デジタルトランスフォーメーションを支援する、知られざるBtoB大企業トランスコスモスの正体
インタビュー
2018.09.12
LabBase Media 編集部
Chief Marketing Office(CMO)の佐藤氏が語る、同社のこれまでの道のりと今後の展望の重要なキーワードは「デジタルトランスフォーメーション」だ。 トランスコスモス:コンタクトセンター、デジタルマーケティングなどネットからリアルまで企業と消費者をつなぐ全チャネルをITアウトソーシングサービスで支えるBtoB大企業。
佐藤 俊介
トランスコスモス株式会社
上席常務執行役員
CMO
「謎の大企業」の始まりは、データエントリー事業
――知られざる大企業として最近露出が増えたトランスコスモス。簡単な来歴を紹介いただけますか。
元々はデータ入力の代行サービスであるデータエントリー事業が始まりです。そこからBPO(Business Process Outsourcing。会社内の業務の一部を外部の企業に委託すること)の幅を広げ、データエントリー事業の次はコンタクトセンターを立ち上げることになりました。
弊社に対する世間の認識はコンタクトセンター大手かもしれませんが、現在はこれらBPO業務だけでなく、デジタルマーケティングやECワンストップなどのフロント業務の提供まで幅を広げています。
トランスコスモスはオーナー企業で、今年で52年目の会社です。現在は2代目である奥田昌孝が社長を務め、1990年代に「これからデジタルの時代が間違いなく来るだろう」とデジタルマーケティング企業に多くの投資をしました。これまではあくまでコスト削減という意味の強いBPOを手がけてきましたが、売上拡大のためのマーケティングに足を踏み出したんです。
アメリカのダブルクリックやネットレイティングス(インターネット広告配信やネット調査の有力企業)など、20代の方にはなじみがないかもしれませんが、当時のITビジネスに関わる誰もがが知ってるような会社にも積極的に投資をしてきました。
当時は巨額の投資をしたことで、投資会社の顔も持っていたかもしれません。ネットバブル時には、時価総額が1兆円を超えていたんですよね。
――コールセンター大手だと思っている人もいれば投資会社だと思っている人もいる。手がけている業務の広さがうかがえます。
当社はコンタクトセンターの規模は国内最大ですので、印象的にはそこばかりフォーカスされがちですがそれだけではありません。そもそもコールセンターと呼ばずコンタクトセンターと呼んでいるのも電話だけでなくチャットなどさまざまな手段が増えていく領域においてもサポートしているからです。
また、ネット広告専業大手のオプトやセプテーニグループといった会社と並ぶくらい、国内企業ランキングでも常にTOP10には入っており、デジタルマーケティング分野でも規模があるんですよ。
彼らのようなデジタル専業の会社との違いは、こうしたお客様のサポート業務を直接行うコンタクトセンターやBPOの土台があることです。
――BPO会社として圧倒的な存在感を持ちながら、同時にデジタルマーケティングでも高い業績を挙げている。会社の全体像がつかみにくい理由が分かってきました。
マーケティング領域は事例を共有する文化があるのでお客様に何を貢献しているか分かりやすいのですが、日本企業は自社内で業務を遂行するインソース文化のため、コンタクトセンターやBPOなどをアウトソーシングしていることは公にしないことが多いです。
そのため当社はお客様の黒子として多様な業務を支援してきたため、「謎のBtoB大企業」という印象が強いようです。働いているとどこかで名前を聞くけれども、その全貌をしっている人はすごく少ないという。
デジタルマーケティング、ECセールス、コンタクトセンターを全て担うDEC
――費用削減から利益拡大の支援まで一気通貫することを決めたのははいつ頃からでしょうか。
デジタル領域に投資し始めた時点で事業イメージは立ち上がっていましたが、川上から川下まで一気通貫した支援をする、と言い始めたのはここ2、3年です。
それまでは全ての事業が縦割りで、例えばコンタクトセンター業務とデジタルマーケティング業務、そしてECサービスを連携する前提で提案するようなことはありませんでした。今は積極的に連動しています。
なぜなら、消費者がそれを求めているからです。スマホの登場によって、広告も購買も企業への問い合わせも全て連携してほしいんです。その方がお客様企業も消費者もうれしい。
また、気持ちの良いサポートを受けたらそれでファンになって友人にシェアする時代じゃないですか。サポートがマーケティングとしても機能する好例です。これまではサポート業務をマーケティングやセールスの活動に活かそうという視点はありませんでした。
――これまで縦割りになっていた事業に横串を通す事業が『DEC』と呼ばれるものですか。
そうです。DECというのはデジタルマーケティング、EC、コンタクトセンターという事業の頭文字を取ったものです。先ほどから述べているような、これまでバラバラにしていたものをトータルサポートに切り替えることを明らかにした事業であり、そのための組織改革。2万人もの従業員をひとつにまとめる配置換えをお願いすることになりましたから、かなり大胆なものでした。
