「4力学の知」を総動員して動かす圧縮機の面白さ

⇒前川製作所製の初期型圧縮機と共に
――学生時代の研究内容や、前川製作所への入社の経緯を教えてください。
T:2013年に大阪電気通信大学大学院を卒業後、前川製作所に入社しました。大学院では、産業用ではなかったものの今の仕事につながる圧縮機の研究開発に携わり、特に「レシプロ圧縮機」と呼ばれるタイプの圧縮機関連の研究がメインで、前川製作所とは共同研究も行っていました。大学では小さなコンプレッサーを扱っていたのですが、大きいコンプレッサーを扱う前川製作所に興味を抱いていたこともあり、採用選考を受けました。
当時、インターンシップの機会はなかったものの、共同研究の打ち合わせで当社の社員と話をしたとき、年齢差のある社員同士がフレンドリーで活発なコミュニケーションをとる様子が好印象でした。実際に入社してからもその印象のままです。私は入社以来、一貫してレシプロ圧縮機の開発に携わっています。
O:私は2007年の入社です。Tさんと同じ研究室の所属でしたが、私は家電用の圧縮機について、家電メーカーと共同研究をしていました。博士後期課程を修了後、研究室の先生のつながりもあって前川製作所に入社し、最初の8年はスクロール圧縮機の開発を担当し、実験からシミュレーション、試作、試験まで手がけました。ここ数年はチームマネジメントにも携わっています。
――食品保存や空調の冷却機能を担う冷凍機。その心臓部である圧縮機ですが、技術者目線で表現するとどのような機械なのでしょうか?
T:圧縮機は、いかにもメカ、機械工学のド真ん中の分野だと個人的に思っています。いわゆる「機械工学の4力学(材料力学、流体力学、熱力学、機械力学)」の全ての知識を生かすことで動く機械です。圧縮機にはさまざまな要素が部品として組み合わされているので、各部品の信頼性や性能を上げるには、4力学の知識をベースにレベルアップを図る必要があります。なお、私たちが所属する技術研究所での研究開発は、既存商品のブラッシュアップだけでなく、新商品の種にもつながっています。
エンジニアとして目的ある学びを続ける喜び

――担当業務について、ご自身の専門分野との関わりも含めてお聞かせください。
T:私が関わっているレシプロ圧縮機は、自動車のエンジンと似た構造です。エンジンは中にピストンが入っていて、往復運動で動きながら動力を取り出す機械であるのに対し、レシプロ圧縮機は逆に、動力を入れてピストンを動かし、ガスを圧縮して吐き出す機械。レシプロにも多様なタイプがあり、それぞれの用途に向けた研究開発に取り組んでいます。
大学院での学びが仕事に直結している一方で、新たに学ぶこともあります。例えば、全く専門外だった音響の分野。圧縮機の騒音の解決策として、予測やシミュレーション用のプログラム開発の仕事では、初めて音響について集中的に学び、開発したソフトウェアを社内用としてリリースしました。
「圧縮機の内部構造と動作のイメージ動画」
・スクリュー圧縮機編
鋳物から自社で作るスクリュー・ロータとケーシング。低圧のガスを吸い込み、圧縮して高圧で吐き出すスクリュー圧縮機の構造と動きのイメージです。
・レシプロ圧縮機編
回転運動を往復運動に変換するピストンークランク機構により低圧のガスを吸い込み、圧縮して高温・高圧で吐き出すレシプロ圧縮機の構造と動きのイメージです。
O:私は大学院で、摩擦や潤滑を扱う「トライボロジー」を研究しました。機械は油を差さないと動かないので、今、業務でも一部その分野を扱っています。入社時にトライボロジーにこだわったわけではありませんが、関わるときに即戦力になれるようにと卒業後も勉強を続け、その話が来たらいつでも引き受けられるように準備をしていました。
他にも、日常業務のベースになっているのは、ほぼ全部、学部の専攻の授業で習ったことです。今も設計製図、材料力学、計測工学などの教科書を読み返すことがあるくらい、専門分野の基礎の大切さを感じています。
――未知の分野については、どのように学ぶのでしょうか。
T:社内の各種研修、OJT、外部の講習、独学など、あらゆる方法で勉強します。役立ちそうな技術や知識は、今すぐ必要ではなくても家で勉強しています。学生時代の学びと違って「仕事の課題をクリアにする」「将来的な問題に備える」など、責任が伴う大変さもありますが、自学自習の目標や目的が明確で、学びが仕事につながることは楽しいですね。
一貫した開発でグローバル市場でも活躍

