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研究成果は関係ない、決断の中身が大事。――元理系学生・サイバーエージェント取締役・アプリボット社長 浮田光樹氏が語る理系学生の強みとは

インタビュー

2019.08.29

LabBase Media 編集部

研究をするということは、「社会に出た後でも、知識でなく、経験として役に立つことが大量にある」のでは!? ビジネスの最前線で戦う研究室出身の方に、気になることを現役の理系学生がとことんインタビューするこの企画。 今回は、サイバーエージェントの取締役と子会社・株式会社アプリボットの代表取締役社長を務める浮田光樹氏を取材した。学生時代はロボット研究に没頭していたにもかかわらず、なぜ別分野で起業する道を選んだのか? 「最初は不真面目な学生だった」と笑う彼の、研究室時代に隠れた「原点」を探った。

  • 浮田 光樹(うきた・こうき)

    株式会社アプリボット代表取締役社長

    (サイバーエージェント取締役)

大学時代は、惑星探査ロボットを研究



――まず、現在の担当役職や業務内容についてお聞かせください。


サイバーエージェントにおけるゲーム事業の担当役員、株式会社アプリボットの代表取締役社長をしています。


――ありがとうございます。浮田さんは元々、どのような学生だったのですか?


小学校・中学校・高校とずっとサッカーに打ち込んでいて、大学・大学院ではロボット工学を学びました。サッカーでプロになることは難しかったので、長く熱中できる「何か」に大学で取り組みたいと考えていたんです。


そのときに思い出したのが、幼少時代に好きだった教育番組「ピタゴラスイッチ」。機械のカラクリ仕掛けが面白くて、それに関連してロボットに漠然と興味があったので、結果的に大学進学の時は理系の電気系を選択しました。


――はじめから、意識の高い学生だったのですか?


友人に授業の「代返」をお願いして遊びにいくような、不真面目な学生でした(笑)。地元で遊んだりアルバイトをしたりしていたので、いわゆる起業サークルのようなものにも入っていませんでしたね。


私が変わろうと思ったのは、大学4年生のとき。勉強をきちんとしておらず、何も身についていない実感だけはあったんです。だから、あえて追い込まれる場所で力をつけようと思い、一番厳しいと言われていた研究室に進みました。


――不真面目だったのですね! そこから研究室では、具体的にどのようなことを行っていたんですか?


自立移動する惑星探査ロボットを製作していました。ハードからソフトまで扱っていたので、ときにはNASAも発注しているような町工場まで行って部品を調達したこともありました。週3日は研究室に泊まるような生活でしたね(笑)。


――がっつり研究なさっていたんですね.....!


研究一筋からのサイバーエージェント内定・起業、そしてまさかの大学院「中退」



――その後、サイバーエージェントへの入社を決めたのは、大学院の修士課程在学中ですよね。就職を決めた理由を聞かせていただけますか?


理由の一つは、ロボット分野での起業が難しいという現実ですね。なんとなくこの分野での起業を思い描いていたのですが、正直きちんとしたアイデアもなかったですし、市場的にも厳しいと感じていました。


もう一つは、当時のトレンドです。あの頃は堀江貴文さんや弊社の藤田晋などが話題になっていたので、私も起業そのものへの憧れや興味が強くなっていたんです。


そこで企業でビジネスを学ぼうと就職活動を始めましたが、引かれたのは大手メーカーなどよりもベンチャー企業。1社目に受けたサイバーエージェントで内定が出たので即決し、修士1年の3月からはデータベースエンジニアとして内定者アルバイトをしていました。


――そして、内定者時代にアプリボットを立ち上げたのですよね


そうですね。モノづくりをしたい、世界中のユーザーに使ってもらえるような製品を作りたいという思いは、ロボット作りにもゲーム作りにも共通しています。私が内定者アルバイトをしていた時に、偶然にもサイバーエージェント内で子会社設立のタイミングがあり、修士2年の夏にアプリボット立ち上げに参画することとなりました。


で、辞めちゃいましたね、大学院。


――えっ、辞めちゃったんですか!?


もちろん大学院でのロボット研究にはしっかり取り組んでいたつもりです。でも、アプリボットの立ち上げにすごくやりがいを感じている自分がいました。二足のわらじではなく、フルコミットすることが今は大事だと確信して中退しました。


――そんな、簡単に「辞めた」といっても、周りからは、反対されましたよね...?


サイバーエージェントの人事にはなかなか了承してもらえませんでした(笑)。凄腕エンジニアとの面談が設定され、「大学院は出たほうがいいぞ」と説得されたり。親身になって考えてくれた人事には、今でも感謝しています。


――逆に、人事の方から反対されたのですか(笑)


しかしこのままでは埒(らち)が明かないと思い、社長の藤田の出待ちをして直談判したんです。「これからの時代はスマホだと思っています。だからアプリボットに専念したい。大学院を辞めていいですか?」と聞いたら 「いいんじゃない? ただ、親御さんとはきちんと話し合って」と言われて。


その足で人事に「社長に許可をいただきました」と報告しました。当時、人事には迷惑をかけてしまいましたが、サイバーエージェントは、宣伝文句ではなく本気で「若いうちから挑戦できる」会社だとあらためて感じてます。私自身、自分の決断を貫けたことは良かったと思っています。


――(す、すごい行動力だ.....)


