化学・機電系からイメージしにくい企業へ

――学生時代に取り組んだ研究についてお聞かせください。
紫藤:環境中や体内などの目に見えない分子の可視化に興味があり、大学院で分析技術の研究室を選択しました。研究テーマは、医療などの高感度センシング機器に使われる新技術の開発。脂質や酵素などの材料を用いたセンシングは下準備に1週間ほど時間がかかり、ナマモノなので1日しか使用できないのが大変でした。
河原田:どんなことを実現できる可能性のある研究だったんでしょうか?
紫藤:一番の目標は、体内のがんマーカーを超高感度で検出することによる病気の早期発見への貢献でしたね。河原田さんはどんな研究をしていたんですか?
河原田:私は「核融合発電」の実現を目指していました。核融合反応は化石燃料ではなく海水から採取できる重水素を使うので、安全性と持続可能性の高さが特徴です。CO2排出がなく、新たな発電方式として世界で研究が進んでいます。
紫藤:実用化にはどんな課題がありますか?
河原田:1億度のプラズマ内で原子核同士を高速でぶつけて核融合反応を起こし、生じた熱エネルギーを発電に使うのですが、プラズマ状態の維持が難しく、マイクロ波加熱の方法を試行錯誤しました。
――お二人とも高度な専門性をバックグラウンドにお持ちですね。就職活動ではどのようにパナソニックや三菱ケミカルと出合いましたか?
紫藤:私はハウスダストなどの目に見えない成分にアレルギーがあり、「自分のような人の課題を解決したい」と思っていました。しかし、大学院で研究する手法は難易度が高く、実用化まで時間がかかると感じました。
そのため、技術の先に「使う人の存在」を感じられる仕事に興味がわき、化学技術を身近な装置として作り込むなら機械や電気系に強い組織がいい、と選んだのがパナソニックです。生活ケア家電の多い当社で多様な専門家と協力すれば、自分の専門性を役立てられると考えたんです。
もともとはパナソニックで自分のやりたいことができるイメージはなかったのですが、会社説明会で化学系の研究者の多様な活躍の場を知りました。面談では「やりたいのはこういう仕事」という私の明確な意志を理解してもらえて、当社で自分のビジョンに挑戦できることが決め手になりました。
河原田:私はバックパッカーとして数十カ国を旅したとき、電力供給の不安定な地域を訪れ、日本との違いに衝撃を受けてエネルギー分野への関心が強まりました。
私の専攻だと電力会社などへの就職が一般的でしたが、先輩からは「電力会社は分業が進んでおり、広範囲に携わるというよりはその一部に深く関わって働く」という見方もありました。
一方、会社説明会で、化学メーカーでは製造工場に必要な電力を自家発電で供給していることを知り、「電力会社より規模感は劣る分、発電や送配電など広範囲に携われて短期間で全体像をつかめそう」と考えました。特に、業界No.1の三菱ケミカルなら大規模な仕事ができると判断して入社しました。
電気系から化学メーカーへの就職は珍しがられましたが、紫藤さんはどうでしたか?
紫藤:私のいた研究室からは医療・分析機器メーカーに進んだ人もいて、パナソニックという選択も特殊ではないようでしたね。
実際に入社してから分かったのですが、パナソニックにはさまざまな専攻の出身者や多様なバックグラウンドを持った方がいて、化学系出身者も数多く活躍しています。
最新技術やトレンドを学びながら専門性を発揮

――紫藤さんは入社以来、どんな業務に携わってきましたか?
紫藤:約10年前の入社当時は、迅速PCRチップの開発に従事しました。コロナ禍で知名度が上がったPCRですが、医療以外の用途として遺伝子分析で個人の体質を調べられるチップを目指しました。3年目にはアメリカの連携先企業での実験やプレゼンを任され、自分としては成長の一つの節目だったと感じています。
その後、現パナソニック インダストリー社に移り、肌の状態を分子から調べるタンパク質分析技術の開発を経て、現在は人工嗅覚システムを開発中です。
これは動物の嗅覚を模した人工嗅覚センサーで、私は主に「高感度なセンサーを実現する材料の検討」と「においの嗅ぎ分け実験による実用可能性の検証」の二つを担当しています。
人間の嗅覚のデジタル化、さらには他の動物の嗅覚をデジタル化できれば、においによる個人認証や病気の早期発見などのポテンシャルもあります。
河原田:最先端の研究ですね。味覚や聴覚を数値化してAI検知する技術も完成しつつありますが、においも数値化するんですか?
紫藤:においは何十万種類もある分子の組み合わせからなり、基準がなく数値化しにくいんです。そのため、生き物が感じるように「◯◯のにおい」とAIで分類します。嗅ぎ分けは人間にとっても難しく、何を軸にセンサー化するかが課題ですね。
実験では取得データを自分でソフトウェア解析するので、一部プログラムの修正も必要で、AI分野も勉強中。最先端技術を開発し、自分で一番に試し、技術や社会の発展を体感できるのが面白いです。
――河原田さんのこれまでの業務内容も教えてください。
河原田:入社後は事業所で約2年半、発電プラントの技術検討や生産・運転管理、マネジメント業務にあたりました。熱交換用の送水ポンプ稼働に課題を見つけてコストを削減した他、今後7年間に及ぶ「発電所中長期計画」で設備更新計画を立てるなど、難易度の高い仕事を経験させていただきました。
その後は本社の事業企画部門に参画し、前例の少ない自家発電の電力を広域エリアに供給するプロジェクトでは省庁や関係各社と協議を重ね、チームワークでスキームを実現。
現在は、「事業所間の電力需給の不均衡を全社横断的に最適化するプロジェクト」と「2050年のカーボンニュートラルに向けた長期事業計画の策定」を同時進行中です。当社の火力発電のCO2排出に対処すべく、最新情報を学びつつエネルギー調達計画を議論しています。
紫藤:大きなエネルギー課題に向き合うには、事業所時代の現場経験が役立ちそうですね。
河原田:その通りです。事業所で地道な作業の中で改善点を見つけて最適化したサイクルが、現在の仕事の土台になっています。
「意外な企業」を選んだからこその裁量の高さ

