
「世界を動かすダイナミックな仕事」に惹かれた
――学生時代の取り組みと入社の経緯、現在の所属をお聞かせください。
学部時代は応用物理学を専攻し、超伝導などの物性物理を研究していました。大学院では「世界マクロモデル」を用いたエネルギー最適分配の研究をしていました。これは世界各国をプレイヤーに見立て、資源・エネルギー価格や炭素税などのコストが変動した際、各国がどのようなエネルギー戦略を選択するかを分析するものです。当時、地球温暖化の問題から脱炭素への方策として原子力への期待が高まっている時期だった背景もあり、主に原子力発電所の導入コストと、炭素税のペナルティの関係が世界のエネルギー構成にどう影響を与えるか、などを、強化学習やシミュレーションで研究していました。
就職活動では、研究で扱ったシミュレーション技術そのものよりも、「エネルギー」というテーマへの興味が勝りました。経済分析であればコンサルティングファームやシンクタンクという道もありましたが、「インフラ」という巨大な実物に携わる面白さのほうが魅力的に感じました。その中でJ-POWERを選んだのは、電力業界の中でも特に海外展開に力を入れていたためです。「海外で巨大な発電設備をつくる」というダイナミックな仕事に惹かれ、入社を決めました。
現在は米州オセアニア部に所属し、オーストラリアで進められている「K2H揚水発電所」の新規建設プロジェクトに従事しています。電気職としてのバックボーンを活かし、コントラクターから提出される図面のレビューや、建設現場での技術的な課題解決を担当しています。

山奥の現場作業からオーストラリアでのプロジェクトまでの18年間
――入社から、現在の業務に就かれるまでの経緯をお聞かせください。
入社後のキャリアは、現場の最前線から始まりました。最初の2年間は水力発電所のメンテナンス業務として現地に赴任し、機器の点検や修繕といった、「実機に直接触れる」仕事に従事しました。水力発電所は普段ではとても行かないような山奥にあることも多いので、自然がとても近く、アウトドア好きの人にはオフも含めていい環境だったと思います(笑)。
その後5年間ほど中西地域制御所に勤務し、西日本全域にある弊社の水力発電所を24時間体制で遠隔監視・制御する業務を担当しました。水力発電ならではの問題として、自然災害の影響が大きく、台風が来ると発電所に異物が流れ込み警報が鳴り止まないこともありました。発電所から離れた場所からの遠隔制御だったので、現地に行けない歯がゆさと、電力供給を守る責任の重さを肌で感じる期間でした。
その後、発電所を安全に動かすための制御回路設計の業務に就きました。設備の更新に合わせてシーケンス制御回路をプログラムし、現場に導入する仕事です。プログラムにミスがあれば必ずエラーが出るので、非常にロジカルで、物理出身の自分の性分に合っていました。現場導入後に動作試験を行いますが、動作がうまくいかない場合はその原因がプログラムのミスなのか現場の配線ミスなのかを切り分けて対処していきます。各コンポーネントの接続が間違っていないか、一つひとつ導通試験をして確かめるような、泥臭い作業もしました。最後に発電所がちゃんと動くかを確かめる「有水試験」を実行し、うまく動けば、監視盤の水車回転数や発電機電圧のメーターが「ぐっ」と上がっていき最終的に系統へ接続し電気を送り始めます。その瞬間に「自分の仕事が社会とつながっている」と実感します。この経験を重ねながら、水力発電所の全体構造を把握していきました。
その後、本店の水力発電部へ異動し、国内水力発電所の「リパワリング(=経年劣化した発電設備を新しいものに交換するとともに、出力を向上させること)」の事業計画に携わりました。リパワリングではまず地点選定から始まり「どの発電所を更新すれば最も経済効果が高いか」という経営的な視点が求められます。現場のミクロな視点から、事業全体の収益構造を考えるマクロな視点へと視野が広がった時期でした。
現在のオーストラリアでの新規建設プロジェクトは、これまで経験してきた現場での保全、運用の監視、システムの設計、事業計画のすべてがつながっていると思います。私は水力発電一本ですが、同期には、風力事業やエネルギー取引、電力自由化に伴う市場取引の道に進んだ者もいます。

オーストラリアの新規発電所「K2H揚水発電所」の面白さと難しさ
――現在担当しているオーストラリアの水力発電プロジェクトについてお聞かせください。
現在私が携わっている「K2Hプロジェクト」は、オーストラリアのクイーンズランド州にある金鉱山の跡地を利用した揚水発電所の建設プロジェクトです。鉱山採掘跡に残った2つの巨大な穴を貯水池として利用し、「巨大な蓄電池」にするものです。

