新しい技術の開発につながる研究がしたかった

――学生時代の研究内容を教えてください。
ロケットや人工衛星の製造に興味があり、航空宇宙工学科で熱力学や流体力学、設計図の書き方などの航空宇宙に関するものづくりの基礎を学びました。ところが、学部4年の研究室選択を前に興味の対象が変わったんです。話題になり始めていたAIに関心を抱き、学科内唯一のAI系研究室を選びました。
研究室に配属後は、航空宇宙領域でのAIの活用対象として、稼働中の人工衛星が収集する機体温度や回転速度などのデータをAIに分析させ異常が無いかを判定する異常検知技術に取り組みました。しかし大量のデータからAIが学習したルールの中には「地球の影に入ると少しずつ温度が下がる」という、人間にとっては当たり前なルールもありました。こうした経験から、「人間が人工衛星を設計・製造しているのだから、人間の知っていることを手がかりにAIの学習難度を下げられないか」と考え、「人間の知識を活用できるAIの学習」をテーマに修士課程での研究に取り組んだんです。
――何を重視して就職活動に取り組み、NEC(日本電気株式会社)への入社を決めたのでしょうか?
「既存技術の応用だけではなく、新しい技術に研究段階から取り組めること」を重視していました。NECの研究職に興味を持ったきっかけは、社会人ドクターの先輩からの紹介でNECの研究所見学会に参加したことでした。そこでNECにまさに自分が取り組んでいた「人間の知識を活用できる自動推論AI」を研究しているグループがあることを知り、NECにさらに興味を持つようになりました。
見学会での印象ですが、当時社会人は「真面目でお堅い人たち」だと思い込んでいたので、研究所の皆さんの優しさと人柄の良さは印象的でしたね。一方で、選考過程で面接官を務めた研究職の方からは自分の研究内容への鋭い質問が次々と飛んできて、「やっぱり研究所には優秀な人がいるんだな」と驚くと同時に、「ここで研究したい」と思うようになりました。
国産生成AI開発で、日本社会のリアルな課題解決に貢献

――入社からこれまでの業務について教えてください。
入社後3年間は自動推論グループで、人間の知識の効率的な入手方法を研究しました。当時は「このセンサーでこういう反応が起きた時は、Aという現象が発生している」というような人間が持つ知識を、エンジニアがルールとして逐一定義する必要がありました。ただ、それでは非効率だと感じ、自然言語処理技術を応用してマニュアルなどの関連する文章からルールを自動抽出する技術を研究していました。
その後、データサイエンスラボラトリーでデータ分析の効率化を研究していたグループに合流し、世の中にあるテキスト情報をデータ分析に活かす技術の研究を行いました。その過程で質問応答エージェントや生成系AIなど、近年注目されている多くの自然言語処理の技術領域に触れることができました。また、日本語クイズAIコンペ『AI王』に開発した質問応答エージェントで参加するなど、社内で鍛えた技術を社外で力試しするような活動も行っていました。
――秋元さんはNECが2023年12月に発表した独自の生成AI「cotomi(コトミ)」の開発チームの一員です。その開発経緯と、担当した部分を教えてください。
cotomi開発の最大のきっかけは、2022年末に登場した生成AI、ChatGPTです。従来、AIに文章の要約やメール作成などの作業をさせるには、目的ごとに膨大なデータを集めて専用AIを開発する必要がありました。しかしChatGPTは「これをやって」と入力するだけで、さまざまな作業を行えます。このChatGPTの登場は、研究者としても一個人としても衝撃的でした。
ただ、当時のChatGPTは日本語での性能が十分とは言えませんでした。そこで、「日本語話者が使いやすいAIを、当事者の手で作ろう!」と開発が始まったのがcotomiです。
生成AI開発では、まず大量の文章を集めてAIに学習させ、コアとなる「言語モデル」を構築(事前学習)します。一方で、分厚い社内マニュアルのような長大な文章は言語モデルにそのまま入力することが難しいので、そういった文章をAIに理解させるにはRAG(検索拡張生成:大量の文章から検索して得られた必要な部分だけを回答生成時の材料とする)のような周辺技術を用いるなど、言語モデルの使い方に関する工夫も重要です。
私はコアとなる言語モデルの事前学習を担当しつつ、システムとしての生成AIの性能向上のため、他のメンバーと一緒にRAG技術の改良も並行して進めていました。
――業務ではどんなことにやりがいを感じますか?
cotomiの性能向上が目に見えて分かることと、リアルな課題解決に役立つ展望が持てることです。
cotomiは「誰かが作ったすごいAI」ではありません。自分が事前学習に関わり、その改良に取り組んでいるAIです。そんなcotomiの性能が上がっていく様子を見ると「自分が育てたAIが頑張ってくれている!」とうれしくなりますね。
また、言語モデルはさまざまなことに活用できますが、それだけをお渡ししても使いこなせるお客さまは必ずしも多くありません。簡単に扱えるよう、サーバーのセットアップや対話・検索機能の付与など、前後のサービスまで含めたパッケージとして提供していく必要があります。cotomiの提供にあたっても、お客さまの要望や抱えている課題の詳細をヒアリングし、活用方法を一緒に考えていく予定です。
cotomiの発表以降たくさんのお客さまからのお問い合わせがあり、「こんな課題があったのか」「こんな活用方法もあるのか」と驚きの連続です。こうした我々の取り組みが、お客さまの課題解決を通して実際に世の中の課題を解決していきそうだな、とやりがいを感じています。
課題の特定から解決まで、自ら決断を下す主体性が不可欠

