「Science級の研究から商品化まで取り組む」 知られざるパナソニックの頭脳集団 テクノロジーイノベーション本部に迫る

インタビュー

LabBase Media 編集部

「Science級の研究から商品化まで取り組む」 知られざるパナソニックの頭脳集団 テクノロジーイノベーション本部に迫る

家電、住宅、車載事業(センサ、自動運転)、BtoB向けデバイス、システムソリューションなど幅広い技術を有するパナソニックで、最先端イメージセンサの研究開発に取り組む西村佳壽子氏。世界トップレベルの研究開発部門において、基礎研究から商品化まで担う様子に迫った。

*所属・内容等は取材当時のものです。(2020年8月公開)
*事業会社制への移行に伴い、2022年4月よりこちらの記事の仕事はパナソニック ホールディングス株式会社へ移管されました。


興味があることにとことん打ち込める研究環境



――パナソニックといえば、家電のイメージという学生が多いと思います。しかし、約8兆円の売り上げのうち家電の売り上げは3割ほどだそうですね。西村さんはパナソニックにおいてどのような部門に所属し、どのようなお仕事をされていらっしゃるのでしょうか。


確かに家電のイメージが強いですよね。ですが、実際のところパナソニックでは家電だけでなく、住宅、車載、BtoB向けソリューションなど幅広く事業を展開しています。


そういった事業の商品を作る部門、その事業部門の2~3年先の技術を開発する技術本部、さらにその先の未来を見据えた本社研究開発部門の大きく3つに分かれています。私が所属する本社研究開発部門は将来の人々のより良いくらし、持続可能な社会の実現を目指すための新技術の創出が求められている部門です。


私はその本社研究開発部門にあるテクノロジーイノベーション本部に所属していて、5~10年後の生活を快適・安心・安全、かつ、幸せに変えることが目標です。センシングデバイス、省エネ、蓄エネ、創エネ、次世代エネルギー、AI、高度解析技術、先端材料開発など未来の社会を支える材料開発やデバイスの先端研究開発を行っています。


その中で、私は新たな構造の「有機薄膜を用いたCMOSイメージセンサ」の開発をしており、5年以上にわたる基本構造の検討を経て、現在は商品化を目指すフェーズにきています。


――世界トップレベルの研究をしている方もいるそうですね。どのような成果をあげているのでしょうか。


例えば、私たちのチームでは「従来センサの100倍のダイナミックレンジを実現できるイメージセンサ」「従来センサの10倍の明るさまで歪みなく瞬間を撮像できるイメージセンサ」の開発といった、従来のセンサでは実現できなかった世界初の研究開発を行っています。


また、ISSCC(International Solid-State Circuits Conference)、IEDM(International Electron Devices Meeting)、VLSI Symposiaなどの著名な国際学会において5年連続で発表を行っています。


最近でもまた、赤外線を使って非接触で血流を測定し脳活動を推定する小型カメラ技術の研究が Nature Scientific Reportsに掲載されました。


パナソニックは完成品メーカーというイメージがあるかもしれません。しかし、信頼性の高い製品とそれを支える世界トップレベルのデバイス・マテリアルの基礎研究。その両輪があることがパナソニックの強みです。


他にも最先端の研究をするためにハーバード大学やM.I.T.に研究員として出向している技術者もいます。国内でも大学や産業技術総合研究所(AIST)や物質・材料研究機構(NIMS)などとの共同研究も盛んに行われています。


すでに博士号を持った技術者もたくさんいますし、個人の専門性をさらに向上させるために社会人ドクターを取得しているメンバーもいます。


私が所属する部門では、社会人ドクター取得制度もあります。社会人ドクターは、専門研究、国際論文を筆頭で3~4本、博士論文の作成を行わねばならず、時間も探求心も必要です。


大変そうだなと思われるかもしれませんが、研究を通じて他分野の人と知り合うことができ、多くの刺激を受けることができます。これまで想像もつかなかったような面白いコラボから新しい発想が生まれたり、新たな研究がスタートしたりすることもあるので、楽しんでいる方が多いです。


――本当に研究が好きじゃないとできないですね! 研究に没頭したい方ばかりがいらっしゃるのでしょうか。


たしかに、個性豊かなメンバーが集まっています。機械工学や電気・電子工学、物理工学、有機材料・高分子材料、無機材料、触媒、化学工学、バイオ材料など幅広い専門性を持った仲間がいます。しかし、全員が研究をすることだけが目的というわけではなく、商品の事業化やそれを支える生産技術、海外での共同研究やマーケティングなど、個々のモチベーションはさまざまです。


共通していることは「自分が考えたアイデアを商品化し、世の中に役立ちたい」「その商品で、生活や産業を進化させたい」という強い想いを持って仕事をしているという点です。


