謎に包まれたBtoBの巨人・トランスコスモスとは
――御社の業務範囲の広さには驚くばかりです。アウトソーシング部門とデジタルトランスフォメーション部門の概要について、簡単に教えていただけますか?
弊社の歴史はBPO (Business Process Outsourcing)業務からスタートしました。総務部や経理部など事務作業や、コンタクトセンターなどサポート業務、人材管理部門などのアウトソーシングを引き受けることで、お客様企業がコアとなるの本業に注力できるよう支援する仕事です。
また当社の取扱企業は大企業から政府まで約3,000社ほどで、取引のない会社は少ないといえるほど多岐にわたると思います。
デジタルマーケティング分野にも事業を拡大しはじめたのは、2000年前後です。当時はかなり大きくIT投資をしていたので、私たちにソフトバンクさんのような投資会社というイメージを持つ方も業界にはいます。
また、コスト削減の要素が強いBPOだけでなく、利益を生み出す支援であるマーケティングやECセールスまで手掛けるようになっていきました。更に、これらをバラバラにやるのではなくトータルで一気通貫に行うのですから、外からは分かりづらい企業に見えるでしょう。
統合マーケティング組織である「DEC(デジタルマーケティング・EC・コンタクトセンターの頭文字)」を積極的に世に出していく方針になったのが、ちょうど2年前。この頃から弊社の事業を表に出す機会が増えました。
――バラバラな事業を一つにとりまとめるというのは言葉にするときれいですが、実際はかなりの困難が伴うはずです。この決断を下した理由はなんでしょうか。
スマートフォンの普及による消費者の行動の変化です。広告からEC、その問い合わせなどのコンタクトを全てスマートフォン一つで行えるようになりましたから、この変化は非常に大きなものです。
従来の企業は、マーケティングや商品開発を行う部署、商品の在庫や配送を管理する部署、消費者からの問い合わせに対応する部署が個別に分かれていました。このように社内分業化している状態だと、昨今のデジタル主導の時代ではシームレスでスムーズな顧客体験は生み出せなくなってしまった。それを一気通貫して支援するのがDECです。
DECの事業構想だけならどの企業も検討したと思いますが、一気通貫するには業務の一部を外注せざるを得ないはずです。一方で、弊社はすべての業務を自社だけで完結できる唯一無二の企業だと思います。この実運用が実現できるスケール感が弊社の強みですね。
アントレプレナー佐藤氏が大企業に参画した理由
――起業家として最前線で活躍されていた佐藤さんが「大企業の内部からイノベーションを起こすこと」をミッションとしてCMOに就任されたことは当時大きな話題となりました。なぜ大企業に参画することにしたのですか?
10社以上起業し上場や売却も多く経験しましたが、そもそも大企業は未経験でしたし、起業家って何でも挑戦してみたいんですよ。あと、今やベンチャー起業家は多いですが、大企業の改革に挑む起業家って少ないじゃないですか。純粋に好奇心が湧いたんです。
私がやっているのは、大企業内からではなかなか生み出すことができないアイディアの創出とそのビジネス化です。いわゆるイノベーションを生み出すための試みですね。
例えば、DEC関連商品に「DECAds(デックアズ)」という、広告から直接チャットに誘導して顧客サポートを一気通貫することができるサービスがあります。
マーケティング活動からサポートに連動する画期的なもので、トランスコスモスこそが取り組むプロダクトだと思いました。まだまだPOCな部分もありますが、次世代サービスとして、日々開発とサービス拡大に努めています。
大企業でイノベーションを起こす意義
ーー大企業でイノベーションを起こすのは難しい印象がありますが、その原因は何だと思いますか? また、なぜ御社はイノベーションに成功しているのでしょうか?
