*所属・内容等は取材当時のものです。(2020年8月公開)
*事業会社制への移行に伴い、2022年4月よりこちらの記事の仕事はパナソニック ホールディングス株式会社へ移管されました。
Kaggle Grandmasterとバーチャル認知科学者
――まずは、お二人の自己紹介をお願いします。
阪田:パナソニックの研究開発部門にあるビジネスイノベーション本部AIソリューションセンターに所属し、データサイエンスと機械学習の研究に携わっています。学生時代にプログラミングを通じて情報技術に興味を持ち、就職活動ではIT業界への就職も検討しましたが、一緒に働いていて尊敬できる人が多いと感じられたパナソニックに入社をしました。
入社後、情報システム部門に配属され、データ分析に関わる仕事を任されました。配属されたその部署は、データに関する知識やトレンドを独学でも学んでいく姿勢が推奨されており、パナソニックのデータ領域で先陣を切っていく部署であることが求められている職場でした。
入社当時、確率や統計に関する知識はある程度ありました。しかし、情報学を用いたデータ分析は大学で専攻していた分野とは全く異なっており、苦労と勉強の連続でした。そんな情報学に関する専門知識がほとんどないところからのスタートでした。周囲の優秀な諸先輩方に育てていただきながら、独学で機械学習技術の専門性を磨き、今に至ります。
趣味で始めたKaggle(最も有名なデータ分析のコンペティションプラットフォーム)で2019年6月にGrandmasterという称号を獲得したこともあり、最近ではデータサイエンスに関する社内研修講師や社外のシンポジウムへの登壇も増えてきました。2019年10月には『Kaggleで勝つデータ分析の技術』という技術書を共著で執筆したりもしています。
佐久間:大阪大学の4年生で、人工知能研究会 / AIR という会の代表や人工知能学会の学生編集委員長などを務めています。
すごく大きな言い方をすると、僕は「人を優しくする機械」を作って広く使ってもらいたいと思って研究に取り組んでいます。例えば、バーチャルリアリティー上で誰かの身体に転移する。つまり、誰かのアバターに一人称視点で乗り移って、声にも変換をかけて、誰かになり切ってロールプレイしてもらう実験などをしています。
具体的にはもう少し細かい測り方をしないといけないですが、いわば映画「君の名は。」のような体験を通して、乗り移った誰かの立場に身を置くことを助ける装置になったらいいなと思っています。
もう1つは、モーション生成を行うニューラルネットワークを学習させて、僕や誰かの振る舞いそっくりに動いてくれるようにします。そのとき、僕がトラッキングスーツを着て動かすことと、生成された動きの区別がつかなくなったら面白いですよね。ドッペルゲンガーみたいに自分の容姿で自分そっくりな存在に対面することも体験できるようにしたいと思っています。
大学1年生のときに国内で開催していたイベントで初めてパナソニックにお世話になりました。さらに、大学2年生のときの留学では、パナソニックの海外拠点でインターンを経験しました。立ち上げられたばかりのパナソニックのシリコンバレーの研究所でさまざまな方とのご縁をいただき、今でも研究や活動の両面でご一緒させていただいています。また、大阪市で僕が主宰している大阪・関西万博などに絡んだサロンがあるのですが、そちらでも立ち上げから宮部CTOに力をお借りしています。

技術力だけでは世の中はより良くならない
――続いて、AI人材採用の最新動向を伺いたいと思います。佐久間さんはどのようにみていますか。
佐久間: 僕が知人や友人に聞く限り、AIなどを専門とする学生が企業を選ぶときには、大まかに3つぐらいの指標があるのではないかと思います。
1つ目は他の企業には類似したものがない興味深いデータがあること。2つ目は、同僚や上司に著名な研究者などのプロフェッショナルがいること、つまり尊敬できる人たちと働けること。そして、3つ目が報酬ではないかと思います。
さらにトップ層の方になってくると、自由に研究ができる時間がどれくらい与えられているかなどの環境も重要視している学生も多いです。
阪田:なるほど。そういった観点でAIを専門領域とする学生さんは企業選択をされているのですね。まず、興味深いデータがあるのかという点。パナソニックには製品の製造から流通、販売に関するさまざまなデータがあります。また、くらしのさまざまな場面で実際に使われている機器に関するデータなど幅広いデータがあります。
具体的には、Panasonic Digital Platformに対応した26機種の機器から全世界100カ国以上、180万人以上のユーザーから1,000億以上のくらしのデータを集積、蓄積しています。こうしたデータを活用しながら、私たちのくらしのアップデートやパナソニック社内へのAI普及、実装を行っていくことを考えています。
