教授に直談判して決めた「研究テーマ」

――現在どんな業務をされているか教えてください。
地球環境の問題を解決する仕事をしています。もう少し詳しく言うと、環境に配慮した製品をお客さまにお届けすることです。製品を生産する工場では、できるだけCO2や廃棄物を排出せずに生産することを社内の関係者と協力して進めています。
環境問題は経営にも関わる課題です。異常気象が原因で洪水などが起これば、工場の生産が止まるなど事業に影響を与えます。逆に、お客さまから環境に配慮した製品を選んでもらえると、事業の成長にもつながります。
――学生時代はどのようなことを学ばれていたのですか?
大学時代は工業化学が専攻で、いろんな実験や新しい装置を使いながら分析化学に関する研究を行っていました。研究テーマは教授が決めるのが一般的でしたが、大学院進学時には教授に直談判して研究テーマを設定させてもらいました。
当時、研究室では初めてとなる生化学をテーマとして選ぶことに。研究室にはなかった「高速液体クロマトグラフィー」という高額な分析機器を購入してもらい、研究を開始しました。修士論文では自らやりたいと言った手前、研究の仕方から分析機器の基礎知識まで身につける必要がありましたが、自分で決めた新しいことにチャレンジできるのは大きな喜びでした。
――就職活動はどのような軸でされたのですか?
学生時代に生化学を始めたこともあり、生化学と分析に関わることを軸に就職活動を行っていました。候補としては製薬会社と化学系の会社で、その中の1社が現在勤めているコニカミノルタ株式会社の前身である小西六写真工業でした。
当時のメインの事業は、カラーフィルムやカメラを作ること。一見、生化学とは関係ないように思えますよね。ところが、会社のパンフレットを取り寄せて調べてみると、生化学分野で新規事業に参入することを知りました。フィルムの技術を生かして生化学を分析するフィルムの開発をする。まさに私が求めていた分野で、入社試験を受けることを決めました。
面接で「生化学の分析に関わる事業に携わりたい」と伝えたり、「会社としてバイオテクノロジー関係の仕事を今後どのようにして拡大、もしくは事業化する計画があるのですか?」と質問したりしたことを覚えています。当時は内定者合宿があって、その際にも希望を伝えました。その後、運よく希望通りの部署である技術研究所に配属されました。
入社して約10年、失敗を繰り返したからこそつかんだ成功

――入社してから失敗もたくさん経験されたそうですね。
入社してから約10年、失敗を繰り返したといえるかもしれません。入社後は研究開発に携わり、大きなテーマとしては「血液の中の成分を分析するフィルムの開発」と「がんを血液や尿で診断する腫瘍マーカーの開発」に取り組みました。
ところが、フィルムの開発は4年ほど取り組みましたが開発することができず、腫瘍マーカーの開発は1種類の商品化に成功したものの、約7年と時間がかかりすぎたのです。事業として発展するのは難しく、どちらも事業として成立しませんでした。
入社して約10年で取り組んできたことが2回中断され、その後、事業撤退して研究室が解散することに。そこで、今までとは全く違う環境の分野で働き始めることになりました。
――研究開発から環境の仕事に異動することに戸惑いなどがあったのではないでしょうか?
そうですね。不安はありました。ただ入社当時から「新しいことにチャレンジする気持ちがあれば頑張れる」という思いはありましたし、大学時代と同様に上司にやりたいことを提案する機会をもらえたのです。
そこで取り組んだのが「ゼロエミッション活動」という埋め立てる廃棄物をゼロにする活動です。同時に廃棄費用を90%削減するという誰も試みたことのない難易度の高い目標も追加しました。
環境の部署に配属されたばかりのいわば素人4人で議論を繰り返し、現場を知るために週の半分以上を出張しながら、まだ誰も達成していないことにチャレンジしました。ここでようやく入社してから初めてプロジェクトを成功させることができました。
フットワークの軽さと失敗を恐れない姿勢で、みんながそれぞれ「達成するぞ」と意気込んでいたからこそ成功できたと思っています。周囲からは「無謀だ」という声を聞くこともありましたが、成功すると信じてくれる仲間がいたことは心強かったですね。チームで取り組むことの重要性を実感した瞬間でした。
――失敗を繰り返して成功につなげたのですね。
失敗を繰り返した経験は、新しいことを考える上で非常に重要な糧になりました。失敗をしたと区切りをつけることがあってもいいのですが、大切なのは「また次のことをやればいい」と考え、失敗を成功に結びつける姿勢です。途中過程で繰り返し失敗したとしても、最終的に諦めなければ人生の失敗にはなりません。
私は、「あらゆる仕事にやりがいは見つけ出せる」と考えています。結局のところ、やりがいを見つけ出せるかどうかは自分自身にかかっています。誰かが与えてくれるものではなく、自らやりがいを作り出すことが重要です。
研究開発に一心不乱に取り組んできた経験は今でも宝物です。その後の仕事に取り組む姿勢に強く関係しているように思います。
環境分野は多様な能力が活かされる“理系のダイバーシティー”

