富士フイルム研究:人の皮膚と写真には、共通点がある――多角化に成功した老舗企業の裏側とは

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LabBase Media 編集部

富士フイルム研究:人の皮膚と写真には、共通点がある――多角化に成功した老舗企業の裏側とは

「写真」「光学デバイス」「映像処理」「化粧品」「医療」「ヘルスケア」一見つながりがなさそうなこれらのキーワードが当てはまる日本企業をご存じだろうか。「チェキ」や「写ルンです」でおなじみの富士フイルム株式会社だ。 富士フイルム株式会社はカメラ分野を主事業としてスタートし、初心者向けからプロ向けまでの幅広いラインナップを国内でいち早くそろえた、業界の先駆けであった。 しかし、現在はカメラ事業で培った技術を化粧品や医療分野の研究開発に応用し、かつ知見が十分に蓄積していない分野や技術に対して積極的な企業買収や合併を実施。医療事業を包括するヘルスケア分野でのシェアを拡大している。 同社の特徴は、多角化した事業を抱えているがゆえに、出身業界や専門分野によって企業の見え方が異なる点だ。創業80年以上である富士フイルム株式会社は、どのような変遷をたどって今の在り方に着いたのか。その歴史と事業の移りかわりをひもときながら紹介していく。


時代に合わせて事業モデルを変化!富士フイルム株式会社とは?


まず、富士フイルム株式会社(以下、富士フイルム)の規模と事業概要について簡単に紹介しよう。同社は富士フイルムホールディングス株式会社の事業会社の一つである。他にはプリンターとクラウドサービスを主力とする富士ゼロックス株式会社、新薬開発メーカーの富山化学工業株式会社などが存在する。


1934年、前身企業である富士写真フイルム株式会社が創立された。同社創業の背景には、写真フィルム国産化の将来性と社会的責務を見据えて誕生した「大日本セルロイド株式会社」が関係する。


セルロイドとは、歴史上初めて作られたプラスチック。大日本セルロイドの初代社長森田茂吉氏は、セルロイドの新しい需要先として、写真や映画のフィルムに着目した。世界最大写真フィルムメーカーとの提携画策、試作品開発、工場選定、政府への支援要請などおおよそ15年かけて土壌を整えた。これが後の富士写真フイルム株式会社となり、現在の富士フイルムへとつながっていく。


2006年に社名を富士フイルム株式会社に変更し、創業から80年以上が経過した現在の業員数は4,988名、連結子会社まで含めるとその数は31,887名にものぼる。主力事業として展開しているのは「イメージングソリューション」と「ヘルスケア&マテリアルズソリューション」だ。


イメージングソリューション分野は、インスタントカメラチェキやフィルムや一眼レフなどのカメラ関連製品を扱う「デジタルイメージング」とTVや監視カメラなどのレンズを製品とする「光学デバイス」に分けられる。同社の社名から多くの人が想定するのはこちらの方だろう。


ヘルスケア&マテリアルズソリューション分野は、化粧品やサプリメントから医薬品や医療機器までを扱う「ライフサイエンス」をはじめ、印刷に関するさまざまなサービスを提供する「グラフィックシステム」などが挙げられる。他にも、政府や金融機関などで扱われるデータストレージメディアやSDカードといった記録メディア、半導体やイメージセンサー、センサー用フィルムといった産業機材なども扱う。


同社の2017年度売上高は「イメージングソリューション」が3,830億円、「ヘルスケア&マテリアルズソリューション」は10,026億円。それぞれ富士フイルムホールディングス内における売上の15.7 %と41.2%を占めており、グループ会社全体における約56.9%の売り上げを立てている。なお2015年以降、富士フイルムの売上は、グループ全体売上の半分以上を占める。


ここからは、富士フイルムの事業変化を理解する上で欠かせない「写真・フィルム事業」「化粧品事業」「医療事業」を見ていくことで、同社がどのようにして多角化企業として成功を収めたかを探っていく。


写真・フィルム事業の栄枯盛衰


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(引用元:https://www.photo-ac.com/main/detail/1582314)


1934年、富士写真フイルム株式会社(以下、富士写真)の設立から富士フイルムのカメラ事業は幕を開ける。現在の富士フイルムは、2006年10月に同社から事業継承をしている。


富士写真は、創業当初から銀塩写真(フィルム写真)を中心とした写真フィルム事業を展開しており、1948年にフィルムカメラ機のフジカシックスでカメラ市場にも参入。そこから富士写真専用レンズ(フジノン)の量産化が始まった。


写真フィルムや印画紙などの写真感光材料を主力として、カメラ好きだけではなくアマチュアも引きつけたカラーフィルムの開発も追い風となり、1970年度には売上高1,000億円を達成。1960年代までは銀塩写真を主軸として事業を展開するが、60年代は、磁気記録材料事業や感圧紙事業といった新規事業を拡大し、さらにゼロックス社の電子写真事業もスタートさせた。


1986年には使い捨てカメラ 「写ルンです」を発売し、同製品は一世を風靡した。しかし、すでに1980年代の初頭に医療現場において写真フィルムのデジタル化が始まっていたこともあり、一部の社員のあいだで「このままフィルム写真事業路線を貫くだけでいいだろうか?」という危機意識が芽生えていた。


