プラスチック製ストロー使用の問題点は?
テイクアウト用のコールドドリンクには必ずといっていいほど使用するプラスチック製のストローは、価格の安さと手軽さから世界中に出回っています。
しかし使用後のリサイクルが徹底されていないことや、 ポイ捨てによる環境負荷が明らかになってきており、特にプラスチック製ストローの海洋流出は自然界の動物を死に至らしめることで生態系を破壊していることも問題です。
1本の動画が訴えたストロー被害
テキサスA&M大学の生物学研究チームが2015年に公開したこの映像は、ウミガメの鼻に人間が投棄したプラスチック製ストローが刺さっていたという、ショッキングな事実を伝えました。この映像は瞬く間に世界のメディアで取り上げられ、使い捨てプラスチック製品廃止の機運の源流になったといわれています。
ストローに限らず、マドラーやカップ、レジ袋など使い捨てのプラスチック製品全体が問題視されていますが、上の映像のインパクトもあってストローは特に象徴的な存在です(注:英語圏ではレジ袋もプラスチックに分類)。
加えて、これまで廃プラスチックなどを各国から輸入しリサイクル事業に力を入れていた中国が、作業工程で生じる水質、土壌、大気の汚染を理由に政策を変更し、2017年末に輸入停止を発表。
これにより、リサイクル可能な素材だからと使い捨てを許容する文化や、 自然分解されない素材を使うことが、持続可能な社会を築く上で弊害になるという意識がさらに高まりました。
使い捨てのプラスチック製品に依存した社会から脱却するためには、消費者意識の変革だけでなく、自然分解される代替品の開発と利用促進といった企業活動も喫緊の課題なのです。
プラスチックの代替素材、日本企業も開発へ
プラスチック製品を廃止し代替品を必要とする世界規模のトレンドは、製品開発や素材開発を行う理系企業にとっては市場参入のチャンスでもあります。日本企業による代替素材プロダクトやビジネスとしては以下のようなものが要注目です。
日本製紙のバリア素材「シールドプラス®」
自然分解可能な軽量素材の代表といえば、紙。国内の製紙業界2位の日本製紙は2017年11月、「
シールドプラス®」という新たなバリア素材をローンチし、食品やトイレタリー分野などへのパッケージに新たなソリューションを提供しています。
同社によると、シールドプラス®は「紙なのに酸素・香りを通さない」のが特徴で、製紙用水系塗工技術を用いたバリア塗工層を基材(木質素材100%)に重ねています。自然分解されないプラスチック製梱包材の代替になり得る素材としての活用が期待されています。
カネカの植物由来プラスチック「PHBH」
樹脂製品、食品、エレクトロニクス、医薬、医療器、住宅など幅広いジャンルで事業を展開する化学メーカーのカネカ。
2017年11月、同社のポリエステル系生分解性プラスチック「 PHBH」が海洋分解の認証である「OK Biodegradable MARINE」を取得したと発表しました。これは、「海水中(30度)で、生分解度が6カ月以内に90%以上になる」素材であることを証明するものです。
PHBHは100%植物由来成分で作られており、現在は生ゴミを堆肥にする際に使用する袋などの素材として、欧州をメインに輸出中。カネカはバイオプラスチック(生物資源から作られたプラスチック)の採用を推進する欧州で、さらにPHBHの市場開拓を進め、国際的認知度の高い生分解認証の取得はPHBHの用途拡大を加速させるものと思われます。
漁具や釣具、藻場再生などの海洋資材への利用を視野に入れながら、 食品分野での需要も見込んで同社はPHBHの生産を拡大する方針とのことです。
プラスチック製ストローの代替品
プラスチックから代替素材への移行は世界的なトレンドであるため、日本以外の事例研究も重要です。たとえば、既存のストローに代わるオルタナティブ・ストローとしては以下のような選択肢が少しずつ認知され始めています。
- 紙製ストロー
紙製のストローは昔から存在していましたが、水に弱く耐久性の面で問題がありました。しかし現在では技術面の問題が改善され、プラスチックまでとはいかないもののそれなりの耐久度を保つ紙製ストローが出回るようになりました。また、紙ならではのデザイン製の高さも相まって、欧米などの一部の飲食店では既に導入が始まっています。
- 分解可能バイオプラスチックのストロー
最先端の技術という点で注目度の高いバイオプラスチックでは、三菱ケミカルとタイ国営のタイ石油公社(PTTGC)の折半出資子会社「PTT MCCバイオケム社」(タイ・バンコク)による生分解性プラスチックBioPBS™(バイオPBS)が話題となっています。高い耐熱性と強度を誇り、紙製のような独特のにおいがないという点で、プラスチックに代わるストロー素材として有力です。
- マイストロー(金属製、竹製など)
マイカップやマイ箸と同様に、使い捨てせずリユースを目的としたマイストローも既に登場しています。洗って繰り返し使いやすい ステンレスや竹素材の製品が、海外を中心にエコ志向の高い人などに向け販売されています。
オルタナティブ・ストローの問題点は?