少し話がそれますが、研究開発部門には業務の10%くらいは自分の好きなことをやってほしい(次につながる技術の種を考える時間を作るべき)という考えが根付いています。


実際に、私たちの所属部門では新しい提案をできる場が設けられており、提案に賛同する人がいれば一緒に検討、試作を行い、価値ある技術であるという確証が得られれば、他の技術とコラボしたり、商品化を目指したりすることもできます。今年もすでに、数グループで新しいアイデアの試作や知財権利化を行っています。


「仲間と一緒に世に出る商品を作りたい」という想いがキャリアの原点



――大学時代の研究内容や、パナソニックへ入社した経緯を教えてください。


学生時代は、制御機械工学科でロボットのマニピュレータ開発を行っていました。ロボットアームっていうと分かりやすいですかね。


例えば、中小規模の工場の場合、複数製品のロット生産に対応しなくてはなりません。そのため、さまざまな工程に対応する必要があります。そういったニーズに応え、自分たちで工程を変更したときすぐに、最適な構成・動きにできるようなソフト・ハード開発の研究に取り組んでいました。


大学院で研究を続ける道もありましたが、自分で作った製品を世に出して、少しでも早く世の中に役立ちたいという想いが強かったので、院への進学ではなく就職することを選びました。


数ある企業の中でもパナソニックを就職先に選んだ決め手は2点ありました。1点目は、私たちの生活を支える商品が数多くあること。そして、2点目はその商品を支える世界レベルの研究ができる環境があることです。私の志である「世の中が少しでもより良くなる製品を自分で、またチームで創り出したい」をかなえる場所として、とても魅力的に感じました。


入社後は、半導体の研究部門でDVDやDVC用の超高速ADC(Analog to Digital Converter)や初期のFTTH(Fiber To The Home)を実現するための光通信用半導体の開発を担当しました。


大学で専攻していた分野(機械)と配属先の分野が異なっていたので、最初の数年は苦労しました。しかし、先輩方が設計ツールの使い方から深い専門技術まで、丁寧に教えてくださる環境が整っており、安心してさまざまな知識を吸収し、経験を積むことができました。


入社当時は、大学で専攻していた分野とは全く異なる分野で仕事をすることになって大変だなぁと思っていましたが、現在は今の分野で研究開発ができてよかったと感じています。


今は1つのモノを作るためにも、さまざまな分野の知識を集約して設計する必要があります。そのとき、大学や新入社員のときに学んだ技術を活用できるかもという視点で調べたり考えたりすることができ、そういった観点や経験に救われた場面が多々ありました。学生時代や会社に入って学んだ1つ1つの技術、知識がどれも大切で、つながっていると感じる瞬間でもあります。


大学で学んでいる専攻と異分野への配属になった場合でも、新たな分野を学ぶ機会を得ることができ、自分の経験をその分野に展開できるチャンスと考えていただけたら成長の幅がより広がると思います。


――テクノロジーイノベーション本部の皆さんは入社以降、ずっと研究に没頭されてきたのでしょうか。


入社からずっと研究開発部門の方もいらっしゃいますし、研究内容の事業化のために事業部門に異動する方などさまざまです。個人的には、研究開発部門と事業部門を複数年周期で行き来することが理想的かもなと思っています。視点が変わればさまざまな学びがありますから。


私の場合ですと、入社のときの配属は研究開発部門でした。そこで、高速A/D変換器やイメージセンサのコア開発をしていました。そこから、各分野へのイメージセンサの事業化のために研究開発部門から事業部門へ異動し、また研究開発部門に戻ってきました。


ただ、どちらの部門も「目の前の一人ひとりのお客様に喜んでいただきたい、笑顔になってほしい」という想いは同じだと感じています。私自身も入社から今まで、開発ターゲットや取り組み内容は変わっていますが「目の前の一人ひとりのお客様に喜んでいただきたい、笑顔になってほしい」という想いをずっと変わらず持って仕事をしています。


仕事をしていると、正直……泣きたくなるくらい大変で、大いに悩むこともあります。しかし、今の開発メンバーと「新しい技術を生み出したい、商品化したい」という強い想いのもと、商品を作り上げ、お客様の笑顔が見られたときの達成感や喜びを楽しみに頑張っています!


