バイオテクノロジーで、昨日の不可能を今日可能にする――ミドリムシで世界を変える「ユーグレナ」が描く未来

インタビュー

LabBase Media 編集部

バイオテクノロジーで、昨日の不可能を今日可能にする――ミドリムシで世界を変える「ユーグレナ」が描く未来

燃料分野にも進出し、常に新領域へと研究の裾野を広げるユーグレナが求めるのは、パッションと異分野への柔軟性を持った人材。ユーグレナ創業メンバーでもある鈴木健吾氏に、研究者としての視点から、必要な人材像や通年採用システムのメリット、未来のビジョンを伺った。


ミドリムシは、化粧品にも燃料にもなれる


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――ヘルスケアからエネルギーまでの幅広い事業分野は、創業当初からのプランだったのでしょうか?


もともと大学時代に当社の社長と私が出会い、「ミドリムシを用いて、世の中の課題を解決することができるのでは」という考えから始まった会社です。


農学部在籍中に学んだ「バイオマスの5F」は、林業などでバイオマス資源を主に5つの利用用途――食料(food)、繊維(fiber)、飼料(feed)、肥料(fertilizer)、燃料(fuel)――に分類できるという考え方で、これをミドリムシにも当てはめて事業化できるはずだと思いました。


ミドリムシには、食品のほかプラスチックなどの繊維原料、また餌、肥料、燃料という用途も。「発展途上国の食料問題をミドリムシで解決できると面白いね」という話が社長と私の間に持ち上がったことから研究を進め、バイオベンチャー支援の追い風も受けたことで、2005年に法人化しました。


現在は沖縄の石垣島でミドリムシを大量に作り、それを食品や化粧品として販売することがメインの事業収益。また、ミドリムシでジェット機の燃料を作るプロジェクトも進行中で、2020年までに商用の飛行機にミドリムシ由来の燃料を供給する計画です。


――最近は新領域として、ユーグレナ傘下の遺伝子解析サービス会社ジーンクエストと共同で、「ユーグレナ・マイヘルス」という、自分でできる遺伝子検査も提供されていますね。


人もミドリムシも、遺伝子レベルでは構造が似ているため、ジーンクエストのプラットフォームの活用により、ミドリムシの遺伝子研究の成果をヒトのライフスタイルにまでフィードバックが可能になりました。研究の裾野が広がり、ユーグレナの理念「人と地球を健康にする」に最先端のバイオテクノロジーで貢献できるようになったんです。


――鈴木さんご自身は、キャリアの中で具体的に何に取り組んでこられたのでしょうか。


修士課程の在学中にユーグレナ設立後、博士課程に進学しましたが、事業のために最初はミドリムシの大量培養 に注力していました。企業として、まずは「作ること」を第一に掲げています。作ることができないと、売ることもできないですから。2005年の会社設立からは、生産現場で実際に大スケールでの培養テストに携わりました。


以後、ミドリムシに含まれる栄養素、ヒトの細胞への影響など、食品や化粧品に関係するライフサイエンス分野の研究も。 現在、ミドリムシの遺伝子や、どういう状態で燃料の原料となる油を作るか、といったことまで、研究は多岐にわたります。そうした小さいスケールで調べて大きな産業に応用し、燃料として生成するところまでが研究テーマです。


新領域開拓へのパッションを期待して、研究職を新卒で採用


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――事業展開や研究の裾野を広げる上で、人材戦略がポイントになるかと思います。


弊社は従来型の事業を営むというより、新しい領域を切り開く会社なので、 研究者の過去の経験が生きにくい。そこで、成長の伸びしろが大きい若くて情熱がある人に来てほしいので、研究職にこだわった新卒採用を積極的に行っています。


セクターは主に3つ。食品や化粧品としての利用開発の部隊、ものを生産する部隊、そして最先端の研究をする部門です。入社1年目からその人の専門性に近いテーマを配属チームで考え、自分なりの研究成果を出してもらうことを意識しています。


さらにオープンイノベーションの工夫として、従来型の研究開発や治験の部分は外部に頼って進めています。例えば武田薬品工業さんやJX日鉱日石エネルギーさんと、共同研究や情報交換を行っています。


じゃあ「われわれのコアは何か?」と問うたとき、業界に対する知識より、ものを作る・評価する技術の中で、新しいものを切り開く機能が、自分たちの大企業との交換条件になると思っています。


――現在、ユーグレナでは、どんな専門分野や特性を持つ人が求められていますか?


