「高齢者ビジネス」×「理系企業」5社の注目サービス・製品

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LabBase Media 編集部

「高齢者ビジネス」×「理系企業」5社の注目サービス・製品

人口減少と少子高齢化傾向の日本マーケットで、シニアビジネス(高齢者ビジネス)は需要拡大が確実な分野の一つとされ、メーカーなど各社の参入が相次いでいます。 高齢者の生活や介護の現場にはどのような困り事があり、ビジネスはそれに対しどのようなソリューションを提供しているのでしょうか。「高齢者」や「介護」を支える注目ビジネスのうち、理系院生も気になる三菱電機、トヨタ、パナソニック、ソニー、花王の5社のサービス・製品をピックアップして紹介します。各企業が掲げるミッションとプロダクトの関係性も併せてチェックしていきましょう。


シニアビジネスとは?


内閣府の発表によると、2017年10月時点で日本の総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は27.7%で、 国民の4分の1以上が高齢者 です。高齢化率の上昇は今後も続くと予想されており、ビジネスの世界でも高齢者マーケットへの注目度は高まりつつあります。


近年では シニアビジネスというジャンルも登場。介護や医療分野だけでなく、高齢者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)の向上に貢献するサービスや製品へのニーズも注目を集めています。定年退職後の人生を謳歌するアクティブなシニアの増加により、若い世代とは異なるライフスタイルが新たな需要を生み出しているのです。


たとえば高齢者の行動ペースに合わせた旅行のパックツアーや、若者向けとは異なるテイストや量の食事、おしゃれなデザインの杖や車椅子など、シニアビジネスのアイデアは衣食住の多岐におよびます。


2025年問題 − 団塊の世代が高齢者に


人口減少と少子高齢化を考える上で重要な、「2025年問題」というキーワードがあります。 団塊の世代が75歳を超えて後期高齢者となることで、 国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となるのが2025年。世界がまだ経験したことのない人口バランスになることで、医療・介護分野などの人手不足が深刻化し、サービスそのものが破綻する可能性があるといわれています。


高齢者の増加と生産年齢人口(15〜64歳)の減少が同時に起こることで、介護や高齢者の生活をサポートする家族の負担が増せば、多くの人の生活にひずみが生じてくるかもしれません。元気な高齢者にとっても、独居世帯の不安を解消することや快適な暮らしを維持することは1人ではなかなか難しいものです。


こうした事態に対応すべく、AIやIoTをはじめとする先端テクノロジーをシニアビジネスに活かす動きが活発化しています。以下、介護省人化、高齢者の孤立対策、高齢者と家族のQOL向上の3つのポイントから、注目すべき日本企業の取り組みを紹介します。


介護省人化のためのビジネス


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重労働・低賃金といわれる高齢者介護業界は、深刻な人材不足に直面するビジネスの一つ。働き手がいなければ、高齢者のQOLの低下や健康被害にもつながるかもしれない……。そんな介護業界を、テクノロジーの力で支えるシニアビジネスがあります。


三菱電機の「業務効率化システム」で人材不足に光


三菱電機ビジネスシステムは、介護や医療、調剤の現場をサポートするITシステムで業界のハードワークや人材不足にソリューションを提供しています。


施設側の介護報酬請求など煩雑な業務をモバイル端末から行えるシステムや、リハビリ記録の一括管理システム、スタッフや顧客情報の管理など、介護施設に関わる全ての事柄を総合的にサポートする三菱電機のシステムは、介護業務の省力化に貢献。システム導入により業務の効率化を図ることで、最低限のスタッフ数でも少ない負担で介護業務の遂行が可能になります。


同社は企業理念を「三菱電機ビジネスシステムは、真摯な努力を積み重ね、高品質で信頼される技術に基づくシステム・製品・サービスを通じて、躍進するお客様の豊かな企業活動に貢献します」と掲げています。


三菱電機の企業をサポートするというポリシーは介護業界にとどまらず、製造業などの分野でも産業用ロボットやICT(Information and Communication Technology=情報通信技術)を用いたFA機器(工場自動化機器)により人材不足を解決しようとしています。


トヨタ自動車の「介護ロボット」と「自動運転車」


介護をする人とされる人、双方の負担を軽減する介護ロボット。入浴や排泄など要介護者の様々な生活行動を支援する介護ロボットが登場する中、トヨタ自動車が開発したのが「ウェルウォーク WW-1000」という下肢不自由者の歩行リハビリを支援するロボットです。医療機器承認を得て、2017年秋から医療機関向けにレンタルを開始しています。


同社はリハビリ支援ロボットのほか、要介護者がベッドからトイレへ移るなどの行動を支援する移乗ケアアシストという介護ロボットも実用化に向け実証実験を進めています。


トヨタは、「すべての人に移動の自由を、そして自らできる喜びを」というビジョンに基づき、産業用ロボットや自動車開発の技術を応用したロボット開発など、高齢者の自立した生活と介護者の負担低減に向けた事業に取り組んでいます。


