理系学生のポテンシャルに驚く企業たちの姿が印象的! AI株価予測コンペ『Fintech Data Championship』の表彰式・学生向けセミナーが開催されました。

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LabBase Media 編集部

理系学生のポテンシャルに驚く企業たちの姿が印象的! AI株価予測コンペ『Fintech Data Championship』の表彰式・学生向けセミナーが開催されました。

機械学習を学ぶ学生を対象としたAI株価予測コンペティション『Fintech Data Championship』の表彰式およびセミナー、懇親会が、3月28日に日本経済新聞社東京本社にて開催されました。

Fintech Data Championshipの概要は こちら


AIで金融の未来を創ろう


集まったのは本コンペティションに参加した学生、審査委員、協賛企業のスタッフなど。表彰式の前に、審査委員長の東京大学大学院工学系研究科 特任准教授 松尾豊氏よりビデオメッセージが寄せられました。


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ディープランニングの技術的な躍進は、色々な産業に大きな役割を果たしており、金融業界にも大きな影響が出始めています。今回のチャレンジの中でも、GNN(畳み込みニューラルネットワーク)、LSTM(長期・短期記憶)など、ディープランニングが存分に活用されていました。こうしたものは数年前には誰もできなかった新しい技術で、色々な可能性を模索していくことはとても意義があることです。


新しい技術はハードルが高いようで、実はやってみると意外と簡単。特に理系の素養のある人にとっては、少し訓練すればあっという間に使えるようになります。今回チャレンジした金融の分野は、結果が目に見えることが魅力の一つ。これからも多くの人が新しい技術を引っさげて挑戦してくれることを楽しみにしています。


表彰式-それぞれの研究テーマを生かした個性的なエントリー。


続いて、表彰式が行われました。


優勝:チームSDQ
京都大学 薬学研究科 修士2年 井ノ上雄一さん
京都大学 薬学研究科 博士1年 後藤馨さん
評価ポイント:画像データによる移転学習。ソースコードの簡潔さ


<受賞者コメント>
短期間なコンペだったので思考する時間も十分になかった中で、最終的には予測力のあるモデルが作れてよかった。オリエンテーションのディスカッションの内容が参考になりレポートに活かせた。


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2位:千葉大学 理学部数学情報数理学科3年 鈴木広人さん
評価ポイント:収益1位 単回帰分析、決算期に注目した銘柄選定


<受賞者コメント>
時間が足りずに試せなかったこともあるが、選定した銘柄の中にすごく上がったものがあって、運の良さもあった。


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3位:慶応義塾大学 理工学部システムデザイン工学科3年 柳辺 十武さん
評価ポイント:Alife=人工生命理論&LSTMなど。独創性、チャレンジ性


<受賞者コメント>
趣味で魚を捌いているときに人工生命理論を用いた株価予測を思いついた。使ってみてとてもワクワクした。


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特別賞:チーム慶工
工学院大学 電気電子工学修士1年 綱島 秀樹さん
慶応義塾大学 理工学部管理工学科4年 中間 康文さん
慶応義塾大学 金融工学4年 枇々木 裕太さん
評価ポイント:VAE手法。独創性、論文の質などすべての項目が優れている


<受賞者コメント>
生データを扱うのが初めてで、加工が難しく、前処理の大事さを知った。チームメイトと得意分野を持ち寄って楽しく参加できた。


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優勝チームによるプレゼンテーション


京都大学 井ノ上雄一さん
私は生物系の基礎研究をしています。今回参加したのはラボの勉強グループで、普段は体内時計の研究をしています。生物学の分野にも、ビッグデータなど情報系のことが入ってきていて、そんな流れから2年ほど深層学習や機械学習に取り組んでいます。生物系の論文でも、GNNなど機械学習が使われている例もあります。

今回の私たちのテーマは『チャート画像を用いた株価予想モデルの作成』です。株価の値動きにはパターンがあるはずと考え、GNNを使いました。この手法自体は成熟しているものなので、モデルの構築評価がちゃんとできると思いました。


学習させる株価のチャート画像は「調整後終値」「25日移動平均線」「75日移動平均線」の3つ、モデルはVGG16を使用しました。
画像データは90日間の値から作成され、一つの画像データを作成した後はそこからまた80日間さかのぼってラベル作成。対象期間は2019年1月29日から2400日間。予測については2019年2月8日に改めで株価データを取得し、90日分の画像データを作成しました。


ラベル付けは画像作成に用いた90日の最終日の終値と、その15日後の値を比較し、5%以上増加したものに「1」をつけました。この方法で生成されたデータが全部で105,136枚、うちラベル「1」が26,050枚でした。


