新築注文戸建ての半数以上をZEHに
気候変動による地球温暖化の危機を回避するキーワードとなるのが、温暖化ガス(温室効果ガス)の排出量の削減です。
日本の最終エネルギー消費量は、産業部門、運輸部門、民生部門(業務と家庭)の全てにおいて増加傾向にあり、エネルギーの利用に伴い、温暖化ガスの代表である二酸化炭素の排出量も当然増えています。従来の産業の要であった石炭や石油は使用することで大量の二酸化炭素を発生させ、有限の天然資源でもあることから、省エネと代替エネルギーの導入は人類にとって喫緊の課題です。
世界で推進される国連の持続可能な開発目標「SDGs」と照らし合わせると、炭素排出の削減は、各企業に求められる役割の一つでもあります。各業界で温暖化への取り組みが進む中、2000年代になってエネルギーの生産量と消費量が差し引きゼロになる建物のあり方が生まれました。これらは通称、 ZEH(ゼッチ)・ZEB(ゼブ)と呼ばれます。
国際エネルギー機関(IEA)は、2008年の洞爺湖サミットでG8各国に向けて「温暖化ガス排出ゼロのビル」の普及を提言。以降、ZEHやZEBは広く知られるようになり、その流れに乗り、日本の住宅・建築業界は政府とともに温暖化対策に本格的に乗り出したのです。
再生可能エネルギーを主力に
2014年に経済産業省の資源エネルギー庁が掲げた「エネルギー基本計画」では、ZEHとZEBについて以下の目標が挙げられています。
- 2020年までに、ハウスメーカーなどの新築注文戸建ての半数以上をZEH、新築公共建築物などの平均でZEBを実現
- 2030年までに、新築住宅・新築建築物の平均でZEH・ZEBを実現
個人が温暖化ガスの排出を抑える取り組みには限界がありますが、ZEHやZEBの建築のシステム自体の能力によって住むだけでゼロ排出にできれば、非常に効率的です。
そもそもZEH、ZEBとは?
経済産業省・資源エネルギー庁の定義によると、ZEH・ZEBとは、以下のような建物を指します。
ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスネット)
*外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅。(ソース:資源エネルギー庁)*
ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)
*建築物における一次エネルギー消費量を、建築物・設備の省エネ性能の向上、エネルギーの面的利用、オンサイトでの再生可能エネルギーの活用等により削減し、年間の一次エネルギー消費量が正味(ネット)でゼロまたは概ねゼロとなる建築物。(ソース:経済産業省)*
ZEHとZEBは、以下の3点を大きな特徴としています。
- 太陽光発電(エネルギーを作る)
- 断熱(エネルギーの無駄を防ぐ)
- 高性能設備(エネルギー利用の効率化)
他に、太陽熱や地熱、工場排熱の利用なども考えられています。ZEHとZEBは、ソーラーパネルを設置するだけでなく、温暖化防止に総合的に貢献する建築といえるでしょう。
求められる企業の変革、政府による補助金
エコな高機能住宅はこれまで、建築コストの高さが普及の障壁でした。現在、経済産業省と環境省が連携して ZEHの補助金制度を設けることで、その敷居を下げる取り組みが行われています。
補助金は、ZEHビルダー・ZEHプランナーに認定された業者(ハウスメーカー、工務店、建築設計事務所、リフォーム業者、建売住宅販売者など)による新築の戸建・集合住宅について、条件を満たして申請すると70万円がサポートされるというもの。さらに、CLTやCNFなどの特殊な省エネ素材、ハイブリッド発電や蓄電システムの導入には追加の補助金もあります(2018年現在)。
補助金制度によって、ZEHビルダー(プランナー)として認定された企業は、世界的な問題である温暖化に事業としてのソリューションを提供しやすくなりました。ZEH事業により温暖化ガスの削減が進めば、認定企業は消費者のみならず投資家からも国際的な評価が期待でき、エコ住宅関連産業のさらなる活性化も期待されます。
ZEBについても「ZEB実現に向けた先進的省エネルギー建築物実証事業の補助金制度」があります。実証事業とつくとおりまだ完全な制度ではありませんが、対象経費の約3分の2が補助されるという大々的な試みです。
日本企業の取り組み
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以下、ZEH市場をリードする積水ハウス、そして建材メーカーとエネルギー小売会社の合弁事業であるLIXIL TEPCOスマートパートナーズの取り組みを紹介します。
積水ハウス
住宅メーカーの積水ハウスは、日本のZEH業界トップの実績比率(76%)を誇り、経済産業省の目標(新築の半数をZEB)を既に上回っています。同社の2013年からの累積ZEH建設数は35,881棟(2018年3月時点)です。
積水ハウスの「グリーン・ファースト・ゼロ」という住宅業界初のZEH商品は、以下のような特徴を通じて、ゼロ・エネルギーを実現しています。
- HEMS(エネルギー需給の見える化)
- LED照明
- 高断熱仕様(高断熱サッシやアルゴンガス封入複層ガラスなど)
- 通風配慮設計
- 「5本の樹」計画(里山をモデルにした庭の植樹)
- 高効率エアコン
- 高効率給湯システム
- 太陽光発電
- 燃料電池
- 蓄電池
- V2H(電気自動車を電池として利用するシステム)
さらに積水ハウスは、ZEHの賃貸住宅や分譲住宅にも積極的に取り組んでいます。集合住宅は1戸あたりの屋根面積が狭いため、ソーラー発電量の少なさが課題とされていましたが、省エネ機能の大幅な向上によりZEHを実現しました。
同社のグリーン・ファースト・ゼロは2014年度に「省エネ大賞」(経済産業省後援)の審査委員会特別賞を受賞するなど、社会的な評価も高まっています。
LIXIL TEPCOスマートパートナーズ
建築材料・住宅設備機器業界最大手のLIXILと電力・ガス小売の東京電力エナジーパートナーの合弁会社であるLIXIL TEPCO スマートパートナーズは、「建て得バリュー」というサービスで、普通の新築住宅と同等の価格でZEHを建てるプランを提供しています。
これはLIXILの省エネ商品を使ったZEH契約者向けのサービスで、 余剰電力の売電額をソーラーパネルなどの月額割賦料金に充てることで、以下のメリットが発生します。
- 実質ゼロ円でソーラーパネルを設置可
- 月々の電気代が安くなる
- 採用商品数に応じて、自家発電の不足分を補う電気料金が割引
このサービスには、同社との電気需給契約10年などが条件に含まれ、対象エリアは順次拡大中です。
省エネ建材の販路拡大を狙うLIXILと、省エネをキーワードにした新ビジネス拡大を図る東電がタッグを組んだことで「建て得バリュー」が誕生し、同サービスを利用する工務店も増加中とのこと。安くない初期費用と顧客の認知の低さゆえに中小規模の工務店が苦戦を強いられる中、本サービスはそうした工務店の心強い味方となるでしょう。ZEHの認知と施工数の拡大へのさらなる貢献が期待されます。
この他にも、さまざまな企業がZEHやZEBの事業的取り組みを行っています。暮らしているだけで温暖化防止に役立つ仕組みを提供するという、サスティナビリティーのあるビジネスは今後さらに増加が予想され、代替エネルギーや新素材、新テクノロジーがどのような役割を果たしていくか、今後も要注目です。