社内外のネットワークを活用した最先端の技術研究



――先ほどお話されていた商品化を目指しているカメラのイメージセンサの研究開発について詳細を伺えますか。


現在、私たちが開発している「有機薄膜を用いたCMOSイメージセンサ」は、従来の光を電気に変えて読み出すために用いられていたフォトダイオードの代わりに、光吸収率の高い有機薄膜を用い、この有機薄膜と読み出し回路を2階建ての積層構造とすることで、従来センサよりも格段に特性を向上させた撮像性能、新機能を実現しています。


最初の数年間は、センサの構造や性能の基本検討を行いました。その後、従来のセンサでは実現できなかった新しい特長を持ったイメージセンサを生み出すために、回路設計者だけではなく、半導体プロセス設計者、材料開発者たちが集まり、新しいプロジェクト(有機センサ開発プロジェクト)が始動しました。


このプロジェクトの中では、それぞれの技術者がセンサ性能ありきではなく、センサ構造にまで踏みこんで、数年後のセンサが担うべき機能・性能について議論を行い、時にはお互いに高い目標を求めながら開発を行いました。現在は、試作期間を経て、商品化を目指すところまできています。


――有機センサ開発プロジェクトで、西村さんはどのような役割を担われているのでしょうか。


現在、イメージセンサはIoTの窓口として大きな期待を担っています。従来は、人間の眼の代わりとして、正確に情景を捉えることが目的でした。しかし現在は、監視、産業、自動運転などの分野で、人の眼では捉えられないような高速な物体や暗闇の中でのセンシングに使用されつつあります。


さらに今後は、生活のあらゆるところに設置され、顔認証や行動認識・予知などを行うことで、さまざまな情報を個人の生活や社会インフラにフィードバックすることを目的に、その適用範囲を大きく伸長させていくことになると思います。


このような背景のもと、私は設計リーダーとして、センサのトータル特性(材料・プロセス・回路など)が最良のパフォーマンスとなるよう、相互の仕様策定とセンサ設計の推進を行っています。


専門分野が異なると、基本となる考え方や基準も異なります。そういったことを前提に、お互いに情報を交換し、相互理解が深まるように努め協力体制を取りながらプロジェクトを進めています。


――プロジェクトの進め方について、もう少し詳しく教えてください。


新しいプロジェクトを立ち上げる時期は、研究部門、事業部、セット部門が連携して進めます。そのため、商品化し、お客様に届けるまで相互に関わり続けることが多いです。時には、スペックだけで規定できない感応的な特性の改善をデバイス、セット、システムなど全員で協力して行うこともあります。一方、事業化の段階になると事業部門に技術移管を行います。


また、社外の方々との関わりも多く、国内外の大学・研究所との共同研究やターゲット市場分野のお客様から意見や要望をお伺いしたりしています。


昔は、「デバイス開発をする」といえば高性能のデバイスを作ればよかったのですが、今はシステムとして価値、機能を提供しなければなりません。時代が変化する中で、市場やお客様が求めているものをヒアリングし、商品という形に作り上げるための技術力とともに、ビジネス的観点、市場を読む力が重要だと考えています。


――専門外の開発技術や知識も必要になるときがあると思いますが、事業化を考える力はどのように身につけられましたか。


「経験すること、学び、実践すること」で身についたと思います。学会で未来技術の動向や先行的な技術開発の発表をする場合、発表後に他社が負けじと追随してくることをあらかじめ考慮しておかなくてはなりません。


一方、他社の先進的な部分を学び、謙虚に受け入れ、さらに向上する姿勢も大切です。自社のポジション・技術をしっかり見つめ、他社・他分野の話を実直に聞くということは、技術向上においてとても重要だと考えています。


また、パナソニックは社内外のネットワークが豊富で、過去の商品技術を今の商品に活かしたり、パートナーと組んで違う分野に発展させたりすることもできます。ニーズ探索フェーズにおいても、ユーザーや技術者の生の声を聞くことで、将来の社会に有益な開発を可能にすることができます。


専門性と多角的な視点でキャリアを形成しよう



――研究開発の面白さを感じることができる企業自体は他にも多くある中、パナソニックだからできることや魅力はなんでしょうか。


総合電機メーカーで材料やデバイス開発をする面白さとしては、自らの専門となる基本軸を持った上で、材料自体の研究から商品開発、サービス提供まで製造全般に関わることができるところです。


また一方で、これからの時代の新しい技術を生み出すためには、他業種連携が必要となってきます。この場合にも、世界各国の研究所や大学と連携することができ、お互いの強みを活かした形で、いち早く新しい技術へチャレンジできるのも魅力の1つと考えます。


もう一点、パナソニックでは最終製品まで作っているため、お客様の声を直接聞くことができます。そのお客様の声によって、どんなものを開発すべきなのかということがより明確になり、確度の高い目標スペックへの落とし込みが可能になります。「何を開発すべきか」がみえるということは企業での研究開発においては非常に重要です。また、自らが開発したものが自社製品に搭載されて世の中に出ていくことは技術者としての喜びや誇りにもつながります。


