「地球と宇宙をつなぐ通信」にロマンを感じた

――研究内容や課外活動など、学生時代の取り組みを教えてください。
須田:理工学部電気電子工学科で、光通信の信号形式によってガラス管の中を通る光の波形がどのように変化・劣化するか、その変調方式をシミュレーションしていました。数学好きが高じてシミュレーションに興味があり、担当教授とも仲が良かったので選んだテーマでした。
研究室のほかにテニス部にも所属し、平日・週末問わず時間があればひたすらテニスに打ち込む充実した学生生活でしたね。
塩川:工学部航空宇宙工学科で人工衛星通信の研究をしていました。静止衛星との通信は、強い雨に弱く電波が途切れることがあるため、その時間を低減すべく試行錯誤しました。
また、人工衛星「まいど1号」の管制にも参加。東大阪の中小企業グループに複数の大学が技術支援を行ったプロジェクトで、打ち上げ後の管制用地上局が私の学科の研究室に置かれていたんです。
通常研究室には4年生で配属されますが、この研究室には学年問わず希望者の所属が可能でした。私は2年生の終わりから所属し、4年生から配属される研究室とは別に、こちらの研究室でも修士修了まで人工衛星開発などの活動をしていました。
――三菱電機への入社の決め手はなんでしたか?
須田:いろいろな業界を見ていくなかで、宇宙業界に関心を持ちました。地上では、せいぜい数km程度の通信距離が一般的ですが、地球と宇宙をつなぐ数十万kmの距離の通信が実現されていることにロマンを感じたからです。
なかでも、JAXAなど日本の宇宙産業をリードする組織・団体と宇宙事業を展開している三菱電機は魅力的でした。福利厚生が充実していて、快適な生活環境の整った社員寮があり、さらにテニス設備もあってクラブ活動が活発と聞き、入社を決めました。
塩川:「航空宇宙業界で、電波を活用する企業」という条件に一番マッチする三菱電機は、当初から私の第一志望でした。
大学での人工衛星開発では当時の三菱電機社員の方に指導いただいていましたし、研究発表のために参加した学会で三菱電機社員の方にお会いすることも多く、親しみを感じていました。また、積極的な学会活動を行っていることから、技術力のさらなる向上に努めていることが伝わってきました。研究の一環で見学に行った大型のアンテナに社名が刻まれていることも多く、こうした積み重ねで好印象を持っていたことも決め手でした。
人工衛星を最大限活用するためのソフトウェア開発

――これまでの担当業務の概要を教えてください。
須田:入社後5年間、通信機製作所(現・電子通信システム製作所)でソフトウェア開発に携わりました。最初の2年間は衛星を監視して現在の軌道と今後描くべき軌道とを計算・制御する地上アンテナ搭載用ソフトウェア、その後3年間は衛星との通信用のデータ形式変換ソフトウェアの開発に取り組みました。
そこから3年間は宇宙と関連のない業務に従事。先端技術総合研究所で2年間、下水処理や変電所の制御に取り組みました。その後、海外の関連会社で1年間研修を受けられるOJT制度利用の希望がかない、アメリカ・ボストンの研究所で機械学習やAIを研究。2022年から通信機製作所(現:電子通信システム製作所)に戻り、再び宇宙事業に携わっています。
塩川:私は入社後2年間、航空管制や防衛系システムの電気系アナログ回路のハードウェア設計に携わってから、プロジェクト部門で4年間システム設計やお客さまとの仕様調整を担いました。その後約2年間産休・育休をいただき、ソフトウエア技術部で職場復帰してからはソフトウェアの設計をしています。
――業務内容をもう少し具体的にお話しいただけますか?
須田:入社当初の軌道計算ソフトウェアを例に説明しますね。人工衛星は、打ち上げ時の搭載燃料が尽きると寿命を迎えます。また、地球を周回する過程でどうしても位置のズレが生じます。このズレを放っておくと電波法で許可された経度範囲を逸脱してしまう恐れがあるため、少しでも長く活用するために、燃料を節約しながら軌道を予測・修正するソフトウェアが必要となります。
要件定義はプロジェクト部門が決定するので、私たちはそれをソフトウェアの仕様に落とし込み、設計・製造・性能試験を行います。製造や、仕様どおりの製品となっているかの性能確認試験を外注することもあり、それらに付随する工程・コスト管理などマネジメント業務も担います。
塩川:衛星軌道上には、稼働中の人工衛星だけではなく、役目を終えた人工衛星やロケットなども周回しているので、その状況を把握するシステムを担当しています。いまは試験を実施しているところで、浮かび上がってきた問題点を個別に解決しています。
――入社後、困難を乗り越えた具体的なエピソードがあれば教えてください。
須田:入社5年目、人工衛星からの受信データを解析するソフトウェアの製造に携わっていたときに、リリース間近で問題が発覚したことがありました。外注したデータ受信用装置からのデータ出力が、仕様とは異なる周期となっていたんです。
リリース予定のソフトウェアへの新機能追加で対応する必要があり、製造部署の担当者と毎日残業続きでした。大変な仕事でしたが、なんとか機能追加を終え、試験も完了させてリリースできたときは大きな達成感がありました。
塩川:いま考えると当たり前ですが、「私たちの納品完了はお客さまにとっての製品利用開始で、納品後も対応が続くこと」は学生時代に想像できませんでした。初めての担当製品の現地据え付け工事完了後は大きな達成感があったのですが、すぐに改善要望を多くいただき、対応に追われたことは衝撃的でしたね。
納品後の対応は常に求められるので、いまでも対応に追われることはあります。現場が遠方でも足しげく通い、アフターフォローに前向きな姿勢を見せることを意識しています。
充実の研修と万全の支援体制で、若手の意見も尊重される環境