ラベル「1」と「0」の画像をランダムに抽出し、全部で51,200枚の画像データセットを作成し、モデルの学習と評価を行いました。この結果、Accuracy:62.3%はまあまあいいんじゃないかと。

ポートフォリオの作成について、今回は2種類の方法で作成しました。1つはモデルの結果で出た株を自分でRSIの指標を参考にして銘柄を選ぶもの。もう1つはマニュアルのファンダメンタル分析から株価を探し、このモデルにかけて5%以上上がるかどうか調べるというものです。この2種類の方法で50%を超えるAccuracyが出ました。

改善点として、テクニカル分析をする際の指標は移動平均線以外にもいくつかあるため、他の選択肢についても考察の余地があるということ。また、今回使用した画像は5万枚ですが、データ数を増やせばもっと複雑なモデルが使えると思います。何日間のデータをインプットし何日後の値を予測するかについても検討を深めれば精度が上がる可能性があると考えています。


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審査講評&パネルディスカッション「これからの金融が求めるデータとテック人材」


■登壇者


  • 京都大学経営管理大学院特定教授 加藤 康之氏
  • アセットマネジメントOne 劔 義隆氏
  • ニッセイアセットマネジメント 津田雅義氏
  • 三菱UFJ信託銀行 増田義之氏
  • (司会)株式会社MILIZE 大和田 吾郎氏

■加藤氏より講評


今回のチャレンジのポイントは機械学習、AIを使用すること。ビッグデータを利用することが課題でした。審査のポイントは収益を生むこと、そして斬新で発展性のあるアイデアかどうかも評価に含みます。

収益について
プラスの超過リターンを安定的に創出することがプロの運用者に求められることです。超過リターンはゼロサムゲームに勝たないと得られません。このことを理解しておく必要があります。

AIについて
今回のチャレンジはビッグデータ時代の資産運用モデル開発です。これについて審査で考慮したことは、


1:ビッグデータの活用度
新しいデータの発掘とその利用法を提案しているか。よく使われているデータの場合、新しい使い方を提案しているか。注目されているビッグデータであるかどうか。

2:AI技術の活用度
独創的な技術か。想定外の局面に対応できるモデルかどうか。金融市場では想定外が想定外に多く起こります。過去データに適合させるだけのモデルでは大きな過ちを起こす可能性があるため、統計的アプローチに加え、推論的アプローチも必要になります。

3:モデルの経済的合理性
モデルに超過リターンを生み出す経済的合理性があるか。超過リターンの源泉が何か理解できているか。つまりゼロサムゲームであることを理解している必要があります。

4:説明可能性
投資判断では説明可能かということが実は大切です。我が社のAIが決めたので、ではだめ。プロの運用者は受託者責任を果たす必要があります。

以上が審査のポイントですが、今回はディープラーニングなどAIを高度に利用できたチームが多かったと思っています。LSTMなど先進的な技術の利用もあり、良かったです。独創的なアイデアについては人工生命を導入したものが面白かったと思います。


今回十分できなかったこととしては、予想外のデータ活用法がなかったこと、経済合理性、超過リターンの源泉の説明が不十分だったこと、リスクに着目したアプローチ、ファンダメンタルなアプローチへのAI活用法がなかったことです。ポートフォリオ構築ではリターンよりはリスクに着目することが最近は注目されています。


パネルディスカッション:金融業界のこれからと、必要な人材


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講評に続いて行われたパネルディスカッションでは、各社のビッグデータを使った取り組みやこれからの金融業界に求められる人材像についてが語られた。その中から、いつくかのテーマを抜粋してレポートする(以下、敬称略)


各社のビッグデータを使った取り組みについて



実は1年半前から今回みなさんがやられたようなことを専門に行う組織を立ち上げました。ビッグデータを使って何らかのソリューションを開発するということは、海底にあるレアメタルを発掘するようなものです。少し前までは海底を掘削すること自体難しかったのが、AIやディープランニングが可能にしてくれました。闇雲に掘れば当たるわけではないので、いかにうまく探り当てるかということを、意外に地道にやっています。CNNを使った画像解析や時系列に強いLSTMなども研究しています。

津田
運用に活用されるデータは多様化、ビッグデータ化し、大きな変化が起きています。当社は昨年8月、MILIZE様のサポートをいただきながら、人工知能が組入銘柄等を選定するファンドを立ち上げました。当ファンドは財務諸表やマーケットデータといった従来から存在するデータに加えて、POSデータといったオルタナティブデータも活用しています。また、証券会社のアナリストレポートについて、テキストマイニングを活用した機械学習を行っています。人間が読み込める量を遥かに超えたレポートを分析し、レポートのニュアンスの変化を察知することで、銘柄選択に活用しているのです。


