カオスな環境からイノベーションが生まれる

――学生時代の専攻や研究内容を教えてください。
横山:大学では、太陽電池の新たな材料の合成・評価から、シミュレーションによる新材料探索までを学びました。研究室で材料特性の向上に取り組んだ際、シミュレーションと実験で逆の結果が出たことがあったんです。「なぜだろう?」と疑問に思い、シミュレーション自体に興味がわきました。その後材料の本質的な理解のため、量子力学から学び直しました。
大石:化粧品技術者を目指して、化粧品と関わりの深い界面化学を専攻しました。研究テーマは、界面活性剤が作る分子集合体の物性評価や形状制御。当時から新しい技術やアイデアを試すことが好きで、「人に届くものづくり」が研究のモチベーションでした。
――大学時代から現在につながる研究者マインドを育んできたのですね。現職を選んだ理由は?
横山:クリーンエネルギー技術に興味があり、就職活動では電気と自動車業界を検討しました。パナソニックグループへ入社を決めたのは、クリーンエネルギー技術への精力的な取り組みに加え、材料開発で実験とシミュレーションの両方が重視されていたからです。社員がイキイキと研究の話をしていたことも魅力的でした。
大石:人の心を豊かにする製品に関わりたいと、就職活動は化粧品・日用品業界に絞りました。当時コーセーは急成長中で、ベンチャーのような裁量の高さに加え、個人の守備範囲が広く、手をあげればどんなことでもやらせてもらえそうな「良い意味でカオス」な研究環境があったんです。若手でも成長できそうと感じて入社を決めました。
横山:「研究環境のカオス」は私も重視しました。異分野との掛け合わせでイノベーションが生まれやすいとの思いからです。パナソニックグループは技術分野が家電、住宅、車載と多岐にわたり、シミュレーション専門の私の隣に実験のプロがいるなど、まさにそういった環境があると感じました。実際に他部署の技術者と横串で週1の勉強会もあります。
大石:事業分野の広さと専門性の高さの両立はパナソニックグループの良いところだと感じます。研究者として羨ましいです。
コーセーはパナソニックグループほど事業領域が多岐にわたっていないこともあり、開発者の他、マーケティングや企画部門とも距離が近いという特徴があります。技術交流も個人間のコミュニケーションを通して行うことが多いです。
横山:確かに、実験室などでの立ち話からアイデアが生まれることは多いですね。
――お二人は現在、どのような業務に携わっていますか?
横山:⼈⼯知能とシミュレーションを組み合わせた新しい材料探索手法「マテリアルズインフォマティクス(MI)」を用いて、太陽電池やバッテリーの新しい材料をデザインしています。従来、材料の発見は経験と勘が頼りで開発期間も10年近くかかったのですが、MIにより開発期間が大幅に短縮しています。そうした開発の中で、次世代太陽電池材料を効率的にデザインする手法の構築に世界で初めて成功し、著名な学会で二つの賞を受賞することができました。現在は太陽電池の製品化や、他のクリーンエネルギーデバイスの材料開発の業務に携わっております。
大石:入社以来、ファンデーションなどのベースメイク製剤の開発一筋です。料理に例えると、材料選び、レシピの考案、調理方法の確立、品質評価などを、最高においしくなるまで何度も繰り返します。その後、量産化に向けて調整し、製品を手にとっていただけるよう魅力を分かりやすくお客さまに伝えるところまでが仕事です。コーセーの研究者は一人一製品を担当し、最初から最後までフルコミットで開発に取り組みます。
横山:研究開発から事業化まで一貫して製品に関われるのは魅力的ですよね。私自身は事業化まで経験したことはまだありませんが、周りの技術者の方のお話を聞いていると、一製品に最後まで向き合うことはやりがいが大きく、さまざまな技術力がしっかり付きそうだと感じています。
大石:製品化まで8年かかることもありますよ。化粧品は多様な学問の集合体なので、個人に複合的なスキルが求められる職人的な世界です。
横山:分野を問わず幅広い知識を身に付けることは大切ですよね。技術全体を俯瞰でき、本質を見極める力になります。そのために、異分野の知識を学び続けることを意識して開発しています。
大石:イノベーションは異なる技術の掛け合わせで生まれると考えているので、私も情報収集を意識しています。専門性を磨いた上で異分野の知識を獲得すると、モノづくりに生かしやすいです。
横山:おっしゃる通りですね。未知の掛け合わせを探すためにも、学びと情報収集の継続は大切だと思います。
自分の仕事が世界を、生活を変えていく