バイオロジーがバックグラウンドの人が多いのは確かですが、分野で絞っているわけではなく、新しい領域を切り開く熱意やポテンシャルを持った人を採用しています。


コミュニケーション能力も必要です。オープンイノベーションは机にかじりついて開発を進めるより、異分野との融合によって生まれる開発が新しいソリューションになる。ITやエンジニアリングに対するリテラシーが強い人は、積極的に採用していきたいです。


また、学ぶ能力や発想力、異分野に対する柔軟性を見るため、 面談で自分の専門分野の研究発表をしてもらっています。研究への熱意はもちろん、論理的に研究を組み立てているかというのも、フィールドを超えて不可欠な視点なので、質疑の中で確認します。


チームでの研究を意識した発言も、判断材料になりますね。チームへの貢献の実現方法をも論理的に判断できる人が、当社に向いてると思います。会社として総合的に、本人の希望に沿う仕事が継続的に用意できそうか、さらにユーグレナにその人が加わることで企業理念の実現がより効率的に進むか、という点もイメージします。


直近では理系学生の採用は年間10人ほどで、そのうち3〜4人が研究職。インターン経験の有無は問いません。


通年採用で「枠にとらわれ過ぎない人材」を集める


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――入社後は、どのようなキャリアパスの描き方がありますか?


1つは研究のマネジメント系。 研究室でいう教授のようなポジションで、課長、部長とステップアップします。もう1つは、独自の研究をどんどん積み重ねてその分野のスペシャリストになってもらうキャリアパス。


本人と相談の上で合うほうに進んでもらい、半年に一度、本人の申請と上長の推薦を持って、各ラインに自由にチャレンジできる仕組みです。


――最近、新卒の一括採用から通年採用へ移行した背景には、学生の研究や留学など自由な経験への配慮があったのでしょうか。


われわれは新しい領域にどんどん挑戦するので、枠にとらわれ過ぎない人を募集しています。一括採用の制約をなくし、さまざまな学生生活やチャレンジをしている方に就職の間口を常にオープンな状態にしたことで、マッチングもしやすくなると考えています。


当社の志望者には、製薬業や石油化学系を併願する方も。志望業界は結構バラバラなので、そういった学生さんにも通年採用はメリットです。


採用にはやはり理念への共感が前提ですが、多様性を重視する会社なのでバックグラウンドや成功のプロセスの考え方はまちまちです。その上で、新しいテクノロジーで世の中を変えたいというパッションの強い人が集まっている実感があります。


目指すは燃料生成。多岐にわたる人材を求む


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――今後、ユーグレナは何に注力していくのでしょうか。


「人と地球を健康にする」の理念の下、バイオマスの5Fにのっとり燃料の生産を実現したいですね。 燃料の実用化には、法律や副産物の利用法や効率的な生成方法など、まだクリアすべき課題が山積しています。今後は石油化学などに関するリテラシーを持った人にも参加してもらう形で、研究や事業のドメインは多分野に広がりそうです。


今後、バイオテクノロジーが存在する領域はより拡大するでしょう。そこに合致する人たちと一緒に、新しい領域を広げていけたらと思っています。


――ありがとうございます。最後に、就活生に向けてメッセージをお願いします。


冬季にはインターンを10人ほど募集する予定です。インターン学生のグループごとにテーマを持ってユーグレナ経営者へのインタビューをしてもらい記事化していくというスタイルで、企業理解を深めてもらえればと考えています。


会社が必要としていることと本人がしたいこと―その両方を見つけ出す作業を、その人と目線を合わせて一緒に探していくつもりです。「人と地球を健康にする」という理念に共感し、熱い想いを持って来てくださる方を歓迎します。


編集後記


創業から一貫して「バイオマスの5F」の考えに沿って事業を拡大してきたユーグレナ。確かなビジョンに裏打ちされた気鋭の企業は、社会課題の解決という命題を本気で叶えたい研究者、またグローバルな視野を持つ理系人材の活躍の場として現実的な選択といえるだろう。


新領域への展開にも積極的であることから、横断的な研究や事業で自身を磨き、企業と共に成長を実感できるはずだ。鈴木氏の幅広い研究の軌跡が、何よりユーグレナの魅力を物語っている。

ライター
水田 真梨
カメラマン
児玉 聡
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