「研究で培った知識と技術がそのまま仕事に」──専門性が即戦力になる環境
──お二人の経歴について教えてください。
飯塚:電気通信大学大学院で情報通信工学を専攻し、2009年に新卒でフィックスターズに入社しました。当時はニューラルネットワークの計算をGPUで高速化する研究をしており、低レイヤーに強みを持つソフトウェアの高速化集団」という稀なプロフィールを持つフィックスターズを見つけて入社を決めました。7年間日本で勤務した後、2016年に米国子会社のCTOとして転籍し、今年から日本のCTOも兼任しています。

高木:東京大学大学院でバイオインフォマティクスを専攻し、DNA解析をGPUで高速化する研究をしていました。2017年に新卒入社して、入社4年目でシニアエンジニア、6年目でディレクター、そして今年7月に事業部長になりました。
──入社の決め手は何でしたか?
高木:大学で学んだ研究をそのまま社会で活用できる会社が、当時は本当に珍しかったんです。私が入社した頃はまだ会社の規模も小さかったのですが、研究で培った知識を直接仕事に活かせるという点に魅力を感じました。
飯塚:私も同感です。入社1ヶ月後にGPUのセミナーでNVIDIAのオフィスで講師をやれと言われたときは驚きましたが(笑)、新卒でも能力があれば信頼して大きな仕事を任せてくれる文化がありました。この「能力を正しく評価して、ちゃんと任せる」という文化は15年経った今も続いています。
「1ヶ月で提案書作成」の衝撃──若手に機会を与える企業文化
──具体的にどのような成長機会がありましたか?
高木:入社して1ヶ月ちょっとで、新規案件の提案書を書いてと言われました。入ったばかりの新卒社員なのに、お客様への提案資料を作るような仕事を任されて。これは今思い返してもかなり驚きの体験でした。

飯塚:それは私たちの会社の特徴的な部分ですね。「まずやらせてみよう、チャンスを与えてみよう」という文化が根付いています。私も31歳でCTOになりましたが、当時は10名程度の子会社だったので、今でいえば事業部のトップのような感覚でした。
ソニー・ホンダモビリティ株式会社の案件で実現した「両輪経営」──受託とプロダクトの理想的な融合
──現在高木さんが注力されているソニー・ホンダモビリティ株式会社(以下、ソニー・ホンダモビリティ)での案件について教えてください。
高木:2022年12月にソニーグループから機械学習の案件をいただいたのが始まりです。ソニー・ホンダモビリティでは「AFEELA」という新しいEVブランドを立ち上げており、車両に搭載された多くのセンシングデバイスと先端のAI技術を活用したAD/ADAS(自動運転:Automated Driving/先進運転支援システム:Advanced Driver-Assistant System)の開発を進められています。そこに搭載される自動運転AIの学習環境に「AIBooster」が活用されています。最初は弊社担当1名の案件だったのが、お客様に評価していただき、徐々に規模が拡大しました。機械学習モデルの性能調査から始まって、モデル開発、デプロイ、データ収集システム開発と、徐々に業務範囲が広がっていきました。
飯塚:このプロジェクトは、私たちの会社にとって非常に象徴的な案件なんです。私はプロダクトのAIBoosterの開発チームを担当していて、高木さんがお客様の要望をテーラーメイドで対応する一方、私たちは自社プロダクトを使ってお客様の課題を解決する立場にいます。
──相反しがちな受託開発とプロダクト開発のバランスをどう取っていますか?
飯塚:確かに、受託開発とプロダクト開発のバランスを取るのは非常に難しいんです。受託だけだとお客様のことだけを考えていればいいのですが、プロダクトには私たちが目指したい世界観があります。でも、それが独りよがりではダメなんですよね。やはり誰かの役に立つという軸があってこそ意味があるのです。
高木:私の立場から見ても、お客様のニーズに応じて適切な人材を社内から探してチームを作るのが主な役割でしたが、飯塚さんのプロダクトチームとの連携があったからこそ、単なる受託開発を超えた価値を提供できたと思います。

社会貢献への強いこだわり──「クリティカルな領域」での技術活用
──事業領域の選択について聞かせてください。
飯塚:私たちのプロジェクトにおいては、たとえば自動車、医療機器、産業機器、半導体のような「社会基盤にとって必須の領域」を重視しています。
縁の下の力持ち的に、日本の重要なインフラをソフトウェア技術で支えたいという思いがあるからです。
これはソニー・ホンダモビリティの案件でも同じで、自動運転は人の命に関わる技術です。私たちのAIBoosterがその開発スピードを加速させることで、より安全で快適な自動運転の実現に向けて支援できている。そういう社会的意義があるからこそ、チーム全体のモチベーションも高くなるんです。
高木:やはり社会的に意義のある、みんなの役に立つ仕事をしようという文化が根底にあると思います。また今後のコンピュータに革新をもたらすことが世界的に期待されている量子コンピュータの分野でも、当社は独自に研究し、プロダクトを開発しています。量子コンピュータにはさまざまな方式があり、将来的にどの方式がデファクトスタンダードとなるか現時点ではわかっていませんが、当社ではどれになったとしても対応できるよう、研究を進めています。
「本質を知りたい人」が集まる組織──研修制度と採用方針
──どのような人材を求めているのでしょうか?
高木:情報系の学問を専門的に学んだ人はもちろんですが、数学、物理といった「本質を理解したい」という好奇心を持って学問を学んだ方も向いていると思います。例えば最新のAIの技術をただユーザーとして使うのではなく、「どうやって動いているのだろう」と興味を持つような方ですね。入社時点でのプログラミング経験が少なくても、そうした技術に対する深い好奇心があれば、本人の適性とモチベーションを見て採用しています。
飯塚:「ブラックボックスを開けてみたい」という気持ちですね。時計を分解したくなるような好奇心と同じで、コンピュータの原理を知りたいという欲求がある人は成長が早いです。