――業務上必要となる知識・技術の習得方法を教えてください。学生時代の経験は役立っていますか?
須田:コーディングの知識がなければ、ソフトウェア設計の見積もりが適切かの判断はできません。そのため、関連部署の新入社員には約2カ月間、外部講師を招いた徹底的なソフトウェア研修が実施されます。
私はシミュレーションの研究でC言語でのプログラミング経験もあったため、学生時代の知識はある程度役立っています。それでも独学だったので、研修は体系的に知識を学び直す良い機会となりました。
人工衛星の軌道に関する知識は入社時点ではゼロだったので、先輩のおすすめの参考書や論文を読んで家でサンプルコードを書いてみたり、学会に参加したりして勉強しました。
塩川:航空機搭載用装備品の担当時には航空機部品の名称の知識が役立ちましたが、現在の業務で学生時代の経験が直接役立つことは多くありませんね。
サーバーやネットワークなど情報システム一般の知識が必須ですが、学生時代に触れる機会がなかったので、入社後の研修とOJTで身につけました。いまでも、分からないことは製品を触りながら関連書籍で調べて学んでいます。
――お二人とも宇宙・防衛分野でスケールの大きなお仕事をされていますが、自分の意見が業務に反映されている実感はありますか?
塩川:三菱電機では、研修後6月から各部署に配属され、何らかの業務を任されます。任されるといっても、先輩のサポート体制は万全。分からないことを相談すると、具体的な解決方法や、協力をお願いすべき部署や担当者を紹介してくれます。良い意見はどんどん反映され、ズレた意見はきちんと指摘してもらえるので、若手でもアイデアを出しやすかったです。
須田:私の海外研究所での研修は希望がかなった結果ですし、そこで学んだ知識を還元できるよう、主業務とは関係のない開発プロジェクトにも参加できています。社員の意見や希望が反映されやすい環境だと思いますよ。予算の範囲内であれば海外での学会にも参加可能です。
好きこそものの上手なれ! 未知の問題解決に挑む姿勢を大切に

――自分の業務が社会で役立っていると感じる瞬間があれば教えてください。
須田:実は、入社後すぐに携わった軌道計算ソフトウェアは気象衛星ひまわり用のもので。そのため、毎朝の天気予報で高画質の衛星写真を見ると、「実生活に役立つ貢献ができた」と実感してうれしくなりますね。
塩川:私は主に防衛分野に携わってきたので、日常で直接的に自分自身の貢献を実感する機会は多くはありません。しかし、日々平和に暮らせていることや、当社製品である空港管制用レーダーや宇宙観測用大型アンテナなどを見ると、所属元の電子通信システム製作所の社会貢献を実感します。
――最後に、三菱電機で一緒に働きたいと思える人物像を教えてください。
須田:働いていて「初めてのこと」に直面する機会は多くあります。周囲に尋ねたり文献を調べたりと、未知の問題でも解決のため積極的に情報収集できる人は活躍できると思いますし、ぜひ一緒に働きたいですね。
塩川:私も、知識の多寡より自ら問題解決に取り組む姿勢が重要だと思います。また、業務内容が何であれ、「好き」に勝るものはなく、好きなことの知識は自然に身についていくでしょう。宇宙を専門に学んだかどうかにかかわらず、宇宙の仕事が好きで楽しく学べる人にぜひチャレンジしてほしいですね。
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編集後記
宇宙・防衛領域という壮大なスケールの事業も、日々新しい知識を習得しながら業務に取り組む個人の熱意と専門性に支えられていることが伝わってくるインタビューだった。
未知の問題に直面した際、不足する情報を集め解決に取り組むこと。これはまさに理系の研究姿勢そのものだろう。理系の素養を活かし、なにか大きな挑戦をしたいと考える学生には、三菱電機株式会社はぴったりなのではないだろうか。
※所属・内容等は取材当時のものです。(2023年5月公開)
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