1社目が運命の始まりだった―インターンをするたびに尖りゆく専門性

――まず、三栖さんのインターン経歴についてお聞かせください。
大学2年時に、遺伝子解析事業を展開するIT企業アメリエフで初めてインターンに参加。そこでインターンの面白さに目覚め、現在は3社並行してインターンをしています。
1社目はデータ分析を行うメディンプル、2社目は認知症の早期予防を行う Splink(スプリンク)、そして3社目が、ファッションの購買予測を行うLiaro(リアロ)です。すべてAI関連の企業で、私は主に機械学習エンジニア、データサイエンティストとして業務に携わっています。
「3社でインターンをしている」と言うと、とても忙しそうだと思われるのですが、実際には3社とも週1回オフィスに行く程度。あとはリモートワークで業務をこなしています。
――そこまで積極的にインターンに参加している理系学生は少数派ですよね。インターンを始めたきっかけは何だったのでしょうか?
学部1年生のとき、「国際バイオものづくり」という講義で知り合ったとても優秀な友人の影響です。彼はプログラミングコードが書けて、英語もペラペラで、ビジネスやバイオの知識も豊富。こんな人が身近にいるなんて、と衝撃を覚えました。
当時、私は軽音サークルでベースに打ち込んでいたのですが、彼がインターンをしているという話を聞き、「自分も何かやってみようかな」と考えました。
――最初のインターン先であるアメリエフでは、どのような業務に携わったのでしょうか?
pythonでソフトウェア環境構築を担当しました。しかし入社当初、プログラミングの経験はなく、一から学び始めることに。「ターミナル」や「階層」という基礎的な用語の意味すら知らなかったので、最初は苦労しました。今思うと、あれはプログラミング初心者に任せる仕事ではなかったようにも思います(笑)。
それでも、必死になって食らいついて日々勉強と開発を続けました。「絶対にできるようになりたい」「チームの一員として認めてもらいたい」という気持ちが強かったんですよね。インターンの勤務が終わったあとも時間を忘れてのめり込んでしまいました。
少しずつできることが増える中で環境構築の楽しさを感じられるようになり、最後にシステムがすべて無事に動いたときはものすごい達成感がありました。このインターンでの経験を通して、ITやプログラミングの面白さに気づけただけでなく、努力すれば必ずゴールにたどりつけるということを身をもって学ぶことができました。
――最初のインターンで大きなインパクトがあったんですね。
そうですね。アメリエフでの経験は、インターンに熱中するようになった原体験です。
機械学習や深層学習のエンジニアスキルを習得したいと考えるようになったのは、アメリエフで一通りの経験を積み終わった頃。そこで、東大のサークルである人工知能勉強会に通って知識を身につけた後、データサイエンスでビジネスの課題解決を行うメディンプルのインターンに参加しました。
メディンプルでのインターン中に見つけたのが、医療画像×AI分野で活躍する Splink。 深層学習やデータ分析だけでなく、自身の専門に近いバイオインフォマティクス(生命情報科学)の知識やスキルを生かせる、理想的な環境だと感じて飛び込みました。事前に予想した通り、Splinkではやりたい仕事ができています。
そして4社目にコミットしているのがLiaro。携わった理由はシンプルで、ファッションが好きで、ファッションテックに興味があったからです。購買予測のシステム構築や自然言語処理といった技術的なチャレンジができる点も魅力に感じ、飛び込んでみました(笑)。
戦略的インターン活用法ー目的意識により将来の選択肢が広がる

