電気通信大学大学院 情報理工学研究科 機械知能システム学専攻
小畑承経さん
研究内容>筋電義手の機械設計・開発。
内定先>ユカイ工学株式会社
就活全体スケジュール
- 4年・3月:理系だけの合同企業説明会に参加。就職は意識していなかったので特にアクションはせず。
- M1・6月:高専時代の知り合いの紹介でLabBaseに登録。博士進学を検討していたため、就活は意識せず。
- M2・5月:就職を意識。放置していたLabBaseのスカウトメールをチェック。
- 5月中旬:チームラボのインターンに応募。
- 6月中旬:LabBaseの企業検索でユカイ工学を発見、「興味あり」を押す。
- 6月下旬:高専時代の憧れ企業にDMを送るもエンジニア採用予定なし。
- 6月下旬:ユカイ工学からスカウトあり。月内に人事面談、面接。
- 7月上旬:社長面接、内定承諾。
高専時代から抱いていたロボットへの思い
———小畑さんの研究内容、研究外での活動について教えてください。
研究内容はざっくりいうと筋電義手の機構設計、開発をしています。研究と並行して、学外の活動にも取り組んでいますね。最近だとIEEE TOWERS(若手研究者のための異分野学術交流ワークショップ)の実行委員としてポスター発表を開いたり、ワークショップを企画したりしていました。「えせ科学はどうやって撲滅できるか」とのテーマでパネルディスカッションも企画しました。横浜市の次世代育成事業と組んで理科教室を開催したりもしました。
——— 小畑さんが電気通信大学院で今の研究をしようと思ったきっかけは何ですか?
大学院に入る前は宮崎大学工学部の環境ロボティクス学科でロボットについて学んで、その前は高専でロボットハンドの研究をしていました。高専のときからロボットの勉強をするなら電気通信大学の横井先生のもとで学びたいなと考えていました。自分がやりたいことを調べていくと一番ヒットする先生だったので。大学は第一志望には受からなくて、ロボットの学科のある宮崎大学に進学し、大学院は迷いなく電気通信大学を選びました。
ロボットは子どものころからずっと好きでした。義手=人間とロボットをつなぐサイボーグという感じで、考えるだけでわくわくしました。

