入社の決め手は「地域」と「業務」の幅広さ

――学生時代の研究や就職活動の経験についてお聞かせください。
理工学部で大学院まで進み、電子部品に使われる絶縁材料について研究しました。最初から材料分野にこだわっていたわけではなく、いろいろな授業を受けてみた上で、大学院では研究を進める環境なども加味して研究内容を選んだという流れでした。
材料メーカーへの就職につながりやすい研究分野だったのですが、研究の過程で、私は一つの技術を追求するより手広くいろいろなことに挑戦したいタイプだと気づいたんです。その上で「人」に近い部分で社会に貢献し、お客さまに喜ばれる仕事がしたいと思うようになりました。
社会貢献のイメージから、就職活動では電力、ガス、航空、鉄道などのインフラ企業を中心に検討しました。その中でもJR東日本は、サービスを提供するエリアが東北から首都圏、上信越までと広いことが特徴です。全国各地で人々の役に立てる点と、エリアの広さゆえに業務の幅も広くて面白そう、と感じられたことが入社の決め手になりました。
もともと電車マニアでもなく車や飛行機が好きだったくらいですが(笑)、自分の好みよりも仕事としてのやりがいや面白さを重視して選びました。
――「幅広い業務に携われそう」という印象と入社後の実際の仕事に、ギャップはありましたか?
電気系統を専門として入社したのですが、電気といっても列車制御システム、電力、通信の領域に分かれ、その中でもさらに細分化されているので、想像を超える幅広さです。技術的な業務はもちろんのこと、予算やスケジュールの管理、パートナー企業との調整のコミュニケーションなども並行して行うことが求められ、刺激や学びが多く飽きのこない仕事ですね。
「安全」が絶対条件の鉄道エンジニアリング

――インフラ事業は、スケールの大きさや徹底したリスク対策が特徴かと思います。特に印象的だった大型プロジェクトはありますか?
入社3年目から関わった、無線を使った列車制御システム「ATACS(アタックス)」の導入プロジェクトはとりわけ大きな経験でした。
従来型の鉄道では、レールに電気を流して列車の位置を検知する「軌道回路」という仕組みを使っています。これは約150年前からある技術で、JR東日本だけでなく世界中で使われてきた技術です。
しかし、信号機やケーブルなど使用する設備の数が膨大で、一つの故障による列車停止などの安定性阻害のリスクの他、メンテナンスにかかる人員数やコストの大きさが課題となっていました。
そこで、少子高齢化に伴う労働人口の縮小も踏まえて省メンテナンス化を目指すべく、高い安全性は保ちつつ地上設備がシンプルで数も格段に少ない制御システムとして、JR東日本はATACSの開発に取り組んできました。
無線による列車制御システムには他に、海外でも使われている「CBTC(Communications-Based Train Control)」などがありますが、ATACSは踏切まで制御できる世界初のシステムです。ヒューマンエラーによる列車の速度超過を防ぎつつ、柔軟な運行ができるメリットもあります。
――大上さんはATACS導入のどのような部分に集中的に関わったのでしょうか。
ATACSは最初、宮城県の仙石線で2011年に利用が開始されました。私はその次のステップであるATACSによる踏切制御機能の導入プロジェクトから参画し、システムの仕様検討に加えて図面作成や工事契約などを行う設計業務や、日々の工事の安全・品質・工程の管理を行う監督業務を担いました。まだ若手で技術者としても未熟でしたが、現場で課題が出てきたら柔軟かつすばやく対応し、工期を遵守することに一所懸命に取り組みましたね。
2014~2015年にかけては、同線区でATACSによる踏切制御機能を14踏切に導入。踏切の安全性が高まると同時に、警報が鳴る時間の適正化で踏切利用のお客さまの待ち時間が削減されたので、社会的に意義のある、やりがいを感じるプロジェクトでした。
続いて首都圏の埼京線でのATACS導入にも携わり、2021年には踏切制御も無事スタートしました。現在、JR東日本の2線区でATACS導入と踏切機能の付加が完了している状態です。
――非常に規模の大きいプロジェクトですね。相当数の部署や企業、人との関わりがありそうです。
工事については、電気関係の現場工事だけでも作業量・エリアともに多いので複数の施工会社、さらに電子装置を扱う複数のメーカーと進めていきます。その前の導入仕様を決める段階では、社内ユーザーである運転士、指令員、メンテナンス技術者など、複数の目線からの意見を取り入れる必要があり、社内での調整も非常に多く発生します。上司や同僚と協力しながら、社内外双方の調整に奔走しました。
調整においては、相反する複数の要望にも対応する必要があります。たとえば、踏切は安全が最優先で、より長く閉じて警報を鳴らしておくことが安全に違いないのですが、一方で踏切利用のお客さま目線では少しでも短時間で開くことが理想的。安全性を損なわず、かつ適正に時間を短縮するために、かなり頭を悩ませながら調整しました。
――高い安全意識のスタンダードを保ち続けなくては、人の命を守ることができない仕事ですね。
鉄道に関わる技術者である以上、絶対に事故を起こさないシステムを作ることは前提条件です。制御メーカーと共に、あらゆる環境・状態を想定したケーススタディを重ねながら、全てのリスクの可能性を一つずつ潰し、安全な運行を実現するようにシステムを作り上げていきました。
これは私が電気設備系統の担当だからというわけではなく、JR東日本では全社員に対し「安全がトップ・プライオリティー」という教育が徹底されています。パートナー企業も非常に高い安全意識を持ち、一人ひとりの「安全行動」を起点に「究極の安全」を追求していこう、という共通認識を持って仕事に臨んでいます。
幅広いジョブローテーションによる業務経験が仕事の質を向上