――他の化学メーカーと比べると活躍のイメージがややしにくい「意外な企業」を選んだことで、どんなメリットがありますか?
紫藤:希少なバイオの専門家として、広い裁量と責任を持てることは一つのメリットです。入社1年目から社内でプロフェッショナルとして扱われ、バイオに関する意見を求められたりバイオ関連の実験機器の貸し出し相談を受けたりするなど、頼られるシーンが多いですね。
特に良かったのは、パナソニックが人や働く環境への投資を惜しまないこと。実験室、オフィス環境、人材教育などに注力して働きやすくしています。例えば、研修で一緒だったメンバーとは今でも仲が良く、そこから新たな人間関係も生まれています。「人への投資」のおかげで、社員同士のフラットなコミュニケーションがより増えたと感じます。
河原田:裁量の広さは三菱ケミカルも同じですね。専門家として相手を納得させる説明のために知識のアップデートも必要で、良い緊張感があります。社内プレゼンでは前提情報をしっかり伝え、理解の進度を確認しながら話す習慣がつきました。
――今後、仕事を通じて挑戦したいことはありますか?
紫藤:入社時から変わらず、アレルギー物質のような見えないものを可視化し、においなどの分子のセンシングや制御の技術開発を続けることで、新しいものを世に出し、人々の生活を改善したいです。分子という情報の宝庫の活用範囲を広げたいですね。
河原田:社会課題解決は私にとっても大きなテーマです。三菱ケミカルでは、大規模なエネルギー転換等を通してカーボンニュートラルの達成を目指しています。
特に、自社内でCO2排出量全体の半分以上を占めるエネルギー分野を脱炭素化していくとすれば、我々機電系の責任は重大です。
現状、自社のエネルギー戦略立案に携わっていますが、今後はフロンティアとして、その計画を実行していくチームをリードしていきたいです。
「自分の考え」を持つ人と働きたい

――「自社で働いていてよかった」と感じるのはどんな点ですか?
紫藤:パナソニックグループ内に多様な事業があり、その中から連携したい事業部門に自ら声をかけることも可能です。自発的に動きやすい環境で、同じグループにハイレベルな事業があるのが強みですね。そのおかげで知識の蓄積も多く、開発した技術で社会に貢献することもできます。
河原田:数千万〜数百億円規模の大型案件が多く、同時にエネルギー安定供給の使命感もあり、やりがいも十分です。現場経験を活かし、かつ全体を見渡しながら、1拠点で得たノウハウを他拠点に展開できるのもこの仕事の醍醐味。最近は主要職の社内公募制が導入され、働き方にも面白みが増えていますね。
紫藤:パナソニックグループにも公募異動制度があります。自らキャリアをつくることができるのは良いですよね。
――最後に、理系就活生にメッセージをお願いします。
河原田:多様性のあるチームでこそ質の高いアウトプットが生まれるので、自分にない考え方を持ち、気づきを与えてくれる人と働きたいです。
チーム内で「A案かB案を採用する」と決断する際、一方を選ぶと必ずマイナス要素が生じるジレンマに悩んだことがありました。そのときある人が「一方でなく、両方採用」を提案。実はそれが最適解で、先入観を捨てて物事を俯瞰(ふかん)的に捉える重要性を学びました。
紫藤:就職活動は企業が自社のことを学生さんに丁寧にご説明する貴重な機会なので、食わず嫌いせずに多くの業界や事業を知って世界を広げてみてください。
私が一緒に働きたいのは、自分の考えを持ち、忌憚(きたん)なく意見を述べる人。研究職なら、好奇心旺盛で日頃からアンテナを張り巡らせている人が集まると、新しいものが生まれやすいはずです。
編集後記
パナソニックグループといえば機電系、三菱ケミカルといえば化学系の人材が働く企業というイメージにとらわれず、実際にはさまざまな専門性を持つ高度人材が能力を発揮して活躍中だ。ファーストキャリアを選ぶ際は、従前のイメージや固定観念によって選択肢を狭めることなく、視野を広げてこそ自身の価値を最大化するフィールドが見つけられると覚えておいてほしい。
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※所属・内容等は取材当時のものです。(2022年12月公開)
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