長期的なキャリアは考えたことがない
――みるおかさんは大学院でバイオ系の研究をしたあとに就職しています。1社目はどのように就職したのでしょうか?
普通の大学生と同じですよ。さまざまな企業にエントリーシートを出し、面接を経て就職しました。化学系や機械系と違い、バイオ系は研究室推薦がほとんどないんです。
バイオ系学生の就職先は主に食品、製薬、医薬、化学分野です。ただ、化学、製薬メーカーではもちろん化学、薬学専攻の学生の方が強く、食品メーカーも倍率が非常に高い。今は情報も増えていて、バイオ系の就職が厳しいことは学部の学生にも共通認識としてあると思いますが、私は就活を始めてから実感したので大変でしたね。
――厳しい状況の中で、どのように就活を進めていきましたか?
志望していたのは食品メーカーの研究職。エントリーシートは複数出しましたが、研究室が多忙だったので面接に行ったのは4社だけです。その中で最初に受かった大手食品メーカーがそれなりに志望度が高いところだったので、そのまま決めてしまいました。
いろいろな会社を経験したい気持ちもあり、1社にずっと勤め続ける気は初めからありませんでしたね。
そもそもキャリアをあまり長い目で考えたことがないんです。
入ってみないと分からないことってたくさんあるじゃないですか。仕事はすごく面白くても人間関係が大変で、キャリアチェンジせざるを得ないことだってあります。さまざまな可能性を考えて、最初から完璧なキャリアを求めるつもりはありませんでした。
居心地が良ければ長くいるし、変えたいと思ったら変えればいいと。短期的なスパンで、その時一番興味があることを究めるスタンスの方が動きやすい。5年、10年後を見据えることも大切ですが、こだわり続ける必要はないと思っています。
仕事をしながら理想のキャリアに寄せていく
――1社目の大手食品メーカーでは具体的にどんな仕事にあたったのでしょうか。
応用研究……というより生産技術に近い職種です。実験室レベルのプロダクトを工場スケールで生産する技術を考える部署でした。いわゆる「スケールアップ」という業務です。
大学時代の研究内容とは少し離れましたが、もともと研究内容へのこだわりはなかったんですよね。
それに、大学での研究内容と近い分野の仕事がしたいと考える人も多いですが、もし希望と違うキャリアになっても、仕事をしながら理想のキャリアに寄せていくことは可能です。
例えば食品業界でも、業務を通じて製造業全体で通用するスキルや知識はつけられます。例えばGMP(適正製造規範)や分析機器の扱いなど。これは医薬品や化成品メーカーでも生かせますし、評価されます。もちろん英語や資格(危険物取扱者、衛生管理者など)なども。
理想と違う仕事に就いたとしても、理想のキャリアにどんな能力が必要なのか意識しながら日々の仕事をこなし、スキルを身につけていくことで、後から職種や業界を変えることもできると思います。
第二新卒の求人は、質も量も新卒とは桁違い
――2社目の企業への転職では、第二新卒として市場価値の変化はありましたか?
キャリア3年間である程度実績が出せたので、キャリアアップしてやろうと転職に踏み切りました。若手にありがちな甘い考えです(苦笑)。
転職エージェントに登録してみると、求人数の多さとキャリアチェンジの機会の豊富さ、第二新卒としての引き合いの強さに驚きましたね。食品メーカーの研究職は新卒だと非常に厳しいですが、第二新卒〜5年くらいの若手には、大手もかなり求人数を出しています。
新卒から最初の数年でしっかりキャリアを積めれば、その先にキャリアアップの枠はあると知りました。会社の外での市場価値は、実際に行動しないと実感できないと思います。
私は新卒からいきなり製造立ち上げを経験した実績が評価され、より規模の大きな食品メーカーの研究職に就きました。大規模な研究プロジェクトを一人でマネジメントするスキルを身につけられましたが、とにかく激務な部署で、上司のパワハラもひどかったですね…。業務は楽しかったのですが、このままではいけないと思い1年ほどで辞めてしまいました。
パラレルキャリアのスタート|楽しくブログを書いていたら、収入がついてきた
――次の3社目はどのように選んだのでしょう? ブログで体験談やレビューなどを公開しはじめたのもこの頃ですよね。
3社目は中堅食品メーカーの商品開発です。このときは、とにかく前の会社を早く辞めたいという気持ちだけでしたね。会社の規模感も年収も下がってしまいましたが、環境は非常に良く、毎日ほぼ定時で帰宅していました。せっかく時間ができたのだから何か面白いことをしたいと考え、もともと文章を書くことが好きだったので WEBメディアを作り始めました。
ブログを書き始めて数ヶ月経つ頃には、はてなブックマークで週間はてブ数1位を取れたり、今思えばかなり順調なスタートだったと思います。この頃には月間PV30万、収入も10〜20万円程度になっていました。
当時は副業やパラレルキャリアを意識していたわけではありません。単純に「ブログを書いて人に読んでもらう」という経験を楽しんでいたら収入もついてきた感じなんですよね。そのうち人気ゲームのトレンド記事などを書き始めたのですが、その頃は最大月間200万PVまでいきました。
また、 ブログが読まれるようになったことで他のメディアからも仕事を頂くようになりましたね。大手雑誌でヨーグルトのレビューをさせて頂いたり、ブログ記事についてテレビのインタビューを受けたり。最近は、私の変わった経歴に興味を持ってサイトを訪れてくれる人もいます。
日系企業では転職回数がリスクに
――本業は安泰で、ブログが副収入や経験をもたらしてくれる状況は充実感がありそうです。そこから再び転職をしたのはどうしてでしょうか?
