ビジネス展開可能なデータ分析にチャンスを感じた

――岡本さんから、学生時代に取り組んだことや、三井住友海上火災保険に入社するまでの経緯をお聞かせください。
岡本:私は情報系の学部から修士まで進み、超音波を使ったCTなどの医療系の画像処理を研究しました。多忙で就職活動に割く時間が十分になく、研究室の先輩の話を参考に複数のメーカーを受け、大手グループ傘下で携帯電話のソフトウェア企業に就職しました。開発に携わる中で、モバイル空間統計という位置情報を使った人流分析のプロジェクトに本格的に取り組む機会があったんです。
人流とは文字通り「人の流れ」のことで、人流分析はある場所に集まった人を数値化するものです。例えば、「祭に100万人参加している」「池袋の訪問者は埼玉県民が多い」「昼間の町田には神奈川県民が多い」といった肌感覚をデータで実証することができます。数日間にわたる大型イベントのコミックマーケットでは、日によって来場者の男女比が違うことや、来場者が全国各地から来ていることなどがデータで分かります。
これが本当に面白くて、一昨年、人流分析や関連サービスを拡張するところだった当社に入社しました。
当社なら保険データの他、多様な業界との関わりで使えるデータが幅広く、人流分析データから新たなビジネスを創造することもできます。三井住友海上のデータ分析の可能性の広がりにとてもチャンスを感じました。
――木田さんは、さまざまな業界経験をお持ちだそうですね。
木田:私の経歴はちょっと複雑で、大学院を出てから通信企業、政治家の秘書、ソフトウェア企業、百貨店、通信販売企業、広告企業など、外資系を中心に幅広い業界を経て三井住友海上に入社しました。政治家の秘書として支持者のエリア別データベースを作っていたときに、データやマーケティングの面白さに気づいたんです。今思えば、ダイレクトメールの出し分けなどCRMの真似事をしていたように思います。
ソフトウェア企業では扱っている商材が統計解析のツールで、電話営業には統計学の基礎知識は必須でしたので、ゼロから必死に統計学を学び、更にツールの操作方法もひそかに学びました。
一念発起してデータサイエンティストを目指して転職した百貨店では売り場で販売員として立ちながらもデータ分析を手がけ、次第にデータサイエンティストとして“覚醒”していきました。
通販会社ではデータ分析チームの立ち上げに参画し、その後新規事業部長になり、そこから当社のデジタル戦略部にたどりつき、現在はデータサイエンティスト協会の理事も務めています。昨年は書籍を出版し、講演も多数実施しましたが、できることは全部やろうと思っています。
当社を選んだ決め手は、当社ならではの自由な社風と面接官との相性でした。この会社なら、この上司なら僕の良さを分かってくれる、自由にやらせてくれると感じたんです。 上司が「俺が支える、一緒にやろう」という人だと、データ分析は成功すると思います。
ただ、それまでの職場は外資系企業が多かったので、当初は、社章を着け、出社時刻が一定という日本の安定企業の文化に驚きましたね。でも、今ではドレスコードが撤廃されて私服での出社も認められたりと、会社の文化も柔軟に変わってきています。
データサイエンスが社会貢献にも直結
――入社してから経験したデータサイエンスのプロジェクトで、印象深いものを教えてください。
岡本:警察庁オープンデータを利用して、全国の交通事故を未然に防ぐためのデータ分析を行った経験です 。警察庁からオープンデータとして公開された2019年の交通事故地点のデータから日本全国の事故状況を可視化したマップを、木田が旗振りをして当社独自に作ったんです。
自分の住むエリアなどの過去の事故発生状況が一目瞭然で、運転時や普段の生活圏で注意すべきポイントが分かります。データ使用にあたりディスカッションした警察庁は「企業からこうした話が来たのは初めて。どんどん使ってほしい」と好意的でした。
当社は保険会社ですから、もともとドライブレコーダーを通じた事故と被害のデータを持ち、そこからリスクを分析し改善策を考えていました。しかし今回は、警察庁のオープンデータを使ったことで分析の幅がより広がり、自社データとの差分を拡大推計するなどの使い方も可能になりました。一つのデータだけで完結せず、次のステップにつながるデータ分析になったことも今回の収穫です。さらに、マップを一般公開することで人々の役に立てるので、 データサイエンスを使った社会貢献としても価値ある仕事をしたと思います。
――データサイエンスが社会貢献と事業成長の起点となるためには、スキルや体制が整っていることも重要ですね。
木田:当社のデータ分析チームはフットワークが軽く、警察庁のデータ発見からツール作成まで実質5日でした。 上司の熱意と突破力も、実現を加速させましたね。さらに言うと、僕らデータサイエンティストは一般的な会社員の出世ルートやキャリアにとらわれることなく、効率的かつ自由に社会的価値の高い仕事をやらせてもらえていると思います。
岡本:プラント、金融、言語解析の専門家など、幅広く各部門で秀でた人が集まったチームであることも強みで、非常に充実した楽しい環境です。今後入社する人も、自分の研究をどう生かすか、それを他分野の専門家とどう掛け合わせていくか、研究の延長線上で考えていける仕事だと思います。
――他にはどのような分野のデータを扱いますか?