プラスチック製ストローからの切り替えに向け、現在のところ代替品について以下のような点が問題視されています。
- 従来のストローと比べ、代替品はコストが4〜10倍
- 代替素材の中で比較的安価な紙製は耐久性、においなどが課題
- 障害者、子どもなどは曲がるストローが必要(紙、金属製などは曲がらない)
プラスチック製ストローの規制は、こうした点も踏まえて有効な素材や形状などを模索していく必要があります。
プラスチック製ストロー使用規制、世界の取り組み
化学メーカー各社は、自社の発展や製品の改良のためだけに技術力を使うのではなく、技術を通して地球規模の課題を解決しようという方向へ既に舵を切っています。もはや技術は単なる利益のためではなく、持続可能な世界を構築するために不可欠なパーツとして企業活動の中でも認識されているのです。
メーカーだけでなく、ストローなどのプラスチック製品を消費するホスピタリティー業界や、国家、自治体単位でも、環境への影響に配慮した動きが今年に入って拡大中で、2018年は「脱プラスチック元年」と呼ぶにふさわしい年といえそうです。
事業のサスティナビリティー(持続可能性)をアピールすることが企業価値に直結しやすい海外だけでなく、日本の外食産業も動き出しています。
海外の脱プラスチック・ストローの動き
- マクドナルド
イギリスとアイルランドのマクドナルドは、今年5月から一部の店舗で紙製への切り替えを開始。2019年までに全店(1,300店以上)の切り替えが完了する見通しです。
アメリカ、フランス、オーストラリアの一部の店舗でも、年内にプラスチック製ストローの試験的廃止を実施予定。
- スターバックス・コーヒー
今年7月、全世界の店舗(約2万8,000店)で2020年までにプラスチック製ストローを全廃する計画を発表。スターバックスの年間のストロー使用本数は推計10億本といわれ、これらを紙製ストローまたはストロー不要のふたに切り替えるそうです。
- 米ウォルト・ディズニー社
今年7月、ディズニーランドなど世界の関連施設でのプラスチック製ストローとマドラー使用を2019年半ばまでに全廃すると発表。年間1億7,500万本以上のストローなどを削減できる予測とのことです。
- ヒルトン
今年5月、世界の650のホテルでプラスチック製ストローの使用を2018年内に廃止すると発表。日本の同社ホテルも含まれます。
- バヌアツ共和国
今年7月から、プラスチック製のストロー、容器、レジ袋の使用を全面禁止。国としては世界初の偉業です。
- イギリス
エリザベス女王は今年2月から、英国王室領地内でのプラスチック製ストロー、マドラー、綿棒、ペットボトルの使用を禁止。民間企業にさきがけ、国全体にとってのモデルともなる決断でした。イギリス政府は使い捨てプラスチック製品の販売禁止も検討中。
- 台湾
台湾政府は今年2月、2030年までにプラスチック製ストローの全廃する規制案を発表。ストローが必要なタピオカミルクティーなどが人気の台湾では規制への反発も強いようですが、サトウキビから作られた代替品なども登場しています。
- シアトル市(アメリカ)
今年7月から、飲食業者に対しストローを含むプラスチック製品すべての使用を禁止。アメリカの主要都市としては初の決断で、ニューヨーク、サンフランシスコなどでも検討中です(小都市では既に全面禁止している所もあります)。
日本の脱プラスチック・ストローの動き
- すかいらーくホールディングス
今年8月、プラスチック製ストローの段階的廃止を発表。今年12月までにガスト全店(約1,370店)で廃止し、2020年の東京五輪までにすべての業態で廃止する方針です。
ただし、要望のある場合などにはストローを提供し、代替ストローの導入も検討するとのこと。日本の外食最大手の決断は、業界に多大な影響を与えそうです。
- 北海道の外食チェーン
年間約100万本のストローを消費する北海道の外食チェーン・アイックス(札幌市)は、今年8月中に直営75店舗でのプラスチック製ストローの使用を廃止(要望のある人には提供)。
また、焼き鳥店などを運営する札幌開発(札幌市)も、ストロー使用の廃止を発表。要望があった場合は紙製のものを提供する方針です。
- ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル
今年8月、ホテル内の飲食店や宴会場でのプラスチック製ストローを年内に廃止し、植物由来ストローに変更すると発表。現在、年間のストロー使用量は約15万本だそうです。
- 環境省のプラスチック代替品補助金制度
環境省は、紙製や生分解性バイオプラスチックを製造する企業を対象に補助金を提供する方針。プラスチック代替製品の供給体制のサポートに向け、今年8月、2019年度の概算要求に50億円を盛り込みました。
補助金制度が実現することで、国内のプラスチック代替品市場の発展が期待されます。
このように「使い捨てプラスチック製品の廃止」は、ストローなどを使う消費者、飲食やホスピタリティー業界、プラスチックや代替品の素材製造・開発業界などさまざまなフィールドにとって他人事ではないトレンドです。
これを機に幅広い素材の特性が見直され、ビジネスや企業の価値にも変化が訪れることで、環境保護における化学メーカーの役割の重要性が増していくことも考えられます。1本のストローの向こうに広がる時代のニーズを、企業も個人も考え続けることが必要といえるでしょう。