世界初のカセットガスファンヒーターは「散歩」から生まれた――業界シェアNo.1のダイニチ工業が大切にする「コミュニケーション」とは?

インタビュー

LabBase Media 編集部

世界初のカセットガスファンヒーターは「散歩」から生まれた――業界シェアNo.1のダイニチ工業が大切にする「コミュニケーション」とは?

ダイニチ工業株式会社 新潟に本社を持つ、石油ファンヒーター業界シェアNo.1企業。石油ファンヒーターと加湿器、2つの柱を元に堅実で安定した経営を行いながら、新領域での挑戦も行っている。 少数精鋭で業界トップを走り続けるダイニチ工業。若手ながら、世界初のカセットガスファンヒーターの企画から製品化までを一貫して経験したという小田川健一氏に、ダイニチ工業ならではのものづくりの醍醐味や、社内で人材を育成する社風について伺った。

愛着ある新潟で、お客さまに直接届く商品を作りたい


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――ダイニチ工業といえば、石油ファンヒーターや加湿器のシェアが業界No.1で有名ですよね。事業の概要をお聞かせください。


ダイニチ工業を一言で表すと「少数精鋭」。全部門合わせて500名程度と中規模ですが、企画や研究開発はもちろん、すべての製造工程から営業まで自社で行っています。


営業力や製品力など、個々のポテンシャルの高さはもちろん、すべてを内製化していることで、営業側と開発側が一枚岩となって業務を進めています。その結果、お客さまのニーズに応えた製品を実現していることが、11年連続で業界シェア1位を獲得できている理由でしょう。


普段からダイニチ製品ユーザーの声はよく耳に入ります。「他社の加湿器は音が気になる。ダイニチの加湿器じゃないと寝られない」という話を聞くとうれしくなりますね。


――小田川さんは、新潟大学工学部、大学院では機械系専攻だったと伺っております。学生時代はどのような研究をされていましたか?


工学部では加工技術を勉強していましたが、研究室は生体工学。主に膝の力学解析をしていて、人工関節の研究をしていました。工学部に在籍しつつも、医学部や大学病院にいることが多かったですね。


――生体工学の研究だと、現在のものづくりとは必ずしも直結しないように思えます。なぜダイニチ工業に就職したのでしょうか?


子どもの頃からものづくりが好きで、お客さまが実際に使う商品をつくりたいと考えたときにピンときたのが、大学時代にたまたま工場見学をしたダイニチ工業です。新潟は大学時代から住んでいて、愛着のある土地でしたしね。


月並みな言葉になってしまうかもしれませんが、就職先として選んだ決め手は、「人」。就活中、先輩社員に話を聞く機会があったのですが、社内の事情まで詳しく話してもらえて、風通しの良さを感じられたことが大きかったです。雰囲気的にもなじみやすそうだったので、入社を決めました。


趣味は「社内の散歩」。コミュニケーションの力が生んだ世界初の商品


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――社風について、もう少し詳しくお伺いできればと思います。実際に働いてみて、社内はどのような雰囲気ですか?


フラットな組織構造で、各部門長と製品ごとの責任者の下はほぼ並列な関係です。チームも少人数なので部門長や責任者とのデスクも近く、コミュニケーションの取りやすい環境と言えます。


それから、私はよく情報収集を兼ねて社内を散歩します(笑)。社内のことは自分に関係なくても知っておくべきかなと思うんですよね。製造ラインの同期にもよく会いに行きますよ。日頃から製造担当者の苦労や課題を知っておくと、設計にも反映しやすいですね。


――部品工場や協力企業との関係も良好だと伺っていますが、何か理由はあるのでしょうか?


今どきの会社に珍しく、毎年5月に大運動会があります。ダイニチ工業全体だけでなく、部品工場と協力企業も呼んで、合計1,000人規模で開催する大規模なものです。このイベントのおかげで、部品工場や協力企業さんとの距離は比較的近く、 以心伝心で仕事ができる良い関係が築けていると思います。


――小田川さんは、カセットコンロに使うようなガスボンベを燃料とした、世界初の「カセットガスファンヒーター」を、企画の段階から製品化まで担当したと伺いました。どのようにしてプロジェクトがはじまったのでしょうか?


きっかけは、私の上司とパートナー企業の岩谷産業さんのアイデアでした。「片面を温めながらもう片面を冷やすと電気を生じる、熱電発電技術をファンヒーターに応用できないか?」という話が持ち上がったそうです。


当初は企画書すらありませんでしたが、理論上は問題がなかったため、約1カ月でプロトタイプが完成。そのあと、商品化の話が正式に持ち上がって本格的に始動し、1年という短期間で商品化にこぎつけました。世界初の製品を世に出すために、スピード感にはこだわりましたね。


――1年という開発スピードはかなり異例ですよね! 開発は順調に進んだのでしょうか?


いえ、とても大変でした!(笑)そもそも、発電素子を使った家庭用の製品自体、当時はまだなかったんです。比較基準になるものすら存在しないので、まずは規格づくりからのスタートでした。


この製品の一番の特徴は、「コードレスなのにモーターが動いて風が出る」という点であり、ここが他社製品と比較して圧倒的な優位性でした。そしてこの優位性を支えるのは、何が起きても事故にならない安全性です。使用時に起こりうるさまざまな状況を想定しながら、製品デザインを決定。性能や外観も満足のいくものを追い求めて完成したんです。


――なぜ、世界初の商品を1年という短い期間で開発できたのだと思いますか?


