研究開発はいわゆるコア技術を開発する「基礎研究」と、客先のニーズに合わせてチューニングを行う「技術開発」があります。技術開発は客先ニーズの確認が必要なため、ユーザーを訪問することも多く、技術営業に近い部署です。
大学院を卒業して研究職を志望する場合、「基礎研究部門」を志望する人が私の身の回りには多くいました。0から1を生み出す基礎研究には醍醐味があるため、志望する人の気持ちはよくわかります。「技術開発」について「顧客に振り回されそう」「専門性を磨けなさそう」といったマイナスイメージを持つ方も多くいるでしょう。
しかし、技術開発にもたくさんの魅力とやりがいがあります。1社目でユーザーに近い技術開発、そして2社目で基礎研究(分析系)として働いてきた私の経験から、就活時にはあまり語られない「ユーザー寄りの技術開発職」のメリットと、デメリットについてお話しします。

仕事内容について
私は樹脂に関する研究を行っていました。樹脂材料といっても多種多様ありますが、私の研究対象は熱可塑性樹脂といって、「熱で溶かして形にして固める」タイプのプラスチックです。
熱可塑性樹脂の用途はたくさんありますが中でも、射出成型で用いる樹脂の開発と、その成型時シミュレーションがメインの仕事でしたね。
仕事のポジショニングについて
私は「自動車関連部品メーカー、電機メーカー向けの要求スペックに合わせた 樹脂開発・量産化」と「射出成型シミュレーションによる金型・条件提案」を主としており、ユーザーに近く、技術開発のポジションにあたりました。
立場上、出張で客先に出向く機会も多くありました。
技術開発職のメリット
やりがいを感じやすい
上述したように、技術開発は基本的に客先のニーズに答えるマーケットイン型の仕事。そのため、客先が求めるものがスペック値としてはっきりしているケースがほとんどです。
そのため、「ユーザーが自分(自社商品)に対して何を期待しているのか」がわかりやすく、ゴールが明確。基本的に(コストを満たした上で)目標スペック値を超えると採用が決まるため、やりがいと感じやすいポジションと言えます。
大きな契約を結ぶために社外の人と協力体制を作れる
技術開発職は商品化を目の前にする案件がほとんどのため、社外の人間(ユーザー、商社、他社外注生産ライン)と仕事を共にすることがよくあります。
私の経験上、大手から採用を取るために、商社、試作工場と協力することも多く、社外の方と同じベクトルで仕事ができることは、技術開発職ならではの魅力だと感じました。
大きなお金が動きやすい
技術開発で扱う案件は、ユーザーでの量産品評価が必要となるケースが多くなります。そのため、開発品のスケールアップ、生産ラインの調整、場合によっては新規設備導入を伴うことも。「お金を使って大きなことをする」という観点では、開発職の方がスケールの大きな仕事に取り組める可能性が高くなります。
他にも基礎研究部門と異なり、技術開発には営業が紐づいていることが多く、普段の開発環境でも資金面でプラスに働くことがあります。
海外に駐在で行くことも多く経験を積める(基礎研究部門は出張レベルが多い)
私が勤めていた会社では海外出張は新卒3年目あたりから行くようになっていました。ところが駐在となると話は別で、開発職が行くケースがほとんどでした。
理由はシンプルで客先でのトラブルがあった際に直接対応できるのは、技術開発職の経験がある人材の方が多いから。
日本のメーカーは、人件費や関税の関係から海外に工場を作ることがよくありますが、相手先が大手取引先の場合、担当として近隣の海外事業所に駐在になるケースがあります。
基礎研究部門でも海外へ行けないことはないのですが、人生のうち数年海外で駐在して、キャリアを積み上げたいということであれば、開発職の方が願いを叶えやすいと言えるでしょう(私の経験上、基礎研究では駐在よりも出張ベースの方が多い印象です)。

