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データサイエンティストブームに水を差すようで申し訳ないが、言わせてほしい新卒採用の話

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2019.09.24

LabBase Media 編集部

Twitterフォロワー1万2千人超え。AI業界に深い知見を持ち、ITmediaをはじめとしたメディアで、その知見をいかんなく発揮し活躍するマスクド・アナライズさん(自称「イキリデータサイエンティスト」)に現在さまざまな企業で白熱しているデータサイエンティスト採用に「学生視点」で切り込んでいただきました。

1.はじめに


はじめまして。
新卒採用支援を手掛ける株式会社POL様から記事執筆のオファーをいただいたマスクド・アナライズです。

AIベンチャー勤務を経験して、ITmedia「AIベンチャー場外乱闘」を連載し、東京大学松尾研の特別講義を実施し、書籍 「これからのデータサイエンスビジネス」を上梓しました。
この度は就職活動を迎える学生向けに、データサイエンティストの採用から働くまでの道程についてお話します。

 

2.データサイエンティストバブルははじけるのか!?



一時期のブームから落ち着きはあるものの、データサイエンティストの採用熱は依然として高止まりで、「シリコンバレーなら最低でも年収2000万円」などの伝聞が飛び交っています。
まだまだ年功序列と終身雇用が残る日本企業においても、NEC、富士通、NTTデータなどが「AI人材には年収3000万円」などの待遇を発表しています。大企業のみならず、ベンチャー企業でも、ZOZOテクノロジーズが最高年収1億円も提示したことがありました。

(・・・もっとも採用条件が不明瞭ですし、提示された年収による採用実績が出ていないので、どこまで信用できるかは疑問ですが。)

このような話題はアメリカや日本でもヘッドハンティングされる中途採用者が前提であり、新卒学生には縁遠いお話でした。
それでも昨今は就職活動中の大学生がSNS上で「新卒で年収800万円希望」と表明したところ、物議を醸すなど新卒にとっても他人事ではなくなってきています。
個人的には実績から鑑みればアリだと思いますし、肯定的な意見も寄せられました。がしかし、まだまだ世間的には「なめてんじゃないの?」という考えが一般的です。
現在の新卒初任給は月給22~23万円程度であり、IT業界でも30万円を越える企業は少ないです。


中途採用では待遇競争によりコストが掛かり、仮に採用しても数年でもっと待遇の良い会社へ転職するのは一般的です。人事担当の立場で見ると、一度転職した人間は躊躇なく何度も転職もすると思われがちです。安定して長期間働くことを前提とするなら、これは不安材料となってしまいます。

対して、新卒採用では事情が異なります。
中途より報酬は抑えられますし、辞めそうになっても新卒入社であれば引き止める材料もあります。新人がやめそうになれば、「辞めぐせが付く」「入社して数年間は色々なキャリアを経験すべき」「第二新卒でも1からやり直し」などなど、慰留のために色々な説得しやすくなるでしょう。
もっとも上司や人事の立場からすれば、辞められると(主に自分が)困るので必死になるのも当然です。
こうした背景もあり、企業におけるデータサイエンティストの採用は、中途から新卒に移っています。


では、就職活動をする学生からの視点で考えてみます。


入社後の配属先や環境が良ければ、経験を積みながら名実ともにデータサイエンティストになれるでしょう。
しかし、ブームに乗ってとりあえず採用した会社では、理想的なキャリアは歩めません。名刺の肩書だけで「名ばかりデータサイエンティスト」になったり、Excelとパワポをいじるだけの「おしゃべりコンサルおじさん」という将来も見え隠れします。


こうした企業では会社の知名度や予算を使ってして外注をコントロールし、プロジェクトを成功させることが求められます。もっとも発注者という立場だけで仕事を進めるデータサイエンティストが、どれだけ価値があるかは疑問符がつきます。


仕事の内容はさておき、今は高待遇でもバブルははじけるのが常です。


近い将来に経営陣の交代、業績不振、他部門からの横槍など、なんらかのキッカケとなる事件が起こるでしょう。そこで一番最初に潰されるのは社内に後ろ盾のないチームです。その筆頭候補になるのではと危惧しています。


ではブームの終焉が不安な人は、ド定番な安定策として「日系大企業」に就職すれば良いのでしょうか?  
  