――複数の企業でインターンを経験されてみて、インターンにはどのようなメリットがあると感じましたか?
まず、大学では学べないスキルが身につくことだと思います。私はバイオ系専攻でしたが、インターンでプログラミングを経験した結果、より複雑な生命情報科学分野へも通じることができました。社会人としてのコミュニケーションの取り方、仕事の仕方なども学べましたね。
それから、自分のキャリアや将来のビジョンをどんどん明確にできること。インターンを始めた頃は、仕事が何でも楽しく感じられたのですが、できることが増えてくると徐々に面白さが感じられなくなり「いったい自分は何がしたいんだろう? 」と悩んだ時期もありました。
しかし、あるとき「面白さを感じなくなるのは、自分の軸が定まっている証拠なんだ」と気づきました。自分が成長しているからこそ、現状に満足できず次のフィールドが欲しくなるんだと。だから、インターン先で目標を達成したら、次のインターン先に移って、興味のある分野をさらに突き詰めるようにしています。
――キャリア観について、具体的にはどのような変化がありましたか?
元々大手企業志向だったのですが、さまざまな企業を見たことで、会社規模や勤務形態よりも、自分のやりたいことを実現できる環境で働きたいと考えるようになりました。今では、ベンチャー企業への就職も考えています。
また、ひたすらプログラミングの技術力を追究するのではなく、プログラミングを手段としてビジネス全体を考える経営志向のエンジニアがいることも知りました。私もビジネスアイデアを考えたりディスカッションしたりするのも好きなので、エンジニアリングとビジネスセンスの両方を磨きたいと考えています。
――インターンには将来を変えうる力があるんですね。これからインターンを探す場合、どのような方法が有効だと思いますか?
最初はインターン募集サイトで探したのですが、私の求めていたバイオ系のインターンはほとんど見つからず、他の方法の模索から始まりました。結局、アメリエフは同じ学校の先輩から、メディンプルは東大の先輩から紹介してもらいました。
役に立ったのは、LabBaseのスカウト機能。学歴や研究内容などを登録しておけば、自身の研究やプロフィールに興味を持った企業から連絡が来るようになるので、ミスマッチは少ないのではないでしょうか。Splinkとはスカウトを通じてつながることができました。
実はスカウトをもらったとき、 Splinkはインターンを募集しておらず、3年後、大学院を卒業した後に正社員にならないかというオファーだったんです。しかし、事業内容は今まさに自分がやりたいことでした。そこで自分から「インターンをさせてもらえないか」とお願いし、念願かなってインターンとして迎え入れてもらうことに。
気になる会社にはまず連絡をとってみて、可能そうであればこちらの希望もはっきりと伝えることをおすすめします。
【検証】3社に興味ありを押すと1回スカウトをもらえる説は本当なのか?ガチ検証してみた。
――まずはインターンを「始めてみよう」という心構えが重要なのですね。
そうですね。それに、始めてみてもし合わなかったとしたら、それはご縁がなかったということ。正直な話、インターンというポジションを最初からそこまで重く捉えすぎなくていいと思います。正社員ではないし、企業が学生の将来に責任を負う義務もない。もちろん、周りに迷惑をかける辞め方は駄目ですが、「まずやってみるか」くらいの気楽なマインドで臨んでもいいのではないかと思います。
大学時代は、人生で初めてキャリア観を形成する貴重な時期

――これまで、インターン生として本当にさまざまな経験を積まれたと思います。今後はどういったことに取り組んでいくつもりですか?
大学院での研究、インターン、そして情報発信。この3つを主軸として活動したいと考えています。具体的には、データベースの運用スキルの修得と、新規で立ち上がるファッション系メディアでの発信に力を注ぐつもりです。データ分析をしてコンサルティングをするのも楽しそう。面白そうなことには躊躇なくチャレンジしていきたいですね。
はたから見ると「なんでそんなに頑張るの?」と思うかもしれません。でも、自分がやりたいことができているのでは、本当に楽しくて仕方がないんですよ。仕事という感覚はあまり感じないですね。
――インターンを考えている理系学生にメッセージをお願いします。
研究や部活、サークルに打ち込みながら、「他にも何かしたほうがいいかな?」という疑問を抱いたら、一つの選択肢としてインターンはオススメです。ビジネスの世界に飛び込むことで、研究以外のスキルも身につけながら、キャリアの軸をより明確にできるようになると思います。
大学生は人生においてキャリア観を初めて形成する貴重な時期。いろいろな人や考え方に触れ、自分はどういった人間でどんな人生や働き方を求めているのか、「自分探し」をしたらいいと思います。
――最後に、三栖さんにとって「インターン」とは何ですか?
「成長と出会いの機会」ですね。インターンやそこで出会った人のおかげで、できることが増えるようになっただけでなく、自分の求める方向性も見つけることができました。社会人としてのスタートを切る前にキャリア観を真剣に自分自身に問い続ける経験ができたのは、非常に価値があることだと思います。
編集後記
「一に行動、二に行動、三に選択」……まずは行動し、そのうえで自分のやりたいことを選べばいい。これが三栖氏が繰り返していたインターンを成功に導く心構えである。
行動するには「リスクを取る勇気」が求められる。しかし、そのリスクは年を重ねるごとに大きくなっていく。特にやりがいだけでチャレンジする場合はなおさらだろう。学生時代を「二度とないチャレンジ期間」と考え、ぜひ失敗を恐れず行動してほしいと思う。