技術者に与えられたミッションは「未来に対応せよ」

――加藤さんのご経歴は、テレビ業界の変化の歴史と密に関わっていると聞いています。簡単に教えていただけますか?
私は1987年にプログラマーとしてTBSテレビに入社し、「今後は地上波放送だけでなく、インターネットやパソコンもメディア化する」という予測の下、技術で時代に対応するための部署を転々としました。
デジタル放送・BSデジタル放送開始の準備業務に始まり、インターネットが普及してきた頃は、オンラインショッピングなどインタラクティブなメディアへの対応なども担当。スマートフォンが広まり始めた2011年には、 テレビのスマホ対応というテーマが出てきて、 動画配信と ソーシャルゲーム開発にも取り組みました。
そして最近、放送法が改正され、テレビ番組自体をテレビとインターネットに同時配信することに。TBSテレビでは同時配信技術を担当する「未来技術設計部」ができ、私はその責任者として「 未来に対応せよ」というミッションに挑んでいます。
簡単に言うと、何か新しいことがあるたびに異動して対応してきたのが私の経歴ですね(笑)。
――時代の変化と共に歩んできたんですね。同時配信以外には、現在どんなニーズがありますか?
スマホやパソコンなど各デバイス向けのサービス開発と、それに関連する技術開発が増えてきています。
ポイントは二つあり、一つはテレビがネットの世界に入っていくための開発、もう一つはテレビがネットの技術を取り入れるために必要な開発です。情報番組を観ながら同時にネットで買い物をしたり、クイズ番組を観ながらインターネットで参加したりするのがその一例ですね。
テレビは今、新しい技術を開発してサービスを広げていくステージなので、 エンジニアの活躍の場が大幅に拡大しています。ネット向けサービスで蓄積されるユーザー情報やさまざまなログデータをいわゆる ビッグデータとして活用する新しい動きや、そのデータを守る セキュリティー機能のニーズもあります。
きめ細やかなサービス提供のためには、外部に出せないコアデータを活用したシステムも必要になってきます。そうなると他社に依頼できないケースも当然あることから、自社で作るものが増え、 開発の内製化もどんどん進んでいます。
――開発の内製化は、TBSテレビにどんな強みをもたらしているのでしょうか?
TBSテレビは今年の「世界陸上」や昨年の「世界バレー」など、多くの世界大会の放送権を持っています。スポーツ分野のライブ中継は弊社の大きな柱の一つですね。そのスポーツ中継でのニーズがきっかけで、若手エンジニアが AIを使った画像認識システムを開発しています。
例えばマラソン中継では、画面に映る選手は非常に多く、順位も目まぐるしく入れ替わります。今まではベテランのスタッフが目視で「A大学のB選手だ」と特定してテロップを入れていました。しかし人力には限界があるので、スポーツ選手に特化した画像認識のAIを開発することになったのです。
外部で売られていないシステムを自社で内製してコンテンツを充実させ、得意ジャンルと技術の掛け算でシナジーを生み出すことも進んでいますね。
メディア利用方法の多様化に、ユーザー目線で対応

