ー 後編 ーEVの次はFCV。「水素社会」は今、どこまで進んでいる?

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LabBase Media 編集部

ー 後編 ーEVの次はFCV。「水素社会」は今、どこまで進んでいる?

前編では、代替エネルギーとして水素を使うことのメリットと、実際に水素エネルギーがどのように使用されているかをご紹介しました。 後編となる本記事では、水素社会の現状をお伝えし、他国や日本で実際に動き始めているプロジェクトや、今後に向けた課題と展望をご紹介します。

前編はこちらよりご覧ください。


日本の水素社会の現状


2017年12月、日本政府は低炭素社会の形成に向けて「水素基本戦略」を決定しました。従来のガソリンやLNGの代替エネルギーとして水素を位置づけ、世界に先駆けて水素の生産から利用までを国として推進。2030年までに商用規模のサプライチェーンを構築する方針です。


低排出でサスティナブルな水素社会が実現すれば、同時に、エネルギー自給率6〜7%という日本のエネルギー安全保障の現状を改善し、世界への技術輸出なども見込めます。就活生が今後の日本経済や社会動向をリサーチする上でも、水素は重要なキーワードといえるでしょう。


オーストラリアで褐炭から水素へ


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上述の水素基本戦略の一環として、日本・オーストラリア両政府が資金を供与する「褐炭水素パイロット実証プロジェクト」 が2018年4月に開始。これは水素社会実現の要となる水素供給を、輸入に一部頼ることが可能かを確かめる実証実験で、オーストラリアで未利用資源の褐炭から製造した水素を液化し日本へ輸送するという世界初の取り組みです。川崎重工業、電源開発、岩谷産業、丸紅、オーストラリアのエネルギー大手AGLエナジーの5社による合弁事業(Hydrogen Energy Supply Chain、HESC)が手がけ、設備設計、建設などを経て2020年から運用試験スタートと予定されています。


褐炭とは、石炭の一種ですが、炭化が十分ではないために発熱量が少ない低品質の褐色をした石炭を指します。褐炭は世界の石炭埋蔵量の約半分を占めるといわれますが、水分や不純物が多く、重いために輸送効率も悪く、これまで用途は非常に限定的でした。


しかしクリーンコールテクノロジーの一つとして褐炭から水素を取り出す研究が進んだことで、今回HESCのプロジェクト開始に至りました。水素は低温で液化すると体積が800分の1に減るため、輸送するには現実的。一連の計画が成功すれば、褐炭という資源を無駄にせずに済み、水素の安定供給が実現しますが、水素製造・輸送過程での温暖化ガス排出の有無などについては今後に注目です。


福島に水素の製造・貯蔵施設を建設へ


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国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「福島水素エネルギー研究フィールド完成イメージ」


日本国内で水素を製造・貯蔵する動きも進行中です。2018年8月に着工した福島県浪江町の「福島水素エネルギー研究フィールド」は、東芝エネルギーシステムズ、東北電力、岩谷産業が政府の協力を得て設立を進める水素エネルギーシステムで、2020年からの本格運用を目指しています。


同施設では太陽光と風力発電の電力を使用して、旭化成によるアルカリ水電解システムで水素を製造し、製造された水素はモビリティーや発電、工場燃料のために供給される予定です。国内で水素を製造できれば輸送エネルギーやコストも抑制できるだけでなく、 製造段階に再生可能エネルギーを利用し炭素排出を抑えることで、水素エネルギーはクリーンエネルギーとしての真価を発揮することになります。


商用水素ステーション100カ所オープン


水素で走るFCVの普及には、燃料供給スポットの増設が不可欠です。ガソリン車でいうところのガソリンスタンドにあたる水素ステーションは、EVの充電スポットと比べ高額な初期投資が普及の障壁ですが、日本全国で少しずつ建設が進んでいます。


政府の水素基本戦略に基づき2018年2月、水素ステーション整備の推進役として「日本水素ステーションネットワーク合同会社(JHyM、ジェイハイム)」が設立され、「2020年度までに水素ステーション160カ所程度の整備、FCVの4万台程度の普及」などを目標に掲げました。JHyMは、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、JXTGエネルギー、出光興産、岩谷産業、東京ガス、東邦ガス、日本エア・リキード、豊田通商、日本政策投資銀行の11社による合同事業です。


経済産業省は2018年3月から助成金を拠出し、水素ステーション建設のサポートを開始。日本国内の水素ステーションの設置数は約100カ所まで拡大しました(2018年10月現在)。なお、FCV購入者向けの助成金も用意されていますが、助成金を活用してもEVなどのエコカーに比べまだまだ高額なのが実情です。


世界初、神戸で水素100%発電の実証実験に成功


兵庫県神戸市では、 神戸港内の人工島・ポートアイランドに建設された水素発電システムにより2018年4月、世界初となる水素発電100%による電力と熱を市街地に供給する実証実験が成功しました。電熱供給の対象となったのは4つの大型施設。今後、季節ごとの実証データを収集した上で、いずれは一般家庭や産業用の電力供給も可能になる見込みです。神戸市は、水素発電と水素社会実現の第一歩を、世界に先駆けて踏み出しました。


これは神戸市が進める「水素スマートシティ神戸構想」の一環で、公民連携で水素利用のさまざまな取り組みが行われています。上述の水素発電は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業として、大林組と川崎重工業が実施したものです。


また、「褐炭水素パイロット実証プロジェクト」でオーストラリアから輸入される褐炭由来の液体水素は、神戸のポートアイランドに到着し巨大タンクに貯蔵される予定。神戸市は褐炭水素サプライチェーンの中でターミナルとして機能する都市になります。神戸市が水素社会のモデル都市として成功し、水素利用に取り組む自治体が増えれば、関連サービスや機器の普及に伴い有識者や技術者の需要はますます高まることが予想されます。


水素社会の課題と展望


水素社会の実現に向けた水素製造や利用の取り組みはまだ始まったばかりですが、FCVのように既に利用可能なものもあります。褐炭水素プロジェクトやプラント建設などが開始された2018年は、水素社会にとって大きな節目の年といえるでしょう。その上で、水素エネルギー普及に向けて以下のような課題もあります。


  • 水素の製造・輸送工程もクリーンである必要がある
  • FCV普及には水素ステーション増設が不可欠
  • FCV車両の価格高は個人所有の障壁
  • 実証実験段階の水素発電は安全性などの確認が急がれる

太陽光や風力などの再生可能エネルギーと水素エネルギーを適材適所で併用することも、これからの時代の代替エネルギー利用の常識となっていくかもしれません。世界が未だ見ぬ水素社会に向け歩みを進める日本で、確かな知識や技術に加え、新時代の価値を生み出し支えるクリエイティブな人材が今後ますます求められるはずです。


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ライター
水田 真梨
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