サポートやマーケティング、セールスなど一部をそれぞれ業務委託される形で引き受けるのではなく、その業務の流れ全体を支援することが私たちにしか提供できない最大の価値だと考えています。これまで業種もさまざまな3000社以上とお取り引きさせていただいていますから、その知見は膨大です。
そして、この全体をひとつにしようとして避けて通れないのが企業活動のあらゆる部分をデジタル化する、デジタルトランスフォーメーション。アナログだとデータの共有が大変です。スマホを軸としたコンタクトセンターからセールス業務まで一気通貫して行うにはデジタル化が必須ですから、弊社はサービスの提供と同時にこの支援も行うことになります。
消費者の行動に最適化すべく、デジタルトランスフォーメーションに取り組む
――デジタルトランスフォーメーションに取り組む必然性をもう一歩踏み込んで伺いたいです。
それもやはり消費者の行動が変化しているからです。例えば宅配の再配達をお願いした経験は誰もが持っていると思いますが、いまだに紙の不在票と電話番号が記載されているわけです。本当は全部LINEとかで完結してほしいですよね? それはドライバーの配送状況管理を、コンタクトセンターが縦割りでリアルタイムに情報共有をしていないからです。
また、ネット広告経由で買物をして物が届くという一連の購買体験には、デジタルマーケ、EC、コンタクトセンターおよび物流の業務が関わってきます。
デジタルトランスフォーメーションというのは、まさにこういう一連の体験全体をできるだけシームレスでストレスのないものにするために必要なものです。これに極めて重要なのがやはりスマートフォンの普及だと考えています。消費者の消費行動は様変わりしましたね。これに対応するためのデジタル化は必然でしょう。
――デジタルトランスフォーメーションによって顧客体験が向上する他の例はありますか。
例えばECサイトで顧客向けにチャットができるようにする、というのも一つあると思います。国内ではまだ少ないのですが、海外では非常に多く利用されています。購買しようとしている顧客と直接サポートスタッフが会話することは、明らかに双方に効率的です。
しかし、このような解決に取り組むには企業の組織構造やビジネスモデルであったり、消費者の購買行動など全体導線が理解できていないとと提案すらできません。これまで多くのお客様の川上から川下までを支援をしてきた私たちトランスコスモスだからできることだと思っています。
謎の正体はそのスケールの大きさと業務の広さだった
――企業全体としては外から見ると分かりづらいように見えるのは、クライアント企業のニーズ、そしてその先にある消費者のニーズの変化に常に対応し続けてきたからこそ、といえそうです。
そうですね、コスト削減のためのコンタクトセンター外注先として始まり、そこからマーケティングやECセールスにまで支援の幅を広げてきました。さらにそれらを統合して今に至ります。
これらをシームレスに提供するためには、デジタルトランスフォーメーションも必須。これは決して簡単なことではなく、お客様企業の縦割り的業務を横串にするというイノベーションも必要です。コンタクトセンター大手というイメージを持っている方からするとトランスコスモスすごいな、と感じると思います(笑)。
提携企業も多く、業界も多種多様。ですがやっていることはシンプルで、提案ではなく信頼できる運用まで含めて全てを一気通貫でサポートできるBtoB企業なんです。
――弊メディアの読者は理系院生がメインです。彼らにとっては、この知られざる企業の魅力はどこにあるでしょうか。
先ほどのイノベーション支援のためのR&D本部は20名程度の小さな組織ですが、私のマーケティング本部直下で「次世代サービス」の立ち上げを目的に動いている部署があります。マイクロソフトやアマゾンのエンジニアをしていた人たちが集まって社内ベンチャーのような形で、将来のトランスコスモスの柱になるような事業を作るのが目的です。
AIや機械学習、自動化など、コミュニケーションを軸とした研究はフルに活用できると思います。ここで作られた事業のタネが大きく膨らめば、その顧客は世界規模で数千社になります。この波及力は、BtoB企業ならではのやりがいですね。
また広告代理店なら広告、自動車メーカーや家電メーカーなら商品開発関連しかできないところ、僕らはマーケティングからサポートまで、あらゆる領域でイノベーションを起こせる可能性を秘めています。そういう意味でもチャレンジングで面白いと思います。
LabBase Mediaの読者の方々には、ぜひ大企業をうまく「使って」イノベーションを生み出してほしい。そんな方とぜひ仕事がしたいですね。
編集後記
スマートフォンの登場によって多くの消費者がインターネットに接続され、購買行動も大きく変化した。伴って、大企業もイノベーションの必要性に迫られている。「まずは自社の組織から」と、2万人規模の組織改革を行い、シリアルアントレプレナーである佐藤氏を役員として引き抜くという大胆な判断を行ったトランスコスモスは、今後も大企業のイノベーションシーンを牽引していくだろう。