事業の転換のきっかけは、2000年初頭に起きたカラーフィルムの世界総需要の急激な下落だった。それまでカラーフィルムの需要は世界的に上昇傾向にあったが、比較的安価なデジタルカメラの台頭により、2000年度を境にカラーフィルムの需要が前年比20%〜30%の急速な下落を示した(※1)。


2011年に公開された公開資料によると、ホールディングス全体における写真フィルムの売上比率は、2000年度は19%であったのに対し、2010年度には1%にまで低下したことが報告されている(※2)。


こうした主事業の業績低迷を受け、富士フイルムはデジタルカメラ分野への投資だけでなく銀塩写真事業を発展させた基礎研究や、フィルムカメラ関連の精密機器の生産で培われた技術で新規分野の開拓を進めていく決断をする。


  


フイルムの技術を活用!化粧品・サプリメント市場に参入


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(引用元:https://pixabay.com/photo-870763/)


同社が化粧品・サプリメント分野に参入したのは2006年のこと。人の皮膚の特性が写真フィルムの特性といくつかの点において類似していることが、事業転換の大きなヒントとなった。


たとえば、フィルムと肌は主原料がコラーゲンであり、肌の角層とフィルムはほぼ同じ厚みを持つ。富士フイルムはこれまで、銀塩写真をより美しく感光紙上に乗せるための抗酸化技術やナノテクノロジー研究を発展させてきた。その成果を、肌を美しくするための研究に応用し、この新規事業を立ち上げたのだ。


化粧品分野の代表的な商品は、赤いパッケージが目を引く 「ASTALIFT(アスタリフト)シリーズ」や糖の吸収を抑え腸内環境を整えるサプリメント「メタバリアシリーズ」などが挙げられる。


ASTALIFTシリーズの一部商品は、女性誌においてベストコスメ賞獲得やランキング入りをするなど、市場で一定の評価を受けているだけでなく、化粧品として初めて、科学技術的に秀でた進歩性と顕著な実証効果をあげている製品に贈られる「全国発明表彰」を受賞。メタバリアシリーズは独自の安定化技術と配合成分の組み合わせについてそれぞれ特許を取得した。


写真やカメラのイメージが根強かった富士フイルムだが、化粧品事業において着実に力を伸ばしたことでブランド力を強めていった。その結果、市場において一定の認知度を得て、ついに「ユニークな多角化に成功した富士フイルム」が完成された。


2016年に公開された資料によると、化粧品・サプリメントが含まれるヘルスケア事業は、およそ4,242億円の売り上げを達成した。これは、ヘルスケア事業が所属するヘルスケア&マテリアルズソリューションの総売上(9,642 億円)の44%に相当する。同年のイメージングソリューションの売上高3,533億円と比較すると、ヘルスケア事業がいかに驚異的なスピードで富士フイルムを支える大きな柱に成長したかがうかがえる。


  


医薬品企業M&Aから考える富士フイルムが見据える今後の狙いとは?


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(引用元:https://pixabay.com/photo-3222079/)


創業からの主力事業と多角化による新たな事業の2つを完成させた今、富士フイルムは次なる事業の柱としては「予防・診断・治療の包括」による成長を目指している。予防と診断については、自社製品で培った知見や技術を活用して事業を拡大。一方で医療用治療薬など自社で開発技術やノウハウを持たない分野については、M&Aを通して該当領域に実績のある企業を傘下に加えることで進出を図る。


M&Aについて一例を挙げると、2008年に富山化学工業、2017年には武田薬品の子会社である国内試薬大手メーカーの和光純薬工業株式会社のM&Aを行った。海外企業のM&Aにも積極的で、2015年はiPS細胞の開発・製造のリーディングカンパニーである米国のCellular Dynamics International, Inc.、2018年にはJXTGホールディングスから米国で培地を手がけるIrvine Scientific Sales Companyを買収した。


富士フイルムは中期経営計画「VISION2019」においてさらなる売上・利益成長を加速させるための投資枠として、総額5,000億円のM&A投資を打ち出している。引き続き予防・診断・治療の領域拡大に向けて、国内外の企業に対して積極的なM&Aが行われることが予想される。


医療事業の発展は、カメラ・フィルム事業の研究が幹となっていることはいうまでもない。今後も主力である予防・診断・治療といった医療事業を包括する拡大し、富士フイルムがグループ全体に占める割合を増加させることを目指す。2019年度の目標としては売上5,000億円、営業利益8.0%を掲げており、医療事業全体の底上げを現在進行形で進めている。


  


おわりに


富士フイルムは、時代の潮流に合わせて研究を柔軟に応用し事業を展開することで多角化を見事に成功させた企業だ。特に今後より強力な主力へと成長していくであろう医療事業は、理学、工学、医学のどの分野のエキスパートにも門戸が開かれた領域である。富士フイルムで働くことは、領域を超えて各分野のプロフェッショナルたちと仕事に取り組むことを意味する。こうした環境で働くことは、職種問わず理系人材として必要な柔軟な思考や経験を培うのにうってつけではないだろうか。


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引用元:


※1.富士フイルムホールディングス 2017年12月3日実施 大和インベスター・リレーションズ主催「個人投資家説明会」公開資料富士フイルムグループの成長戦略


※2.富士フイルムホールディングス 株主・投資家情報

ライター
スギモト アイ
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