そんなことも? 大手企業の幅の広さ
――意外にも日本の大手グローバル企業は社内でも選択肢が広い、ということについてお伺いしたいのですが、そうした実感はありますか?
そうですね、さまざまな領域に手を伸ばしている会社だと思います。一般的な弊社のイメージとしては自動車部品サプライですよね。「愛知の製造業で、トヨタグループの一員で……」みたいなイメージを皆さんお持ちかと。しかし実際はいろんなメーカーと付き合いがあります。海外のメーカーともやりとりをしています。
実は部品以外の事業も展開しています。自動車から一番遠そうなところだと化粧品なんかもやっています。藻からバイオ燃料を取り出す研究がめぐりめぐってハンドクリーム製品につながりまして、結構評判です。
――単なる部品サプライヤーというだけでなく、幅広く展開していらっしゃるんですね。化粧品はまったく想定外だったので面白いです。
他に知られていないところでいうと最近だとトマトの栽培とか(笑)。弊社の主力のひとつにカーエアコンがあるので、その空調管理の技術を活かしてビニールハウスの温度や湿度を緻密にコントロールするシステムを他社と共同で開発しました。
産業用のミニロボットや遠隔用のロボも作っています。エンジンとかギアの技術が活きていますね。AIの将棋プログラムと人が戦うときに登場する、将棋のロボットアームも私達の製品です。
これらはデンソーのあまり知られていない一面のひとつです。デンソーは部品だけに関わる会社ではないんです。基盤のソフトウェアを使うシーンは想像以上にあり、幅広く事業展開しています。堅実な性格で柔軟な発想をする会社、と言えると思います。
大企業は窮屈? イメージと現実には大きなギャップが
――大企業はチャレンジできない、という噂をよく聞きます。特に大半の学生はそのようなイメージを持って就職活動をしているように思いますが、実際のところはどうですか?
「上を通さないと」というような意思決定の遅さを感じる時は正直ありますが、それも自分の働きかけで十分に変えられるレベルだと思っています。極端な話、大企業でなくとも自分から訴えかけなければ人は動いてくれませんので。
――では、逆に「大企業」のイメージ通りだったことは何かありますか?
福利厚生はしっかりしていますね。有給休暇取得率も上げていこうという風潮が社内にあるので、比較的忙しい時期でも休みは取れる方かなと個人的には感じています。研修も充実していますし。給料や残業が不安定だと仕事にも集中できませんから。
とはいえ、他社をうらやましいと思うことだってあります。特にベンチャー企業は役職の上がるスピ―ドがウチみたいな会社に比べると随分と早いですよね。僕と3つくらいしか歳が違わない友人がまだ若いときから室長を任されていたりとか。その分当然責任も重くなりますが、任せられる仕事のスケールも大きくなるのでそれはうらやましいですね。
――ちなみに中原さんは、今以上にもっといろいろなことをやりたいとお考えですか? それを実現するためには社内でキャリアを積んでいく必要があると思いますか?
現在私は役職はついていないですが、チームをリードする立場を任せてもらっていて、技術をやりつつもチームを回していくというかつての自分の抱いていた理想の形をかなえられている気がします。将来的にはもう少し大きな単位でチームを引っ張っていきたいとも思いますが、今のポジションに不満もないですね。
「俺はただ技術のことだけをやってたい」という姿勢でマネジメントなどは苦手とする人達も確かにいます。最初は私もそうでしたが、最近はチームで仕事をやっていく楽しさがわかってきました。
コミュニケーションの質によってアウトプットの質も変わってくるのは面白いです。自分一人ではできない量の課題や技術開発ができるのは楽しいですし、これは人的リソースの豊富な企業の特徴だと思います。
欧州をぐるりと一周してテスト走行
――大企業だからこそできたことをお聞かせください。
実車の最終確認のために欧州を一周したことがあります。海外で販売するので、その前に実際その性能で大丈夫かというテストが必要なんですよ。この時のことはかなり強く印象に残っていますね。こういうことができるスケールの大きさはうれしいです。決して旅行ではありませんが、良い経験になりました。
それ以外だとグループ会社との信頼関係があげられます。急に協力が必要になったときも「あそこにお願いしたらどうか」と目星を付けて、すぐに依頼することができます。こうしたスピード感は信頼関係がないと実現しないと思います。新規で大型の委託をするとなるとけっこう勇気がいるので。こうしたコネクションは大企業ならではですね。
――いろいろとすてきなお話を伺いましたが、とはいえ大企業に合わない人も当然いるかと思います。デンソーさんを転職して輝いてる人や、逆に退社したけれど離れている人のお話などお伺いできますか?
私の知っている人で、自分のやりたいことを追い求めてベンチャー企業へ転職した人がいます。デンソーは会社規模も事業領域も大きな会社なので、どうしても一人一人の業務分担が分かれることは事実です。
自分の行動力や巻き込む力にもよると思いますが、「モノづくりの企画・設計から製造まですべて自分でやりたい」という彼の想いは、私も理解できます。ですが、総合力でより大きな夢を実現できることが大企業の醍醐味ではないでしょうか。
――大きな企業だと部署や部門によって毛色が変わるのは事実でしょうね。このような相性のマッチングをどのように図っていますか。
どこの会社も同じですが、全員の希望を必ずしも通せるわけではない、というのは学生の皆さんにも理解いただけると思います。それでもそうしたミスマッチは極力なくす努力はされていますね。
たとえば、昨年からスタートしたコース別採用。情報ソフトの専門性を活かすコース、モノづくりの生産技術の現場コースに分かれています。それぞれ、やりたいことを尊重し初期配属の事業分野を確約するという特色があります。
そのほかにも、技術分野のスペシャリストが本人の希望を聞いた上でポテンシャルを見極める面談の機会もありますね。
――大企業ならではの面白さは他にはありますか? ベンチャーはチャレンジングで刺激的、大企業は安定の代償として退屈だ、というようなイメージを多くの学生が持っています。
そうですね、ベンチャーでも会社を楽しんでいない人はいます。私のベンチャーの友人はデスクワークが中心で、あんまり外に出る機会もなく、やることも単調で同じだとこぼしていますね。
そうした文脈ではデンソーは退屈しない会社です。技術開発で最先端を目指すということと、幅広く事業を展開していくことの2つが重要でしょう。マンネリとは無縁です。
制限もありますが、それはどこの会社でも同じだと思います。それでも研究開発費用や世界中のカーメーカーとのつながりなど、簡単には解決しない問題が最初から解消されているのは大きいですね。
最適の環境で自分のやりたいことを
――最後に、院生に対してメッセージやアドバイスなどがあればお伺いしたいです。
「大企業だから」「ベンチャーだから」と決めつけずに、まずはいろんなところを見て回るべきだと思います。視野を広く保つということはどんな企業で働くうえでも非常に重要ですので、大変ですが頑張って欲しいところ。たとえば、「BtoB企業=受注を受けて動くだけの会社」と決めつけるのはもったいない。
デンソーには自分のやりたいことを支援してくれる制度がいっぱいあります。あとは一般論かもしれませんが、自分のやる気次第でやりたいことができるところ。やりたいことができる環境が整ってるのは魅力だと思います。
どんな企業にもメリットとデメリットがあるはず。しっかりと見定め続けていると意外な仕事の可動域を見つけることができるかもしれません。
編集後記
就活の情報を本気で取りに行っている理系院生はどれくらいいるだろう。何となく知っている企業に応募したり、研究室から紹介された企業の内定を取ったりというケースは少なくない。判断基準がデータではなくイメージにとどまっているのなら改善の余地は大いにあるかもしれない。
