきた血液を全身に届けるための血管が必要です。その血管こそが、会社における会計の役割です。
丈夫な心臓と十分な血液があっても、それらを運ぶ仕組みが正常に機能していないと、人間は病気になってしまいます。会社も同様で、せっかく事業を興しても、収益を確保するためのフレームワークや、得たお金を適切に処理する会計基盤が整っていなければ、事業を継続していくことは難しくなります。
例えば、あなたが非常に効率の高いモーター製品を開発したとしましょう。この製品が技術的に素晴らしいものであることは実証できましたが、それを販売して利益を出すためには、お金の動きをコントロールする仕組みが必要です。生産のためのコストから回収できる利益の見込みまで、財務に関するあらゆる試算が必要になります。
「生産に必要なコストは高すぎないか?」
「量産ラインを作るためにはどのくらいの設備投資が必要か?」
「製品が画期的なことを世の中へアピールするにはどれくらいのコストがかかるでしょうか?」
会計はまさにこのような課題を解決する鍵であり、事業活動とお金の動きとをつなぐためになくてはならない仕組みです。これはスタートアップから大企業まで、どのフェーズの企業にも当てはまります。そのため、会社で働くことを考えている人だけではなく、将来的に起業をしたいと考えている人にとっても、会計の知識は強力な武器になるということを覚えておいてください。
「理系×会計」人材の強み
理系が会計を学ぶことのメリットはなんでしょうか。それはズバリ、「周囲の競争相手と比べて自分の付加価値を上げることができる」ということです。
会社の中で責任のある仕事に携わったり、年収を上げたりするために必要なポイントの一つが「同じようなバックグラウンドを持つ人と比べてユニークな点、セールスポイントは何か」ということです。
例えば、あなたが大学で学長賞をとっていたり、若くして革新的な技術を開発していたり、学生時代にNatureやScienceといった科学ジャーナルに論文が掲載された経験があれば、まわりと比べてユニークかつ圧倒的な実績を持っていると言ってよいでしょう。しかし、多くの人はそうではありません。
そこで注目したいのが会計知識です。技術だけを理解している人や、会計だけを理解している人はそれなりにいますが、技術と会計の両輪の知識を備えた人材となると途端にライバルは激減します。加えて、会計の知識を持った人材は、経営視点で物事を考えることができるという点で、会社にとっても非常に価値があります。その理由について、具体例を挙げながら説明します。
会社で新しい商品やサービスを開発する際には「予算」が必ず設定され、予算の範囲内で最大限の結果を出すことが求められます。そのような状況下で必要になるのは、現実的なコスト計画の中で折り合いをつけながら、可能な限り良いアウトプットを出すまでの道のりを描くことができる人材です。
しかし、世の中には、技術は理解しているが会計は全く分からない人や、もしくはその逆である人が圧倒的多数。これは、話の表面的な部分だけをすくい取り「会計(技術)を理解するのはなんだか難しそう」と避けてしまう人が多いからです。実際に採用活動の一環で経営職志望の理系学生と話をしていると、「会計は難しそうだ」と話す人が多い印象を受けます。しかし、こうした先入観だけでとらえてしまうのは、非常にもったいないことです。
さらに、会計を勉強することは、人物評価という面でも大きなメリットがあります。理系出身でありながら、専門外である会計の知識を能動的に習得する姿勢を備えていたり、経営視点にも興味があるとなれば、企業が放っておくはずがありません。
これらのことから、理系人材が会計を勉強することは、自分の付加価値を効率よく高められると同時に、ユニークな人材として活躍の幅を増やすことにもつながると言えるでしょう。
大企業に行くから不要?いえ、必要です
このように話すと「自分は職種によって役割が明確に分かれている大企業で研究開発に専念するつもりでいるため、財務や会計に関する知識は不要です」と答える就活生もいます。しかし、それはとんでもない勘違い。むしろ、大企業でこそ会計スキルを求められることがあるとすら言えます。
大企業には、コスト削減のために、設計や加工・コーディングなどの手を動かしてモノを作る業務を外注している会社が多くあります。そういった会社では、技術を理解していることはもちろん、そのサービスや製品を開発するためにはどういった内容の投資がどれくらい必要なのか、実現したら会社にどれくらいの利益をもたらすことができるのか、という視点が必要です。
かつての日本では、一つの会社の中で長年をかけて特定の技術を磨くことだけに取り組み、その道の第一人者になるというキャリアパスが存在していました。しかし、現在そのような育成システムを取り入れている会社は圧倒的に少数派です。特にものづくりの世界では、技術しか知らない人材よりも、会社の内外と協力しながら適切に事業をマネジメントできる人材の方が貴重な存在に映ります。
時代の変化にキャッチアップして、社会から強く求められる人材であり続けるためには、会計の知識をベースとした経営視点が必須であると言えるでしょう。そして、そういった視点を養っていくためには、なるべく早い段階でインプットを始めた方が有利になることは、言うまでもありません。
まずは「財務三表」から
会計の基礎を身につけることは難しくありません。必要な計算は四則演算のみですし、1カ月も勉強すれば基本的な知識はひと通り身につけることができます。ふだんから数字を扱うことに慣れている理系人材であれば、容易といっていいでしょう。
具体的な勉強方法としては、まず初学者向けの入門書( 例)
を読んで概要を理解した後に、簿記三級のテキストで仕訳や勘定科目、損益計算書(PL)・賃借対照表(BS)に慣れましょう。その後、財務の解説本( 例)などを読んでみると、かなりの知識をつけることができます。
このように初学者用の参考書などから順を追って学習していくことで体系的に知識を獲得できますが、手っ取り早い方法を求める場合は、まず損益計算書(PL)・賃借対照表(BS)・キャッシュフロー計算書(CF)という3つの決算書(財務三表)を読めるようになりましょう。
財務三表は、会社経営の成績表にあたるものです。PLを見ればその会社がきちんと利益を出せているのか分かりますし、BS、CFからはどういった資産を保有しているのか、短期的に倒産する可能性はないのかということを把握できます。
Googleなどで検索すると、財務三表の読み方を解説しているWebサイトがたくさんヒットします。そうしたサイトを読むだけでも、それぞれの決算書の基本は身につけることができます。弊社で運営している別メディア「Lab-On」でも過去に財務三表の解説記事(下記リンク)を出しているので、ぜひ読んでみてください。
どこにいようと、会計知識は身を助く
本記事では理系人材が会計を学ぶ意義について紹介しました。技術スキルは社会の変化に伴うはやり廃りや需給バランスの影響を受けますが、会計は時代や業界を問わず常に必要とされるスキルです。一度身につければ、転職をして業種や職種が変わっても、確実にあなたの助けになってくれます。
お金を扱う世界ということで、地味なイメージや苦手意識を持っている人もいらっしゃるかもしれませんが、だまされたと思ってぜひ決算書の読み方だけでも調べてみてください。奥深い企業経営の一端に触れることができます。
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