営業職への転属がしやすく、出世に繋がるケースも
開発職は上述したように、営業とともにユーザーを訪問することも多いです。そのため、「営業寄りの技術」から、「技術を知っている営業」に異動するケースが多々あります。私が過去所属していた事業部では、5割以上が技術上がりの営業でした。
営業に異動することで研究に携わることができなくなるデメリットがある一方、出世は技術、営業の2つのキャリアを経験している人間の方が有利に働きます。
私が勤めていた会社では、研究・開発よりも営業職の管理職ポストの方が人数比率で考える多くなるため、数字上のメリットも大きくなっていましたね。
技術開発職の方が花形のケースがある
就職活動時には、基礎研究部門が会社の中心部と思っていました。根幹の技術を担うため、間違いではありません。しかし、いわゆる花形と呼ばれる部署は技術開発職の方が多いケースがあります。理由は会社にとっての利益を生み出す場所だから。
基礎研究と技術開発職のどちらが偉いということはありませんが、実利を生み出す技術開発職とその紐づいている事業部が強い力を持っているケースはありますね。
技術開発職のデメリット
本質的な改善は基礎研究の分野になる
開発職は目の前のユーザーの要望に応えることが基本ですが、ほとんどが製品化の時期(納期)が決まったものを取り扱うことが多く、「コア技術を変えずに添加物によるチューニング」対応がほとんどでした。
製品の根幹にかかわるようなコア技術の改良は、基礎研究の領域になります。本質的な改善に取り組みたい場合や0から1を生み出す研究をしたい場合は、基礎研究の方が良いでしょう。
生産コストによる研究の制約が厳しい
技術開発職では大きなお金が動きますが、コストがいくらでもかけられるというわけではありません。むしろ、製品一つ一つの原価を正確に算出できるステージになるため、コスト管理が厳しくなります。
基礎研究においては、性能重視でプロダクトアウトさせることが目標になるため、原価率が一旦、無視されるケースがほとんどであり、大学の研究に近くなります。
客先マターなので、時間のコントロールが難しい(締め切りが決まった改善が多い)
上述しましたが、基本的に製品化する予定の商品に対して、指定の期間までで製品開発するケースがほとんどです。
もちろんその際に競合他社とのコンペになるケースもしばしば。客先マターとなってしまうため、時間コントロールが難しく、ライフワークバランスの面では、崩れてしまうこともありました。
客先から怒られることも多い
ユーザーに一番近い場所のため、何かあった時に怒られることもしばしばあります。私自身、生産工程の変更で十数人に囲まれて会議になったことや、試作現場で開発製品の取り扱い性の悪さについて直接クレームを入れられたこともありました。

主観的に思う開発職の最大のメリット
仕事は1年や2年ではありません。もし同じ会社で働くなら、長く働くためのモチベーションが大事になります。
そのため、「客先でユーザーに会って、評価してもらえる」ということは仕事をする上で大きな動機付けになると感じていました(基礎研究では、ユーザーの顔が見えないことを悩みとしている人もいます)。
メリットのところでも書いた通り、ユーザーだけでなく、商社や生産ラインとの協力体制ができることも仕事の醍醐味の一つ。故に、技術開発職は「やりがい」を感じやすいポジションだと感じています。
こんな人におすすめしたい
研究も好きだが人を喜ばせることが好きな人
技術開発で一番おすすめタイプは、研究だけでなく、人を喜ばせるようなことが好きな人です。上述したように、開発職はユーザーと接触する機会が多く、採用に向けて、要求スペックを提示される仕事。要求スペックを達成することで、ユーザーが喜ぶことはもちろん、製品採用を獲得できることで上司、営業、商社といった多方面の人と喜びを分かち合うことができます。
将来的に海外駐在で働きたい人
自分のスキルアップのために海外駐在を経験したいのであれば、開発職の方が良いでしょう。開発職はユーザーに近いため、客先の海外工場近くに赴任できるケースもあります。
日本企業の海外進出はかなり進んでいますが、それでも海外駐在となるとまだまだ少ないですよね。開発職ならスキルアップに加えて、将来的に出世の面で見てもプラスに働く可能性が高くなります。
社外との取り組みの中で視野を広げたい人
技術開発職はユーザーと接触することが多く、その過程で商社や外注先工場など、自社文化と異なる文化に触れることができます。
これは、ユーザー向けの開発職だからこそ経験できる立場。将来的にキャリアアップ転職も踏まえ、自分の視点を広げておきたい人にとっては社外との取り組みが多い開発職は魅力的なポジションです。

まとめ
就職活動においては、基礎研究志望の人が多く、配属になった時に開発職に行く人も多くいます。そこでがっかりする人もいるかもしれません。というよりも、正直がっかりする人の方が、私の身の回りでもほとんどでした。
しかし実際に働きはじめると、開発職はユーザーにアピールできる環境があるためやりがいを感じている人も多い現状を目の当たりにしています。
一般的に大学の研究室の延長で就職活動をするため基礎研究志望になりがちですが、あえて開発職の人に会って、話を聞いてみるのはどうでしょうか。
今まで見えてこなかった、開発職の魅力が見えてくるかもしれませんよ。
writer:杢目ユウ
関西の私大を大学院卒し、一部上場企業で熱可塑性樹脂の開発とその成型シミュレーション業務に携わる。その後、大手電機メーカーに転職し、コーポレート研究所で樹脂材料の分析業務に従事。現在はメーカーを退職、会社を設立し、Webメディアを運営。
twitter: @mokume7
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