アカデミアか就職か、筋電義手の機械設計を続けるか…。悩んだ末に「ロボット」に帰り着く。
———高専時代も、大学院でも義手の開発をされていたんですね。その分野での就職は考えなかったのでしょうか?
最初は義手で起業したいなと思っていたんです。大学が国産初となる義手の販売をしているんですが、その開発に携わる中で、ビジネス化はなかなか厳しそうだなと感じました。使用者が多くはないんですね。まだ義手=ロボットという意識じゃないんです。
義手の開発は基本的にはNPOで行われているんです。じゃあNPOに行くか…、でも食っていけないな。それなら、アカデミアに進むか…、でも研究室の博士課程の先輩は企業勤務経験者が多いな。そんな感じで悩んで、結果的に就職することにしました。就職をして、空いた時間でNPOに参加しながら義手開発に携わっていきたいと決めました。
———アカデミアか就職か、けっこう悩まれましたね。
そうですね。義手の機械設計という分野はあまり新規性がないんです。現状、筋電義手はハードよりソフト面が課題で、そこに不安を感じました。学会の勉強会で重要視されてるのも、どうやって動かすか、識別するかというソフトなんですよね。
今後、義手の機械設計にすごく需要があるわけでもないかもしれないと。それに、ずっとアカデミアにいるのも視野が狭くなるので、一度就職してみるのも魅力に感じました。というのも、研究室に“出戻り博士”がけっこう多いんです。社会に出ていろいろ経験できるし、経済的にも余裕が生まれるし、そういう生き方もいいなと思いました。
———義手の開発は就職先としては将来性の面で不安があり、次の選択肢としてロボットが上がってきたんですね。
義手はNPOで携わるということでいいかなと腹落ちして、じゃあ何をしようかと考えた時に、機械設計は続けたいなと思いました。修士2年の5月のことです。一般的な就活スケジュールから考えると遅いながらも、これまで放置していたLabBaseのスカウトメールを見てみました(笑)。でも、機械設計ができる企業でピンと来るものはありませんでした。それで、やっぱりロボットが好きだなと思って「ロボット」で企業検索をしたらユカイ工学が出てきて、「興味あり」を押しました。
世の中にない新しいものを、楽しみながら作りたい。
———機械設計でピンとこなかったのはどういう部分でそう感じましたか?
スカウトメールをいただいた企業が工作機械の設計とか改良という業務内容だったので、今あるものを良くするというよりは、まったく新しいものを作りたいなと思ったんです。
ユカイ工学のことは知らなかったんですが、企業HPを見てみたらQooboが出てきて、めっちゃ見たことない!と(笑)。
ユカイ工学開発のクッション型セラピーロボット「Qoobo」。LabBaseを運営するPOLのオフィスでも多くのスタッフを日々癒している。
———確かに、見たことないです!ロボットの会社は世の中にたくさんありますが、他の会社は選択肢に入らなかったんですか?
ロボット開発というと大きい会社が多い印象で、自分はどちらかというとベンチャーがよかったので、あまりヒットしなかったのかもしれません。ベンチャーがよかった理由は、少人数で、“今は開発がすごく大変だけどやりがいがあって楽しい時期”“誰もやっていないことをやるんだ!”という会社や仕事に興味があったからです。どうしてもベンチャーがいいという訳ではないですが、企業規模よりは何を作るかに興味がありました。とにかく、新しいものを生み出したい、そこに携わりたいという思いが強かったんです。スカウトをいただいて、企業を調べていく中で自分はBtoBには興味を持てないという価値観も明確になりましたね。
———ユカイ工学さんに興味を持ったのは具体的にはどういうところですか?
コイツ(Qoobo)ですね(笑)。HPを見たら、Qoobo尻尾の動きは実際の猫の尻尾の動きを解析して作られていると書かれていて、単純におもしろいなと思いました。新しいものでありながら、理論的なバックグラウンドもちゃんとある。そして、ものづくりを楽しんでいることも伝わってきました。
新規性を追求しすぎると楽しくものづくりができなくて、楽しくものづくりしていたら新規性があるものを作れない。修士までは楽しみながら研究できても、博士になると話は変わってきます。そんな風にちょっと悩んでいた時だったので、ここなら楽しくものづくりができそうだなと思いました。

———ユカイ工学さんの技術力もしっかりリサーチしてからアプローチされたんですね。
実は技術力というのはあまり気にしなくて、どちらかというと発想力の方が気になるんです。技術力で勝負するなら工業製品で区別すればよく、発想力の方が唯一無二だと思っています。こういう新しくて楽しいもの、ユカイなものを作っているということに魅力を感じたから「興味あり」ボタンを押しました。
ビジネス領域が違うのに、自分の研究にとても興味を持ってくれた。
———なるほど。実際の選考はどのように進みましたか?
「興味あり」を押してから6月中旬にスカウトが来て、6月末に人事面談、その後ポートフォリオと「101キーワード」(※ユカイ工学では選考時に101個のキーワードを書いて提出するというテーマが出されます)を送って、7月上旬に社長、人事担当者、エンジニア1名との面接があって、次の日にメールで内定をいただきました。

