温暖化ビジネスの挑戦者たち-「緩和と適応」を考える②【IoT・AI活用編】

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LabBase Media 編集部

温暖化ビジネスの挑戦者たち-「緩和と適応」を考える②【IoT・AI活用編】

「温暖化ビジネス」という言葉が生まれるほど、気候変動の深刻さに対する事業的ソリューションの提供が活発化しています。モノの飽和する時代に、高付加価値の商品・サービスで他社との差別化を図る必要性も相まって、温暖化ビジネスは企業の技術や開発力を発揮しながら気候変動問題を解決する社会貢献事業として浸透しつつあるのです。 「緩和(温暖化を和らげる)」と「適応(温暖化に対応できる暮らしを作る)」という2つのアプローチを持つ地球温暖化対策。個人レベルの対策では限界があることから、企業の役割への期待が高まり、化学メーカーや電機、エネルギー、建材分野などさまざまな企業が、社会貢献をしながら利益を生む温暖化ビジネスに挑戦しています。 理系就活生にとって、各社の発想力や求められる人材を知るポイントにもなる温暖化ビジネスへの取り組みについて、今回はAI・IoTを活かした製品・サービスを提供する企業や自治体を紹介します。


先端技術による温暖化対策


炭素排出の削減や、代替エネルギー利用を促進といった取り組みだけでは、温暖化の抜本的な解決には至りません。


そこで今注目されているのが、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)といった次世代テクノロジーを活用した温暖化ビジネス。人の力だけでは難しい統合的な管理システムでエネルギー利用を効率化し、機械運転の効率的な制御、機器メンテナンス、スマートハウスなど、温暖化の「緩和」に貢献するサービスを提供しています。


IoT・AIと温暖化ビジネスのマッチングを考える上で、以下のキーワードをしっかり把握しておくと、気候変動へのソリューションとして何が求められているか、理解が深まるはずです。


HEMSとは?


「Home Energy Management System」の略語であるHEMS(ヘムス)は、家庭内のエネルギー利用を統合的に管理するシステム として、既に導入が進められています。家庭のガスや電気、水道などの利用量を「見える化」して把握できるだけでなく、タブレット端末やパソコンから家電を遠隔操作するなどエネルギーの一元管理がHEMSの最大の特徴です。


HEMSを導入すると、たとえば、日々のエネルギー消費量が意識しやすくなるのと同時に、消し忘れた家電や照明のスイッチを出先から切るといった省エネのサポートが可能になります。太陽光発電システムとの連動によるエネルギー創出と消費のバランスを総合的に管理するサービスもあり、HEMSはスマートハウス(エコ住宅)に欠かせない機能となりつつあります。


HEMS対応家電の普及など課題もありますが、政府は2030年までにHEMSを住居の標準装備とすることを目標に補助金を拠出しており、エネルギー利用の無駄をなくすことによる温暖化対策の重要な一手と考えられています。


スマートシティとは?


スマートハウスやスマートビルは、エネルギー効率を高めるためにIoT技術を駆使した運用管理システムを使った家屋やビルのこと。さらにその概念を街全体という広大な範囲に適用したのがスマートシティです。


電気、ガス、水道、通信、交通などのインフラをIoTシステムでつないだり、EV(電気自動車)など環境負荷の少ない設備を導入したりすることで、暮らしているだけでサスティナブル(持続可能)な社会を実現できるのがスマートシティ。アメリカやカナダでは大規模なスマートシティ・プロジェクトが進行中で、日本でも一部の自治体で始まっています。


これらのキーワードを基に、日本企業や自治体の取り組みを見ていきましょう。


東京ガスの「スマートメーター」


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日本最大手のガス事業者・ 東京ガスは、IoT向け無線ネットワーク規格Wi-SUN(ワイサン)のUバスエアというプロファイルを使ったガス用スマートメーターの導入を進めています。


スマートメーターとは、ただガス使用量を計測するだけではなく通信機能を持ち、HEMSに活用される画期的な次世代型のメーターです。ガスの使用を遠隔で制御でき、使いすぎや消し忘れといった無駄や危険を解消。スマートメーターが全戸に普及すれば、利用データ収集によりさらなる省エネ支援が推進できるほか、検針業務も効率化されます。


東京ガスは、原料調達から輸送、LNG基地でのエネルギー利用、高効率ガスコージェネレーションシステムによる分散型発電システムの普及など、サプライチェーンのあらゆる段階で温暖化防止への取り組みを進めています。ただガスを供給するだけでなく、快適でクリーンなエネルギー利用を全面的にバックアップする企業へと発展しているといえるでしょう。


パナソニックの「エネマネ」システム


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大手電機メーカーのパナソニックは、エネマネ(エネルギー・マネジメント)、そして省エネ、創エネ、蓄エネという視点で製品やサービスの開発を行っています。特に同社の「スマートHEMS」というシステムはIoTを駆使したエネマネの象徴的な家庭用製品で、以下のような機能を備えています。


  • 電力使用量をモニターで見える化
  • 電気製品を自動制御して節電
  • 電動窓シャッターや空調機器と連携
  • 省エネ・創エネ・蓄エネ機器と連携、遠隔操作
  • 利用データをクラウド集積しスマートフォン・アプリで管理

また、同社が販売している「AiSEG2(アイセグ2)」は、家電や住宅設備機器のIoTシステム。例えば、AI機能が天気予報を確認した上で、太陽光発電の余剰電力でEVを充電することも可能です。ただ温暖化に対応しエネルギー利用を効率化するだけでなく、暮らしの快適さも同時に提供する優れたシステムといえるでしょう。


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横浜市の「スマートシティ・プロジェクト」


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日本では先駆けて2010年から 横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)実証事業を行った神奈川県横浜市。約368万人が暮らす大都市をスマートシティ化するこの試みは、市民のほか東芝やパナソニック、東京ガス、東京電力、アクセンチュア、日産などの企業の協力を得て、2015年までにHEMSを4,200件、太陽光パネルを37MW、EVを2,300台など、導入目標を上回る結果をたたき出しました。


ほかにもスマートビルやスマートマンション、コミュニティー全体のエネルギー需給を管理するCEMS(セムス)、発電装置などの監視・制御を行う仮想蓄電池SCADA(スキャダ)など、スマートシティの要となるシステムや設備を導入し、IoTやAIを駆使したエネルギー循環型都市の実現に大きく一歩を踏み出しました。


こうした実証結果を踏まえ、横浜市北区で2018年3月にスマートシティ「Tsunashima サスティナブル・スマートタウン(綱島SST)」が完成。横浜市のほか、パナソニックや野村不動産、慶應義塾大学などが連携して開発が進められ、分譲マンションや国際学生寮、アップル社の技術開発施設、商業施設、FCV(燃料電池車)のための水素ステーションなどが立ち並びました。綱島SSTは炭素排出量を2005年より40%削減するなどの目標を掲げ、 持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指す街として動き出しています。


低炭素排出でエネルギー循環型のスマートシティは現実のものとして、サスティナブルな未来を創り始めているのです。そこには自治体や企業、大学などの英知が集結し、クリエイティブな人材が活躍しています。


IoTやAI技術を活かして温暖化対策と地球の未来に貢献するなら、スマートシティやそれを支えるシステムを世に普及させるという働き方を、選択肢に加えてみてはいかがでしょうか。


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ライター
水田 真梨
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