――技術者としての成長につながった経験があればお聞かせください。
T:圧縮機は、一言でいえば「大気圧より高い圧力がかかる機械」です。その中にセンサーを入れて実験をする際に一度、センサーの線と釜の隙間からガスが延々と漏れ出して実験ができない、という状態が起きました。現状からどう問題を解決し、実験可能な状態にするか、数日にわたって必死に対処しました。
当時も今も思うのは、失敗は「これくらいで大丈夫だろう」と手を抜いた部分に起こるんですよね。当然のことですが、細心の注意を払った設計で細部まで行き届いた検討を一つひとつ重ねることが、最終的に全体の完成度につながります。私たちは技術研究という開発の最上流の、お客さまから一番遠い所にいますが、上流からしっかり検討を積み重ねることで、下流にわたるまでのトラブルを回避できると、戒めとしても思っています。
O:私は、4トンほどの巨大な圧縮機の開発で、試作機の設計順序を間違えたことがあります。初期段階で設計しておくべき部分が後回しになっていたせいで、試験に間に合わせるためにスリリングなスケジュールになってしまって(笑)。可能な部分の設計を進めながら、同時に問題の箇所を設計し、どうにか組み込んで間に合いました。
反省は当然ですが、装置全体を設計した経験や、設計手順の知識は、他の仕事にも生かされています。似たタイプの機械の開発における間違いが減り、スムーズに自信を持って進められるようになりましたね。
――前川製作所はグローバル市場でも産業用圧縮機の大きなシェアを持ちますが、現場で働くお二人から見て、どんな強みがあるでしょうか。
T:海外メーカーとも取引があることで、研究開発者としても見識が深まり、プラスになっています。コロナ禍前は、ラ米にある自社の圧縮機工場での現地エンジニアとの打ち合わせや、長年に渡って連携していて、現在も共同研究を実施している欧州の研究機関との議論から気付きや触発を受けることも多いです。大学院時代だけでなく、前川製作所に入ってからの要素研究開発でも海外で学会発表をしています。技術者がグローバル経験を積むことができるのは学びが多く楽しいです。
O:学会の懇親会などで他社の技術者や研究者から聞いた話と比較すると、当社では研究開発者が全てのプロセスに関われることが最大の違いだと感じます。具体的に言うと、研究開発で試作機の設計、設計した試作機の図面作成、製造の打ち合わせ、製造現場で工程チェックや微調整、出来上がった試作機の検査、設計が間違っていたら修正の依頼、機械の組み立て、性能を測るための性能試験装置の設計、装置の制御設計や据え付け工事の立ち会い、装置を使って機械の試運転、安全管理のための現場監督、社内での予算管理など。 私たち技術者が全体を見渡して開発に携わっていることが当社の強みです。
もちろん、工程の一部は専門部署に頼むこともできるのですが、全体を手がけることに意欲的な技術者が多いのも当社の特徴かもしれません。一貫した仕事に取り組みたい人には、基本的にブレーキをかけず、どんどんやらせてくれる社風です。ちなみに、他社の人には「前川製作所さんは変わったことばかりやっている会社で面白そう」とよく言われます(笑)。
機械工学の知を生かした挑戦ができる仕事

――前川製作所は、どんな価値観やスキルを持つ人が活躍しやすいでしょうか?
T:当社では、自分のキャパシティー次第ですが、試したいことがあれば、予算や計画、会社の方針の許す限り、何でも挑戦させてくれます。機械工学の基礎をしっかり学んだ上で、さらに研究の専門分野を伸ばしてきた人は活躍できるはずです。
最近は技術研究所内にラ米、南アジアなどの外国人材がかなり増え、グローバル化の流れも感じています。英語をはじめ多言語が使えると、スムーズなコミュニケーションができますね。
O:当社の技術研究所は、機械工学をベースに何にでもトライする人に向いています。ITや電気関係、機械設計のプログラミング、ハード制作など、多様な領域に抵抗なく挑戦できる人がいいですね。機械工学の知を生かしてどこでも生きていける自信を持ち、実際に行動できる人は、当社でもっと自分の価値を高められると思います。
――最後に、理系就活生にメッセージをお願いします。
T:機械工学は、学生時代の勉強が想像以上に大事なので、ぜひ能動的に学んでほしいです。なぜこれを学ぶか、なぜこの計算をするか、その理由を勉強しながら考えておくと、社会に出て役立つでしょう。
O:私は制御工学の授業で、さっぱり意味が分からないなりにノートだけは真面目に取っていたんです。社会人10年目で初めて制御の知識が必要になったとき、そのノートを見返したら知りたいことが全部書いてあって驚きました(笑)。学生時代の自分には「ノートと教科書は絶対に捨てるな」と言いたいです。今、私もTさんも大学との連携で、産業用冷凍・空調に関する授業を持っていて、学生のうちにこんなことをやっておくと仕事で役立つよと、よく話しています。
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編集後記
学びを生かしながら働き、研鑽(けんさん)を積む楽しさを何度も口にしてくれた2人から、研究開発者の本来的な姿を感じることができた。エンジニアの意欲や自律性を尊重する研究開発スタイルこそが、前川製作所が国内トップシェアにとどまらず、グローバル市場でも躍動する最大の理由かもしれない。
※所属・内容等は取材当時のものです。(2024年4月公開)