AIのイメージはまだまだ少ないかもしれませんが、メーカーを始めとするレガシーな企業もAIに注力しています。


たとえば、パナソニックや日立製作所ではAI人材の確保に数値目標を設定しており、KDDIや三井住友FG・トヨタ自動車や三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFJ)ではAIベンチャーとの協業や資本業務提携を進めています。


また、自社に活かせる技術をもつAIベンチャーを買収した京セラコミュニケーションシステムに、「プロフェッショナル従業員制度」として特別な報酬や勤務体系を導入した東芝といった例が挙げられます。


これまで日系大企業でデータサイエンティストは見られませんでしたが、ブームから数年経過しており、今は優秀な人材がその力を存分に発揮して活躍しているでしょう。


と思いたいところですが、大きな組織が数年では変わりません。



3.データサイエンティストを目指すなら、これは知っておけ。



将来への希望に溢れた学生が「自分の能力や専門性を活かしたい」「新人でも大きな仕事で成長したい」と思い描いて、会社の偉い人が「我社に新しい風を吹かせるフレッシュな若手を!」と叫んでも、人事担当は「入社して色々経験しながら将来活躍してくれて、すぐ辞めない学生が良い」と現実的な考えを巡らせがちです。




そうなれば新入社員が新設のデータサイエンティスト部門に配属されて、会社を巻き込んで大活躍することはありません。
そもそも「新卒採用で新しい風を吹かせる!」を本当に実現したい会社であれば、求められるスキルや知識を明確にして、業務改善における具体的な計画をまとめて、上長から現場の担当まで必要な人材を配置するなど、既に環境整備を行っています。

しかし組織としてそれを実現するのは難しく、まずは採用して様子を見ながら、後々に準備を進めるでしょう。
環境が整備されておらず、社内にデータを活用する意識もなければ、いつか自分の能力が活かせる日を夢見て、与えられた権限の範囲で仕事をするしかないありません。
大企業から退職エントリーを残してGAFAやメガベンチャーに転職するのは、そんな毎日に耐えきれなくなった人です。興味ある企業がある方は「企業名 退職エントリー」で検索してみることをオススメします。

参考: 有名な理系学生向け退職エントリー: 6年勤めたNTTを退職しました




こうした問題はありますが、単純に大企業だからダメとは言い切れません。
近年は大学やデータサイエンティストを擁するベンチャーと組んで、人材育成に注力しています。
空調機器メーカーのダイキンでは、大阪大学と提携して社内に「ダイキン情報技術大学」を設立し、新入社員を2年間かけてデータサイエンティストとして育成します。



それでも大きな組織である以上、一概には安心と言えない面もあります。
本社とグループ会社、部門や部署に配属先、果ては上司やチームの単位で、あなたの仕事の内容は全く変わってきます。
こうした不確定要素が多すぎるため、大企業への就職は「配属ガチャ」と揶揄されるのです。

対してベンチャーでは、社長や人事といった意思決定を下す人物と学生の距離が近しいので、希望どおりに能力を活かせる配属も期待できます。また、「スカイディスク」「LeapMind」「エイシング」など、魅力ある製品やサービスを手掛ける会社が増えています(筆者が訪問してお話を伺った会社から選んでいます)。


しかし、ベンチャーは会社自体が「ガチャ」なので、運が悪いと社長の人格に問題があったり、事業の将来性が怪しかったり、労働環境が黒かったりする可能性もあります(筆者の体験を含みます)。


一方の外資系では、年功序列や入社年次と行った垣根がなく、実力主義で仕事を進めて成果を出すことが求められます。結果を出すためなら方法も問われず権限は広いですが、新卒をゆっくり育成する企業文化ではないため生存競争もあります(一部で日本企業寄りの会社もありますが)。また、経営者の交代や買収により経営方針が一変したり、日本支社の閉鎖から市場から撤退という結末もあり得ます。


4.自分が就活生ならここで働く。



結局のところ、日系大企業、ベンチャー、外資系のどれを選ぼうとも、将来への不安は避けられません。選択肢は複数あれども、「オレの体はひとつしかねえんだぞコラ」というわけで、就職できるのは1社だけです。


上記で挙げたベンチャー3社の選定理由は、本記事を読む理系学生が勉強してきたコンピュータサイエンスやものづくりを活かせるだけでなく、組織として一定の規模があり新卒の育成と活躍ができる会社であることです。AIの研究から実社会への実装まで幅広く手掛けたり、日本の製造業を躍進させる技術を持つ将来性のある企業です。