人材的にも大変恵まれていると感じます。自分にとって未知である分野の課題に対しても、社内には多くの分野の専門家がいます。専門外の部分も学ぶことができ、さらに新しい技術について議論しながら進められるのは大きなメリットです。


リスクがあってもやりたいことにチャレンジできる風土や部門を越えてフォローする体制も整っているので、困ったときにも心強いバックアップを受けられます。


――キャリアデザインという意味ではどうでしょうか。


本人のキャリア形成に合わせてさまざまな道を選択できます。未来の技術を支えるデバイス・マテリアルの基礎研究一筋の人もおられますし、スタンフォード大学などに留学し、新しいフィールドの技術を生み出している方もおられます。一方、先行技術開発の後、事業化フェーズに移行、商品化に携わることも可能です。


現在、パナソニックには37の事業があり、それぞれの事業に対して研究や開発の領域があります。そうした幅広い事業領域の中で個々に合ったキャリアプランを選べるのは魅力の1つと考えます。おのおのの部署の専門性が高いので、自分に与えられた環境で頑張ることで新しい技術を身につけることもできます。また、入社時にはみえていなかったやりたい技術領域や分野がみえたときに、自分でアピールをして異動することもできます。


会社の仕組みとしても、上司とキャリアの方向性について議論する1on1 Meetingという制度や、異動制度であるe-チャレンジ制度・e-アピール制度、また、社内複業制度(自分の時間の何割かを他部署で働ける制度)、ベンチャー企業に出向し経験を積む社外留職制度などがあり、人生のステージに合わせて、柔軟に自らのキャリアを歩んでいけます。


私の場合は、事業化のフェーズで事業部に所属し、研究の段階でまた戻るなど仕事の流れに合わせた場所で働いています。人にも仕事にも恵まれ、研究所で世界No.1の技術を他部署と連携しながら開発ができる喜びと事業部門で実際に開発した商品を世の中に出し、お客様の喜んでいる声を直接聞く機会を得ることができ、その時々を目いっぱい楽しみながら働くことができています。


――最後に、就職活動中の理系学生にメッセージをお願いします。


専門性を高めたいというモチベーションはもちろん、まず「将来こんな世の中にしたい」「こんな製品を作りたい」などの自分の「やりたい」という想いを持つことが大切です。そのために、「その分野で一番になりたい」「どこかの研究所とコラボしたい」など理想を描きながら積極的に動くことで開発も楽しめますし、結果もついてくるはずです。


パナソニックでは、私たちが物心ついたときにはすでにあった身近な製品を時代やくらしの変化に合わせて提案することができます。すなわち、信頼と革新を両方実現できる会社です。専門性を活かせるさまざまな部署があるので、やる気さえあれば常識を覆すような開発ができます。


ぜひ、自分の夢を実現するため、自分の力を試すためにパナソニックに来てください。



パナソニック採用サイト 研究・選考技術開発のページは こちら


編集後記


物心ついたころには身近にあった商品を作る企業では、研究内容も限られると思いがちだ。しかし、パナソニックでは世界最先端の技術を研究する環境が整っている。常に探求心とチャレンジ精神を持つ西村氏が最先端技術を身につけることができたのは、同社で技術を存分に活かせていることが大きいといえるだろう。

ライター
上石 あやの
カメラマン
児玉 聡
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創業以来、変わることのない使命である「物と心が共に豊かな理想の社会の実現」を目指すために、 変化する世界の中でお客さま一人ひとりの幸せを生みだす「チカラ」であり続けたいと思います。 そのため、私たちは2022年4月に事業会社制へと移行し、新たなパナソニックグループとしてスタートしました。 詳細はこちら:https://recruit.jpn.panasonic.com/organization/ 【現グループ構成会社】 ・パナソニック(株) ・パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション(株) ・パナソニック ハウジングソリューションズ(株) ・パナソニック コネクト(株)  ・パナソニック インダストリー(株) ・パナソニック エナジー(株) ・パナソニック オペレーショナルエクセレンス(株) ・パナソニック ホールディングス(株) ※2024年12月から、パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社はApolloとの戦略的パートナーシップに基づく新しい経営体制へと移行しましたが、2026年度卒の新卒採用はパナソニックグループとして一括でエントリーを受け付けています。2027年度卒以降のインターンシップ・新卒採用については、パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社採用サイトよりエントリーを受け付けます。 各事業会社の事業およびミッションはパナソニックグループ採用サイトよりご確認ください。 https://recruit.jpn.panasonic.com/organization/ LabBase掲載の事業会社は以下をご確認ください。 ・パナソニック インダストリー(株) https://compass.labbase.jp/company/1064 ・パナソニック エナジー(株) https://compass.labbase.jp/company/1190 パナソニックグループの研究開発については以下をご確認ください。 https://recruit.jpn.panasonic.com/rd/