日頃のコミュニケーションのおかげだと思っています。社内を散歩して他部署とコミュニケーションを取ってきた成果かなと(笑)。あとは、自分が運動会の実行委員長をやっていたのも大きかったですね。


運動会は若手主体で行っているんですが、製造部門やその他の部門のトップの方々も常に気にかけてくれます。そんな大切なイベントを仕切っている私が新規プロジェクトを立ち上げるということで、多くの方々が応援してくださり、その結果無事に進めることができました。


――この経験は大きな糧になりますね。小田川さんは個人のキャリアとして、今後取り組んでいきたいことはありますか?


特定の分野のスキルを持ちながら、全体の進行を管理できるようになりたいですね。


カセットガスファンヒーター開発のおかげで、会社で製品化を行う流れをつかみ、プロジェクトの全体像を見られるようになりました。今いる部署は製品化までの流れに関して未経験の人がほとんどなので、私が設計をしつつ、まとめ役も任される立場になっています。


どんな考えを持った人でも、仕事を充実させられる環境


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――ダイニチ工業に入社すると、どのようにして各部署に配属されるのでしょうか?


研修でさまざまな部署を回ったあとに、希望をヒアリングされた上で配属が決まります。やりたいことや業務との相性をしっかり考えて配属してくれるので、興味のないところへ突然配属されるということはないでしょう。


以前は配属された部署でずっと働く傾向が強かったのですが、最近は人員をローテーションする方針に変わって、ファンヒーター部門から加湿器部門へ、というような異動もあります。


――少数精鋭で仕事をしていく中で、人材育成ではどのような工夫をされていますか?


部署ごとに人材育成の方法は違うのですが、私が在籍する部署では自分からどんどん学びに行くスタイルが定着しています。新入社員でも他の社員と同じレベルの仕事をさせますので、否が応でも成長する環境ですね。


――ダイニチ工業は、離職率もとても低いと伺いました。なぜなのでしょうか?


なぜでしょう……自分も、辞めたいと思ったことはありません(笑)。開発に来る人は開発が好きで自分からのめり込む人が多いので、気がついたら時間が経っていることはありますが、残業が多くてつらいという空気ではないですね。


頑張りは報酬にも反映してもらえますし、足りない部分は面談でアドバイスをしてもらえるので、しっかりと見てもらっているという安心感はあります。


弊社には仕事にのめり込む機械オタクから、仕事は定時までにきっちり終わらせてプライベートを充実させる人まで、さまざまなタイプが在籍しています。どんなタイプの人でも、それぞれが仕事を充実させられる環境は整っていると思いますよ。


――最後に、就活を控えている理系学生に向けて、一言メッセージをお願いします。


ダイニチ工業は、大学時代の研究内容は特に関係なく、やりたい仕事や特性のある業務で活躍できる企業です。


入社したら、ぜひいろんなことに興味を持って前向きに突っ走ってほしいですね。もし間違っていたら誰かが軌道修正してくれるので、遠慮はいりません。チャレンジ精神のある人材を求めています。


これから会社説明会や、日程を学生様に合わせての個別訪問の受け入れを開始します。徹底して改善し続けてきた工場の見学は特におすすめです。見学した方の中には、それが決め手となって入社を決めた人もいるくらいなんです。第一線で活躍する技術者が、みなさんをお待ちしています。


編集後記


少数ながら結果をしっかり出す努力の企業、ダイニチ工業。ものづくりに対する愛と、お客さまに喜ばれる商品をつくるという気概を社員一人一人が持つ会社であった。ものづくりへの真摯な姿勢に興味を持った人は、まず工場見学をしてみるのが良いだろう。

ライター
古谷 麻衣
カメラマン
児玉 聡
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企業情報

ダイニチ工業株式会社

ダイニチ工業株式会社

■【東証一部上場】11年連続で業界シェアNo.1!『ブルーヒーター』ブランドでおなじみの“家庭用ファンヒーター”を手掛ける家電メーカー!創業から54年で培った温度制御や燃焼技術を水平展開し、新たな商品も生み出しています。 ■【「青い炎」を追い続けて54年―新潟から、日本中の家庭を暖めるモノづくり】 ダイニチ工業は、家庭用石油ファンヒーターやハイブリッド式加湿器などを製造している家電メーカーです。業界に先駆けて液体である石油を気化して燃やすという気化式石油燃焼技術に取り組み、創業から54年にわたり追い続けてきました。ニッチな市場ではありますが、「部屋を暖める」「湿度を適切に保つ」など確実にお客様の生活を快適にできる家電製品を生み出しています。 <会社紹介ムービー> https://youtu.be/9kO5FY4yqQw ■【全工程、自社工場生産!安心の日本製で、品質の高さにも絶対の自信があります】 製品の企画・設計はもちろんのこと、主要部品の生産や最終組立、検査まで新潟の自社工場で一貫して行っています。たとえ小さな問題が起きた場合でも、品質保証部門だけでなく開発部門も集まって、時には設計の領域に修正を加えて解決を図ることができます。創業54年間、一度もリコールを発生させたことのない確かな品質が私たちの自慢です。 <業界トップシェアの製品> ◎「家庭用石油ファンヒーター」11年連続で業界シェア1位 ◎「ハイブリッド式加湿器」5年連続で業界シェア1位 <受賞歴> ◎2018年度グッドデザイン賞受賞 ◎価格.comプロダクトアワード金賞受賞(2006年から7回受賞) ■【技術力を武器に、新しい家電製品の開発にも積極的に取り組んでいます】 石油ファンヒーターを柱に、独創的な技術開発や新たな分野での価値あるモノづくりにも力を入れています。ノウハウが無い中での新製品開発は、まさに「未知の分野への挑戦」。日々トライ&エラーの繰り返しですが、新たに生み出した製品が多くの人に愛されることを目標に、チーム一丸となって取り組んでいます。