経営に必要だったのは「総合力」――学生時代の3つの経験が今の自分と経営理念を作った



――そうして、今経営者となっているわけですが、学生時代や研究室時代を振り返ってみて、「あぁこれ今に役立っている!」という経験はありますか?


アルバイト、サッカー、研究の3つで社会人の私が成り立っている、と言い切れます。


アルバイトはカウンターのある寿司屋でしていました。夕方はファミリー層、夜は地元の名士やホステスなど、来店する客層の幅広さに世間の縮図を見つつ、板前の上下関係に 社会の厳しさを肌で感じましたね。


サッカーでは小中高とずっとキャプテンを務めていて、チームプレーの難しさや醍醐味を経験しました。  


研究はサッカーとは違ったチームプレーで、一つのものを皆で作ります。私は研究室で、ロボットの「手」を動かす部分を担当していましたが、手が動くには動力部がないとダメ。カメラのセンシングや移動を予測する働きも必要で、それら全部がそろってはじめてロボットが動くんです。


――なるほど、また違うチームプレーが必要だったのですね。


会社という組織でも、一人の天才に頼るのではなく、皆で試行錯誤しながらいいものを作るほうが自分には合っているなと思いますし、それがアプリボットの経営方針「AMC(Applibot Membership Compass)」にも反映されています。


例えばAMCの一つに「間に落ちたボールを拾おう。」という言葉がありますが、これは自分が順調なだけではダメで、組織内の誰かがやるべき仕事は率先してやろうという考え方ですね。


会社にとって重要なことは、戦略を立てて世に通用するプロダクトを作り、収益を上げること。一人の力ではなく総合力が必要なんです。


――スキルさえあれば強みになると思っていました……。ほかに、研究室で「今につながってるな」と感じる経験はありますか?


終夜(泊まり込み)ですかね(笑)。研究もしましたが、雑談で過ごす夜もあって。弊社はプライベートでも仲の良いメンバーが多く、距離の近さが仕事でも良い循環を生み出していると感じます。仲間と一緒に過ごす時間がチーム力に影響すると思うのは、研究室で過ごした経験があるからかもしれませんね。


理系学生よ、物事の表面ではなく決断の中身を語れ



――浮田さんは多くの学生を見てきたと思いますが、魅力的に映る人材にはどのような特長がありますか?


決断の中身を自分の言葉で語れる人ですね。学生時代の出来事が人生観にどんな影響を与えたのか、言語化できる学生には魅力を感じます。「ロボットの研究をした」「アルバイトを頑張った」というのは表層的な部分。では、その出来事から何を学び、価値観にどう昇華したのか。これを自覚して語れる学生は芯があると思います。


――そ.....それは、研究成果に関係しなくてもいいのですか?


もちろんです。面接で研究の話は多く聞きます。しかし大切なのは、背景にある意思決定の中身です。なぜ、その研究室に入ったのか? なぜ、その道を選択したのか? 私が気になるのはその人の「決断」です。


研究室や就職先もどう選ぶべきか迷うかもしれません。就活に強い研究室、大好きな分野、AIのような今後役立つ領域など、「どれを選べば正解」というものはないと思います。どんな理由でもいいので、自らの意思で決めること自体が重要かなと。


――最後に、研究室で学ぶ学生や、就職活動中の理系学生にメッセージをお願いします。


就職活動前の方は、一生懸命に取り組めるものを一つでもいいから見つけてみるといいと思います。研究はもちろん、アルバイトでもインターンでもいい。目の前のことに全力で取り組む経験が大事だと思います。真剣に向き合えば自分の課題や強みを発見できますし、その経験を振り返れば自己分析にもつながると思います。


そして就職活動中の方に言いたいのは、学生時代に想像したキャリア通りに歩む社会人は、ほぼいないということ。だから、研究内容や「理系はメーカーに行くべき」などの固定概念にこだわらず、視野を広く持って就職活動をしてほしいと思います。


全力で何かに取り組んだ経験こそが、一番成長につながるんじゃないかなと思います。


――ありがとうございました!


インタビュー後記


研究では「成果を出さなければ」、就活では「何かスキルをつけなければ」と焦ってしまうもの。しかし、浮田氏が求めるもの、それは、「決断の中身を自分で語れるか?」であった。研究室での研究を経験し、現在経営者という、理系学生の気持ちも、就活で選ぶ側の考えも分かる彼からのメッセージは、これから研究をする学生も、就活をする学生も胸に刻んでおきたいメッセージであると感じた。

ライター
サトウ カエデ
カメラマン
児玉 聡

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