――最近は「若者がテレビを観なくなった」と言われます。テレビと人との関わり方はどう変化しているのでしょうか?
スマホやパソコンの普及によって、家でテレビを観ない人は増えました。しかし実は、ネットニュースやSNSなどを通して、家でも移動中でもテレビが発信した情報に触れているんですね。つまり、テレビとの接し方が変わってきただけで、根底の部分で人間に必要な情報は変わらないということ。
今後も人々が必要な情報を必要なときに受け取れるよう、工夫しながら情報発信をすることで、テレビは社会に不可欠なメディアであり続けるでしょう。
――加藤さんは、時代の変化に対応するとき、何を意識していますか?
私が一貫してやっているのは、ユーザー目線でものを見ること。自分がユーザーとして面白いことを仕事にしないと、他の人が「面白い」と感じることはないはずです。
1995年にネットの時代が来るということで、会社から「何かやれ」という自由なミッションが与えられたとき(笑)、企業側の論理で考えると当然「番組の宣伝をガンガンやろう」となるのですが、ユーザー側はそれで楽しいのかな? と考えました。
そこで実行したのが、ウェブサイトでの情報発信です。民放放送局でウェブサイトを作ったのはTBSが最初で非常に画期的なことでした。
しかしテレビ局だからとこだわった色とデザインにしたら画像が重すぎて、当時のネット回線では全部表示するのに6分かかるという失敗もありました(笑)。
――変化に柔軟に対応し続けるTBSテレビでは、若手エンジニアの感性や発想が生きるシーンも多いのでしょうか。
システム開発業務ではさまざまな部署から希望者を募り、ネット同時配信について検討する全員若手メンバーのワーキンググループを作りました。3カ月かけてプランを練り、既にシステム構築の段階に入っています。
他にも、当社の若手がスタートさせた「Catari」というウェブメディアがあります。若い人がスマホで情報サイトを開き、すごい勢いで画面をスクロールして、興味があるところだけ読むという姿、見たことありませんか? その行動から着想を得て、Catariは番組内容を記事に凝縮し、短時間で情報を知りたいというニーズを捉えています。
情報提供の仕方も含めて、若い人に向けたメディアの再構築、テレビをメインの情報源とする高齢者向けの工夫など、多様性への対応を意識していきたいですね。
――若手の意見をどんどん反映しながら、ユーザー目線での変革を進めているんですね。
もう一つ、若手エンジニアの発案で事業化された、「Live Multi Viewing(ライブマルチビューイング)」というシステムもあります。
スポーツの試合の動画配信は、通常一つの画面しか観ることができません。しかしこのシステムでは視聴者が画面をスイッチングでき、「この人だけ見ていたい」「反対側が見たい」といった要望に応えます。
「KIRINチャレンジカップ」では、アプリで「久保カメラ」という久保選手だけを追いかける映像も配信。若い人の自由なアイデアを一緒に実現していきたいですね。
来たれ! 熱心でユニークな発想の若手研究者

――技術職の新入社員は、実際にどういったエリアの業務を担当しますか?
技術職としてタレントさんと番組を作っていく制作チームもありますが、私たちが理系学生に求めるのは、データサイエンティストやネット向けサービスの開発者としての活躍ですね。ただ、「このエリアの仕事だけ担当する」と固く決められているわけではなく、発想次第で 自分が働きたい領域を作り出すことも可能なんです。
例えば、最近若手エンジニアが開発したシステムは、SNS上で話題になっている情報と地域を抽出して可視化するもので、その情報を基に事件・事故現場に報道スタッフを派遣します。これは今まで存在しなかった全く新しい領域ですが、今ではそのシステム運営が一つの仕事として成立している。
このように、データサイエンティストやサービス開発者として、クリエーティブなアイデアをメディアの世界で自由に実現できる会社だとイメージしてもらえたら間違いないです。
――技術職の採用に向けて、求める人材像をお聞かせください。
情報系のスキルがある人は、やりがいを見つけられると思います。プログラミングの他、 データ分析、統計学のスキルも生かせるでしょう。当社に 総合マーケティングラボという組織もあり、データや分析結果を会社の決定に生かしています。
タイプでいえば、研究熱心で「変わってるね」と言われるような、発想がユニークな人にぜひ能力を生かしてほしいです。「マニュアルないんですか?」と言う人よりは、自分から「こうやりたい」と言える人。
先輩やマニュアルから学んで、実践して身につけるという、従来の仕事方法はもう通用しない時代です。 自分で課題を見つけて研究や開発をして、その結果、会社やサービス、世の中を変えていくというマインドは今後要求されるでしょう。その手助けはしていきますよ。
――最後に理系就活生にメッセージをお願いします。
TBSテレビは変化の中にチャンスがたくさんある会社です。5年後や10年後、人々がどんな端末でテレビを見ているか、どんなサービスを楽しんでいるか、想像し得ないことが起きるかもしれないし、変化のたびに新しいチャンスがあります。
グラス型のウェアラブルデバイスを着けてテレビを観るともっと面白いことが起きる、なんていうサービスも生まれるかもしれません。
自由に発想しやりたいことが実現できる会社で、私もそういう仕事をやらせてもらえて幸せに思っています。今後も若い人を応援して、一緒に新しいものを開発し、世の中に成果を送り出していきたいです。
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編集後記
「ユーザー目線」で進化を遂げてきたTBSテレビ。コンテンツ力と若手技術者の発想力によるシナジーが、テレビというメディアをさらに発展させるという加藤氏の確信は、若手主導で仕事がしやすい企業文化からもうかがえた。テレビ業界の転換期に立ち会い、メディアの歴史を創造する技術者として活躍することは、理系就活生のキャリア形成の重要な第一歩になるはずだ。
※所属・内容等は取材当時のものです。(2023年5月公開)