──研修制度について教えてください。
高木:メンター制度があり、C++やGitLab、機械学習など実務で使う技術を3ヶ月程度で学びます。研修の特長は「実際の仕事に近い形」で行うことです。GitLabでコード管理をして、週次で成果報告をして、最終的にはお客様への納品と同じ品質で発表するという、実践的な内容になっています。
飯塚:情報系以外の専攻の方も多く採用していて、数学や物理系の方がプログラミングを研修で覚えて、数年でトップレベルのエンジニアになるケースもあります。大切なのは理系の素養と学習意欲ですね。
──職場環境の特徴は?
飯塚:良い意味で「研究室みたい」と言われます。技術の話で盛り上がって、上司とも気軽にコミュニケーションを取れるフラットな雰囲気がありますね。
高木:チーム内の懇親会や全社の創立記念パーティ、有志の部活動など、人間関係を大切にする文化もあります。こうした繋がりが仕事に活きることも多いです。
プロダクト開発への挑戦──「世の中の役に立つ」が軸となるやりがい
──今後の目標について教えてください。
飯塚:私は長年プロダクト開発に取り組んできて、それを成功させることが一番の目標です。フィックスターズは基本的に受託で成長してきた会社なので、プロダクト事業の成功例はまだ多くありません。でも、ソニー・ホンダモビリティの案件のように、受託とプロダクトの両輪がうまく回り始めているのを実感しています。
やりがいを感じるのは、私たちが目指している世界観を、お客様が「そうだよね、やっぱりこういう課題があったよね」と理解してくださる瞬間です。単に自分たちがやりたいことをやるのではなく、本当に世の中やお客様の役に立つものを作れているという実感が、一番のモチベーションになっています。
日本発のソフトウェアでグローバル市場での成功を目指したい。自分たちが信じている技術で社会にインパクトを与え、お客様が気づいていない課題も解決していきたいです。

高木:私は2つ目標があります。1つ目は最先端技術の社会還元を継続すること。2つ目は会社をもっと大きくしたいということです。この3年で50名以上のメンバーが増えて、本当に色々な開発ができるようになりました。人数が増えることのメリットを実感しているので、もっと優秀なエンジニアを集めていきたいですね。
理系学生へのメッセージ──「好奇心」が未来を切り拓く
──後輩理系学生にメッセージをお願いします。
高木:最先端のことに興味がある方に入社してもらいたいです。大学で勉強してきたものを直接仕事に活かせる環境で、研究で培った知識を社会に貢献する形で活用できます。先進的なプロジェクトに関われるチャンスがあるのは、この会社の大きな魅力だと思います。
飯塚:今はAI時代で様々なことが変化していますが、一番大事なのは人間が持つ好奇心だと思います。「これはなぜこうなっているんだろう」「もっと詳しく知りたい」という探究心を持ち続けてほしい。
受託とプロダクト、どちらも世の中の役に立つという軸があってこそ価値があります。AIが進歩しても、人間にしかできない価値判断や創造性は必要です。いろんな分野に興味を持って、好奇心と人間らしさを大切にする人と一緒に働きたいですね。

編集後記
今回のインタビューで最も印象深かったのは、フィックスターズが「受託開発とプロダクト開発の両輪経営」を通じて、真に社会の役に立つ技術開発を実践していることだ。自動運転AI開発などの最先端プロジェクトにおいて、お客様の個別ニーズに応える受託開発と、自社プロダクト「AIBooster」による汎用的な価値提供が見事に融合している。
特に飯塚CTOが語った「お客様が気づいていない課題を解決できたとき、点と点が繋がってより多くの人に届けられる価値が見える」という言葉は、技術者にとって最高のやりがいを表現している。単なる技術の追求ではなく、「世の中の役に立つ」という明確な軸があるからこそ、若手エンジニアも迷わず成長できるのだろう。
研究に打ち込む理系学生にとって、自分の専門性を社会実装という形で活かせる環境は貴重だ。フィックスターズのような「好奇心」と「社会貢献」を両立させる企業文化は、変化の激しい技術業界で持続的にキャリアを築く上で、理想的な環境といえるのではないだろうか。
株式会社フィックスターズの 「企業情報」をチェック!