———早いですね!ユカイ工学さんは知らない会社だったわけですが、選考での印象はどうでしたか?
社長がフランクな方で話しやすかったです。面接では研究内容を聞かれましたが、完全にアカデミックな、コンシューマー向けロボットとは関係ないようなことでも「どういう理論?」と興味を持ってくれたり、大学院に入って3ヶ月で発表した国際学会の論文についても、「早いね、どのくらいで作ったの?」と熱心に聞いてくれました。自分に興味を持ってくれていることがうれしかったですね。
最終面接のプレゼンでは、理科教室で取り組んだダンボールロボットを題材にしましたが、うちでもやってほしいなと反応も良くて、手応えを感じました。
また、ユカイ工学での選考が進む中で、『ユカイな生きものロボットキット』という教材もプロデュースしていることを知って、高専のころから理解教室や工作教室で教材を作るボランティアをしていたので、将来そういうものも作りたいなと思いました。
まわりの就活進捗とは比べない。自分がやりたいことに妥協しない。
———修士2年の5月、6月に就職を意識してからあっという間の内定承諾でしたね。就活スタートはまわりと比べて遅かったと思いますが、焦りはありましたか?
めっちゃ遅い就活スタートでしたね(笑)。まわりと比べてスタートが遅いということに焦りはなくて、むしろ自分がやりたい仕事ができる会社があるのだろうか、見つかるだろうかという焦りはありました。
———LabBase以外の手段で企業へのアプローチなどはしましたか?
インターンはしてみようかなと思って、興味のあったチームラボに応募しましたが選考にもれてしまいました。あとは、企業HPの問い合わせフォームから直接コンタクトを取った企業があります。その会社はすごく良いデザインの電動義手を作った会社で、高専時代に知って憧れていた企業です。でも、社員を採用する予定がないと断られてしまいました。
それと、自分はピアノを弾くので、ローランドさんの事業も気になりました。電子ピアノとか新しい楽器も開発しているようで興味もありました。説明会で感じた社風もフランクで良さそう、しかも福利厚生でコンサートの割引が受けられるというし(笑)。ただ、実際アクションには至らなくて、やっぱりロボットが作りたいなという自分の気持ちが固まったきっかけにはなりました。
———興味のあるところに絞って積極的にアプローチをされたんですね。インターン応募されたチームラボはどういうところに惹かれたんですか?
現代アートを駆使した空間づくりを見て、綺麗だなと思いました。これってどうやって作ったんだろうと思うようなものもたくさんあって、やってみたいなと思いました。

LabBaseの使い方。選択肢を広げるよりは、本当にやりたいことを追求し対象を絞る。
———世の中にまだない新しいものが作りたい、ロボットが作りたい。ぶれない軸が見えてきました。ではLabBaseをどんな風に使ったのかを教えてください。プロフィールは登録した時点で全部埋めましたか?
埋めました。最初に書いたときからほとんどいじってないです。それまでエントリーシートも書いたことがなかったので、アカデミックな文体にすればいいのか、自分ってこういう人間です、という紹介文みたいに書けばいいのかを悩みました。結果、ちょっとアカデミック寄りな文章になったと思います。

———LabBaseで企業検索はどれくらいしましたか?ロボットだと確かに多くはないかもしれません…。
データサイエンスもある程度はできるのでその検索軸で探したことはありますが、あまり惹かれる企業はなかったです。データサイエンス自体はどこもさほど差はなくて、それで何を作っているか、何のためのデータサイエンスかというところで興味を持てるところがありませんでした。ロボットで検索してユカイ工学がヒットしたので、それ以降は企業検索はしていません。
———就活を振り返ってみて、もっとこうすればよかった、納得している点など教えてください。
LabBaseでユカイ工学と出会えたのはよかったと思います。結果的に選考期間が短かったのもよかったです。やはり学生の間は研究をしたいので、就活に時間はかけたくないですし。
心残りがあるとしたら、大学院の後半からオートデスクという会社のFusion 360というツールを使っているんですが、実はその会社も興味がありました。ミートアップにも参加したんですが、エンジニアの勤務地がアメリカで、遠いから諦めたんです。今思えば、そういうところに行っておくと面白い体験ができたのかもしれません。休学してでも海外インターンに参加するという選択肢もあったのかもしれません。
いろんな分野のロボット技術を身につけ、世の中にない新しいものを作りたい。
———今後のキャリアについてどのように考えていますか?
ユカイ工学ではIoTやセラピーロボットも研究開発をしています。そういったいろいろな分野のロボットに関する知見や技術を学んで、もちろん今まで研究してきた義手を含む福祉ロボットの技術も身につけて、それらを融合させた新しいロボットの技術者になれたらいいなと思います。すべての経験を生かして世の中にない新しいものを作りたいなと思っています。
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