加えて、尊敬できる上司や先輩と働けるかという点では、パナソニックにはNIPSやCoRLなど海外のトップカンファレンスで論文が採択されるような高度なレベルの技術力を持つ人がAI、ロボティクス領域だけでなく、素材、ライフサイエンスなど各分野にいます。
また、ロボットや人工知能の研究者であり直近まではGoogleのVice PresidentでGoogle NestのCTOだった 松岡陽子さんが2019年10月からパナソニックの仲間になってくださいました。
さらに、クロスアポイントメント制度で立命館大学 情報理工学部の谷口教授もチームに加わってくださるなど、尊敬できる人たちに囲まれて働くことができる点に関しても自信をもっておすすめできます。
佐久間:論文を書ける環境かという点についてはいかがでしょうか。
阪田:その点に関しても心配する必要はありません。特に私が所属する本社研究開発部門では、トップ学会に論文を通すことを目標に研究をしているメンバーがたくさんいます。私もそのうちの一人です。
本社研究開発部門では論文を重視しています。事業化が近づいてくると権利確保のために特許の出願を重視するなど担当しているテーマがどのフェーズにあるかによって、論文に力を入れている人もいれば特許出願に力を入れている人もいるなどさまざまです。
また、論文や特許を書けばきちんと評価される仕組みがあり、論文や特許を書くことに対してポジティブに考えている風土があります。
佐久間:少し話が変わるのですが、現在はAIブームも後押しして、AIに特化した企業にチャンスが到来しており、そういった企業に就職したいと考える学生も増えているのではないかと思います。ただ、僕はブームが落ち着いた後のことにもかなり興味があります。阪田さんはどう思いますか?
阪田:ブームが鎮静化すれば、AIの受託開発を行うだけの企業は厳しくなるかもしれません。就活生は「この企業は10年後もAIに携わっているか?」を見定める必要があると思います。
それはパナソニックも例外ではありません。AIや機械学習に力を入れないという選択肢も可能性としてはゼロとは言い切れません。しかし、10年後も「パナソニックのAIはくらしをより良くしている」と胸を張って言えるのが理想ですね。その姿を実現するのが、私のミッションの1つだと思っています。
私からも佐久間さんにお聞きします。現在の学生は企業を選ぶ際、扱える技術やスキルアップを目的とした技術観点と、ビジョンやテーマを含めたビジネスの観点、どちらを重視していると思いますか?
佐久間:個々人の性格にもよると思いますが、それこそ東京大学の松尾研究室(新技術を社会に還元することで、新しい産業のエコシステムを作り上げることを目的の1つとした研究室。数々のベンチャー企業の起業者を輩出している)などに興味を持つ人は、AIをツールとして使いこなして、プログラミングもできて、ビジネスにも興味があるように思います。ビジネスの観点でAIに携わることを望んでいる人も多いのかもしれません。
一方で、機械学習や深層学習などのトップカンファレンスで論文を発表し続けるような研究意欲の強い人だと技術観点で企業を選ぶのではないでしょうか。
ただ、技術力を向上するだけでは世の中をより良くしたり、インパクトを与えることはできないこともあるのかなと感じています。就職活動において、何が人類を幸せにしていて、お金を生み出す事業になっている(=人に求められている)のかを考える必要もあると思います。しかし、技術観点の話に比べると、学生の話題に挙がることは少ない気がします。
阪田:たしかに、理系の学生は技術に目を向けがちです。だからこそ、そういった学生のニーズに応えるために業務時間内にKaggleをすることを許可したり、Kaggleの強い人を採用することで機械学習の技術力を強化する企業も現れています。
パナソニックもそういったことにさらに力を入れていくべきだと思っています。ただ、それだけではいけないとも思っています。AI、機械学習といった技術を通じて社会にどのような価値を生み出していくかということも大切です。
パナソニックのルーツは一人ひとりのくらしをみつめ、一人ひとりにとってのくらしをより豊かにすることにあります。これは創業者 松下幸之助の想いでもあります。ルーツを忘れず、AIを用いてくらしのアップデートを実現させていくのがゴールであると私たちは考えています。
「くらしをより豊かに」 松下幸之助の想いを受け継ぐパナソニック

佐久間:「パナソニック」と「AI」がすぐに結びつかない学生も多いと思います。パナソニックでAIがどのように活用されているか教えてください。
阪田:例えば、住空間においてはスマートホームを実現する「HomeX」がすでにパナソニックホームズが展開する一戸建て住宅「CASART URBAN」に採用され、100世帯以上の販売実績があります。そのほか、歩行支援ロボットへの応用や、プライバシーに配慮した見守りをするためにAIだけが理解できる画像解析技術、設置したIoTエッジデバイスから来客分析や店舗の欠品検知を行う「Vieureka」などにもパナソニックのAIが活用されています。