会社によっては技術力が外注に依存していたり、発注先の言いなりになる受託開発ばかりだったりするので、講演やインタビューなどで知名度が高ければ安心とは言えません。メディアで注目される能力と、技術力や経営基盤は関係ありませんし、一時期注目されたものの消えていった会社はすぐに忘れられます。


また、経営に関わる数字ですが上場企業ならIRページで公開されていますし、非上場企業でも官報に決算資料が掲載されているので、調べてみると良いでしょう。
もっともベンチャーでは赤字覚悟で製品やサービスを展開させて後から利益を得るので、単純に赤字だから危ないとも言えません。シェアや市場の伸び率、競合他社や参入障壁などを鑑みて、事業の将来性を分析してみましょう。


あわせて所属社員による情報発信を確認します。定期的にセミナーや勉強会が開催されているので、参加して登壇者に直接話を聞いてみましょう。
勉強会はconnpass、TECHPLAY、Peatixなどの告知サイトに掲載されていますし、TwitterやFacebookなどのSNSでデータサイエンス系の方をフォローしておくと情報も見つけやすくなります。


ホームページや説明会など、表向きの説明ではわからない情報も見えてきます。こうして応募する会社が決まれば、働く環境を調べておきましょう。インターンとして短期間でも働ければ、会社の人や雰囲気などもわかっています。


表向きはインターンを募集していなくても、企業も理系学生との接点を求めているので、話ぐらいは聞いてくれるものです。インターンとして会社で働く中で、周囲の人に色々質問してみるとよいでしょう。エンジニアには気になる論文や影響を受けた技術書、社長なら経営方針や将来の目標などを聞いてみます。一緒に働く人とのバイブスが合うか合わないかは重要なので、共感できる会社を探しましょう。

こうした観点で就職先を選ぶなら、「大企業orベンチャーor外資」というくくりではなく、「自分が学んだ技術や知識を活かして伸ばせる環境」という視点はいかがでしょうか。



その上で改めて学生は自分に対して「何がしたいんだコラ」と、何度も問いただしてみましょう。
社名に囚われず、自分の専門領域が発揮できる環境なのか見極めるため、「どんな事業を行っているか」「どんなデータを活用できるか」「どんな分野で自分の能力や知識を生かせるか」を考えてみましょう。


その上で、「データや事業の独自性」「社会的意義」「エンジニアとして成長できる環境」など、自分が何を求めるかで就職先を選ぶのも一つの手です。数学を使ったアルゴリズムを改良や、設計技術を活かして製造装置を改修など、単純にAIとデータという視点だけで考えずに、自分の強みを技術やビジネスと組み合わせるなど幅広い視点を持つべきです。
AIやデータを活用できる分野は多岐に渡るので、狭い視野は禁物です。

あわせて、理系学生の技術という軸に加えて、自分の得意分野を持っておくと良いでしょう。
学生時代に学んだ語学、プレゼン、論文執筆、デザインセンスなど、ビジネスに繋がりやすいスキルでも良いですし、スポーツや映画などの趣味でも構いません。
エンジニアとして仕事をする上で一定の対人関係は求められるので、これらは他の人と仲良くなるキッカケになります。

※筆者のオススメは、年配男性から若い女性まで関心をもつプロレスです。時代に合わせて幅広い年代で共通の話題として成立します。また、アメリカやメキシコに出張した際にも役に立つでしょう。


このように就職先を選ぶには「社員の情報発信を調べる」「働いている人から直接話を聞く」「インターンに応募する」などして、社内のデータを活かす会社なのか、自分の能力を発揮できるのか、データを利活用できる環境なのかを判断してみましょう。
もっとも情報発信やインターンに消極的な会社は内情がわからないので、入社後のガチャ要素が強くなります。

 

5.おわりに



これから数十年続く社会人生活において、新卒で入社した会社で積んだ経験によって大きく差がつくのも事実です。ネームバリューに囚われず、本当に自分の能力を生かして活躍できる会社を選んで欲しいと思います。
どのような決断を下すにしろ、最終的には自分の意志で「よし、おさえろ!」と心に決めて飛び込む勇気も必要です。
幸いにして売り手市場の昨今なら、学生側が(ある程度)自分に合った会社を選んで入社することもできます。
これまで苦労して学んできた専門性や知識を活かすべく、皆さんが就職活動を改めて考えるきっかけになれば幸甚です。拙著書籍「これからのデータサイエンスビジネス」も業界理解に繋がるのでオススメですよ!



ライター
山田 太郎

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