大局的にビジネスの仕組みを知りたかった。研究職ではなく化学商社の道へ

――学生時代の研究や就職活動で重視したことをお聞かせください。
高等専門学校から大学の工学部へ進学し、有機化学、無機化学、バイオと幅広く学びました。大学院ではバイオを専攻していました。就職活動では製紙メーカーや化学メーカーを見つつ、ビジネスの構造を知りたいとの思いで化学系の商社を志望しました。
モノをどこから仕入れ、どう売って、お金を作っていくかという流れに興味があり、ビジネス全体を知ってこそ専門的な学びも生きると考えていました。
――研究職ではなく化学商社というキャリアに不安はありませんでしたか?
入社してみると、理系院生の同期も多くて安心しました。ただ、バイオに関係があるからという理由で食品関連の部署を希望していたので、入社後の配属先がシステム部と聞いた時は少し動揺しました(笑)。当時、数十億円をかけて会計システムの刷新プロジェクトが進行中で、1年目はその説明会の実施や資料作成を、2年目はシステム導入後のフォローを担当しました。
現在は、社内のアナログな仕事をデジタルに置き換える「DX推進プロジェクト」に携わっています。DXが会社の至上命題となるのに伴い、部署名も「ICT企画部」に変わり、最近はクラウド系ツールの導入で働き方の変革を支えています。
研究で培った仮説検証の思考プロセスが武器になる

――現在、所属するICT企画部のDX課では、具体的にどのような役割を担っていますか。
社内・グループ内のDXを進めるプロジェクトマネジメントが私の役割で、具体的にはシステム開発におけるスケジュールや予算管理、要件定義などを担っています。開発については、グループ会社のナガセ情報開発株式会社や、外部のコンサルタントやエンジニアと協業しながら進めています。ときには海外のスタッフとコミュニケーションを図ることもあります。
――DXは企業の成長の鍵ともいえる重要な変革ですが、実態が見えにくい側面もあります。
これまで真剣に議論を重ねて、使いやすさを重視した現実的なDXのあり方を検討してきました。ユーザー側、開発側双方の意見を踏まえ、SaaSシステムと呼ばれるサブスクリプション型サービスをカスタマイズして導入しています。時間、場所にかかわらずクラウド上で情報共有できるため、当社の働き方や仕事効率の向上に大きく貢献しています。
――入社以降、ご自身の強みをどう生かしながら業務知識やスキルを獲得してきましたか?
数字を見ることに抵抗がないのは大きな強みです。詳細な費用対効果の見積もりや、工数削減で余ったコストの投資先選定や試算などは、実験の仮説検証のプロセスに近いと思います。
システム開発の専門知識については、仕事を通して社内外の人とコミュニケーションを取りながら吸収しました。コロナ流行前は外部セミナーに多数参加したほか、ITベンダーやコンサルタントとの商談にも積極的に同席させてもらいました。「当たって砕けろ」の精神で初歩的な質問を重ねながら、少しずつ開発分野のコストやスケジュールの感覚を覚えていきました。
新技術を現場に浸透させ、「攻めのIT」を支える

――長瀬産業がICTを推進する背景についてもお聞かせください。
ICT企画部では、グループのDX・効率化へ貢献することをミッションとしています。ICT企画部の基幹システム課が「守りのIT」として会計業務の効率化やコスト削減を手がける一方、私が所属するDX課では「攻めのIT」として売り上げを増やす施策を推進しています。 コストパフォーマンスを高めつつ、さらにDXによる営業情報の収集・共有で、グループ間のシナジー創出を目指しています。
その背景には、DXによる業界の構造変化があります。スマートフォンやデジタルカメラの台頭でフィルムカメラが衰退したように、商社業界にDXが浸透すればビジネス環境が根底から覆ります。数年前にアメリカのグループ会社からDXに関して問題提起されたことを発端に、私たちもDX化に対する意識が変わりました。かつての「買って売る」という単純なビジネスモデルから、ITで企業の存在価値を高めていく組織構造に変わりつつあります。
――入社前に志した大局的な取り組みを、まさに実践中なんですね。特に印象的だったプロジェクトはありますか?
当社は幅広い分野の商品を扱う商社です。しかし従来、情報共有は部門単位あるいは個人単位で完結していました。もし優秀な社員が退職したら、その人に蓄積された人脈やナレッジは失われてしまいます。
そこで、NAGASEグループの財産として情報を蓄積・分析するために、営業支援システムの「Salesforce」やオンライン名刺交換システム「Sansan」を本社および国内グループ会社に導入しました。顧客ごとの案件進捗等を部門間・グループ会社間で共有できるようになりました。今後は海外グループ会社にも導入する予定です。
現在は利用率を上げるため、社員にシステムに入力する必要性やメリットを理解してもらうことに注力しています。そのためには、まず役職者やベテラン社員から「情報は会社の財産」であることを伝えてもらうことが重要です。
また、メリットを実感してもらうため、システムで共有してもらった各部署の営業活動情報などをリスト化し、事業部全員に毎朝メールで自動配信する仕組みを提案しました。「この担当者の営業方法を知りたい」というコミュニケーションのきっかけを作り、システム活用をさらに促進する狙いです。
ビジネスへの理解と提案力で、企業の成長に貢献

――DXという大きなミッションの遂行に、どんなやりがいを感じていますか?
システムを使う現場社員から、「使いやすかったよ」「ありがとう」と言われることが一番のやりがいです。最近は人と直接会う機会も減っているため、SansanのQRコードを使った名刺交換も評価いただけています。
また、効率化や円滑化のために最適なツールを選定し、常に新しい知識をインプットしながら企画を提案することで、ビジネスの成長への貢献を実感できるのは大きなモチベーションです。今後も新しいビジネスモデルの創造にITは不可欠です。社内外に頼られる存在になれるよう、ITだけでなくビジネスへの理解を深め、日々研鑽しています。
――最後に、渡辺さんが共に働きたいと考える人物像を教えてください。
当社には、新入社員の提案も拒否せず、受け入れてくれる風土があります。そのため、受け身でなくビジネス成長のために何をしたいか自ら提案できる人が評価されます。
ICT企画部はマネジメントが主な業務になります。たとえ、立場が上であっても納期や予算調整の面で問題があれば、ハッキリと意見を主張できる力が求められます。また、ベンダーやグループ会社とのやりとりが多いため、綿密な打ち合わせで企画の条件にコミットし、問題点も含めて正直に意見できるコミュニケーション力も大切です。大局的にビジネスやプロジェクト全体を捉える思考と、責任感やリーダーシップの素養を生かしながら、その中で自分の強みをどう発揮していくか考えてみてほしいです。
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編集後記
従来の専門商社の枠組みにとらわれず、ICTを活用して新たなビジネスモデルの創出に向けて飛躍を遂げている長瀬産業。理系人材が主体的にビジネスに取り組めるフィールドといえるだろう。商社ならではの多分野の商材やステークホルダーとの関わりの中で、企業と共に自身の成長も大いに実感できそうだ。