――入社以来、どんな職種やキャリアチェンジを経験してきましたか?
電気系統の仕事は、「ATACSのような長期プロジェクトの推進などを行う工事事務所での業務」と「列車運行に関わる設備に故障が起きないように日々メンテナンスをし、万が一不具合が起きた際には出動して復旧を行うメンテナンス職場での業務」の2種類に大別できます。私は入社以来、前者の担当で、仙台と東京の現場でキャリアを積んだ後、本社に異動してATACSの今後の展開を計画する業務にあたりました。
2021年7月からはメンテナンスの担当部署に所属し、品川の現場を担当しています。初めてのメンテナンス部門でそれまでとは全く違う業務を経験していて、「別の会社に転職したのでは」と思うほどです(笑)。おかげで入社から10年以上経っても新鮮な気持ちで仕事ができていますね。
異なる業務経験があることで、社内関係各所がメンテナンス現場にどんなことを求めているかも分かりますし、社外の方々と仕事をする際も幅広い視点をもってスムーズに進められます。同じ現象も別の視点から見るとより深く理解できるなど、経験が仕事の質をさらに高めてくれているのを感じます。
ちなみに、当社では社内異動の希望を出すことができ、もし配属された仕事と違う経験をしたくなっても、幅広い業務の中から選んでキャリアチェンジが可能です。私自身、未経験だったメンテナンス職に希望を出して現在の配属になりました。
――意識的に多様な業務経験を積むことで、技術者として大きく成長できそうです。仕事に必要な知識・スキルは、学生時代と入社後、どちらで学んだものが多いでしょうか。
鉄道会社の技術はやはり特殊なので、大学で培った技術的な専門性を直接生かすシーンはなく、入社以降に仕事を通して学んだことが知識の多くを占めています。技術面は入社後にみっちり身につけられますので、学生時代には学会発表等で使うパワーポイント資料の作り方や発表の仕方などのスキルを入社後すぐに発揮できるよう、しっかり取り組んでおくことをお勧めしたいです。
鉄道技術については充実した社内研修で習得できますし、プロジェクトマネジメントの面では上司をお手本としながら外部との調整や業務管理の方法を学ぶことができます。社内制度として英会話講座や海外留学のサポートも利用可能で、海外に関わる事業担当者には心強いです。
安全を支えるのは、想像以上の責任感の強さ

――JR東日本で働いていてよかった、と感じるのはどんな時ですか?
ATACSのプロジェクトで、列車運行の安全性・安定性の向上を達成できたことに大きな意義を感じています。乗車するお客さまの肌感覚としては分かりづらい部分かもしれませんが、設備メンテナンスの立場から言うと、故障が起きづらくなり運行の安定性が増すことの価値は計り知れません。
今後、京浜東北線や山手線など首都圏の路線にもATACSの導入が進む方向です。無線を使うATACSは従来より多くの情報を列車と地上間でやりとりできるメリットもあり、将来的な自動運転につながる可能性も秘めた技術。お客さまの利便性や快適さの向上に貢献していくことは、仕事のやりがいを大きくしています。
――最後に、JR東日本で働きたい理系就活生に向けてメッセージをお願いします。
私が入社して感じたのは、現場で働く人たちの想像以上に強い責任感が日々の安全な鉄道運行を支えているということです。一人ひとりが実に幅広い仕事を担うので、新しいことや異なる分野の業務にも前向きにチャレンジする人が当社で活躍できると思います。
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編集後記
駅や車両といった見えやすい部分だけでなく、実に幅広い業務が存在するJR東日本では、柔軟に経験値を積み上げながらキャリアを磨くことができそうだ。他社との協働や最新技術を経験しながら、社会に貢献するインフラ技術者としての高みをぜひ目指してみてほしい。