すべての人、つまり車の運転ができない人にも移動の自由を提供するという方針のもと、トヨタは自動運転車の開発・投資にも注力。高齢者や体の不自由な人も、安全・快適に移動ができる社会の実現を目指しています。


高齢者の孤立を解消するビジネス


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日常的に介護・医療機関を利用していない高齢者でも、体調の急変やケガの際にすぐに駆けつけられる家族が近くにいないのは不安なもの。シニアビジネスは、そんな1人暮らしの高齢者の不便や孤立の解消にもソリューションを提供します。


パナソニック、「IoT見守りサービス」の実証実験


パナソニックは2018年8月、関西電力、メディカルシステムネットワークとの3社共同で高齢者の生活見守りサービスの事業化に向けた実証実験の開始を発表しました。IoT家電やセンサーなどを用いて、主に在宅高齢者(自宅で生活する高齢者)の緊急事態に備えるというサービスです。


具体的には、独居高齢者のエアコン利用や電力使用量、服薬支援機器の利用状況などのデータをIoTシステムを通じて収集・分析。通常の生活パターンなどを把握した上で、緊急の駆けつけが必要な事態を判断するというサービスです。緊急事態発生時は、公的な地域支援活動や民間の在宅介護事業者などの提携先に連絡がいく仕組みになっています。


エーザイやオムロンヘルスケアなども機器を通じてこの実証実験に関わっており、事業化に成功すれば在宅高齢者の暮らしに総合的な安心が提供されることになります。


事業を通じて社会の発展に貢献する」を経営理念に掲げるパナソニックは、高齢者住宅や在宅介護サービス、介護機器なども提供しています。


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ソニーの「aibo」が介護犬に?


ユーザーの皆様に感動をもたらし、人々の好奇心を刺激する会社であり続ける」を企業のミッションとして掲げるソニーは、機能性と暮らしの喜びを組み合わせたプロダクトでシニアビジネス界での存在感をアピールしています。


ソニーのaibo(アイボ)といえば、本物のペットを飼う疑似体験ができる犬型ロボットとして知られていますが、介護施設への導入も始まっています。aiboを導入したソニー・ライフケア傘下の介護付き有料老人ホームでは、aiboと触れ合うために行動が活発化した高齢者もいるなど、本物のアニマル・セラピーさながらの効果も出始めているようです。


aiboは顔認証システムやAI技術で人の顔を覚えて反応するコミュニケーション・ロボットとしての機能を持つだけでなく、コミュニケーションデータの蓄積も可能。介護施設への導入で確実な成果が得られれば、aiboが在宅用の疑似ペット兼見守りシステムとしての機能を果たす日が来るかもしれません。


ソニーは他にも、音声操作によるメッセージ送信などが可能なコミュニケーション端末
Xperia Hello!の高齢者単身世帯での活用も推進。Xperia Hello!は、端末が顔認証を行いLINEやSkypeの受信メッセージを読み上げてくれたり、家の外からでもスマートフォンを通じて家の中の様子を見ることができたりと、IoTを活用して高齢者の孤立防止に役立つ機能が満載です。


高齢者と家族のQOL向上に役立つビジネス


人が心豊かに生きていくためには、必要最低限の安心・安全以上の満足が得られることも重要です。高齢者のQOL向上のため、化学メーカーもシニアビジネスに乗り出しています。


花王は 「消臭製品」や「高級白髪染め」で暮らしを豊かに


家庭で介護をされる高齢者本人と介護をする家族にとって、排泄物などの汚れやにおいはストレスや負担になり得る問題です。


「アタック」「リセッシュ除菌EX」「クイックル 除菌おそうじシート」など、これまで数多くの生活衛生用品を開発している花王は、人の尿臭に特化した「消臭ストロング」というシリーズを発売。においの元となる雑菌の働きを阻害する同社開発成分「尿臭ブロッカー」を使用し、においの発生を抑制する仕組みです。


花王が企業として掲げる使命は「消費者・顧客の立場にたって、心をこめた“よきモノづくり”を行ない、世界の人々の喜びと満足のある豊かな生活文化を実現するとともに、社会のサステナビリティ(持続可能性)に貢献する」。


豊かな生活文化への取り組みは、同社の高齢者をターゲットにした天然成分100%の高級白髪染め製品「リライズ」などにも反映されています。シニアビジネスは、長寿社会を実現するだけでなく、高齢者が生き生きと暮らせる社会をさまざまな角度から支えているのです。


まとめ


ここまで見てきたように、まだまだ実証実験段階の事業も少なくないのがシニアビジネスの現状です。しかし医療・介護以外にもビジネスが介入できるポイントは多く、今後も理系分野の企業が高齢者のQOL向上のためにできることは多くあると考えられます。すでにシニアビジネスに参入している企業だけでなく、超高齢化社会の未来に目を向け、これから乗り出そうとしている企業にも注目していきたいです。



ライター
水田 真梨
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