加えて、まだ事業化はされていませんが移動空間ではパナソニックの本社構内において、自動運転のライドシェアの実験を行っています。また、降車するとクルマが自動的にパーキングエリアに向かう無人自動バレーパーキングシステムの実験も行われています。その他の事例に関しては、パナソニックAIというオウンドメディアもあります。ぜひ、ご覧ください。
事業の話ではないですが、AI領域で第一線で活躍されている社外の方の知見を積極的に取り込む動きも進んでいます。2017年から立命館大学の谷口教授に社員として加わっていただいたことにより、研究開発環境の整備がさらに進みました。
佐久間:ありがとうございます。パナソニックがAIに対して積極的に取り組んでいることがよく理解できました。ところで、阪田さんのように優秀なデータサイエンティストであれば、他の企業から声をかけられることもあるのではないかと思います。それでもなお、パナソニックで働き続ける理由は何でしょうか。
阪田: いくつか理由がありますが、パナソニックの社員の間には、社会の役に立ちたいという創業者 松下幸之助の想いや理念が自然と浸透しています。「自分のため」ではなく「社会のために」と考えながら技術を磨いている社員が本当に多いところがパナソニックで働き続ける大きな理由です。
また、尊敬できる先輩がいて、その先輩方にこれまで育ててもらった恩もあります。それに、パナソニックでは自分が頑張っていれば誰かが必ず見ていてくれて、認めてくれる風土が根付いています。そういった風土も自分に合っていると感じています。
例えば、機械学習のトップカンファレンスであるNIPSに採択(2017年)され、現在は北米Arimo社に出向している、大濱 郁さんは私が尊敬している先輩の一人です。大濱さんから多くのことを学びましたし、なにより育てていただきました。
私が機械学習に関する研究を初めて行う際、研究の進め方や論文の書き方などを丁寧に教えていただきました。また、大濱さんの共同研究先(北海道大学)に連れて行っていただき、その研究室の先生からの指導を直接受けながら共同研究を行う機会を得ることができました。このように尊敬しており、お世話になった大濱さんがパナソニックにいらっしゃることも私がパナソニックで働き続ける理由の1つとなっています。
ミッション、想い、人間関係、技術、環境。さまざまな魅力が備わっているからこそ、パナソニックで働き続けたいと感じています。
AIのその先へ 未来を見据えるパナソニック

佐久間:先ほどAIに積極的に取り組んでいると伺いました。実際に、阪田さんや周辺の方は機械学習が専門ですが、それ以外の分野の人もパナソニックで活躍する場があるのでしょうか。
阪田:クラウドやセキュリティを研究している学生さんにも来てほしいですね。パナソニックのミッションである、一人ひとりにとってのより良いくらしや社会を実現するためには、幅広い技術に長けた人が必要だと感じています。
佐久間:機械学習やAI関係の社員とクラウドやセキュリティ関係の社員が一緒に仕事をすることもありますか?
阪田:今まさに私が担当している業務で、組み込み系のエンジニアと役割分担をして、1つのサービスを作り上げています。機械学習の技術だけを持っていても、それを自分たちの製品やサービスに取り入れられなければ価値は生み出せません。その意味で、どんな技術もパナソニックに不可欠なスキルです。
――たくさんの専門家たちの知識や技術が融合して、新しいものを生み出しているのですね。それでは最後に、学生にメッセージをお願いします。
阪田:短期的な視点ではなく、10年後のAIの未来を見据えて仕事をしたいと思える人に来てもらいたいですね。さまざまな専門技術のトップレベルの人たちがいるのがパナソニックの魅力。そして、面倒見が良くて人を大切にする企業でもあります。
佐久間:パナソニックの社風は自分たちの周りの人のため、あるいは広く社会、日本のために何か貢献したい人に適していると思います。それはインターンや協賛していただいているクリエイティブ・ディストラクション・サロンなどで、パナソニックの方に接するたびに感じます。そういった側面にも興味がある学生には素晴らしい企業だということが、今日阪田さんのお話を伺ってより一層感じました。

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編集後記
KaggleのGrandmasterとVRで次世代の日本を作ろうとする若手リーダー。二人の対談で浮かびあがってきたのは、パナソニック創業から受け継がれ続けている「人を幸せにしよう」という想いだ。AIの先にあるものを見つめる二人の姿に日本の明るい未来を感じた。