「栄光を額縁に飾らず」日本のプラントエンジニアリングを牽引する日揮とは

インサイト

LabBase Media 編集部

「栄光を額縁に飾らず」日本のプラントエンジニアリングを牽引する日揮とは

本連載では、理系就活生に特に人気の高い企業や、新進気鋭の技術系企業にフォーカスし、事業とその歩みを紹介する。自身の志望企業がどのような歴史をたどってきたのかを知ることは、企業への理解を深めるだけでなく、その企業の未来予測にもつながる。全就活生が押さえるべきポイントであるといっても過言ではないだろう。 歴史をひもとくことで見えてくる、普段とは違った企業の「顔」に、ぜひご注目いただきたい。

あまりにも複雑に絡み合う今日の世界では、日常的に触れているモノの多くが実は遠方からの輸入品であったりする。家具、衣服、食材など形あるものはもちろんだが、より生活に根ざし、なくてはならない存在となっているのるが資源である。


私たちは資源から生活の豊かさを享受している。それらは特定の人によって独占されるものではない。この星の大きさは変わらずとも世界人口は増加の途をたどる。多様な暮らしの中で、限られた資源をいかに作り出し分け合うべきか、解決策が求められているのだ。


そんな資源開発のプラント建設において、長年業界を牽引してきた企業が日本にある。日揮株式会社だ。


プラントエンジニアリングのリーディングカンパニー「日揮」とは?


日本のプラントエンジニアリング業界の先駆けであり、今日までに世界80カ国以上、2万件に及ぶプロジェクトを完遂させてきた正真正銘のグローバル企業。青空のよく似合う横浜ランドマークタワーのほど近く、高さの違った3棟の高層ビルのうち、もっとも高いクイーンズタワーAが日揮の本社だ。


日揮は世界中の砂漠やジャングルに巨大なプラントを築き、人類のライフラインであるエネルギー資源の開発を支えている。もっとも大規模な建設現場には、60カ国からの延べ5万人の作業員が集う。もちろんバックグラウンドも言語も異なる無数の作業者を統率することは容易ではなく、その上、日揮の手掛ける領域は現場での建設業務にとどまらない。


彼らのビジネスの中心は「EPC事業」と呼ばれる事業だ。EPCとは、設計(Engineering)、調達(Procurement)、建設(Construction)の略称であり、石油や天然ガスなどのオイル&ガス分野、発電・医療・交通などのインフラ分野をカバーする。2000年代からは、持続可能な発展を続けるために事業運営・投資にもいち早く着手している。エネルギーから都市開発まで幅広いが、例えば2008年に中国の江蘇省、2009年~2010年には雲南省で水質浄化プロジェクトにおける環境保全技術への投資が行われた。


現在売上比率の80%は海外案件であり、出張や駐在も珍しいことではない。本社には2,041人の従業員が勤務し、日本人社員も5~6人に1人が海外駐在を経験。日本の伝統的な企業でありながら、グローバル企業としての躍進はめざましい。


文化を越え、技術で世界と対話する日揮が辿ってきた歴史と、彼らがこれから描く社会について紹介したい。


日揮の選んだ道ーー時勢に則った合理的な判断


!uploadedImage
日揮の設立は1928年にさかのぼる。大正末期から昭和初期にかけて、商工業の発展やガソリンカーの普及により需要の増したガソリン製造のための製油所経営として、日本揮発油株式会社という社名で創業された。


1929年にウォール街で着火した世界恐慌の影響によって、日本でも1930年から翌1931年にかけて強烈なデフレ(昭和恐慌)が発生する。同時期に日揮はアメリカのUniversal Oil Products(ユニバーサル・オイル・プロダクツ)社所有のプロセスライセンスを購入したが、製油所建設予定地であった大阪府泉北郡大津町の住民から反対運動を受け、製油所建設・経営を断念した。


その後、Universal Oil Prducts社より導入したプロセスのライセンス業を主軸にしながら、エンジニアリングの企業として事業を開始することとなる。太平洋戦争の末期にはエネルギーの乏しい日本軍向けのプロジェクトとして、石油の代替品として戦闘機用の航空燃料に使う松根油の研究も行った。


戦後は国を挙げての復興に際して、石油精製プラントの操業再開や石油化学の発展に起因した日揮の躍進が始まる。1956年に一括受注した出光興産の徳山製油所新設プロジェクトを短納期で仕上げたことで、国内のトップコントラクターとしての評価を確立することになった。高度経済成長期はまさに日揮の時代といっても過言ではない。ちなみに同業の千代田化工建設は1948年、東洋エンジニアリングは1961年といずれも戦後に設立されている。


1965年には、海外でのプラント建設の先駆けとなる南米向け製油所建設を相次いで受注した。また同年には医療・食品・原子力分野にも参入を果たす。1969年には東証一部に上場し、1975年には売上の半分を海外案件が占めるグローバル企業として世界に名を知らしめ、翌1976年に社名を日揮株式会社に改める。市場はすでに中国や東南アジア、北アフリカへと広がっていた。


プラントエンジニアリングは、自然のメカニズムへの理解を深めることで効率的なエネルギーの生産方法を開発し、日々揺れ動く世界情勢の均衡を理解することが企業の死活問題に直結する。そこには、かねてより資源が世の甚大な争いの火種となってきた歴史がある。