高低差のある2つの貯水池の間に発電所を建設し、電力需要が低い時間帯は太陽光発電による再生可能エネルギーなどでポンプを動かして下池から上池へ水を汲み上げておき、電力需要が高まる時間帯に上池に溜めた水をタービンに通して発電します。貯水池の高低差で生じる位置エネルギーを利用して、再生可能エネルギーの課題である「需給追従性の不安定さ」をカバーするものです。
K2Hプロジェクトは、オーストラリア国内での新規揚水発電所建設としては約40年ぶりの事例になります。オーストラリアにとっては、再生可能エネルギーの導入拡大と電力系統の安定化を両立させるための、重要なプロジェクトであり、大きな期待を寄せられています。当社にとっても、今後の海外展開を見据えた大きな取り組みになっています。
――とても壮大なプロジェクトですね。特にどんなところに技術的な面白さや難しさがあるのでしょうか。
この発電所の特徴の一つは現地の要望に応えるため「アンシラリーサービス(系統安定化機能)」を備えていることです。 導入が進む再生可能エネルギーの不安定さを吸収するため、K2Hには非常に高い即応性が求められています。タービンの回転制御と機械への負担を考慮しながら、可能な限り迅速に発電を立ち上げられるよう、整定値の最適化を含め水車メーカーと協力しながら設計の詳細詰めを進めています。
また、金鉱山跡地ならではの課題として「水質の特殊性」があります。水に鉱物由来の成分が多く溶け込んでいるため、通常よりも機器の腐食リスクが高いのです。隙間腐食を防ぐために金属の張り合わせをやめて一体成型にするなど、過酷な環境下での安定利用を目指した設計を進めています。
さらに言語の壁や、IEC(国際電気標準)に準拠しても国によって細部が変わる部分をすりあわせるような仕事も多く、苦労があります。しかし、やりがいは大きいです。
※アンシラリーサービス=出力が不安定な再生可能エネルギー電源による電力需給の変動をならすため、水力発電などの安定した電源を用いた周波数調整などを通じて電力品質を維持させるサービス。
――現在、どんなところにやりがいを感じていますか?
巨大なインフラ設備は、地図に載り、数十年先の未来まで残ります。電気を使う人が、その電気を誰が作っているのかを意識することはありません。それを人知れず担い、「社会の当たり前」を支える、大きなエネルギープラントを作り、動かしている……という実感は、エンジニアとして面白く、誇らしく、燃えるところです。

「作って終わり」ではない。未来を見据えるエンジニアを目指す
――J-POWERで活躍できそうな、共に働きたいと思えるエンジニアのイメージについてお聞かせください。
J-POWERは電力会社ですが、発電所は電気の知識だけでは作れません。私の携わる水力発電も、土木、建築、機械、通信など、多様な専門性を持つエンジニアが集まってプロジェクトを動かしています。自分の専門分野を深めたうえで他分野の意見を取り入れ、最適な設計を考えられる柔軟さが必要になると思います。
特に、私のようなプロジェクト管理や計画業務では、多くの関係者と調整しながら最適解を探すことになります。その中では、専門分野の違いから意見がぶつかることもあります。そういったとき、広い視野で物事を受け入れ、チームとしてのベストを探れる人は、活躍の場が広がるでしょう。
また、理系らしい「ロジカルな思考」を楽しめる人も向いていると思います。設計した通りに結果が出て、ミスがあれば必ずエラーが出る、白黒はっきりした世界でもあります。原因と結果の因果関係を突き詰めるのが好きな人、ロジックの構築に没頭できるような人は、きっとこの仕事の面白さにハマるはずです。
――最後に、就職活動中でJ-POWERに興味を持っている学生さんへのメッセージをお願いします。
J-POWERの仕事は「発電所を作って終わり」ではありません。発電所は完成後、数十年にわたって稼働し続けるものです。私たちは発電所の稼働が始まったら、そこが利益を生み出し続けられるように、運用、保守をしていきます。そのため設計の時点から、「メンテナンスしやすい構造か」「20年後に部品を交換するためのスペースは確保してあるか」といった、長い時間軸での構想が求められます。
そうした長期的な視点を持って、巨大なインフラ設備の一生に寄り添える楽しさは、発電事業者ならではです。 電力会社と聞いて「安定していて地味」というイメージを持つ方がいるかもしれませんが、実は驚くほど選択肢が多く、理系・技術系の総合的な面白さがあります。必ず自分に合ったフィールドが見つかるはずです。「世界を舞台に、大きなインフラを動かしてみたい」という方からの応募をお待ちしています。

■編集後記
大規模なエネルギーインフラのプロジェクトは、人の生活を支える社会貢献の事業であると同時に、理系技術の「総合格闘技」ともいえるクリエイティブな側面も持つ。自分の技術を磨き、仲間と一緒に大きなものを作って、社会に生きるひとの「当たり前の快適さ」を守る仕事……そのビジョンにピンとくる人にとって、魅力的な環境になるだろう。
※所属・内容等は取材当時のものです。
ライター:柴佑佳 カメラマン:篠田英美