一方で、変わらないこともあります。人と違う投資アイデアを、人に先んじて実践すること。これは人間にも機械にも言えることです。また、万能な法則など存在せず、常に進化する必要があるということ。そして、運用の仕事はお客様に満足してもらえること、幸せを届けるということが本質ということも、決して変わりません。人間に取って代わると言われているAIですが、そこまで万能ではないと考えてます。


会場からの質問


学生
金融分野でのAI活用について、得意なことは得意な人がやればいいと思っているのですが、データ活用するのではなく、データを探すだけの仕事はありますか?新しくデータを探すことだけに本気になっている人がどのくらいいるか知りたいです。

津田
分業は進んでいくと思っています。新しいデータを探すということでは、昨年度から投資工学開発室という新しい組織を作りました。人員も拡大しており、新しく加わるメンバーには、医薬品業界でビックデータを取り扱っていた人や、大手電機メーカーでAIに携わっていた人もいます。その他には、社外の専門家の知見も活用しています。それぞれ得意領域が違っていて、それぞれの持ち場で専門性を高めていく。それらを集結してプロダクトを生むという流れは既に起こっています。


今後のフィンテックの展望について


増田
資産運用において、AIの活用は業務に大きな影響を及ぼしています。トレーディング、ロボアドバイザー、事務処理など、テクノロジーが人の役割に置き換わるのが現実的になっています。一方で、資産運用で大事なのは、情報から何が見えるのか、どこに着目するかを明確に把握していることです。加藤先生からもリターンの源泉の把握という話がありました。そして、何が見えていないのかを把握し、コントロールすることも必要です。モデルで全部説明できるように思えても、それを鵜呑みにするのは危険です。30年前も10年前も、それは変わりません。


金融業界が今後求める理系人材像について


加藤
金融機関の仕事がAIの仕事になることは間違いありません。つまり、金融の戦いは、AIを開発する戦いになります。スタッフの9割はエンジニアになるでしょう。理系学生はIT系の会社を目指す人が多いようですが、これからはIT系かそれ以外かという選択ではなくなってくると思います。どんな種類のITをやりたいのか。それが金融なら、金融機関で働くということです。


参加学生、参加企業からの感想


パネルディスカッション後は、各テーブルごとに参加学生、協賛企業メンバーによるワークショップ「金融におけるAI、ビッグデータの活用について」を開催。機械学習を学ぶ学生から、実際に金融業界でフィンテックに携わる企業担当者へ忌憚なき意見や疑問・質問が寄せられました。


その後は、機械学習を武器に就活を乗り越えた、また乗り越え中の学生による「 パネルディスカッション:データサイエンティストの理系学生の就活」を挟んだ後に懇親会が開かれ、学生と企業の参加者の交流の場となりました。

■参加学生の感想


  • コンサル系の企業に就職が決まったところ。金融業界の印象が変わったので、もっと早く知りたかった。
  • 企業からのニーズの高さに驚いた。研究職やエンジニアは適正待遇と言い難い部分もあるので、理系はもっと買われていい!と思った。
  • 入賞者のプレゼンをもっと聞きたかった。同年代の人がどう取り組んだのか、審査など、コンペの内容を深掘りして欲しかった。

■コンペ協賛企業担当者の感想


  • 優秀の一言。株に詳しくない人はすぐには理解できないものであるにも関わらず、ポイントを掴むのが早くて驚いた。
  • 探究心が強いと思った。専門が違ってもなんとかAIを使って課題解決しようという姿が素晴らしかった。
  • 優秀な人が多く、集中力もある。金融は堅いイメージと言われたことについて、企業側の努力不足だなと。テクノロジーに力を入れているんだと発信していかないとだめだと改めて感じた。
  • AIが得意な学生の採用は難しい。スキルは生かせるはずなのに金融業界がキャリアの選択肢として認知されていないのは課題。
  • 自分の研究以外のことにチャレンジできることが素晴らしいし、優秀だ。多くの業界で奪い合いになる人材だと思う。金融はITとは真逆だとか堅いと言われているが、そうじゃない世界だとわかってもらう努力が必要。

特に企業側が機械学習を学ぶ学生のポテンシャル、専門外でもすぐにキャッチアップしていく機動力の高さに驚いていたのが印象的でした。一方で、学生側には金融業界の魅力、それどころか情報自体がまだまだ十分に届いていない様子も。今後も業界をまたいで人材獲得競争が起こるAI人材の理系学生たちの可能性の大きさを改めて感じる表彰式となりました。また、奪い合いだからこそ自分の志向性に合った企業を選ぶ選択眼を持つことの重要性がより増してくるのではないでしょうか。


ライター
ふるた ゆうこ
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