木田:当社のサービス「RisTech」では、データを駆使したお客さま企業のリスク分析と解決がテーマで、扱う業界データは実に多種多様です。例えば小売企業なら、壊れやすい設備をどう発見するか、壊れ方にどんなパターンがあるかを、データ分析して情報を提供します。実際に設備故障がどれほど減ったかは、企業の保険契約で当社が支払った保険金額からすぐに分かるので、レスポンスが早いですね。次から次に他業界の課題解決に向かうスピード感も楽しいです。
データサイエンティストは、いろいろなデータに触れたいし、多くの可能性を探って自分のスキルを伸ばしたいし、ある意味“わがまま”なんです。当社ではあらゆる業界・職種のデータを扱って保険にまつわる課題と向き合うので、経験が積みやすく成長しやすいと思います。お客さまと一緒に、故障や負担を減らすという共通のKPI(重要業績評価指標)を追いかけることで、対等な関係のプロジェクト感覚で仕事ができる点もいいですね。
データと触れ合い、人と触れ合いながら成長する

――実際、どういった流れで案件を進めていくのでしょうか。
木田:営業担当者からの案件の紹介があると、例えば岡本が客先でヒアリングし、問題をチームで解決する。そして、また次の案件へ、という感じです。最近は実際に客先を訪問するのは営業担当だけで、われわれはオンライン参加するケースが多く効率的です。
保険会社としては、その案件の将来的な保険料収入の見込みやお客さまとの関係深化は重要なファクターで、そのウエートは社内の人的リソース配分にも影響します。例えば位置情報系の岡本のタスクが詰まっていたらその分野の案件は増やせないし、マーケティング系の僕のタスクが詰まっていたら……ということで、タスク状況の可視化も業務のポイントです。
――仕事で最もやりがいを感じるのはどんなときですか?
岡本:新しいデータと触れ合えた瞬間に、当社に来てよかったと思います。前職はシステム開発がメインで自社保有データがなかったのですが、当社では保険データ以外にも、関わる業界からどんどん新しいデータを提供してもらえます。
働き方も、前職のようなソフトウェア企業ですと残業が多くなりがちですが、そちらと比べるととても良い環境です。木田を含め、これまでにデータサイエンティストが築いてきた文化的土台を感じます。
木田:僕は、多様な業界のトップや経営層の人に会えて、しかもデータ分析の成果を見せて直接やりとりができる点がやりがいです。最近は書籍の執筆や講演も行っているため、事前に相手がこちらを知っていてくれることも増えました。
10年前はソフトウェアの営業マンだった自分が、さまざまな人と出会いながら他業界の知見を積み、データサイエンティストとして成長したことは大きな喜びです。「昨日の自分より1センチでも前に進んでいるか」がモットーであり指標なので、毎日寸暇を惜しんで読書して勉強して、その積み重ねの成果を実感できています。
人を巻き込んだ課題解決を楽しむ職場
――最後に、今、どんな人と共に働きたいか教えてください。
岡本:幅広いことに興味を持って取り組む人ですね。自分の専門外の分野に対してもアンテナを張り、できるできないは別にして「やろうとする人」と一緒に働きたいです。
新規案件に対しておのおのが意見を挙げ、ディスカッションを通して最適な方法を探すこともありますから、皆でワイワイやる要素と、仕事に没頭する要素の両方があります。多分野の第一人者がいるチームなので勉強になりますし、ここで10年働いたらデータサイエンティストとして相当な実力がつくはずです。
木田:僕らデジタル戦略部は、社内で一番変化を求められる部署で、先陣を切るためには新しいことに取り組んでいくことが必要です。例えば社会課題解決として自然災害を減らすなら、それをどう展開し、どう人を巻き込んでいくか、その結果どうなるのか、と考えながら自分で動ける人。近視眼的にデータを見て分析だけするのではなく、人を巻き込みながら一緒に課題解決を楽しめる人が向いています。
地球温暖化などのグローバルな社会課題は、企業にとっても重要なテーマですから、それに対しどのようにデータ分析して、どのように人を動かすアウトプットを出すかというストーリーも考えられないと、今後はデータサイエンティストとしても十分ではなくなるでしょう。分析の力だけでなく、プラスアルファの独自要素を持つとがった人を歓迎します。
三井住友海上火災保険株式会社の [「企業情報」]をチェック!
※所属・内容等は取材当時のものです。
編集後記
データ分析の第一人者たちが集う三井住友海上火災保険のデジタル戦略室は、情報系人材の理想的なキャリア形成の場といえるだろう。保険業界ならではの幅広くユニークなデータを扱い、かつ早いサイクルで多くの経験を積めることで、データサイエンティストとしてだけでなく、ビジネスパーソンとしても段違いの効率で成長できそうだ。