持続可能な開発目標「SDGs」―これからの企業成長戦略に欠かせない視点とは?

インサイト

LabBase Media 編集部

持続可能な開発目標「SDGs」―これからの企業成長戦略に欠かせない視点とは?

2015年に国連で合意された「SDGs」を、ビジネスの長期的な経営方針に取り入れる動きが日本企業の間で広がりつつあります。これまで、天然資源や人道的な労働環境を守ることと効率的な企業活動の両立は容易なことではないと長く考えられてきましたが、SDGsの登場は世界のビジネス界に大きな変革をもたらしています。 一見、理系企業に関連の薄い潮流のようにも見えますが、実はリコーや三井化学といった大手企業も既にSDGsを経営戦略に組み込んでいるなど、これからのキャリア形成に向けて押さえておきたいトレンドです。 これからのビジネスのキーワードとなるSDGsとは何か、そして企業はそれをどのように経営戦略に組み込み、社会をリードする企業群がどう変わっていこうとしているのかを解説します。

SDGs(Sustainable Development Goals)とは?


SDGs(持続可能な開発目標)とは、2015年9月にニューヨークの国際連合(国連)本部で開かれた「国連持続可能な開発サミット」で150以上の加盟国首脳の同意の下に採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」の一部です。


2016年1月1日に正式に発効されたSDGsについて、国連は以下のように説明しています。


今後15年間、すべての人に普遍的に適用されるこれら新たな目標に基づき、各国はその力を結集し、あらゆる形態の貧困に終止符を打ち、不平等と闘い、気候変動に対処しながら、誰も置き去りにしないことを確保するための取り組みを進めてゆきます。



(国際連合広報局「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」)


このように、経済的な豊かさを追求しながら、 社会的包摂を実現し、同時に 地球環境を守るという3つの要素の調和を呼びかけているのがSDGsの特徴です。これは、「経済成長や社会の発展」と「気候変動や自然環境保護」を両立する行動を選択することが、総合的に世界に大きな利益をもたらすという共通認識が国連という場で合意されたことを意味しています。


SDGs策定の背景にある「世界の現実」


!uploadedImage


SDGsが策定された背景には、直近数十年に起こった地球規模の変化が関係しています。例えば、以下のような危機的な状況が挙げられます。


  • 発展途上地域では、今も5人に1人が1日あたり1ドル25セント未満で生活しており、教育の不足や飢餓が経済発展、豊かな暮らしの妨げに。
  • 土壌や淡水、海洋、生物多様性の劣化が急速に進行。気候変動が天然資源への圧力を高め、干ばつや洪水など災害関連リスクも高めている。
  • 有限な天然資源エネルギーに代わる、再生可能エネルギーの普及が急務。
  • 気候変動を助長する温室効果ガスの排出量は現在、史上最高の水準。
  • 飢餓に苦しむ約7億9,500万人を救い、2050年までに予測される人口増加(約20億人)に対応するために、世界の食料・農業システムの抜本的変革が不可欠。
  • 都市の雇用や豊かさの維持と、土地や資源への低負担を両立するには、過密、公的サービスを提供するための資金の不足、適切な住宅の不足、インフラの老朽化などの解決が必要。

このように、アジア諸国の急速な発展と人口増加、石油など有限な天然資源の需給バランスの問題、気候変動による地球温暖化などにより、地球規模の課題が人々の生活に深刻な問題をもたらすようになりました。


その結果、これまでの経済活動や生活スタイルを続けることに限界が見え始めています。この先も安心して暮らすことのできる地球を維持するためには、自然環境と社会環境の課題に人類全体で取り組むことが求められています。


理系企業で働く人にとっても、代替エネルギーインフラシステムの開発といった観点から、新たなテクノロジーなどを駆使して状況改善に向けダイレクトに貢献できる可能性のある課題といえるでしょう。


17の目標に支えられるSDGs


SDGsは具体的に、以下の17の目標を掲げています。


  1. 貧困をなくそう
  2. 飢餓をゼロに
  3. すべての人に健康と福祉を
  4. 質の高い教育をみんなに
  5. ジェンダー平等を実現しよう
  6. 安全な水とトイレを世界中に
  7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに
  8. 働きがいも経済成長も
  9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
  10. 人や国の不平等をなくそう
  11. 住み続けられるまちづくりを
  12. つくる責任 つかう責任
  13. 気候変動に具体的な対策を
  14. 海の豊かさを守ろう
  15. 陸の豊かさも守ろう
  16. 平和と公正をすべての人に
  17. パートナーシップで目標を達成しよう

!uploadedImage


SDGsには、これら17の目標を達成するための具体的な169のターゲットも設定されています。このターゲットとは、上に挙げた17の目標それぞれを達成するために必要となる、具体的な行動指標です。