――環境分野で理系の経験が生きるのはどんなところですか?
環境統括部は8割以上が理系出身者で、理系のバックグラウンドを活かしやすい分野です。企業が取り組む環境分野は、気候変動への対応、資源の有効利用、化学物質安全などに分けられますが、化学系・物理系・機械系・電気系などさまざまな分野で理系の専門能力が必要となります。
ダイバーシティーというと性別や人種が注目されがちですが、ある意味環境分野は「理系のダイバーシティー」ですね。多様な能力の集まりによって成果が発揮されることはあると思います。
理系出身者が8割と言いましたが、環境分野は法律を守ることも求められる分野です。法学部出身の人など文系の人にもチームに入ってもらいながら仕事を進めています。いろいろなバックグラウンドを持っている人が活躍しています。
――若手社員からすると役員は遠い存在だと思います。若手社員と話をすることもあるのでしょうか。
当社の場合は環境統括部に限らず、従業員と役員の関係は近いと感じています。コロナ禍になってから、出社した際には個室で仕事をすることが増えましたが、いつでも部下が入ってこられるように扉は開けていることが多いです。20代〜30代の部下も「高橋さん、ちょっと聞いてもらえませんか? 5分間だけ時間をください」と入ってきてくれます。だいたい5分では終わらないのですけどね(笑)。
部下と話していると、自分で限界を決めないところが頼もしいと感じます。自らの成長に積極的に行動する人が多いです。例えば、私たちは工場の省エネルギー化を進めるにあたって、生産拠点の環境活動を総合的に評価する「グリーンファクトリー認定制度」という当社独自の制度を設けています。
工場は世界中にあって「〇〇さんは中国のこの工場」「〇〇さんはフランスのこの工場」といろんな工場の担当になるわけです。最初はエネルギーの専門家と一緒に出張に行って省エネ診断や対策を考えていました。
ところが、「自分でやりたい」とエネルギーの分野で難関資格であるエネルギー管理士に入社2〜3年目で合格する人が何人もいます。たとえ学生時代の専門とは違う難易度が高いことであっても、自分が成し遂げたいことのためにチャレンジする姿には刺激をもらっています。
仲間と一緒にトップを目指してチャレンジするからこその喜び

――仕事をする中でどんなところにやりがいを感じますか?
一番のやりがいは、トップを目指してチャレンジすることです。ただ「トップをとる」といっても、簡単に実現できるわけではありません。とはいえ、難しい課題を設定するからこそ、やりがいを感じます。
そして何より、部署の仲間と一緒に一つのことに取り組んでいるからこそ、やりがいを感じています。みんなと一緒になって喜びを分かち合えることがやりがいですね。
今では、数年前まで日本経済新聞社が発表していた環境ランキングの製造部門で3回、1位に選んでもらえるほどになりました。でも、私が環境部門に異動した20年前は、トップ10位に入るのでさえ、「それは無理だ」と言われるくらい高い目標でした。そこから部署の仲間と一緒にチャレンジを続けて、今があります。
――最後に学生のみなさんにメッセージをお願いします。
今はコロナ禍ということもあって、私の学生時代とは違う部分もあるかもしれませんが、学生時代に学んできた知識や研究などのプロセスは仕事においても役立ちます。もちろん「入社後すぐに業務に役立つか」といえば、必ずしも直結することばかりではありません。
私もたくさんの失敗をしてきました。その経験から言えるのは、「小さな失敗を繰り返すからこそ成長して、大きな成功につなげられる」ということ。
最後に、企業選びに悩んでいる人は自分の価値観と合う会社を探すことをおすすめします。判断材料の一つとして企業が出している「統合報告書」をぜひ読んでみてください。ここには将来会社のありたい姿が財務と非財務の2つの側面で書いてあります。会社が何を目指しているのかを知ることで、自分と合う会社を見つけることができるかもしれません。
編集後記
大手企業の役員と聞くと、入社後から成功を積み重ねてきたイメージがある人が多いのではないだろうか。高橋さんの話から失敗を繰り返してきたからこそ、大きな成功につながることもあることが分かった。これからの人生において、予期せぬことが起こるかもしれない。しかし、どんなことも気持ち次第で自分の糧にすることができるだろう。