そのため、国内のどの産業にも増して早急な国際化が求められたのは必然ともいえるだろう。1985年のプラザ合意に端を発した円高進行の影響でコスト競争戦線から後退し、相対的な受注難を被ったが、1989年のテクノサーブ(現JGCフィリピン)設立を皮切りに国際的な競争力を取り戻した。海外拠点作りにおいて、現地の人々や他国のパートナーたちとのコミュニケーションが求められ、その都度社員たちは成長をもって危機を打開してきた。とりわけ、中東や北アフリカ、南米など日揮の現場は多くの日本人にとってはイメージもできないような異国であることが多い。


異なる文化・習慣を持つ人々と一つの共通したゴールに向かっていくためには違いを理解し、ときに受け入れ、ときに求める度量が必要だ。そこには“会社として”ではなく、“一人の人間として”の進化がある。


自然環境や世界情勢の変化の影響を露骨に受け、ときには大きな困難にも見舞われた。2013年、天然ガスのプラント建設のためにアルジェリア・イナメナスに駐在していた日本人社員17名のうち10名がイスラム過激派による人質事件の犠牲となり命を落とした事件は記憶に新しい。


この事件をきっかけに、40年以上関わり続けた大口顧客であるアルジェリアからの撤退もささやかれた。しかし、事件後すぐに現地入りした川名浩一代表取締役社長(2013年当時)にアルジェの石油資源公社総裁はセキュリティ強化を約束。今日も開発設備建設のため、日揮はその地に足を踏み入れる。


「日揮でなければ!」


海外進出から半世紀、これまで幾多の国々に築いてきたのはプラントだけではない。そこにはたしかに強固な信頼があった。


リスクはいとわない――LNGプラントにも妥協せず、新領域へ事業を拡張


!uploadedImage
現在、日揮に限らず、プラント業界全体が特定分野への依存という課題を抱えている。日揮を加えて「プラントエンジニアリングの御三家」と呼称される競合の千代田化工建設、東洋エンジニアリングも同様だ。


千代田化工建設は、売上の多くをメタンを主成分とした天然ガスであるLNGのプラント建設に依存している。日揮と類似したビジネスモデルであるが、今後は深海の油田を探すなど、海洋事業の比率を増やしていく目論見である。肥料や化学品にも注力するバランス型の東洋エンジニアリングは、LNGプラント建設において中規模案件を海外のコントラクターと価格競争する展開となっており、事態は芳しいとは言えない。


一方の日揮は、2015年度の営業利益ベースで約9割をオイル&ガス分野が占めていたが、2025年にはその比率を6割まで抑え、代わりにインフラ分野と事業投資をそれぞれ2割まで引き上げる計画だ。2011年に70億を超えた人口は、新興国を中心に今後もさらに増え続けるため、エネルギーはもちろん、インフラ整備の需要はますます高まる。また、新興国の筆頭である中国や東南アジアでは生活水準が上がり、医療ニーズが増大することが想定されている。
このように、既存の優位性は放棄したり縮小させることなく、強固な財務基盤のもとで新たな領域にリソースをつぎ込むのが業界における日揮のスタンスだ。


2015年度は8,799億円の売上を達成した日揮は、2020年度に1兆円以上の達成を目指す。基幹ビジネスのEPC事業は、東アフリカ・中央アジア・イラン・イラク等を主軸に、国内外グループ会社との連携によるプロジェクト遂行力強化を図りマーケットの拡大を狙う。非EPC事業の拡大においてはインフラとメディカル事業を中心に注力する計画だ。インフラ分野では、エネルギー・交通領域を海外で拡大。医療分野では、メガファーマのみでなく、ベンチャー企業とも連携を強化する方針である。


今後は受注件数に売上が左右されるモデルを打開し、需要の高まる運営・保守管理事業への本格参入によって経営の安定化を図ろうとしていることがうかがえる。


2017年3月期、19年ぶりに220億円の最終赤字に転落した会社を立て直すために、石塚忠元副社長が社長として呼び戻された。高専卒、現場畑出身のたたき上げ社長によって、鍛え直された日揮は2018年3月期には165億円の最終黒字に転換する。


企業理念や中期目標だけでなく、目の前の現実を直視して迅速な問題解決に臨む姿勢で日揮は新たな歩みを始めたばかりだ。


エンジニアが輝ける日揮


日揮社員の多くは技術者だが、世界中から集まる作業員とのコミュニケーションには当然英語が要求され、異文化への理解も求められる。選考時点での英語力は問われないが、英語は業務上の必須スキル。株式会社リブセンスが運営する「転職会議」による調査において、日揮は
「英語を使う企業ランキング」4位にランクインした。


日揮のビジネスでは「社会が求めるものをいち早く実現すること」を掲げているため、多分野からプロフェッショナルが求められる。石油化学プラント建築からオイル&ガス開発、発電、エネルギーをはじめとしたインフラ事業。手掛けている事業領域の広さだけでなく、設計・調達・建設さらには運用・メンテナンスまで、異なる専門性を要するプロセスごとの達人が必要なのだ。


【日揮で活躍できる専攻】


  • 化学
  • 機械・材料
  • 土木・建築
  • 電気・制御
  • 情報・システム
  • その他理系

高い専門性がそれぞれ孤立することなく、綿密な連携によってつなぎ合わされ、壮大なプロジェクトは完成される。一人では気が遠くなりそうなスケールの事業に参加し、貢献する喜びは同じく大きなものであることは間違いない。

ライター
岩辺 智博
X Facebook