温暖化ビジネスの挑戦者たち――「緩和と適応」を考える①建材・資材メーカー編

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LabBase Media 編集部

温暖化ビジネスの挑戦者たち――「緩和と適応」を考える①建材・資材メーカー編

温暖化ビジネスという言葉が生まれるほど、気候変動の深刻さに対する事業的ソリューションの提供が活発化しています。モノの飽和する時代に高付加価値の商品・サービスで他社との差別化を図る必要性も相まって、温暖化ビジネスは企業の技術や開発力を発揮しながら気候変動問題を解決する社会貢献事業として浸透しつつあるのです。 国連のSDGs(持続可能な開発目標)の観点からも不可欠な地球温暖化対策は、「緩和(温暖化を和らげる)」と「適応(温暖化に対応できる暮らしを作る)」の両側面からのアプローチが重要です。個人レベルの対策では限界があることから企業の役割への期待が高まり、化学メーカーや電機、エネルギー、建材分野などさまざまな企業が、社会貢献をしながら利益を生む温暖化ビジネスに挑戦しています。 理系就活生にとって、各社の発想力や求められる人材を知るポイントにもなる温暖化ビジネスへの各社の取り組みを、今回は建材・資材メーカーについて紹介します。


温暖化による「住環境の悪化」を防ぐ


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地球温暖化や都市部のヒートアイランド現象の発生に伴い、日本では気温が30度を超える「真夏日」が年間を通じて増加傾向にあります。同時に、熱中症の患者数や死亡者数も増加しており、特に高齢者の熱中症は全体の約半数にものぼります。


環境省のデータによると、2012~2016年の夏期(6〜9月)に熱中症で医療機関を受診した人の数は 29~39万人にものぼり、2010年代の熱中症による 死亡者は毎年500〜1,700人ほど。そのうち70%以上を占める65歳以上の高齢者の、もっとも多い死亡場所は家庭です。若者より暑さを感じにくい高齢者は冷房器具の使用を控えてしまうことが多く、蒸し暑い住宅の中で気づかぬうちに熱中症にかかっています。


温暖化環境に「適応」する家の必要性


しかし、換気のために夜間などに窓を開けるのは防犯やプライバシーの問題もある上、気密性が低いとエアコンの効きも悪くなるという悪循環に陥ってしまいます。今後も続く温暖化傾向を考えると、住宅での熱中症はもはや個人で対処できるレベルを超えてしまっているのです。


こうしたジレンマを解決するのが「断熱性と気密性」 という条件がセットになった住宅であり、それを叶える建材や資材です。断熱をせずに気密性だけが高いと外気温に影響されやすくなりますが、特殊な窓や断熱材で外からの熱をシャットアウトし屋内に入れない工夫をした上で気密性を高めれば、室温を快適に保ちエアコンの省エネ利用も可能になります。メーカーはこうした温暖化時代の快適な住まいの在り方を提案しています。


高齢者のほか、体の熱を発散しにくい乳幼児なども熱中症の被害者になりやすく、住宅での熱中症対策は幅広い年代の人にとって早急に解決すべき課題です。同時に、住宅建設や建材・資材の製造工程で温暖化ガス(CO2など)を大量に排出すれば温暖化の悪化につながるため、エコな生産方法による温暖化の「緩和」もメーカーには求められます。こうした背景を踏まえ、建材・資材の開発においては物質工学や工業化学だけでなく、人体のしくみや環境、気候についての知識や関心を持つ人材のニーズの高まりも予想されます。


メーカー各社の取り組み


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日本のハウスメーカーや資材メーカーは、温暖化に伴う猛暑や酷暑、熱帯夜から身を守り熱中症を防ぐ家づくりのため、以下のような取り組みを行っています。


建築材料・住宅設備機器業界の最大手「LIXIL」


LIXIL(リクシル)は、新築からリフォームまで、ライフスタイルに合わせたさまざまな温暖化対策のソリューションを住宅に提供。自治体とも協働して室内熱中症対策強化を推進しています。


まず、シェードやオーニング、断熱スクリーン など、後からでも取り付けやすい日よけ設備によって、普通のカーテンより多くの太陽熱をカット。断熱効果を上げる「1dayリフォーム」による窓やドアなどの開口部のリフォーム で室温の快適さをアップさせるほか、アルミや樹脂を使った特殊な窓なども提供しています。


省エネと気密・断熱性を実現するLIXILの高性能住宅工法「スーパーウォール」には、太陽光発電、遮音構造、耐震性機能など、熱中症対策だけではない総合的な快適さがパッケージされています。


大手ハウスメーカー「一条工務店」


一条工務店は、温暖化対策や循環型社会への取り組みにより、環境省からエコ・ファースト企業の認定も受けています。


断熱性能の高いプラスチック・サッシ は高額なため普及が進んでいませんでしたが、一条工務店は部材調達や生産方法の見直しにより、低価格化を実現。ほかにも、熱の遮蔽に役立つ低放射複層ガラス、ビーズ法ポリスチレンフォーム、ウレタンフォームなど高性能建材を手の届きやすい価格で提供し、これらの建材を用いて高断熱・高気密性を兼ね備えた「夢の家」も販売しています。


一条工務店は住宅の省エネ化だけでなく、自社工場や建設現場でも省エネとCO2排出量の削減に取り組み、熱や素材のリサイクル、作業のマニュアル化による無駄の削減などを実施しています。


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アルミ建材メーカー「YKK AP」


「小さなエネルギーで快適に暮らす」というテーマを掲げ、YKK APは住宅の中でも特に熱の出入りの総量が多い「窓」に注目。YKK APのアルミと樹脂の複合素材の窓(樹脂窓)と、外部のシェードやオーニングとの併用により、デザイン性も兼ね備えた暑さ対策が可能になります。


また、屋根に天窓 を設置することで、壁の窓より数倍高い通風効果と採光効果、そして住宅密集エリアでもプライバシーを守りながら熱を調節することを提案。熱の遮断だけでなく風や光にも目を向け、YKK APはビルの外壁メーカーとしても、温度をコントロールする環境配慮型外装システムを市場に供給しています。


建材メーカー「旭化成建材」


ALC(軽量気泡コンクリート)や断熱材などの製造と施工を得意とする 旭化成建材は、木造住宅建設、リフォーム、鉄骨・鉄筋コンクリート構造建築などに適した断熱材「ネオマフォーム」 を開発しました。高性能断熱材としては業界初となる、フロンガスや代替フロンを一切使用しない製品です。


従来の充填断熱工法(断熱材を壁の中に入れる)に対し、旭化成建材は外張り断熱で断熱効率をアップする方法を提案しています。外張り断熱は断熱材内部での結露が起きにくく、建物そのものが水分で傷むのも避けやすいとのこと。


旭化成建材が消費者向けに運営している 「 断熱のすすめ」という専用サイトでは、温暖化や省エネ、断熱の仕組みについても分かりやすく解説し、啓蒙にも力を入れています。


建材・ハウスメーカー各社は、断熱・気密性の向上という環境への「適応」により人々の生活環境を改善し健康を守る事業を中心に、温暖化対策を推進しています。さらに、製造工程での温暖化ガス排出の削減という温暖化「緩和」の側面へのアプローチを進めるメーカーもあります。


「住宅の温暖化対策」の業界は、アイデアや新技術を現実のプロダクトに還元できるという点でやりがいも十分。今後は各社の競争力強化や製品のさらなる差別化も必要になり、ますます多様な人材が求められると考えられます。


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ライター
水田 真梨
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