――研究職のどんな点に楽しさを感じていますか?
横山:「自分が発見した材料が世界を変えるのでは」と想像するとわくわくします。ノーベル賞を受賞したリチウムイオン電池のように、新しい材料の発見がこうした成果につながります。つまり材料は社会の基盤であり、イノベーションの源泉だと思います。ただシミュレーションの予測通りに材料を作っても成功ばかりではなく、世に出るのは一握りというギャンブルでもあるんですけどね(笑)。
大石:私たちが使う材料も日本製は質が高いんです。ギャンブルを経て安定した品質が保たれていると思うとありがたいです(笑)。材料は届けられる先も幅広く、可能性が無限大ですよね。
横山:なかなか製品化できない苦しみはあるんですけどね。テクノロジーの力でPDCAサイクルを早めたいです。お客さまとの距離が近い化粧品の開発もやりがいを感じる機会が多そうですよね。
大石:化粧品開発の最大の魅力は、新しい発想で生活や文化を変え、お客さまの心を豊かにできること。結果としてロングセラー商品としてお客さまに喜んでいただけたことを肌で感じられるのも魅力です。化粧品は正解がない領域ですし、嗜好性がますます多様化する中でゼロから作り出す「産みの苦しみ」もあります。ただ、それが面白さでもありますね。
――これまでで特に印象に残っているプロジェクトは何ですか?
横山:バッテリーでの開発経験を太陽電池の材料開発へ活かせたことです。
入社3年目に取り組み始めた次世代太陽電池は、材料の特殊性によりMI技術をそのまま適用できないことが課題でした。そこで、入社当初から取り組んだバッテリーのシミュレーションをヒントに解決策を研究したところ、従来は1年かかった予測を数時間で終える手法を創出できました。異分野の技術の融合がイノベーションの源泉だと実感した経験でした。
大石:印象深かったのは、入社4年目に取り組んだ化粧もちを高める製品「メイク キープ ミスト」の開発です。メイク崩れやマスクの内側にメイクがつくのを防止する新しい概念の製品で、水と油の2層式ミスト剤という前例のない技術への挑戦でした。社内理解の促進、規制や保証に対する検討、容器とのマッチングの改良などを乗り越え、発売1年以内に100万本のヒット商品に成長しました。
技術はあくまで手段であり、お客さまのニーズこそが本質。そこに最適な技術を見つけるのが私たちの仕事です。ニーズを知るために、他社動向やトレンドなどマーケティング寄りの目線も意識しています。
全く新しい挑戦ができたのは、コーセーにチャレンジを尊重する環境があったから。そのうえで、化学者としてデータを示して社内理解を促進したことで、全員が納得して製品を出せたと実感しています。
横山:チャレンジできる環境はとても大切ですよね。パナソニックグループ内にも挑戦を推奨する文化があると感じています。研究所では入社1年目から大きな裁量を与えられることが多く、試行錯誤を通して成長できる環境があると思います。
技術も思いも熟成させていきたい

――研究者としての今後のビジョンをお聞かせください。
横山:太陽電池などのクリーンエネルギー技術の普及には、性能を向上させる新材料が不可欠です。新材料を発見してエネルギー問題を解決するのが私の夢です。
現在開発中の太陽電池はこれまでの太陽電池と違い軟らかく曲げることができ、ビルの壁面などにも設置できます。発電エリアが広がれば、街全体が発電所になるような未来に近づくと思います。
大石:私は三つあります。一つ目は、お客さまの課題を解消する本質的価値を提供し続けること。そのために、界面化学の博士号取得とマーケティング理解の深化を目指して勉強中です。
二つ目は、海外に日本のものづくりを広めること。世界への貢献はもちろん、海外の文化を深く理解したものづくりをしたいです。
三つ目は、新技術との掛け合わせでイノベーションを起こすこと。例えば、パナソニックビューティーのような美容家電の他、心や脳など脳科学領域との協業にも興味があります。
横山:世界的にもオープンイノベーションが一般化しつつありますよね。ぜひ何かコラボできるところがあると面白いですね。
大石:一緒にものづくりができたら素敵ですね。
――最後に、今後どんな人と働きたいかお聞かせください。
大石:志が高く、妥協せずものづくりに取り組む人となら、良い仕事ができると思います。現状に満足せず、主体的に課題を開拓していけるといいですね。自主的に動く力とチームワークのためのコミュニケーション力があると、活躍しやすいと思います。
横山:現状に満足せず、異分野も学び続けながら、刺激を与え合える人と働きたいです。自分の専門を軸に異分野へ挑戦すると独自の視点を持てますし、情報収集は最先端で活躍するための鍵です。
周りの人を動かして研究を進めるには、情熱も大事です。熱意が認められて計画が進むこともあるので、技術と同時に思いも熟成させていきたいですね。
*所属・内容等は取材当時のものです。(2022年5月公開)
編集後記
「材料」と「化粧品」。異なる分野の二つだが、化学をキーワードにすると、共通項や研究開発のトレンドがみえてきた。チャレンジできる環境が用意されたパナソニックグループとコーセーで、社会にインパクトを与える研究者として活躍の道を探ってみてはいかがだろうか。
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