――研究には困難もつきものかと思います。今の業務で、どんなことに難しさを感じていますか?
開発中に起こるトラブルへの対応が一番難しいです。今は10人弱のチームで開発を進めており、私は事前学習領域で「実験を実施する順番を決め、実験結果を踏まえて何を分析するか」の裁量権を持っています。「計画どおりに進まない」「想定していた性能にならない」などのトラブル発生時には計画から外れて原因を調べる必要がありますが、スケジュールとの兼ね合いも考えながら、「何をどの順番でどこまで調べて、逆にどこを調べないか」を決断するのは一筋縄ではいきません。
生成AIは現在驚異的な速度で革新的な開発が進められている分野です。世界中の競争相手に負けない「良いプロダクト」を開発するためには、とにかく頑張らなければいけません。わくわくする忙しさですが、大変なことに変わりはないですね。
――「自分で主体的に考えて進める」ことが求められるのですね。そんな日々の業務で活かせている学生時代の知識・スキルがあれば教えてください。
「独学する能力」です。学生時代にはAIではなく、航空宇宙分野のバックグラウンドしか持っていませんでした。また指導教官も私が関心を持っていた研究分野には必ずしも詳しくなかったので、論文や教科書からの独学が必須でした。
現在専門としている自然言語処理技術も、入社当時は社内で研究対象として重視されておらず、周囲に最先端の自然言語処理にキャッチアップしている専門家も少なかったので、ほぼ独学で習得しました。普段の業務でも「調べるところからよろしく」「あなたの専門だから頼りにしてるよ」と任されることも多いので、独学する能力は今でも大いに役立っています。
――入社後に周囲から教わって習得した知識はありますか?
会社での研究は「プロダクト開発」と結びついているので、ただ自分の興味のままには進められません。お客さまの持たれている課題や開発担当者の困りごとを把握し、事業化のスケジュールに合わせたテーマ設定と計画立案が肝要です。要望を正確にくみ取るヒアリング方法や、研究や開発のスケジューリングなどの実務的な仕事の進め方を、今も現在進行形で先輩や上司から学んでいます。
――働くうえで大切にしていることを教えてください。
アカデミアでは網羅的に調べて突き詰める「追究」が求められますが、プロダクト開発では一定の「妥協」が必要なことも。しかし、適当に妥協するのではなく、絶対に譲れないポイントを見極めることが必要です。スケジュールなども考慮しながら最大限に「良いプロダクトづくり」を行うためのバランスを常に考えて働いています。
また、やっぱり研究が好きなので新しい知識・技術への好奇心や、課題を解決することへのハングリー精神は忘れないようにしたいと思っていますね。
最先端AIの研究・開発で、世の中の役に立つ充実感を満喫しよう

――AI系の学生には、エンジニアやコンサルタントなどの選択肢もあります。研究職ならではのやりがいを教えてください。
アカデミアでの研究とは異なり、企業での研究はあくまでも事業に役立てるための営みなので、お客さまが現実に直面する課題の解決に資する研究が求められます。だからこそ、解決につながる新しい方式や技術としての研究成果がかたちになると「役に立つ技術が開発できたぞ!」とわくわくしますね。
また、投稿論文が採択されるのは「世界の誰も解決できなかった課題を見つけて、解決したこと」が客観的に認められた証しなので、知的好奇心が究極に満たされます。この充実感が、研究職のやりがいです。
――秋元さんが考えるNECの魅力を教えてください。
とにかく素晴らしい研究環境があります。第一に、「研究は課題から始まる」ので、多様な業界との接点があり、ビジネスの最先端で起きている問題や課題に触れることができるチャンスがあることは、研究者にとって大きな強みです。第二に、NECの研究所にはビジネスも研究も開発もできる優秀な人が多く、日々たくさんの刺激が得られます。第三に、2023年3月から国内企業では最大規模のCPUを搭載したAIスーパーコンピュータが全面稼働を始めており、各自の研究に大いに活用できます。
――最後に、学生にメッセージをお願いします。
気になった業界や職種は全部見に行き、たくさん悩んでほしいですね。NECでも、見学会のほかにインターンを開催していますので、興味があれば応募してみてください。言語系のインターンに参加する学生さんとは同じチームで働けるかもしれません。
「世の中の役に立つ技術を開発し、論文を出して研究業績も挙げたい」と考えるなら、NECはぴったりの職場です。特に私のチームでは、開発・性能向上・客先で動かすためのチューニングまで、最先端の生成AIに総合的に関わることができます。生成AIの登場にわくわくしている人や、生成AIを使って挑戦したいことがある人とは相性抜群です。ぜひ一緒に楽しく研究しましょう。
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編集後記
「知的好奇心が満たされ、世の中の役に立っている実感も得られる」とやりがいを語る秋元さんの、楽しそうな様子が印象的なインタビューだった。最先端のAI開発に取り組むNECの研究職は、課題の発見から解決まで、主体的な挑戦を望む学生にはぴったりだろう。興味を持った人はぜひ、夏に開催予定のインターンに応募してリアルな職場の雰囲気を実感してほしい。
※所属・内容等は取材当時のものです。(2024年3月公開)
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