たしかに、大企業でイノベーションを起こすのは難しいでしょうね。弊社がイノベーション活動に舵を切れているのは、ひとつにオーナー会社というのが大きいと思います。
多くの大企業はサラリーマン社長がトップにいますが、サラリーマン社長だと、配慮すべき事柄が多いために、イノベーションに必要不可欠な「決断」がしにくくなる傾向があります。
私のように大企業経験ナシで、ベンチャー経営をずっとやっていたような人間を役員として引き受けるというのも、他の大企業ではかなり難しいでしょう。私も日々勉強させてもらっていますよ(笑)。
「コミュニケーション」という広い文脈でビジネスにつながる種を生み出す
――いよいよ本題。佐藤さんが社内イノベーションを起こすために行っている業務を詳しく教えていただきたいです。
現在、イノベーションの中心になっているマーケティング本部内にある新規R&D事業部やトランスコスモス技術研究所は、20人ほどの少数で編成されています。MicrosoftやAmazonなどから来たエンジニアが集まっていて、外国人しかいないチームもあります。業務のスピード感は社内ベンチャーに近いです。
弊社のR&Dで基軸としているのは、やはり「コミュニケーション分野」です。マーケティング、広告、コンタクトセンター、カスタマーサポートなど、スマホによってお客様企業と消費者はコミュニケーションポイントがとても増えました。
先程のDECAdsにおいてもチャットボットによって消費者とのコミュニケーションレポートが生まれます。従来の広告レポートには、インプレッションやクリック、CTRなど、消費者がサイト上で起こした行動を数値化したデータが記載されていましたが、チャットが間に入ることによって、より強い消費者の定性行動が分かってきます。これは商品開発にも活かされることにもなりますので、データドリブンでのマーケティングが可能になります。
――広告分野以外にも幅広くイノベーションに取り組んでいると伺っています。
一見離れているように見えるプロジェクトだと、ベルギーで取り組んでいる「コネクテッドスタジアム」というサッカースタジアムのデジタル化があります。
他にもマレーシアのフィンテック企業「Soft Space」と組んで「スパークス」というモバイル決済サービスを組み合わせたソリューションを開発しました。
スマホアプリからのオンラインデータだけでなく、オフラインの購買データも活用して、広告・クーポン配信、ロイヤルティマーケティング、チャットコミュニケーションなどを実現できるサービスです。
――学生にとって、御社でR&Dに取り組むことの魅力はどのようなものでしょうか。
研究だけしていると、それが本当に実用的なものかわかりません。私たちは研究の成果をしっかりビジネスで使える状態にすることを重視しています。
弊社は業務範囲が多岐に渡り、ほぼすべての業種に対してアプローチできるので、いろいろなイノベーションが検討でき、R&Dで開発したものが良ければ、自社商品としてたくさんの取引先で利用される可能性があります。少人数でのプロジェクトになりますが、仕事としてのやりがいは非常に大きいですね。
また、自分でアイデアから開発までやり切るような自発的な働き方ができる方や、起業家を目指すような方にとって、わたし自身が起業家ですからとても動きやすい職場だと思いますよ。
――新卒採用でR&Dに配属される可能性はありますか?また配属後の業務内容についても教えていただきたいです。
弊社全体では、大卒・院卒の理系から文系、専門学校生まで800人ほどの新卒採用をしています。マーケティング本部自体、まだ立ち上がったばかりの組織なので、今まで新卒採用からの配属はありませんが、私は自分の意志がある人と働きたいので強い希望を言っていただければ可能性は当然ありますよ。
また配属後は、すでに実行が決まっているプロジェクトに入ってもらい、トランスコスモスを知ってもらうことが大切だと思っています。現在はDECAdsを次のフェーズへ、よりブラッシュアップさせるような開発や計画があります。他にも複数のプロジェクトが動いていますが基本的にはトランスコスモスの未来の柱を育てるのが最大のミッションです。
――最後に、御社やR&Dで求めている人物像について教えていただけますか?
大企業はさまざまな社員の個性で成り立っています。大企業で必要とされる人は、組織で仕事ができる人。会社にとっては、あなたの個性を活かすことが必要ですし、あなたはその個性を組織でスケールさせることが大切です。
マーケティング本部ではエッジの効いたチャレンジ精神があり、研究開発能力に自信がある。大企業で自分の実力を思いっきり振るいたい。起業家の元で裁量を与えられた上でイノベーションを起こしたい。そんな方はぜひチャレンジしていただきたいですね。
編集後記
新卒採用ではほとんど語られてこなかった、トランスコスモスという大企業の中にあるイノベーションチーム。求められているのは高い技術力に加え、事業構想力や自発性だ。LabBaseユーザーの中には、大企業のリソースを自由な裁量で活用することに関心がある人も少なくないだろう。知られざる大企業である同社は魅力的な選択肢になりそうだ。