目標は互いに独立したものではなく、総合的な取り組みによる実現が必要とされています。たとえば、「飢餓をゼロに」するためには「質の高い教育」や「産業と技術革新の基盤」が不可欠といったように、相互の取り組みで持続可能な社会を目指そうとするものです。


政府や企業に求められるSDGsへの取り組み


SDGsに法的拘束力はありません。しかし、サスティナビリティー(持続可能性)のある世界を実現するために今何をするべきかを、各国政府が当事者として国内向けの枠組みにまとめ上げ、普及・実践に取り組むことが期待されています。


SDGsの浸透と普及のために、外務省は2017年より、ジャパンSDGsアワード という賞を創設し、SDGs達成に向けて優れた取り組みを行う企業や団体を表彰しています。こうした施策で注目度を高めることで持続可能性のある企業活動などを推奨、促進し、社会に大きなインパクトを与えるビジネスの世界からも変革を促そうとしているのです。


同アワード第1回において、最高賞であるSDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞を受賞したのは、北海道下川町。森林総合産業の構築や地域エネルギーの自給などを実践し、少子高齢化が顕著である地元地域の課題解決に取り組みました。


他、受賞した団体は、誰もが名前を知る大企業や都内の小学校、公益財団法人などバラエティに富みます。どの団体にも共通しているのは、SDGsの17の目標のうち複数の目標を達成した活動が見られたことです。


一例として、SDGs推進副本部長(外務大臣)賞を受賞した、石鹸や洗剤などを製造する化学メーカーのサラヤ株式会社を紹介します。


同社は、生活用水が不足しがちなアフリカ諸国に対してサスティナビリティーのあるパーム油原料を使用したアフリカ製アルコール手指消毒剤を供給することで、原地の衛生環境の向上と雇用創出を実践。さらに、衛生への取り組みによる多産から少子への移行、教育の機会確保、女性の社会進出というサイクルの実現への貢献が評価されました。


このように、一つの課題解決がその地域の抱える多面的な課題の解決へと繋がる取り組みがSDGsの実践において非常に重要とされます。


日本企業の、経営計画へのSDGs反映と実践


!uploadedImage


SDGsで掲げられた目標はどれも一朝一夕で達成可能なものではなく、計画的かつ長期的な取り組みが必要です。日本の大手企業の中には、中〜長期の経営計画や成長戦略にSDGsを組み込み、既に企業活動を通した持続可能性の実現に踏み出しているところがいくつもあります。


ここでは2社の理系企業、リコーと三井化学の取り組みを紹介します。


リコーグループ


オフィス機器やITソリューションなどで知られるリコーグループは、2018年2月に発表した成長戦略の中で、「すべての事業がSDGsの達成に貢献する」ことを明言。リコーは経営環境に影響を与えるメガトレンドとして「SDGsに貢献しない事業は淘汰される」 との見方も示し、社会課題解決と事業の両立を重視しています。


リコーは取り組みの一例として、クラウドベースのテレビ電話システムなどを開発し、ワークプレイスにおけるリモートコミュニケーションを促進。労働環境の是正や女性の社会進出を促す仕組みを提供しています。この仕組みは実際に旅行会社の遠隔接客サービスなどに用いられ、働き方改革に大きく貢献しています。


こうした事業はSDGsの「5. ジェンダー平等を実現しよう」や「8. 働きがいも経済成長も」の達成に寄与しているといえるでしょう。


三井化学グループ


2016年に「持続可能な発展を目指す2025長期経営計画」を発表した三井化学グループは、自動車から医療、エネルギーまで幅広い分野で活動する化学メーカーです。


同計画では、目指す未来社会の姿として「環境と調和した共生社会」「健康・安心な長寿社会」「地域と調和した産業基盤」 の3つが挙げられています。三井化学グループは低炭素・循環型社会やQOL向上の実現に貢献できる製品やサービスを強化していくことで、企業の成長と事業内容によるSDGs達成を両立する考えを打ち出していました。


持続的成長に向けた取り組みとして、電気自動車の普及に役立つリチウムイオン電池部材、航空機重量を低減することで燃料の削減に貢献する軽量素材、温室効果ガス削減のため家畜排泄物の窒素量を減らすことができる飼料などを開発。


これによりSDGsの「7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに」など温暖化対策に貢献し、こうした取り組みが国内外の他企業のロールモデルになり得る点なども評価され、ジャパンSDGsアワードではサラヤ株式会社と共にSDGs推進副本部長(外務大臣)賞を受賞しました。


他にも、数多くの企業がSDGs達成に向けた活動に乗り出しています。こうした活動は環境変革という物理的なインパクトの他に、企業価値やビジネスそのものの社会的評価の向上にもつながっていることから、今後もSDGsを重視した取り組みはさらに広がっていくと考えられます。


買い物の際に店舗で手に取る商品や、自分が働く職場のビジネスが、われわれの生きる社会にどんなポジティブな影響を与えているか、あらためて捉え直してみてはいかがでしょうか。

ライター
水田 真梨
X Facebook