本業のキャリアは楽しかったのですが、同時に行き詰まりも感じていて……このままここにいたら自分の価値は上がっていかないと悩んでいました。
そこで転職を試みたのですが、僕は20代の時点で3社を経験しています。定着率の高い日系企業の研究職では、転職回数が多いだけで市場価値は低くなるんです。大手の日系製薬会社の最終面接に通ったときには、最後の役員稟議で「転職回数が多すぎる」と却下されたことも。
コンサルタントやITエンジニアではあまり関係ないかもしれませんが、メーカーの商品開発の研究職だと、転職が多いことは「履歴書が汚れる」と表現するほどネックになります。純粋にスキルだけでは評価してもらえないんです。
そこから転職するには、転職回数を気にしない業界を選ぶか、それを跳ね返せるスキルや能力、実績が必要になります。そのため、一番大事なのはできるだけ早く自分に合った企業や働き方に出合うことですね。
――現在お勤めの4社目は外資系企業ですが、その点も踏まえて志望したのでしょうか。
たまたま面白そうな会社が外資だったのです。外資しか通らなかったというのもありますが……(苦笑)。
現在は外資系の消費財メーカーで、しかも初めてマネージャー職として採用されました。ここでは黙っていたら誰も何も教えてくれませんが、聞けばみんな丁寧に教えてくれます。外資系企業は、なんでも自分から動く必要があるんです。会議でも明確に議題を決め、時間内に議論して決断まで進めることが徹底されていて、これまでの企業とはスピード感が違います。下手なミーティングを繰り返していると誰も相手してくれなくなりますよ。
――これまでとは全く違う外資系企業という環境ですが、みるおかさんはブログを読むと新たな環境にしっかり適応しておられます。
黙っていても何にもならないと入社してすぐに分かったので、最初は人に質問しまくってがむしゃらに動きました。
あと、私は Twitterではハイスペエリートと思われがちなんですが、実際はただのコミュ障のゲーマーですし、計画的でもなく、すごく臆病で不安症なんです。いつキャリアが駄目になるか、路頭に迷ってしまうかすごく怖いし、今のままじゃマズイと常に危機感を持っています。その気持ちが仕事や副業、スキルアップの原動力につながっているのかもしれません。
ブログやメディアもいつまでも収入源になるとは限りません。不安と戦いながら、何が起きても大丈夫なようにリスクヘッジをすごく考えていますね。
私は履歴書がこれだけ汚れているので(笑)、メーカーでただ研究職を続けるだけではリスクが高いと思っています。会社の外でも評価される力をつけられるよう、もっといろいろなことにチャレンジしていきたいですね。
職務経歴書は半年に一度アップデートする
――会社の外でも評価される人材であるために、意識してやっていること、これからやっていきたいことを教えてください。
転職に関係なく、半年に一度は職務履歴書をアップデートして、自分のキャリアを客観的に振り返っています。ここで自信を持って書ける内容に迷っていたら、仕事のやり方を変える必要があると思います。
あまり先のことは考えていませんが、まずは今の仕事で実績を上げないといけないですね。32歳という年齢的にも、今後はマネジメントのキャリアがないと転職も厳しくなるでしょう。英語力や経験に加え、自分の同世代より上のレベルの能力を身につけなくてはという焦りはありますね。
同時に、自分のメディアも育てていきたいです。最近はSEO(検索流入最適化)中心のブログ運営はどんどん難しくなっていますし、SNSなどで個人として知ってもらうことが大事かなと。
ブログについても、私は自分がサラリーマンとして働いていること自体がコンテンツだと思っています。例えば仕事ができない人間が偉そうにキャリアアップを語ったところで誰にも刺さらないじゃないですか。兼業ブロガーであることが 「みるおか」としてのメディア価値も上げていくと思っているので、このままパラレルキャリアを楽しんでいこうと思っています。
それに、収入源が2つあることで、一方がダメになっても「とりあえず生きていける」という精神的安定が得られるのは大きなメリットですよ(笑)。
――研究職での就活や複数回の転職経験を踏まえ、就活生にアドバイスをお願いします。
本来、研究職はわりと腰を据えて働き続けられる職種です。女性の研究者で、産休後に復帰し、そのまま活躍される話もよく聞きます。ただ、メーカーの研究所や工場は田舎にあることが多いので、それを許容できるかは男女問わず一つのポイントです。私はネットがあれば生きていけますが。
就活時には、企業サイトでCSR報告書やサステナビリティレポートなどを読むことをお勧めします。企業のガバナンスや福利厚生、投資先や事業方針も把握できますし、就活サイトやパンフレットでは分からない深い情報を得られます。それと、私が見るのは転職サイトや企業口コミサイトの退職理由の書き込み。退職理由からはその会社のリアルが見えてくると思います。
最後に、バイオ系は本当に就職が厳しいので、いきなり第一志望に行ける人は一握りです。ただ、たとえ1社目に入った企業が理想とズレていても、キャリアチェンジの機会は十分あると言いたいですね。そして、そのためにはどういったスキルや実績が必要か、何をやればいいかを意識しながら努力をしていかなければいけません。諦めないで行動してほしいですね。
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編集後記
自身を「計画的でない」と表現したみるおかさんは、自身の市場価値をアップデートし続け、時代の流れに柔軟に対応する新時代の研究者像を提示しているといえるだろう。合理的かつ自由なみるおかさんのキャリア観は、新たなキャリア形成モデルの一つの可能性を感じさせてくれた。